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第105話 隠された記憶②
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「ご苦労さま、容態はどう? 変わりないかしら?」
無数の計器に囲まれながら無心にキーボートを打ち続けている男性医師は、その声に反応し、手を止めこちらを向いた。
ここは彼が――――藤堂瞬が眠る集中治療室。
この医師は瞬の容態を常に監視している、死ぬ子先生の部下である。
「ああ……これはこれは、妹さんに最恩さん、それと宝塚さん。……あと、この子は新人さんかな?」
死ぬ子先生を見て首を傾げる部下さん。
ああそうか、この人先生が若返ってるから本人と分からないんだ。
今の先生はどこからどう見ても地元の女子高生にしか見えない。
「……なに言ってんのよ、私よ私? あんたの上司の七瀬よ?」
「は?」
眼鏡をかけ直し、まじまじと先生を見つめる部下さん。
そしてふっと鼻で笑うと、
「馬鹿言っちゃいけないよ、先生はキミみたいな若くて健康的な女の子とは似ても似つかない真逆の女性だよ? 目は落ち窪んでパンダみたいにクマだらけだし肌は荒れ放題で髪の毛はボサボサ、無数の小ジワに最近ちょっと加齢臭が痛たたたたたーーーーーーーっ!!」
ギリギリと部下さんの口を真横に広げる死ぬ子先生。
真実を言っている部下に対する対応としてはあんまりである。
私は黙って先生の肩に手をかけるとラミアに命じる。
『きゅっ!!』
と、先生の容姿がみるみる元に戻って行く。
「げ……げぇっ!! 先生っ!???」
それを見て目を剥き、汗を吹き出す気の毒な部下さん。
「あ~ん~た~わ~~……普段からぁ~~私をぉぉぉ……そんなぁ目でぇ見てたのねぇ~~……呪ってやるぅぅぅぅ……呪ってやるぞぉぉぉぉぉ…………!!!!」
「ひひぃぃぃぃぃっ!!!!」
恐れおののき椅子から転げ落ち後ずさる部下さん。彼はそのまま部屋を出ていこうとする。
「報告はぁぁぁぁ……? 私が~~……聞いてんでしょぉぉぉ……????」
「ひいいっ!! あ、相変わらずバイタルは低迷しておりまして意識も戻りませんが、生命維持装置の調整で何とか命を保っております!!
あ……あと半月は生命を保てると思われますひいいぃぃぃぃ!!!!」
それだけ報告すると彼は走ってどこかへ消えてしまった。
……その態度で普段の先生が、どう部下に接しているかお察しである。
「……ちょっとぉ~~あんたもぉ……早く私を元に戻しなさいよ~~……」
恨めしげに私にしがみつく山姥《やまんば》。
「……元って、今が元の姿じゃないですか、それに戻すのは負担が少ないから良いですけど、また若返らせるのはすごい精気を消耗するんですよ?」
「……いいからやりなさぁい~~……でないと、あんたの小学生時代、好きだった男の子に告白しようとして結局出来なかった口説き文句の原稿写真をネットにばら撒いてやるんだからね顔付きで~~~~……!!!!」
「ラミア……マダムをマドモアゼルにして差し上げて」
『ぎゅぅぅぅぅぅぅ!!!!』
にゅにゅにゅと精気を先生に送る。その力で先生の存在値を書き換え若返らせる。
代わりに精気を失った私は、体が小さく痩せて可愛くなる。
ちなみに私の姿について、JPASの男性職員達で賛否両論が巻き起こり、現在、ぽっちゃり派連合とスレンダー派親衛隊とで激しい論戦が繰り広げられているらしいが、私はあまりかかわらない事にしている。
「……相変わらず……不気味な姿じゃのぉ……」
百恵ちゃんがベッドに横たわる肉の塊を見て顔を歪ませる。
元は端正な顔立ちをした殺人鬼だったが、私の暴走で今はその面影がまるで無い。
