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第158話 天道渦女①
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「あははははは!! やっぱお子様は簡単やなぁ? 心が弱い弱い。ええで、そのままウチらの仲間になったらんか? したらオ・ジ・サ・マも喜ぶで?」
能力を四散させ、地面にうずくまる百恵ちゃんを心底面白そうに笑いながら渦女は彼女をたらし込もうとする。
「ぐ……オジサマ……」
悲しい顔をして私たちを振り返る百恵ちゃん。
顔面蒼白になった彼女の目は小刻みに揺れている。
真唯さんが残した最後の画像、所長のファントムが写ったあの写真を見たときから彼女はおかしかった。
ずっと葛藤していたのだろう。
私たちを取るか、所長に付いていくかを。
そして彼女は今、私たちに申し訳無さそうな表情を向けている。
――――え? まさか……百恵ちゃん?
「わ……我輩はオジサマに――――」
百恵ちゃんが何か言おうとしたその時――――、
「チェストーーーーッ!!!!」
――――ドゴンッ!!!!
死ぬ子先生のドロップキックが彼女の顔面に炸裂した!!
「がふぅ!!!!」
バリィィィィィンッ!!!!
店のガラスを突き破り、外へと蹴り飛ばされる百恵ちゃん。
目が点になるそれ以外の全員。
だけども先生はすまし顔で立ち上がり、
「姉の目の前で大事な妹を拐《かどわ》かさないでくれるかしら?」
と渦女を目で威嚇した。
「……いや、大事やったら蹴ったらあかんやん……?」
割れたガラスで傷だらけになり駐車場に転がっている哀れな妹を同情し、呆れ顔でツッコむ渦女。
黙って救出に向かう菜々ちん。
「安い言葉に引っかかる甘い身内にちょっと教育しただけよ」
「……なるほど、そりゃ性格も歪むわなぁ……」
「ぐぐ……ぐ…………」
ポタポタと血を落とし、なんとか起き上がる百恵ちゃん。そんな彼女に先生が声をかける。
「天道正也、天道渦女、両名を上官抗命罪に認定するわ。その他大勢も同じ。七瀬隊長、戦闘班として今は全てを忘れて目の前の職務に集中しなさい。これは監視官からの要請よ」
ギロリと睨むその目は、もはや姉ではなく上官のそれとなった。
「…………了解じゃ」
職務と言い切られて心を守られた百恵ちゃんは、
――――バリッ!!
再び能力の充填を開始した。
「あ~~~~なるほど、さすが妹さんの扱いは上手いですなぁ。せっかくやる気削いだったもんが、もう復活してもうたで?」
しかし渦女はさして困ったようすも焦りも見せずに、
「でも、残念やな、もうその子は死んで――――」
――――ガンガンッ!!!!
言い終わるよりも早く死ぬ子先生が銃の引き金を引いた。
その銃口は百恵ちゃんに向けられていた。
――――えっ!?
と、目を向いたその時、
「……ぐぐ……う」
肩から血を流し、現われたのは正也さんだった。
彼は今まさに百恵ちゃんの首にナイフを突き立てようとしている寸前だった。
「……よく、僕の動きがわかりましたね……。 完璧に気配を消していたつもりだったんですけど……?」
よろめき、膝を付きながら正也さんが唸る。
いつの間にか彼は自分の存在を消していた。
そして誰にもその動きを観測されずに百恵ちゃんを殺そうとしていたのだ。
私は正也さんが消えた事にすら気付いていなかった。
認識阻害の恐ろしさをあらためて思い知らされた。
しかし、その能力も死ぬ子先生には通じていないようだ。
打ち合わせしていただろう渦女も先生の鋭さに目を剥いている。
「な……なんでや? なんで正也の動きがわかったんや??」
「……いくら認識阻害でもね、体に触れたらその瞬間気付くものよ」
「なんやて!?」
そのとき、私はキラキラと青く光る糸のようなものが周囲に張り巡らされているのに気がついた。それはまるで獲物を捕獲する蜘蛛の巣のように地面に張り付いていた。
「――――結界網よ」
「なんじゃあそりゃ!??」
渦女が初耳だと言わんばかりに叫ぶ。
