超能力者の私生活

盛り塩

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第118話 隠された記憶⑮

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「馬鹿めっ!! しくじりおったなっ!!!!」
 行く手を遮られている瞬を確認して、百恵は能力を発動させる。

「ガルーダッ!!!!」

 瞬の足元に幾つもの力点が生まれて床を埋め尽くす。
 所長を傷つけないよう、瞬を足止めするには文字通り足を狙うしかない。
 威力を抑えて放たれた百恵の圧縮爆弾はその一撃の威力は低いが、しかし機動力を削ぐくらいの威力は備えられていた。
 それが無数、同時に炸裂する。

 ドッドドドドドドドドドドドドドッンッ!!!!

 しかし瞬は、その爆発を身を捻り飛び越え、躱す。

「オーケーじゃっ!! やれいっ!!!!」

 だがそれは百恵の読み通り。

 瞬は爆発を躱したのではなく、身動きの取れない空中に誘導されたのだ。
 電光石火の如く素早い動きも、それは蹴る場があってこそのもの。
 何の足掛かりも無い空中ではその利点は無くなる。

 ほんの一瞬だが。

 しかし訓練されきったJPASの隊員――――それもベテランの彼ならばその一瞬があれば充分成果を上げられる。

 サブマシンガンを単発に切り替えた彼――――043番は空中を泳ぐマヌケな的をスローモーションで追う。――――狙いを大西所長から一番離れた左足先にさだめ、引き金を引く。
 
 この射撃で相手に致命傷を負わせる必要はない。
 あくまで第一目標は大西所長の奪還。
 たった一箇所でも負傷させればヤツの動きは格段に遅くなる。
 
 今はそれだけで充分。
 そう割り切った冷静な射撃であった。

 放たれた弾丸が正確に瞬の左足へと襲いかかる。
 ――――捕らえたっ!!

 そう思った瞬間。

 ――――グンッ!!!!
 と、弾丸の起動が不自然に変化した。

『なっ!???』

 百恵を含め全員がその弾の動きに驚愕する。

 ビシッ!!
 瞬から逸れた弾丸は後ろの壁にめり込む。

 一瞬のピンチを逃れた瞬は空中で反転し、天井を蹴る。

 大西をふわりと手放す瞬。

 メキっとタイルを踏み割って――――、

 ドンッ!!!!
 と、043番に向かって反撃の手刀で襲いかかってくる!!

「くっ!!!!」

 ガンガンッ!!
 銃で応戦するがしかし――――、

 ――――グンッグンッ!!

「ぬぅっ!??」

 今度は確実に胴体を狙ったのだが、その弾も不自然に軌道を変え瞬には当たらない。

 百恵はそれを見て、全て理解した。

 ヤツの能力は空中浮遊。レビテーション
 物体の質量を操る能力。
 それを使って弾丸の軌道を変えたのだ。
 しかし本来の瞬は、ほとんどそれが自覚できないくらいの弱能力者で、ベヒモス化してようやく並みの術者程度になっていたと聞く。それも物凄いパワーを秘め飛んでくる弾丸を逸らすほどの能力ではなく、せいぜいが自分の重さを軽くして素早く動ける程度のものだったはずだ。
 だか、今の瞬はその報告書データよりもあきらかに様子が化け物じみていて、さらに能力も強力になっているようだった。

 それはどういう事か?

 やはり記憶の封印者が掛けた第二の仕掛けが関係しているのだろうか?
 その答えを思考する時間は今は無い。

「ぐふぁぁぁぁっ!!!!」
 ベテラン隊員の呻きが上がる。

 瞬の手刀が彼の胸を抉ったのだ。
 以前より遥かに深くベヒモス化した瞬の爪は刃物のように堅く鋭い。

 鮮血が宙に舞った。

 百恵の額に幾筋もの血管が浮かび上がる。

 彼は部下だが遥かに年上で、平時は父親のように要らぬ世話も焼いてくれる。
 それを傷つけられてキレない道理はない。
 さらにヤツは今、所長を手放している。

 第二のチャンスが訪れたのだ。

「荒れ狂え、ガルーダァァァァッ!!!!」

 怒りを乗せた百恵の霊長が羽ばたいた!!

 ズドドドッ!!!!

 今までよりも遥かに強い力点が瞬の八方を囲む。

「絶対に逃さんっ!! 姉貴には悪いがお前にはここで無に帰ってもらう!!」

 ――――――――ドッゴゴゴゴンッ!!!!!!
 メキメキッビキィッ!!!!

 瞬を中心に四方の壁が破れるほどの爆発が炸裂した。

『ぐうおぉぉぉ!????』

 その爆風に煽られて吹き飛ぶ部下たち、百恵も自爆し吹き飛ばされる。

 これほどの衝撃ならば大西所長も巻き込まれて無事には済まないかも知れないが、百恵の生み出す空気爆弾は熱を持たない。故に、目標以外の物は思ったほどの被害を受けないのが長所である。

 それに、所長の怪我を気にして目標を取り逃がしたとあっては、それこそ彼の恩に対する裏切りである。

 死にさえしなければ良い。

 そう割り切り、冷徹に任務をこなす事こそが大西から教わってきた事なのだ。

 もうもうと土煙が舞う。
 辺りは破壊され、舞い上がる粉塵は一時的に全ての視界を遮った。

「オ……オジサマ……!!」

 立ち上がり、大西の身を案じる百恵。

 ――――その頭に手が振り下ろされる。
 ガっと百恵の頭を押さえつけたのは――――瞬――――ではなかった。

「伏せてっ!!!!」

 菜々だった。
 彼女は後ろから百恵の頭を押さえつけ、床に伏せさせる。

 その一瞬後に――――、

 ブオンッ!!!!
 と、瞬の爪が空を切り裂いた。

 能力で情報を得ていた菜々には瞬の動きが見えていたのだ。
 百恵と菜々の髪の毛が身代わりに舞う。
 それを蹴散らし、突き抜け、瞬は対面の通路へと降り立つ。
 再び大西所長を抱えながら。

「くっ……き、貴様どうやって吾輩の爆発をくぐり抜けた!??」

 百恵が仰天と怒りの表情で睨みつける。
 だがそれに瞬は答えるはずがない。
 代わりに――――パリパリッっと青いプラズマが彼の身体を瞬き包んだ。

「……まさか……結界……か??」
 表情から怒りが消え、仰天だけが残される。

 通常、意識のないベヒモスが結界を使いこなすことはありえない。
 しかし彼が纏っているのは紛れもなくファントム結界。
 となればその発生源として考えられるのは……やはり記憶の封印が持つ結界。

 またしても謎の能力者に邪魔されたのだ。
 百恵や戦闘員たちが身構えるよりも早く、瞬は通路の先へと消えていった。 
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