それどころか、人ですらもわからない姿に変わっていた。
「……なんだか、以前よりまた姿がおかしくなっていませんか?」
菜々ちんが口を押さえて呟く。
前回来た時は、まだ人間だった頃のパーツが部分的には確認できたが、今はそれがまるで無い。完全に肉の塊となっていた。
かろうじて剥き出しになった目蓋のない目だけが、これが生物だと言うことを訴えかけていた。
「ええ、前回に説明したけど、これは宝塚さんの能力で破壊と再生を繰り返した結果、細胞の結合パターンを乱し、肉体が徐々に崩壊している状態なのよ」
「……先程、部下の方が余命半月だとおっしゃっていましたが?」
難しそうに眉を曲げ、菜々ちんが訊く。
「そうね。……崩壊はまだ続いているわ。かろうじて心臓や主要な血管、臓器などは動いているけども……その機能は著しく低下しているわね。……このままじゃ確実にもうじき死を迎えるわ」
「それで宝塚さんに存在エネルギーの操作をさせて回復させようと?」
「そう、こうなった原因は宝塚さんの回復能力の未熟さにあったのよ。これまでは存在値の要素なんて考えもせずに、当てずっぽうな修復をしていたから、その度にズレが生じて今回のような結果になった。
――でも、ラミアを手懐けて能力操作がマスターレベルに昇華した今の宝塚さんなら、彼を元に戻すのも容易いんじゃないかと思ってね」
「……なるほど、しかし彼を回復させる理由は何ですか? 彼はベヒモスで殺人鬼だったのでしょう? 回復させて社会復帰でもさせるつもりですか? だとしたらそれは無謀で意味のない行為だと思いますけれど……」
「馬鹿ね、私がそんな優しいこと考えるわけ無いでしょ? 用事が済んだら彼は正式に処分するつもりよ?」
「……用事……ですか?」
訝しげな菜々ちんの表情に、死ぬ子先生は怪しげな笑顔で答えた。
無数の計器に囲まれながら無心にキーボートを打ち続けている男性医師は、その声に反応し、手を止めこちらを向いた。
ここは彼が――――藤堂瞬が眠る集中治療室。
この医師は瞬の容態を常に監視している、死ぬ子先生の部下である。
「ああ……これはこれは、妹さんに最恩さん、それと宝塚さん。……あと、この子は新人さんかな?」
死ぬ子先生を見て首を傾げる部下さん。
ああそうか、この人先生が若返ってるから本人と分からないんだ。
今の先生はどこからどう見ても地元の女子高生にしか見えない。
「……なに言ってんのよ、私よ私? あんたの上司の七瀬よ?」
「は?」
眼鏡をかけ直し、まじまじと先生を見つめる部下さん。
そしてふっと鼻で笑うと、
「馬鹿言っちゃいけないよ、先生はキミみたいな若くて健康的な女の子とは似ても似つかない真逆の女性だよ? 目は落ち窪んでパンダみたいにクマだらけだし肌は荒れ放題で髪の毛はボサボサ、無数の小ジワに最近ちょっと加齢臭が痛たたたたたーーーーーーーっ!!」
ギリギリと部下さんの口を真横に広げる死ぬ子先生。
真実を言っている部下に対する対応としてはあんまりである。
私は黙って先生の肩に手をかけるとラミアに命じる。
『きゅっ!!』
と、先生の容姿がみるみる元に戻って行く。
「げ……げぇっ!! 先生っ!???」
それを見て目を剥き、汗を吹き出す気の毒な部下さん。
「あ~ん~た~わ~~……普段からぁ~~私をぉぉぉ……そんなぁ目でぇ見てたのねぇ~~……呪ってやるぅぅぅぅ……呪ってやるぞぉぉぉぉぉ…………!!!!」
「ひひぃぃぃぃぃっ!!!!」
恐れおののき椅子から転げ落ち後ずさる部下さん。彼はそのまま部屋を出ていこうとする。
「報告はぁぁぁぁ……? 私が~~……聞いてんでしょぉぉぉ……????」
「ひいいっ!! あ、相変わらずバイタルは低迷しておりまして意識も戻りませんが、生命維持装置の調整で何とか命を保っております!!
