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第86話 ラミア⑥
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「……えっと……それは、少しマズいんじゃないのか……ですかオジサ……所長」
事態のショックで言葉が定まらない百恵ちゃん。
意識だけになった私も悲鳴を上げる。
ええ~~~~?? ベ、ベヒモス化?? 私が!? 急に!??
あれ……って事は、私……今から退治されちゃうとか??
ちょちょちょ……ちょっと待って、それは私のこれからの仕事なはず、それが何で逆に退治されなくちゃならないのよ~~~~!???
「しかし所長はさっき、宝塚さんはベヒモス化しないって!?」
冷や汗を流しながら菜々ちん。
「かもしれないって言っただけだよ? まだまだファントムについては解らない事の方が多いからね。そりゃ予想を外す事もあるし、例外も多いさ」
悠長に二本目の煙草に火をつける所長。
自分の部下が大変な目に合っているというのにどうしてこの人はこんなに落ち着き払っているんだ!?
「……そんな、だったら宝塚さんはもう……?」
「いや、僕の見たところ、彼女は確かにベヒモス化してはいるが……完全に支配されている訳じゃない。だって、彼女の意識ははっきりと残っているよ、そうだよね宝塚くん?」
うん、ハイそうです!! 残ってます!! 私はここにいますからまだ退治しないで下さいお願いしますっ!!!!
「大丈夫さ、僕がそんなひどいことする男に見えるかい?」
はっ!? つ……通じた?? 私の意識が聞こえた?? さすが所長の能力……えっと、テレパシーでしたよね、ビバ・テレパシー!!
「そんなに褒めないでくれよ、照れるじゃあないかぁ」
「……あの、所長……?」
「ああ、いや、ごめんごめん。ちょっと宝塚くんと話してたよ。
――――でだ、状況から察するに……これはベヒモス化というか、単純に懐かれているだけなんじゃないだろうかと思う」
「懐かれてる!??」
「うん。ファントムにとって大好物なはずの宿主の精神に、一切手を付けていない所をみると彼女のファントム――――ラミアは彼女を襲おうとしているわけでは無いらしい」
「そんな……ファントムは基本、宿主との主権争いに躍起になるはず……」
所長は再び額に指を添え、意識を集中する。
「……うん。確かにラミアからは宝塚くんに対する敵意は感じないね。むしろ親に甘える子供の切なさのような感情を感じるよ。……ふむふむ……あ~~そうか……なるほど、それでか」
なにがソレなんだ? 一人で納得しないで説明してくれ!??
「さっき宝塚くんが『ラミア』って呼んだだろ? それが嬉しくってハシャイじゃってるみたいだねぇこの子」
ハシャイでる? ファントムが??
「……ずっと宿主である宝塚くんを親のように慕っていたんだけど、一向に気付いてもらえず寂しい思いをしていたようだね。それがようやく自分に対して『名前』という形で意識を向けてもらえたので、それが嬉しくって仕方が無いみたいだね」
「ファントムがそんな感情を?? い、いえ、それよりも、なぜそれがベヒモス化してしまう事になるんです??」
「多分だけどさあ……」
菜々ちんの問に、所長は半笑いで答える。
「甘噛みたいなもんじゃないかな?」
『甘噛!??』
二人の声と、ついでに私の心の声がシンクロした。
「ベヒモス化って言うのはさ、古風に表現すれば悪霊に取りつかれるとか、憑依されるとかじゃない?」
「……ま、まあ大雑把に言えばそうですね」
「ラミアの場合、それを悪意無しにやっている様なもんだね。
ほら、動物だって攻撃するときも噛むけど、甘える時にも同じく噛むだろう? それと同じ状況だと思うね、これは」
「お、思うではなく……オジサ、所長、ではどうすればいいのですか? このまま放って置いても大丈夫なのですか!?」
かなり緊迫した表情で百恵ちゃんが汗を拭う。
依然、私(ラミア)は二人を敵視して睨みつけていたからだ。
「……初心者とは言え、ヒロインは強力な能力者です。もし、暴れでもしたらどんな力が発現するか予想がつきません!!」
『しゃーーーーーーーーっ!!!!』
猫の威嚇のように私(ラミア)は息を鳴らす。
どうやら百恵ちゃんの緊張が伝わって警戒しているようだ。
その威嚇を受けて、百恵ちゃんの髪の毛もザワッと逆立った。
こらこら、どうどう!! 二人とも落ち着いて!!
