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第198話 一人戦う⑰
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――――ラミア!?
彼女の勝手な行動に焦る私。
「ほらね? ちょっと挑発したらこれだ。……やはりファントムなんて野蛮な存在だ。信頼関係なんて築けるものじゃないよねぇ?」
嘲笑い、さらに挑発する所長。
そんな言われかたしたら誰だって……ラミアだって怒るさそりゃあ!!
いいさ、このままやっておしまいなさいっラミアっ!!!!
――――ドゴッ!!!!
疑似ベヒモス化したラミアの鉄拳が唸る。
一度は弾かれたその攻撃だが、今度のはさっきとは桁違いの威力。
いくら所長の結界が強固でもこれは防ぎきれまい!!
思った私だが、しかし所長は防ぐどころか結界すら出していなかった。
「――――!?」
「……ふむ、少しはマシな威力になったかなぁ? やはりポテンシャルは高いねぇ~~~~んふふふふふ」
嬉しそうに唇を舐める。
なんだその余裕は!?
結界も出さずに、いまのラミアの攻撃を防ぎきれるとでも――――!?
そのとき――――、
――――ゾワッ!!!!
再び、思念体であるはずの私が悪寒を感じた。
この感じは……ラミアに食われそうになったときと同じ感覚??
後ろに気配を感じた。
振り返る。
思念となり、ラミアの意識の中に取り込まれている私は暗闇の中にいるはずだ。
だからそこに気配など感じるはずは無い。
しかしそこにそいつはいた。
『コォォォォォォォォ……』
不気味な吐息を吐き出すそいつは……、
「マ……マステマ!??」
裂けた黒いローブに黒い羽根。ガイコツの顔を持つ悪魔の天使。
それはまさしく所長のファントム『マステマ』だった。
――――こいつが、なぜここに!?
思った瞬間、
――――ぐっ!?? ……うぐぐ……!?
身体の自由が奪われた。
いや、思念体なのだからそもそも身体なんてないのだが、感覚の問題だ。
それと同時に、
――――ビタッ!!!!
ラミアの拳が止まった。
所長の鼻っ柱まであと数ミリというところで。
――――なっ!? なんで??
『ぎゅるるぅぅぅぅぅ……』
ラミアの苦しそうな声が聞こえた。
見ると、いつの間にかマステマがラミアを私の身体から引きずり出し、その首根っこを掴み上げていた。
苦しそうに呻き、虚ろに目を痙攣させるラミア。
ラミア!?
ぐったりとしているそのようすに異常を感じた。
所長はその光景を見上げながら笑って言った。
「言ったろう? 僕のマステマの能力は『思考操作』だって。彼に掴まれたら最後、もうじきキミのファントムはその思考を乗っ取られ、マステマの支配下に置かれてしまうことになるよ。ふふふ……そうなればどうなるか……キミは知っているよね?」
脳裏に正也さんと渦女の姿が浮かび上がる。
渦女が言っていた。
強くなる代償に、己の命と支配を委ねたと。
彼らはこうしてマステマの支配下に落ち、そして利用され死んでいった。
そしていま、ラミアがその支配に落ちようとしている。
『ウ……ウギュルウゥゥゥゥゥ……』
ラミアの様子が変化してくる。
掴まれているその箇所からジワジワと黒いアザが広がってきた。
『ぎゅるがっ!! がっ!! ぎゃっ!!』
そして短く痙攣し、その度に苦痛の悲鳴を上げる。
そしてそれに連動して彼女に支配されたいた私の身体も暴れ出す。
「はっはっは、まるで壊れた人形だよ宝塚く~~ん? みっともないねぇ……でも、もうしばらくの我慢だよ、あとしばらくで楽になるから」
『ぐ……ぐりゅ!! ぐりゅりゅっ!!!!』
黒いアザがどんどん広がっていく。
それにともないラミアの苦しみも激しくなってくる。
――――くそっ!! マステマっ!! ラミアを、私のラミアを離しなさいっ!!