あ……あと半月は生命を保てると思われますひいいぃぃぃぃ!!!!」
それだけ報告すると彼は走ってどこかへ消えてしまった。
……その態度で普段の先生が、どう部下に接しているかお察しである。
「……ちょっとぉ~~あんたもぉ……早く私を元に戻しなさいよ~~……」
恨めしげに私にしがみつく山姥《やまんば》。
「……元って、今が元の姿じゃないですか、それに戻すのは負担が少ないから良いですけど、また若返らせるのはすごい精気を消耗するんですよ?」
「……いいからやりなさぁい~~……でないと、あんたの小学生時代、好きだった男の子に告白しようとして結局出来なかった口説き文句の原稿写真をネットにばら撒いてやるんだからね顔付きで~~~~……!!!!」
「ラミア……マダムをマドモアゼルにして差し上げて」
『ぎゅぅぅぅぅぅぅ!!!!』
にゅにゅにゅと精気を先生に送る。その力で先生の存在値を書き換え若返らせる。
代わりに精気を失った私は、体が小さく痩せて可愛くなる。
ちなみに私の姿について、JPASの男性職員達で賛否両論が巻き起こり、現在、ぽっちゃり派連合とスレンダー派親衛隊とで激しい論戦が繰り広げられているらしいが、私はあまりかかわらない事にしている。
「……相変わらず……不気味な姿じゃのぉ……」
百恵ちゃんがベッドに横たわる肉の塊を見て顔を歪ませる。
元は端正な顔立ちをした殺人鬼だったが、私の暴走で今はその面影がまるで無い。
それどころか、人ですらもわからない姿に変わっていた。
「……なんだか、以前よりまた姿がおかしくなっていませんか?」
菜々ちんが口を押さえて呟く。
前回来た時は、まだ人間だった頃のパーツが部分的には確認できたが、今はそれがまるで無い。完全に肉の塊となっていた。
かろうじて剥き出しになった目蓋のない目だけが、これが生物だと言うことを訴えかけていた。
「ええ、前回に説明したけど、これは宝塚さんの能力で破壊と再生を繰り返した結果、細胞の結合パターンを乱し、肉体が徐々に崩壊している状態なのよ」
「……先程、部下の方が余命半月だとおっしゃっていましたが?」
難しそうに眉を曲げ、菜々ちんが訊く。
「そうね。……崩壊はまだ続いているわ。かろうじて心臓や主要な血管、臓器などは動いているけども……その機能は著しく低下しているわね。……このままじゃ確実にもうじき死を迎えるわ」
「それで宝塚さんに存在エネルギーの操作をさせて回復させようと?」
「そう、こうなった原因は宝塚さんの回復能力の未熟さにあったのよ。これまでは存在値の要素なんて考えもせずに、当てずっぽうな修復をしていたから、その度にズレが生じて今回のような結果になった。
――でも、ラミアを手懐けて能力操作がマスターレベルに昇華した今の宝塚さんなら、彼を元に戻すのも容易いんじゃないかと思ってね」
「……なるほど、しかし彼を回復させる理由は何ですか? 彼はベヒモスで殺人鬼だったのでしょう? 回復させて社会復帰でもさせるつもりですか? だとしたらそれは無謀で意味のない行為だと思いますけれど……」
「馬鹿ね、私がそんな優しいこと考えるわけ無いでしょ? 用事が済んだら彼は正式に処分するつもりよ?」
「……用事……ですか?」
訝しげな菜々ちんの表情に、死ぬ子先生は怪しげな笑顔で答えた。
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