「うん。ともかくまずは極力警戒させないようにすることだね。……とは言えラミアは随分と……百恵くんの事を敵視しているようだが、何か敵視されるような事でもしたのかね?」
「いいえ、全く心当たりありませんわ」
いけしゃあしゃあとこの娘は!!
……なるほど、ラミアの機嫌が悪いのは、今まで百恵ちゃんがさんざん私にちょっかいかけてきたのが原因かっ!?
「……ふむ、そりゃあ百恵くんが悪いかな? とりあえず謝ってみたらどうだい?」
私の心を読んで状況を理解した所長は苦笑いをしながら百恵ちゃんを見る。
「い……いえ、その!! 私は何も――――!!」
ガンッ!!
慌てて取り繕うとした彼女の足が、テーブルの足に引っかかった。
ばしゃんっ!!
乗っていた熱いお茶が倒れ、それが私の足に盛大にぶちまけられる。
『きゅーーーーーーーーっ!!!!!!!!』
熱ーーーーーーーー~~~~~~~~っ!????
私とラミアは同時に叫んで飛び上がる。
そして、
『ぎゅっ!!』
と、ラミアは百恵ちゃんを睨みつけると、
『ぎゅぎゅぎゅーーーーっ!!!!』
大きく嘶《いなな》き、能力を開放した!!
――――ドンッ!!
という波動とともに黄金の光が部屋一杯に広がった!!
な、なになに、この光は!?? 一体この子何をするつもり!??
「――――!? と、これはちょとまずいなっ!?」
それを見た所長から余裕の笑みが消える。
そして素早く百恵ちゃん菜々ちん二人を庇うように、その前に立った。
「所長っ!! これはっ!??」
鞄を盾にして菜々ちんが叫ぶ。
「熱湯に驚いて攻撃されたと勘違いしているだけだよ!! ……でも、これはそのせいで出された……新たな……能力かも……んぐぅ!??」
『ぎゅぎゅぎゅ~~~~~~っ!!!!!』
ラミアはなおも荒ぶり光を強める!!
すると黄金の光に照らされた所長の顔からみるみる血の気が失われていき、シワが深くなり、体も枯れていった。
事態のショックで言葉が定まらない百恵ちゃん。
意識だけになった私も悲鳴を上げる。
ええ~~~~?? ベ、ベヒモス化?? 私が!? 急に!??
あれ……って事は、私……今から退治されちゃうとか??
ちょちょちょ……ちょっと待って、それは私のこれからの仕事なはず、それが何で逆に退治されなくちゃならないのよ~~~~!???
「しかし所長はさっき、宝塚さんはベヒモス化しないって!?」
冷や汗を流しながら菜々ちん。
「かもしれないって言っただけだよ? まだまだファントムについては解らない事の方が多いからね。そりゃ予想を外す事もあるし、例外も多いさ」
悠長に二本目の煙草に火をつける所長。
自分の部下が大変な目に合っているというのにどうしてこの人はこんなに落ち着き払っているんだ!?
「……そんな、だったら宝塚さんはもう……?」
「いや、僕の見たところ、彼女は確かにベヒモス化してはいるが……完全に支配されている訳じゃない。だって、彼女の意識ははっきりと残っているよ、そうだよね宝塚くん?」
うん、ハイそうです!! 残ってます!! 私はここにいますからまだ退治しないで下さいお願いしますっ!!!!
「大丈夫さ、僕がそんなひどいことする男に見えるかい?」
はっ!? つ……通じた?? 私の意識が聞こえた?? さすが所長の能力……えっと、テレパシーでしたよね、ビバ・テレパシー!!
「そんなに褒めないでくれよ、照れるじゃあないかぁ」
「……あの、所長……?」
「ああ、いや、ごめんごめん。ちょっと宝塚くんと話してたよ。
――――でだ、状況から察するに……これはベヒモス化というか、単純に懐かれているだけなんじゃないだろうかと思う」
「懐かれてる!??」
「うん。ファントムにとって大好物なはずの宿主の精神に、一切手を付けていない所をみると彼女のファントム――――ラミアは彼女を襲おうとしているわけでは無いらしい」
「そんな……ファントムは基本、宿主との主権争いに躍起になるはず……」
所長は再び額に指を添え、意識を集中する。
「……うん。確かにラミアからは宝塚くんに対する敵意は感じないね。むしろ親に甘える子供の切なさのような感情を感じるよ。……ふむふむ……あ~~そうか……なるほど、それでか」
なにがソレなんだ? 一人で納得しないで説明してくれ!??
