超能力者の私生活

盛り塩

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第195話 一人戦う⑭

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 ――――ズゴッ!!

 命令とともに意識が飲み込まれた。
 景色が一瞬黒くなったかと思うと、身体の感覚が一斉に無くなる。
 ラミアが私の身体を乗っ取った証拠だ。

『ウ……ウゴガギゴゴゴ……ポキュキュキュルル……』

 唸りとともに形相が変わっていく。
 削られた肩の肉が、無くなった片腕が再生され、表情は野獣のごとく険しく邪気を吐き出した。

『――――なん……ですって……』
「ほっほほほほ~~~~う♪ そうきたかいなるほどねぇ~~」

 ラミアに身体の支配権を譲り、に成功した私は爆発的な能力の上昇を得る。
 それに驚き目を見開く片桐さんと、対象的に面白がる所長。
 思念体となった私はラミアに号令を下す。

「ラミア、結界術フルパワー!! 片桐さんオーディンを攻撃しなさい!!」
『ウグ……ギュルルルルーーーーーーッ!!!!』

 ――――ボッ!!!!
 命令に答えたラミアが全身に結界を纏った。
 それは今までの結界術とは桁違いのパワーを秘め、燃え盛る炎のように天へと突き上がった。

『ウグラアァァァッ!!!!』

 そして吠えると、獣のごとく突進した!!

『――――くつ!!』

 ―――――すかさずアスポートを放ってくる戦女神《オーディン》。
 しかし、
 ――――ババキャンッ!!!!
 疑似ベヒモス化したラミアはそれをいとも簡単に結界術で破壊する!!

『――――!!』
「ほう!? やるやる!!」

 眉を歪める片桐さんと、眉を上げる所長。
 二本足に慣れないラミアはそれでも強靭な脚力で地面を蹴る!!
 舞い上がる土に吹き飛ぶ玉砂利。
 片桐さんとの距離は一瞬にして縮められた!!

 しかし、彼女にはまだアスポートの鎧がある。
 迫るラミアの手を、空間を削り取る万物切断のナイフとなった彼女の手が襲う!!
 もちろんこうなることはわかっていた。
 わかってラミアに突進させた。

 ――――さて、この万物切断《オーディン》どう凌ぐ?

 そんな目で所長が見てくるが、私はそれを真っ向から見返してやる!!
 そして聞こえないだろう心の声で、それでも言ってやった。

「考えてねぇよ!!」と。

 もし、この声が所長に届いていたら彼はきっと大爆笑していただろう。
 それほど所長好みの答えなのだが、でも本当なのだから仕方がない。

 なぜなら、ラミアに身体を譲り疑似ベヒモス化させるとこまでが私の作戦の全てだったからだ。
 アホなのか?バカなのか?と叫ぶ百恵ちゃんの姿がまぶたに浮かぶが、しかしこうしなければその時点で負けは確定。私とラミアは所長たちの奴隷として、死ぬまでいいように利用し尽くされる。
 だったらたとえこの後どうなるかわからくとも、一発逆転の可能性にかけるしか無い。菜々ちんに勧めてもらったゲーム風に言えばパルなんとかって言う呪文だ!!

 だから私もこうなった状態のラミアがどう行動するかなんてわからない!!

 どんなパワーで、どんな能力で、どこまで暴れるかなんて、この時点で私にはわからない。まさに出たとこ勝負ギャンブルなのだ!!

 ただ一つ言えるのは能力パワーが格段に上がったこと。
 今のパワーなら戦女神のそれに匹敵しているかも知れない
 だから私は命令したのだ。突進しろと。
 これで殺られたならばもうそれまでだ!!

 ラミアの結界術と万物切断が交錯する!!
 この瞬間に運命の半分は決まると言っていい!!
 片桐さんの顔にラミアの拳がめり込む!!
 その腕に彼女の手が絡みつく!!
 消されたら負け。吹き飛ばしたら勝ち!!
 どっちだっ!!

 ――――バキャァァァァァァァァアアァァァァンッ!!!!

 吹き飛んだ!!
 片桐さんオーディンが。

 そしてラミアが!!

 砕け散るアスポートの鎧。
 砕け散る結界術。

 ――――互角っ!???

 ――――ザシャアァッ!!!!

 お互いに弾きあい、地面を転がった。
 しかしすぐさま起き上がると、再び突撃し合う。

 『――――ぬうっ!!』
 『ギュグルルルッ!!!』

 アスポートが飛び交う。蛇がそれを喰らいまたそれを別のアスポートが消す。
 結界術の拳と蹴りが片桐さんを連打するが、そのたび鎧によって威力が相殺され決定打が入らない!!

 ――――ドガッ――バキッ!!!!
 ――――グシャッ!! バキャァッ!!!!

 結界術とアスポート。二つの破片が飛び散る。

 戦女神《オーディン》とラミア。
 力がほぼ互角の二人の戦いはもはや能力では決着がつかず、やがてただの殴り合いと化していった。

「あ~~あぁ……こりゃ……ちょっとみてらんないなぁ……」

 所長が目を覆ってため息を吐く。
 私はともかく、あの冷静な片桐さんが泥臭い殴り合いなど無様もいいとこだ。
 しかし彼女はベヒモス化しており、おそらく自制が効かない状態。
 私も身体の制御は全てラミア任せなので、これはもう私と片桐さんではなく、ファントム同士の野蛮なぶつかり合い。
 その世界に私たち人間の美的感覚なんて入る余地はないのだろう。

 力と力。
 ただ相手を屈服させればいい。

 そんな原始的なぶつかり合いが延々と続いた。
 お互いの強さの拮抗が崩れたのはラミアの蹴りが戦女神《オーディン》の頭を蹴り抜いたときだった。

『グフ……グッ――――!??』
『ギュルルルルルルル……』

 息が上がり、目に見えて消耗してきている戦女神《オーディン》
 かたやラミアは涼しい顔で立っている。

 受けたダメージを回復しながら戦っていたからである。

 ――――しかし……それにしては精気が減っていない。
 ラミアは一体どうやって補給をしているのだろう?

 ――――バサバサバサ……ザザザッ――――ズズーーン。

 葉と木々の幹がこすれる音。そして何か大きなモノが倒れる音がした。

「これは……!??」

 菜々ちんがその光景に戦慄し、呻く。
 所長もさすがに汗を滲ませた。

 倒れたのは大きな樹木だった。
 向かいの旅館。料亭の庭。そして裏の山の木々が一斉に朽ちてしなだれていく。

『きゅるるるるる~~~~~ぃ』

 怪しい目をむけ、舌なめずりするラミア。
 私も、呆れた。

 せいぜいがこの庭園内だった吸収範囲《エサば》。
 それがいまや、裏山を含めたここ周辺地域全てに広がっていたからだ。
 
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