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第112話 隠された記憶⑨
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「ちょっとあなたたち騒がしいわよ、静かにして頂戴」
死ぬ子先生が私たちを睨んで窘めてくる。
私と百恵ちゃんは同時に『あんたにだけは説教されたくないわ』と思ったが、ここで喧嘩をしてもしょうがない。歯を鳴らして大人しくすることにした。
「どうですか死ぬ子先生、念写は出来そうですか?」
菜々ちんが先生に訊ねる。
先生は私に『どう』と目で確認してくが、私はそれに頭を掻くポーズで答えると、先生は一つため息を吐いて肩を竦めた。
「ま、一応ダメ元で確認してみるわ……」
と、スマホのレンズを瞬に向ける。
一見すれば、すっかり元の姿に戻っていて、臓器も脳味噌も完璧に復元されている。しかし肝心の、記憶にかけられた障壁だけは破ることは出来なかった。
先生がシャッターアイコンを押す。
無音で切られるシャッターとバチィッ!!っと瞬の身体から結界反応が現れるのとは同時だった。
「……やっぱりだめね、なにも写ってないわ」
見せてくる画面は言う通り、真っ暗だった。
結界が反応した時点でおおよその検討はついたが、やはり記憶の闇はそのまま残っているみたいだ。
「しかし、さっきのヒロインより結界の反応が緩いようじゃが?」
「……そりゃ、私の能力の出力が弱かったからよ。単純に反作用の原理ね」
百恵ちゃんの質問に死ぬ子先生は何を今更と言った感じで言葉を返すと、
「ん? ……てことは姉貴よりヒロインのほうが能力が強いって事なのか??」
その言葉に先生はムッとして。
「……あのねぇ、私だって本気を出せばあのくらいの出力は出せるのよ。でも、もし
弾かれたらそれと同じだけの衝撃が自分に跳ね返ってくるの。だから様子見の時は小出力で使うのは当然の事でしょ?」
ということは既に本気の念写はお試し済みって事なんだろう。
私たちが居ない間に、さっきの私みたいに返り討ちにあってふっ飛ばされたに違いない。ああ、だから最近、顔を見なかったのか……。
女将とのすったもんだの間、全然姿を見せないと思っていたら、こんなところでダージを負って一人寝込んでいたのだろう。
記憶にかけた障壁がどこの誰のものか知らないが、それだけは礼を言っておこう。
「ん? 彼が目覚めたみたいだよ?」
所長が瞬を覗き込みながら声を上げた。
見れば、彼の目蓋は薄っすらと開いていて、そこから黒い瞳が戸惑ったようにゆらゆら動いていた。
「お目覚めかしら、色男の殺人鬼さん? 私の顔……覚えているわよね?」
瞬の瞳を見下ろしながら先生は不敵な笑みを浮かべる。
自分の足を撃った人間だ、本人からしたら忘れるはずがない。
「……だれ……だ?」
しかし、瞬の反応は予想に反して先生の顔を全く覚えていないようす。
あれ?っと先生も拍子抜けするが、考えてみれば今の先生は私の能力で一時的に女子高生モードになっている。本来のアラサー闇落ち大賢者喪女とは、ほぼ別人状態。
それじゃあわかるわけがない。
目覚めた瞬に状況を把握させやすくする為にも、ここは一つ、先生には元の妖怪に戻ってもらわねばならない。
瞬の姿を元に戻した代償で、私もかなり消耗しているが、先生を戻す程度の余力なら残っている。なら早速――――と先生の肩に触れようとしたら、
「ま、まぁ~~~~~~いいわっ!! 私の事なんてべつに覚えていようがいまいがど~~~~~~~~だっていいからぁっ!!!!」
と、瞬の頭をガッキリ掴んで彼を睨みつける。
と、同時に私に対しても『ヤダ』と、鬼のような目線を射抜いてくる。
「……あ~~まぁ……はい……」
その迫力に押されて引っ込む私。
先生はそのままに、瞬に尋問を開始した。
「いい? あなたにいくつか質問があるわ?」
「……質……問――――?」
目覚めたばかりでまだ、意識が朦朧としているのだろう。瞬は自分の置かれた状況を確認するわけでも無く、素直に先生のセリフに耳を貸す。