思念体で、でも全力で叫ぶが、しかしラミアに広がるアザとともに私の意識も薄くなってくる……。
――――これは……だめだ……私も……飲み込まれていく……?
そして徐々に所長に対する憎しみや疑問が薄れていく……。
代わりに湧き上がる、人に対しての耐え難い苛立ち。
こうなって分かった。
正也さん、そして渦女は決して自分の意志で戦っていなかったと。
彼らもこうして思いを操作されて兵隊となってしまったのだと。
そして私も今そうなろうとしている。
――――駄目だ駄目だ駄目だ……だめだ……だ…めだ……。
抵抗しようとする意識がどんどん小さくなってくる。
代わりに膨れ上がる破壊衝動。
私は――――それに高揚を感じ、むしろこれからやらせてもらえる殺戮活動が待ち遠しくて仕方なくなる。
――――あれ? 私……なんで所長に逆らっていたんだっけ?
人間? 殺せばいいじゃないかそんなもの。
どうせ連中なんて生きている価値のない害獣。
他人の不幸を見るのが嬉しくてたまらない、他人を貶めるのが楽しくてたまらない、他人を騙して踏みつけて吸う甘い汁が美味くてしょうがないクズの集まりなんだから。
そんな連中ゲーム感覚で殺して滅ぼして皮を剥いでテントの材料にでもすればいいんだよ。ああ……そうだそうしよう。
『ぎゅるるるるるる……』
ラミアも目が冷めたのか、攻撃的な瞳と牙をむき出しにして唸りを上げている。
よしよし……いい子ねラミア。その調子でもっと凶暴になりなさい。そして私と一緒にゴミ掃除をしましょう。
まだ……頭の奥の方でくすぶっている思いがある。
(だめあやつられないでもどってきてわたしらみあ……)
なにを馬鹿なことを言っているこの偽善者め。
戻らないよ。だって所長が正義だもん。
私はこれから所長や片桐さんと一緒にゴミを掃除して遊ぶんだ。
だから昔の自分はもう消えて。虫唾が走るから。
魂が黒く黒く、染まっていくのを感じた。
彼女の勝手な行動に焦る私。
「ほらね? ちょっと挑発したらこれだ。……やはりファントムなんて野蛮な存在だ。信頼関係なんて築けるものじゃないよねぇ?」
嘲笑い、さらに挑発する所長。
そんな言われかたしたら誰だって……ラミアだって怒るさそりゃあ!!
いいさ、このままやっておしまいなさいっラミアっ!!!!
――――ドゴッ!!!!
疑似ベヒモス化したラミアの鉄拳が唸る。
一度は弾かれたその攻撃だが、今度のはさっきとは桁違いの威力。
いくら所長の結界が強固でもこれは防ぎきれまい!!
思った私だが、しかし所長は防ぐどころか結界すら出していなかった。
「――――!?」
「……ふむ、少しはマシな威力になったかなぁ? やはりポテンシャルは高いねぇ~~~~んふふふふふ」
嬉しそうに唇を舐める。
なんだその余裕は!?
結界も出さずに、いまのラミアの攻撃を防ぎきれるとでも――――!?
そのとき――――、
――――ゾワッ!!!!
再び、思念体であるはずの私が悪寒を感じた。
この感じは……ラミアに食われそうになったときと同じ感覚??
後ろに気配を感じた。
振り返る。
思念となり、ラミアの意識の中に取り込まれている私は暗闇の中にいるはずだ。
だからそこに気配など感じるはずは無い。
しかしそこにそいつはいた。
『コォォォォォォォォ……』
不気味な吐息を吐き出すそいつは……、
「マ……マステマ!??」
裂けた黒いローブに黒い羽根。ガイコツの顔を持つ悪魔の天使。
それはまさしく所長のファントム『マステマ』だった。
――――こいつが、なぜここに!?
思った瞬間、
――――ぐっ!?? ……うぐぐ……!?
身体の自由が奪われた。
いや、思念体なのだからそもそも身体なんてないのだが、感覚の問題だ。
それと同時に、
――――ビタッ!!!!