「勉強不足かしら? なら教えてあげるわ、これは結界術の一つで、結界を糸のように細く張り巡らせる事で、対侵入者用のセンサーとして使うことが出来るのよ。これに触れた瞬間、術者の触覚に直接感覚が伝わるから場所も瞬時に把握出来るわ。ちゃんと訓練してれば話くらいは聞いているはずだけれど?」
「……うぬ、ぐぐぐ…………」
顔を赤くして渦女が唸る。
私も初耳だったが、まだ入って日も浅いしそれは良しとしてくれ。
「……うむ、ほんの100年くらい前まではよく使われた技だと聞いているの。最近じゃ赤外線センサーやカメラの普及で廃れてしまったようじゃが……よくこんな技を習得していたな、姉貴よ?」
正也さんを空気爆弾で囲みながら百恵ちゃんが先生に訊いた。
彼は観念したとばかりに苦笑いで手を上げている。
「監視官だからね。いろんな能力者を相手にするのに近代科学じゃどうにもならない時もあるのよ。正也《こいつ》みたいな能力者もいることだしね」
「――――くっ!! ほんでもまだウチのウンディーネがあるでっ!!」
渦女が叫ぶと同時に、周囲の液体――――コップの水や食べ残しのスープ、瓶に入った日本酒などが一斉に吹き出し、それらが空中で鋭いニードルの形に変化する。
「ウチの必殺技『槍千本』やっ!! 鉄より硬い水の槍が体を貫き、そして中で形を変化させて内側からも串刺しするでっ!! くらえやっ!!!!」
無数に出現した液体の槍は一斉に私たちを獲物と定め、襲いかかってきた!!
私と先生、菜々ちんは結界をドーム状に張りそれに対抗する。
――――ババババババババババッ!!!!
激しい光とともに、全ての槍が弾かれ、液体へと戻される。
三人がかりの結界だ、そう安々と突破されるものじゃない。
しかし――――、
「ムダやっ!! 出力はお前らには及ばんかもしれんけどなぁ、手数はウチの方が圧倒的に多いで!!」
そう言って、槍の一本を水道管に突き刺した。
――――バシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!
と、大量の水が勢いよく吹き出した。
そしてその全てがウンディーネの力によって槍へと変化する!!
能力を四散させ、地面にうずくまる百恵ちゃんを心底面白そうに笑いながら渦女は彼女をたらし込もうとする。
「ぐ……オジサマ……」
悲しい顔をして私たちを振り返る百恵ちゃん。
顔面蒼白になった彼女の目は小刻みに揺れている。
真唯さんが残した最後の画像、所長のファントムが写ったあの写真を見たときから彼女はおかしかった。
ずっと葛藤していたのだろう。
私たちを取るか、所長に付いていくかを。
そして彼女は今、私たちに申し訳無さそうな表情を向けている。
――――え? まさか……百恵ちゃん?
「わ……我輩はオジサマに――――」
百恵ちゃんが何か言おうとしたその時――――、
「チェストーーーーッ!!!!」
――――ドゴンッ!!!!
死ぬ子先生のドロップキックが彼女の顔面に炸裂した!!
「がふぅ!!!!」
バリィィィィィンッ!!!!
店のガラスを突き破り、外へと蹴り飛ばされる百恵ちゃん。
目が点になるそれ以外の全員。
だけども先生はすまし顔で立ち上がり、
「姉の目の前で大事な妹を拐《かどわ》かさないでくれるかしら?」
と渦女を目で威嚇した。
「……いや、大事やったら蹴ったらあかんやん……?」
割れたガラスで傷だらけになり駐車場に転がっている哀れな妹を同情し、呆れ顔でツッコむ渦女。
黙って救出に向かう菜々ちん。
「安い言葉に引っかかる甘い身内にちょっと教育しただけよ」
「……なるほど、そりゃ性格も歪むわなぁ……」
「ぐぐ……ぐ…………」
ポタポタと血を落とし、なんとか起き上がる百恵ちゃん。そんな彼女に先生が声をかける。
「天道正也、天道渦女、両名を上官抗命罪に認定するわ。その他大勢も同じ。七瀬隊長、戦闘班として今は全てを忘れて目の前の職務に集中しなさい。これは監視官からの要請よ」
ギロリと睨むその目は、もはや姉ではなく上官のそれとなった。
「…………了解じゃ」
職務と言い切られて心を守られた百恵ちゃんは、
――――バリッ!!