「さっき宝塚くんが『ラミア』って呼んだだろ? それが嬉しくってハシャイじゃってるみたいだねぇこの子」
ハシャイでる? ファントムが??
「……ずっと宿主である宝塚くんを親のように慕っていたんだけど、一向に気付いてもらえず寂しい思いをしていたようだね。それがようやく自分に対して『名前』という形で意識を向けてもらえたので、それが嬉しくって仕方が無いみたいだね」
「ファントムがそんな感情を?? い、いえ、それよりも、なぜそれがベヒモス化してしまう事になるんです??」
「多分だけどさあ……」
菜々ちんの問に、所長は半笑いで答える。
「甘噛みたいなもんじゃないかな?」
『甘噛!??』
二人の声と、ついでに私の心の声がシンクロした。
「ベヒモス化って言うのはさ、古風に表現すれば悪霊に取りつかれるとか、憑依されるとかじゃない?」
「……ま、まあ大雑把に言えばそうですね」
「ラミアの場合、それを悪意無しにやっている様なもんだね。
ほら、動物だって攻撃するときも噛むけど、甘える時にも同じく噛むだろう? それと同じ状況だと思うね、これは」
「お、思うではなく……オジサ、所長、ではどうすればいいのですか? このまま放って置いても大丈夫なのですか!?」
かなり緊迫した表情で百恵ちゃんが汗を拭う。
依然、私(ラミア)は二人を敵視して睨みつけていたからだ。
「……初心者とは言え、ヒロインは強力な能力者です。もし、暴れでもしたらどんな力が発現するか予想がつきません!!」
『しゃーーーーーーーーっ!!!!』
猫の威嚇のように私(ラミア)は息を鳴らす。
どうやら百恵ちゃんの緊張が伝わって警戒しているようだ。
その威嚇を受けて、百恵ちゃんの髪の毛もザワッと逆立った。
こらこら、どうどう!! 二人とも落ち着いて!!
「うん。ともかくまずは極力警戒させないようにすることだね。……とは言えラミアは随分と……百恵くんの事を敵視しているようだが、何か敵視されるような事でもしたのかね?」
「いいえ、全く心当たりありませんわ」
いけしゃあしゃあとこの娘は!!
……なるほど、ラミアの機嫌が悪いのは、今まで百恵ちゃんがさんざん私にちょっかいかけてきたのが原因かっ!?
「……ふむ、そりゃあ百恵くんが悪いかな? とりあえず謝ってみたらどうだい?」
私の心を読んで状況を理解した所長は苦笑いをしながら百恵ちゃんを見る。
「い……いえ、その!! 私は何も――――!!」
ガンッ!!
慌てて取り繕うとした彼女の足が、テーブルの足に引っかかった。
ばしゃんっ!!
乗っていた熱いお茶が倒れ、それが私の足に盛大にぶちまけられる。
『きゅーーーーーーーーっ!!!!!!!!』
熱ーーーーーーーー~~~~~~~~っ!????
私とラミアは同時に叫んで飛び上がる。
そして、
『ぎゅっ!!』
と、ラミアは百恵ちゃんを睨みつけると、
『ぎゅぎゅぎゅーーーーっ!!!!』
大きく嘶《いなな》き、能力を開放した!!
――――ドンッ!!
という波動とともに黄金の光が部屋一杯に広がった!!
な、なになに、この光は!?? 一体この子何をするつもり!??
「――――!? と、これはちょとまずいなっ!?」
それを見た所長から余裕の笑みが消える。
そして素早く百恵ちゃん菜々ちん二人を庇うように、その前に立った。
「所長っ!! これはっ!??」
鞄を盾にして菜々ちんが叫ぶ。
「熱湯に驚いて攻撃されたと勘違いしているだけだよ!! ……でも、これはそのせいで出された……新たな……能力かも……んぐぅ!??」
『ぎゅぎゅぎゅ~~~~~~っ!!!!!』
ラミアはなおも荒ぶり光を強める!!
すると黄金の光に照らされた所長の顔からみるみる血の気が失われていき、シワが深くなり、体も枯れていった。
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