超能力者の私生活

盛り塩

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第121話 隠された記憶⑱

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 ズドゴォォォォォォォォンッ!!!!

 これで何度、瓦礫を破壊しただろうか?
 行けども行けども、行く先の階段は百恵ちゃんの手によって封鎖されており、その度に私が結界術による正拳突き(自己流)でトンネルを掘って進んでいる。

「はぁはぁ……ぜいぜい……」
「大丈夫かしら? バテているようだけど?」
 肩で息をする私に死ぬ子先生が聞いてくる。

「いや……単純に進み疲れただけです……もう、十階は上がって来ているんじゃないですか??」
「そうね、ここで九階だから、そのくらいね。
 ……回復術を使えなくなるほどにはバテないようにね?」

 て、言われてもな。
 塞がれた瓦礫の撤去は私しか出来ないのだ、どないせいと言うのか?
 しかし、それよりも疑問に思うことが一つ。

「これまで人に合わなかったけど、この病棟ってもしかして人がいないんですか?」

 集中治療室がある地下からこの九階まで、あの戦闘員のおじさん以外誰にも合わなかった。これだけの騒ぎを起こしているのだ、誰かに会うどころかパニックになっていてもおかしくないはずなのに。

「そうね、もう殆どが退避してもぬけの殻になっているはずよ?」
「退避?」
「ええ、そう」

 そう言って、死ぬ子先生は近くの手頃な扉を開ける。
 そこは入院室になっていたが、中には誰もおらず、ただ風に煽られたカーテンがはためいているだけだった。

「知ってると思うけど、この特別病棟は患者はもちろん、医者、職員全てJPA関連の超能力者が集まっているわ。
 そして彼らの殆どは対襲撃訓練を受けた防衛戦のプロ。
 地下での騒ぎを受信した瞬間から患者や機密データを抱えて、とっくに全員外に退避しているはずよ」

 窓から垂れ下がるロープを掴んで私は呆れる。

「いや、忍者か……そんな行動が出来るならちょっとは瞬の足止めをしてくれてもいいのに……」
 そんな私のボヤキに先生は、

「役割の違いね。
 彼らはとにかく患者の命と組織の機密を護ることを第一に行動しているわ。
 事態の沈静化は、百恵の戦闘班や私たち監視官の仕事ね」
「私はまだ監視官じゃないんですけど……?」
「目指してる時点で責任も負う。これも訓練よ」

 ……とにかく、ここの職員さんたちも只者ではないことはわかった。
 ならば、存分に暴れても問題はないという事なのだな。もう暴れているけども。

「さ、次は屋上よ。その先に瞬は追い込まれているはず」

 と、遠くから何かが崩れる音が聞こえた。

「百恵の能力ね。戦っているのかもしれないわ」

 そう言うと先生は音のする方へと走る。
 私も息を整え、ラミアと頷き合って後を追った。




「せぇ~~~~のぉっ!!!!」

 最後の階段の前に立ち、私は拳を振り上げる。
 ここに辿り着いた頃にはまだ土煙が舞っており、階段を塞ぐ瓦礫はついさっき落とされた物だとわかった。

 良かった、追いついた。

 そう安堵し、渾身の一撃を瓦礫に食らわす。
 物理作用に特化させた結界術は、石垣のように噛み合わさったコンクリの壁に蜘蛛の巣のようにその衝撃を這わせ、

 ズドゴォォォォォォォォンッ!!!!

 それらをみな、砂のように小さく分解する。
 最初はもう少し荒かったが、何回も打っているうちに要領を掴んできた。

 今ならば、女将のようにもっと自然な動作で砕くことも出来るかもしれない。

 我ながら驚異的な成長速度である。
 いや、ほとんどはラミアの手柄だが。
 モクモクと上がる粉塵がやがておさまり、向こう側に四つの人影が見えた。
 そのうちの二人は彼女たちだった。

「菜々ちん、百恵ちゃん!!」
 私はその、なぜか呆れ顔の二人に駆け寄りハグを――――、

「あ・ほ・かぁ~~~~~~~~~~っ!!!!!!!!!!」
 しようとしたところで百恵ちゃんに殴られた。

 グーパンで。

「はぐわぁっ!?? な、なに!?? どして????」
「どしてじゃないわ、この馬鹿者がっ!!!! なぜせっかく塞いだ階段をまた開ける?? あほか?? あほなのかっ!!!??」

 殴られた頬を押さえてしなだれる私に鬼のストンピングを入れる小鬼。

「な、なぜに?? なんでそんなに怒るの?? せっかく応援に駆けつけて来たのに酷いわ!!!!」
「ヤツの逃げ道を開ける行動のどこが応援か!?? せっかく袋の鼠にしてやったと思ったら速攻で穴を開けおって、今までの苦労が台無しじゃっ!!!!」

 そんなこと言われても、こっちだって所長や二人が心配だったし、こうするしか追いつく方法が無かったんだからしょうがないじゃないか(ノД`)

「ま、まぁまぁ……百恵さん。宝塚さんも悪気があったわけじゃないですし……」

 菜々ちんが間に入って庇ってくれる。
 よし、あとで抱かれてやろう。

「素早い相手への対処法は、まずそいつの行動範囲を狭める事が基本だからね。百恵の言い分ももっともだけれど……」
 そこへさらに、ゆらりと死ぬ子先生が歩み出てくる。

「あんただけに任せておくなんて、出来なかったのよ」
 そう言ってスマホの画面を彼女に見せつけた。

「何故じゃ!? ベヒモスとはいえあんな素早いだけの小物、追い詰めさえすれば吾輩一人だけでも充分――――?? なんじゃそれは!?」

 それは菜々ちん目線でみた百恵ちゃんの姿写真。
 瞬と交戦している場面での一枚だった。

「あんたさあ……ここでこう叫んでいたわよね『絶対に逃さんっ!! 姉貴には悪いがお前にはここで無に帰ってもらう!!』って……」
 ジロリと妹を睨みつける姉。

「い……いや、そんなこと言っとらんぞ? そんな写真で何がわかる??」

 すると先生はその写真をピッピとスワイプして次々とめくっていく。するとその場面が細かく繋がりアニメーションし、彼女の口の動きを鮮明に表現していった。

「姉の能力ぅを舐めんじゃないわよぉぉぉぉぉ~~~~……? あんただけに任せて大事な被験体ぅを~~……無にされちゃたまんないのよぅ~~~~?」
「……う、うひぃぃぃぃぃぃぃぃ……」
 先生は有無を言わさぬ迫力――――もとい、不気味な視線で妹の肝を縛り上げた。
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