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第115話 隠された記憶⑫
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「オジサマっ!! オジサマ―ーーーっ!!!!」
連れ去られた所長を追って、百恵ちゃんは部屋を飛び出る。
しかし、ベヒモス化した瞬の動きは超人的に速く、その姿は見えない。
蹴破られ、揺れる観音扉と、遠くから聞こえる悲鳴。
「くっ!! おのれ、逃さんっ!!!!」
その声を辿り、百恵ちゃんは廊下へと走り出す。
「私も追いますっ!!」
拳銃を構えた菜々ちんもその後を追った。
「待ちなさいっ!! 無闇に深追いしたら――――」
危険だと言いたかったのだろうが、その言葉を言い終わるよりも速く二人の姿もまた見えなくなる。
「先生……大丈夫……?」
頭から血を流している先生の身を案じて声を掛けるが、
「それはこっちのセリフよ。まったく苦茶して……体が干からびているじゃない」
先生の言う通り、私は能力の連続使用によってもう満身創痍。
床に横たわり立つことも出来ない。
「いや……結界術で何とかなると……思いついちゃったもんで……」
やれやれとため息をつく先生。
私は首だけを持ち上げて先生に聞いた。
「瞬は……どうして……またベヒモスに……?」
「わからないわ……」
私の疑問に首を振って答える先生。
「ただ……彼はあきらかに私の念写したデータを狙って襲ってきたわ。……もしかしたら…………」
「まだ……何か仕掛けられていたって言うんですか?」
「そう、かもしれないわね。
ああなる直前、彼はあなたを見てひどく怯えていたわ。もしかしたらあの時点で記憶の障壁が解けて、何かを思い出していたのかもしれないわね……」
私を見て……? そうなんだろうか。私はそこに少し疑問を感じたが、今はそんな事を気にしている場合ではない。
「それが何でベヒモス化に繋がるんですか?」
「戻った記憶を他人に漏らさないようにする為……と、考えるしかないわね」
先生は壊されたスマホの代わりに、机に備え付けられた内線電話を手に取りどこかへ電話をかける。
「私よ、被験者が逃げ出したわ、ええそう。それは百恵の指揮に任せるわ。いいからこっちに人を回して頂戴。できるだけ体の大きい体力馬鹿を三人ほどお願い」
そして受話器を置き話を続ける。
「つまり、二重の保険を掛けてたってわけね。記憶を隠すための障壁と、それが破られた時にベヒモス化して自我が崩壊する爆弾がね」
「……そんな事が、出来るんですか?」
「超能力の種類は無限にあるのよ?
目の前で起こった事を受け入れるしかないわ」
そう言われると口をつむぐしかないが、しかし疑問はまだある。
「瞬のベヒモス化ってこの前より酷いように思えるんだけど……? 前回はまだ言葉も喋っていたし意識もありましたよね?」
「……意識があったのかどうかはわからないわ。その間の記憶が本人に無い以上、あの時の彼は、もしかしたら別に操られていたのかも知れないわね」
「別? 別ってなんですか??」
「彼に仕掛けを埋め込んだ犯人よ。
そしてその人物がまた彼を更に強力なベヒモスに変えたとしたならば……」
そこで、先生は一旦言葉を区切り唇を噛む。
「……その人物は、自由にベヒモスを生み出せる能力の持ち主かも知れないわね」
その言葉を聞いた瞬間、私に二つの感情が湧き上がった。
一つは恐れ。
もう一つは怒り、である。
もし、もしもだが。
私の両親が死んだあの事故を引き起こしたベヒモスが、人の手によって作られたものだったならば、あれは事故なんかではなく殺人という事になる。
もし、そんな能力者がいたとして、それが私の目の前に現れたのなら――――私はそいつをどうしてしまうんだろうか?
答えられないほどに、私の怒りは深かった。
「あくまで、推測よ。まずは調査が先。その表情《かお》は一旦置いときなさい。
とにかく瞬を捕まえて記憶の先を確認するのが先決よ、きっとそこに全ての答えが隠されてるはずだから」
「七瀬監視官ご無事ですか!??」
先生が喋り終えるのと同時に、部屋に三人の屈強な男が転がり込んでくる。
三人とも白衣を着た研究者風であったが、レスラーかビルダーのような大柄をしており、さきほど先生が電話で注文していた通りの男達である。
「監視官!? どこですか、監視官っ!!!!」
男達は先生の姿が見えないことに焦り、辺りを探し始める。
あ……この人たちも先生が若返ってるのを知らないんだ。
よくみれば面影が残って無くもない雰囲気があるかもしれない今の先生の前を素通りして、彼らは主を探し続ける。
その内の一人、ひときわ大きい黒人のお兄さんが先生を目に止めて、
「む、キミは……頭に怪我をしているね? よろしい、私は医者だ治療をしてあげよう」
と、先生の顔を至近距離で見るが、まるで気が付いていない。
それはそれで自尊心が傷つけられたのだろう。
額に怒りの青筋を浮かべた先生は、そのおにいさんの首をワシっと掴み、
「うぐ――――き、きみ……なにをするんだ!??」
苦しむ彼にかまわず、その首を私に差し出した。
「さあ、お吸いなさい」
「は?」
「そんな体じゃ瞬を追えないでしょ? しょうがないから緊急回復の為のエネルギータンクをデリバリーしてあげたのよ。さあ、とっととこいつらの精気を吸って回復なさい。そして私も治しなさい」