「一つ目は――――あなた、超能力者の事を知っている?」
「……なに、それ……映画かアニメの話……?」
「二つ目は――――人を殺した事は?」
「無い……けど……」
「最後の一つ、この娘を覚えている?」
と、先生は瞬の顔を私に向けた。
「……いや? 初めて見る顔だ……キミは誰だい?」
本当にわからないと言った顔で私を眺める瞬。
そんなはずはない。
私の顔は先生よりも知っているはずだ。
なぜなら、私は彼を何度も何度も殺して生き返らせて殺した。
私なら、そんな悪魔の顔を忘れるはずがない。
そしてさらにもう一つ。
「人を殺していないってどういうことですか?」
私は瞬に聞いた。
「……どうも、こうも……なぜ……僕がそんな事しなくちゃあ……いけないんだい」
「私があなたと出会ったとき、あなたは子供を殺そうとしてましたよね?」
「僕……が? 子供を……なにを言っているんだい……?」
しかし瞬は本当に何も覚えていないようすだ。
「これは……記憶喪失でしょうか? それとも一時的な混乱?」
「そんな風には見えないわね、どうかしら宝塚さん。彼の脳や精神は完全に回復しているのかしら?」
先生がもう一度確認してくる。
もちろんそのはずだ。
記憶にかけられた障壁以外は、すべて本来の形に戻っている。それが例え形の無い記憶や精神状態であったとしても。
現に今の彼は健康そのものの肉体と、極めて穏やかな精神状態を保っている。
それを皆に伝えると、
「ならそうね、これは本当に知らないという事なのかしらね」
呟き、さらさらと電子カルテに何やら書き込む先生。
「知らない? 知らないとはどういう事じゃ??」
「ベヒモス化していた間の記憶はそもそも無いって事かしらね?
彼は記憶が消された日以降に人殺しを初めたわ。でも、それを全て覚えていないとすると、そこから先は彼の意識は無かったと考えるのが自然ね」
「そ、そうか――――ベヒモス化すると精神はファントムに支配されてしまうわけだから、その間の意志や記憶は彼じゃなくてファントムのものって事になる……ですよね?」
菜々ちんが考え込みながら先生に確認した。
死ぬ子先生が私たちを睨んで窘めてくる。
私と百恵ちゃんは同時に『あんたにだけは説教されたくないわ』と思ったが、ここで喧嘩をしてもしょうがない。歯を鳴らして大人しくすることにした。
「どうですか死ぬ子先生、念写は出来そうですか?」
菜々ちんが先生に訊ねる。
先生は私に『どう』と目で確認してくが、私はそれに頭を掻くポーズで答えると、先生は一つため息を吐いて肩を竦めた。
「ま、一応ダメ元で確認してみるわ……」
と、スマホのレンズを瞬に向ける。
一見すれば、すっかり元の姿に戻っていて、臓器も脳味噌も完璧に復元されている。しかし肝心の、記憶にかけられた障壁だけは破ることは出来なかった。
先生がシャッターアイコンを押す。
無音で切られるシャッターとバチィッ!!っと瞬の身体から結界反応が現れるのとは同時だった。
「……やっぱりだめね、なにも写ってないわ」
見せてくる画面は言う通り、真っ暗だった。
結界が反応した時点でおおよその検討はついたが、やはり記憶の闇はそのまま残っているみたいだ。
「しかし、さっきのヒロインより結界の反応が緩いようじゃが?」
「……そりゃ、私の能力の出力が弱かったからよ。単純に反作用の原理ね」
百恵ちゃんの質問に死ぬ子先生は何を今更と言った感じで言葉を返すと、
「ん? ……てことは姉貴よりヒロインのほうが能力が強いって事なのか??」
その言葉に先生はムッとして。
「……あのねぇ、私だって本気を出せばあのくらいの出力は出せるのよ。でも、もし
弾かれたらそれと同じだけの衝撃が自分に跳ね返ってくるの。だから様子見の時は小出力で使うのは当然の事でしょ?」
ということは既に本気の念写はお試し済みって事なんだろう。
私たちが居ない間に、さっきの私みたいに返り討ちにあってふっ飛ばされたに違いない。ああ、だから最近、顔を見なかったのか……。