ラミアの拳が止まった。
所長の鼻っ柱まであと数ミリというところで。
――――なっ!? なんで??
『ぎゅるるぅぅぅぅぅ……』
ラミアの苦しそうな声が聞こえた。
見ると、いつの間にかマステマがラミアを私の身体から引きずり出し、その首根っこを掴み上げていた。
苦しそうに呻き、虚ろに目を痙攣させるラミア。
ラミア!?
ぐったりとしているそのようすに異常を感じた。
所長はその光景を見上げながら笑って言った。
「言ったろう? 僕のマステマの能力は『思考操作』だって。彼に掴まれたら最後、もうじきキミのファントムはその思考を乗っ取られ、マステマの支配下に置かれてしまうことになるよ。ふふふ……そうなればどうなるか……キミは知っているよね?」
脳裏に正也さんと渦女の姿が浮かび上がる。
渦女が言っていた。
強くなる代償に、己の命と支配を委ねたと。
彼らはこうしてマステマの支配下に落ち、そして利用され死んでいった。
そしていま、ラミアがその支配に落ちようとしている。
『ウ……ウギュルウゥゥゥゥゥ……』
ラミアの様子が変化してくる。
掴まれているその箇所からジワジワと黒いアザが広がってきた。
『ぎゅるがっ!! がっ!! ぎゃっ!!』
そして短く痙攣し、その度に苦痛の悲鳴を上げる。
そしてそれに連動して彼女に支配されたいた私の身体も暴れ出す。
「はっはっは、まるで壊れた人形だよ宝塚く~~ん? みっともないねぇ……でも、もうしばらくの我慢だよ、あとしばらくで楽になるから」
『ぐ……ぐりゅ!! ぐりゅりゅっ!!!!』
黒いアザがどんどん広がっていく。
それにともないラミアの苦しみも激しくなってくる。
――――くそっ!! マステマっ!! ラミアを、私のラミアを離しなさいっ!!
思念体で、でも全力で叫ぶが、しかしラミアに広がるアザとともに私の意識も薄くなってくる……。
――――これは……だめだ……私も……飲み込まれていく……?
そして徐々に所長に対する憎しみや疑問が薄れていく……。
代わりに湧き上がる、人に対しての耐え難い苛立ち。
こうなって分かった。
正也さん、そして渦女は決して自分の意志で戦っていなかったと。
彼らもこうして思いを操作されて兵隊となってしまったのだと。
そして私も今そうなろうとしている。
――――駄目だ駄目だ駄目だ……だめだ……だ…めだ……。
抵抗しようとする意識がどんどん小さくなってくる。
代わりに膨れ上がる破壊衝動。
私は――――それに高揚を感じ、むしろこれからやらせてもらえる殺戮活動が待ち遠しくて仕方なくなる。
――――あれ? 私……なんで所長に逆らっていたんだっけ?
人間? 殺せばいいじゃないかそんなもの。
どうせ連中なんて生きている価値のない害獣。
他人の不幸を見るのが嬉しくてたまらない、他人を貶めるのが楽しくてたまらない、他人を騙して踏みつけて吸う甘い汁が美味くてしょうがないクズの集まりなんだから。
そんな連中ゲーム感覚で殺して滅ぼして皮を剥いでテントの材料にでもすればいいんだよ。ああ……そうだそうしよう。
『ぎゅるるるるるる……』
ラミアも目が冷めたのか、攻撃的な瞳と牙をむき出しにして唸りを上げている。
よしよし……いい子ねラミア。その調子でもっと凶暴になりなさい。そして私と一緒にゴミ掃除をしましょう。
まだ……頭の奥の方でくすぶっている思いがある。
(だめあやつられないでもどってきてわたしらみあ……)
なにを馬鹿なことを言っているこの偽善者め。
戻らないよ。だって所長が正義だもん。
私はこれから所長や片桐さんと一緒にゴミを掃除して遊ぶんだ。
だから昔の自分はもう消えて。虫唾が走るから。
魂が黒く黒く、染まっていくのを感じた。
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