再び能力の充填を開始した。
「あ~~~~なるほど、さすが妹さんの扱いは上手いですなぁ。せっかくやる気削いだったもんが、もう復活してもうたで?」
しかし渦女はさして困ったようすも焦りも見せずに、
「でも、残念やな、もうその子は死んで――――」
――――ガンガンッ!!!!
言い終わるよりも早く死ぬ子先生が銃の引き金を引いた。
その銃口は百恵ちゃんに向けられていた。
――――えっ!?
と、目を向いたその時、
「……ぐぐ……う」
肩から血を流し、現われたのは正也さんだった。
彼は今まさに百恵ちゃんの首にナイフを突き立てようとしている寸前だった。
「……よく、僕の動きがわかりましたね……。 完璧に気配を消していたつもりだったんですけど……?」
よろめき、膝を付きながら正也さんが唸る。
いつの間にか彼は自分の存在を消していた。
そして誰にもその動きを観測されずに百恵ちゃんを殺そうとしていたのだ。
私は正也さんが消えた事にすら気付いていなかった。
認識阻害の恐ろしさをあらためて思い知らされた。
しかし、その能力も死ぬ子先生には通じていないようだ。
打ち合わせしていただろう渦女も先生の鋭さに目を剥いている。
「な……なんでや? なんで正也の動きがわかったんや??」
「……いくら認識阻害でもね、体に触れたらその瞬間気付くものよ」
「なんやて!?」
そのとき、私はキラキラと青く光る糸のようなものが周囲に張り巡らされているのに気がついた。それはまるで獲物を捕獲する蜘蛛の巣のように地面に張り付いていた。
「――――結界網よ」
「なんじゃあそりゃ!??」
渦女が初耳だと言わんばかりに叫ぶ。
「勉強不足かしら? なら教えてあげるわ、これは結界術の一つで、結界を糸のように細く張り巡らせる事で、対侵入者用のセンサーとして使うことが出来るのよ。これに触れた瞬間、術者の触覚に直接感覚が伝わるから場所も瞬時に把握出来るわ。ちゃんと訓練してれば話くらいは聞いているはずだけれど?」
「……うぬ、ぐぐぐ…………」
顔を赤くして渦女が唸る。
私も初耳だったが、まだ入って日も浅いしそれは良しとしてくれ。
「……うむ、ほんの100年くらい前まではよく使われた技だと聞いているの。最近じゃ赤外線センサーやカメラの普及で廃れてしまったようじゃが……よくこんな技を習得していたな、姉貴よ?」
正也さんを空気爆弾で囲みながら百恵ちゃんが先生に訊いた。
彼は観念したとばかりに苦笑いで手を上げている。
「監視官だからね。いろんな能力者を相手にするのに近代科学じゃどうにもならない時もあるのよ。正也《こいつ》みたいな能力者もいることだしね」
「――――くっ!! ほんでもまだウチのウンディーネがあるでっ!!」
渦女が叫ぶと同時に、周囲の液体――――コップの水や食べ残しのスープ、瓶に入った日本酒などが一斉に吹き出し、それらが空中で鋭いニードルの形に変化する。
「ウチの必殺技『槍千本』やっ!! 鉄より硬い水の槍が体を貫き、そして中で形を変化させて内側からも串刺しするでっ!! くらえやっ!!!!」
無数に出現した液体の槍は一斉に私たちを獲物と定め、襲いかかってきた!!
私と先生、菜々ちんは結界をドーム状に張りそれに対抗する。
――――ババババババババババッ!!!!
激しい光とともに、全ての槍が弾かれ、液体へと戻される。
三人がかりの結界だ、そう安々と突破されるものじゃない。
しかし――――、
「ムダやっ!! 出力はお前らには及ばんかもしれんけどなぁ、手数はウチの方が圧倒的に多いで!!」
そう言って、槍の一本を水道管に突き刺した。
――――バシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!
と、大量の水が勢いよく吹き出した。
そしてその全てがウンディーネの力によって槍へと変化する!!
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