女将とのすったもんだの間、全然姿を見せないと思っていたら、こんなところでダージを負って一人寝込んでいたのだろう。
記憶にかけた障壁がどこの誰のものか知らないが、それだけは礼を言っておこう。
「ん? 彼が目覚めたみたいだよ?」
所長が瞬を覗き込みながら声を上げた。
見れば、彼の目蓋は薄っすらと開いていて、そこから黒い瞳が戸惑ったようにゆらゆら動いていた。
「お目覚めかしら、色男の殺人鬼さん? 私の顔……覚えているわよね?」
瞬の瞳を見下ろしながら先生は不敵な笑みを浮かべる。
自分の足を撃った人間だ、本人からしたら忘れるはずがない。
「……だれ……だ?」
しかし、瞬の反応は予想に反して先生の顔を全く覚えていないようす。
あれ?っと先生も拍子抜けするが、考えてみれば今の先生は私の能力で一時的に女子高生モードになっている。本来のアラサー闇落ち大賢者喪女とは、ほぼ別人状態。
それじゃあわかるわけがない。
目覚めた瞬に状況を把握させやすくする為にも、ここは一つ、先生には元の妖怪に戻ってもらわねばならない。
瞬の姿を元に戻した代償で、私もかなり消耗しているが、先生を戻す程度の余力なら残っている。なら早速――――と先生の肩に触れようとしたら、
「ま、まぁ~~~~~~いいわっ!! 私の事なんてべつに覚えていようがいまいがど~~~~~~~~だっていいからぁっ!!!!」
と、瞬の頭をガッキリ掴んで彼を睨みつける。
と、同時に私に対しても『ヤダ』と、鬼のような目線を射抜いてくる。
「……あ~~まぁ……はい……」
その迫力に押されて引っ込む私。
先生はそのままに、瞬に尋問を開始した。
「いい? あなたにいくつか質問があるわ?」
「……質……問――――?」
目覚めたばかりでまだ、意識が朦朧としているのだろう。瞬は自分の置かれた状況を確認するわけでも無く、素直に先生のセリフに耳を貸す。
「一つ目は――――あなた、超能力者の事を知っている?」
「……なに、それ……映画かアニメの話……?」
「二つ目は――――人を殺した事は?」
「無い……けど……」
「最後の一つ、この娘を覚えている?」
と、先生は瞬の顔を私に向けた。
「……いや? 初めて見る顔だ……キミは誰だい?」
本当にわからないと言った顔で私を眺める瞬。
そんなはずはない。
私の顔は先生よりも知っているはずだ。
なぜなら、私は彼を何度も何度も殺して生き返らせて殺した。
私なら、そんな悪魔の顔を忘れるはずがない。
そしてさらにもう一つ。
「人を殺していないってどういうことですか?」
私は瞬に聞いた。
「……どうも、こうも……なぜ……僕がそんな事しなくちゃあ……いけないんだい」
「私があなたと出会ったとき、あなたは子供を殺そうとしてましたよね?」
「僕……が? 子供を……なにを言っているんだい……?」
しかし瞬は本当に何も覚えていないようすだ。
「これは……記憶喪失でしょうか? それとも一時的な混乱?」
「そんな風には見えないわね、どうかしら宝塚さん。彼の脳や精神は完全に回復しているのかしら?」
先生がもう一度確認してくる。
もちろんそのはずだ。
記憶にかけられた障壁以外は、すべて本来の形に戻っている。それが例え形の無い記憶や精神状態であったとしても。
現に今の彼は健康そのものの肉体と、極めて穏やかな精神状態を保っている。
それを皆に伝えると、
「ならそうね、これは本当に知らないという事なのかしらね」
呟き、さらさらと電子カルテに何やら書き込む先生。
「知らない? 知らないとはどういう事じゃ??」
「ベヒモス化していた間の記憶はそもそも無いって事かしらね?
彼は記憶が消された日以降に人殺しを初めたわ。でも、それを全て覚えていないとすると、そこから先は彼の意識は無かったと考えるのが自然ね」
「そ、そうか――――ベヒモス化すると精神はファントムに支配されてしまうわけだから、その間の意志や記憶は彼じゃなくてファントムのものって事になる……ですよね?」
菜々ちんが考え込みながら先生に確認した。
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