その悪魔的なセリフを聞いて、三人の男達はこの少女が先生だと、そこでようやく気が付いたのだった。
連れ去られた所長を追って、百恵ちゃんは部屋を飛び出る。
しかし、ベヒモス化した瞬の動きは超人的に速く、その姿は見えない。
蹴破られ、揺れる観音扉と、遠くから聞こえる悲鳴。
「くっ!! おのれ、逃さんっ!!!!」
その声を辿り、百恵ちゃんは廊下へと走り出す。
「私も追いますっ!!」
拳銃を構えた菜々ちんもその後を追った。
「待ちなさいっ!! 無闇に深追いしたら――――」
危険だと言いたかったのだろうが、その言葉を言い終わるよりも速く二人の姿もまた見えなくなる。
「先生……大丈夫……?」
頭から血を流している先生の身を案じて声を掛けるが、
「それはこっちのセリフよ。まったく苦茶して……体が干からびているじゃない」
先生の言う通り、私は能力の連続使用によってもう満身創痍。
床に横たわり立つことも出来ない。
「いや……結界術で何とかなると……思いついちゃったもんで……」
やれやれとため息をつく先生。
私は首だけを持ち上げて先生に聞いた。
「瞬は……どうして……またベヒモスに……?」
「わからないわ……」
私の疑問に首を振って答える先生。
「ただ……彼はあきらかに私の念写したデータを狙って襲ってきたわ。……もしかしたら…………」
「まだ……何か仕掛けられていたって言うんですか?」
「そう、かもしれないわね。
ああなる直前、彼はあなたを見てひどく怯えていたわ。もしかしたらあの時点で記憶の障壁が解けて、何かを思い出していたのかもしれないわね……」
私を見て……? そうなんだろうか。私はそこに少し疑問を感じたが、今はそんな事を気にしている場合ではない。
「それが何でベヒモス化に繋がるんですか?」
「戻った記憶を他人に漏らさないようにする為……と、考えるしかないわね」
先生は壊されたスマホの代わりに、机に備え付けられた内線電話を手に取りどこかへ電話をかける。
「私よ、被験者が逃げ出したわ、ええそう。それは百恵の指揮に任せるわ。いいからこっちに人を回して頂戴。できるだけ体の大きい体力馬鹿を三人ほどお願い」
そして受話器を置き話を続ける。
「つまり、二重の保険を掛けてたってわけね。記憶を隠すための障壁と、それが破られた時にベヒモス化して自我が崩壊する爆弾がね」
「……そんな事が、出来るんですか?」
「超能力の種類は無限にあるのよ?
目の前で起こった事を受け入れるしかないわ」
そう言われると口をつむぐしかないが、しかし疑問はまだある。
「瞬のベヒモス化ってこの前より酷いように思えるんだけど……? 前回はまだ言葉も喋っていたし意識もありましたよね?」
「……意識があったのかどうかはわからないわ。その間の記憶が本人に無い以上、あの時の彼は、もしかしたら別に操られていたのかも知れないわね」
「別? 別ってなんですか??」
「彼に仕掛けを埋め込んだ犯人よ。
そしてその人物がまた彼を更に強力なベヒモスに変えたとしたならば……」
そこで、先生は一旦言葉を区切り唇を噛む。
「……その人物は、自由にベヒモスを生み出せる能力の持ち主かも知れないわね」
その言葉を聞いた瞬間、私に二つの感情が湧き上がった。
一つは恐れ。
もう一つは怒り、である。
もし、もしもだが。
私の両親が死んだあの事故を引き起こしたベヒモスが、人の手によって作られたものだったならば、あれは事故なんかではなく殺人という事になる。
もし、そんな能力者がいたとして、それが私の目の前に現れたのなら――――私はそいつをどうしてしまうんだろうか?
答えられないほどに、私の怒りは深かった。
「あくまで、推測よ。まずは調査が先。その表情《かお》は一旦置いときなさい。
とにかく瞬を捕まえて記憶の先を確認するのが先決よ、きっとそこに全ての答えが隠されてるはずだから」
「七瀬監視官ご無事ですか!??」
先生が喋り終えるのと同時に、部屋に三人の屈強な男が転がり込んでくる。
三人とも白衣を着た研究者風であったが、レスラーかビルダーのような大柄をしており、さきほど先生が電話で注文していた通りの男達である。
「監視官!? どこですか、監視官っ!!!!」
男達は先生の姿が見えないことに焦り、辺りを探し始める。
あ……この人たちも先生が若返ってるのを知らないんだ。
よくみれば面影が残って無くもない雰囲気があるかもしれない今の先生の前を素通りして、彼らは主を探し続ける。
その内の一人、ひときわ大きい黒人のお兄さんが先生を目に止めて、
「む、キミは……頭に怪我をしているね? よろしい、私は医者だ治療をしてあげよう」
と、先生の顔を至近距離で見るが、まるで気が付いていない。
それはそれで自尊心が傷つけられたのだろう。
額に怒りの青筋を浮かべた先生は、そのおにいさんの首をワシっと掴み、
「うぐ――――き、きみ……なにをするんだ!??」
苦しむ彼にかまわず、その首を私に差し出した。
「さあ、お吸いなさい」
「は?」
「そんな体じゃ瞬を追えないでしょ? しょうがないから緊急回復の為のエネルギータンクをデリバリーしてあげたのよ。さあ、とっととこいつらの精気を吸って回復なさい。そして私も治しなさい」
その悪魔的なセリフを聞いて、三人の男達はこの少女が先生だと、そこでようやく気が付いたのだった。
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