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第80話 百恵の過去②
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ある深夜、家に暴漢が侵入してきたのだ。
「人殺し、魔女、死んで詫びろ」と片言で叫ぶそいつらは国籍不明の外国人。
おそらく誰かに雇われたアルバイト。
彼らは百恵ちゃんと両親を家の外へ引きずり出し、カメラで動画と写真を撮りまくった。そして家に火を放つと「魔女狩り魔女狩り」と笑い、さらにアップで百恵ちゃんを接写した。
燃える家に、近所の人達がドアや窓から様子を眺めているが、誰一人、七瀬一家を助けようと動くものはいなかった。
両親は百恵ちゃんを庇い抱きしめていたが、そんな両親に暴漢達は下卑た笑いを浮かべながらツバを吐きかける。
父親は激高し「警察を呼ぶ」と叫んだが、男たちは余裕の笑みを浮かべて言った。
「お前達は嫌われ者。嫌われ者は誰も助けない。警察もすぐには来ない。オレたちは地域に雇われている。だからお前たち誰も助けない」と。
そこで再び彼女は――――キレた。
怒りのままに能力を暴発させると暴漢の一人をその場で爆砕させた。
しかしその映像は完璧に録画され、男達は驚愕しながらも大手柄に湧き、その場を走り去ろうとする。
だがそこで――――男達は数発の銃声とともに道路に倒れ込む事になる。
そして代わりに現れたのは――――大西所長であった。
大西は暴漢から奪ったカメラのメモリを破壊すると、百恵ちゃんと両親の元に歩んで行き「僭越かと思いましたが……見ておられなかったもので」と頭を下げ、父親にハンカチを渡す。
「どうでしょう? ……そろそろご決断なされては?」
「致し方ありません……娘を……よろしくお願いします」
大西は百恵ちゃんの頭を撫で「もう怖くないよ、これからはオジサンがキミを守ろう」と優しく笑う。
「……お前は、私が気持ち悪くは無いのか……?」
百恵ちゃんは聞いたが、所長は大袈裟におどけて見せて、
「こぉんなに可愛らしいお嬢ちゃんを嫌うなんて、僕はそんなに見る目のない男じゃあないよ?」
「……魔女でもか?」
「もちろん」
「……人殺しでもか」
「僕も今、殺したところだよ?」
「お前も……私は殺すかもしれんぞ……?」
「キミが? ありえないね。
だってキミは自分を守るためにしか力を使わないだろう?
なら僕にはキミはただの可愛い少女さ。怖くなんかないよ」
そうして所長は百恵ちゃんが引き起こした事件の真相を語った。
それは園児と保育士による百恵ちゃんへのイジメが原因だった。
しばらく前から、無意識に能力で絵本を弾いたりボールを飛ばしたりしてしまっていた彼女は、園児仲間から気味悪がられていくようになり、じきにイジメのターゲットにされていった。
そのイジメグループの内の一人が街の大病院の跡取りで、鼻の利く保育士がその空気を目ざとく察し、坊っちゃんに取り入ろうと一緒になって百恵をからかっていたのだという。
その日は坊っちゃんの要望で、百恵の服を脱がす遊びをしようと保育士が百恵の下着に手をかけたところで爆発が起きた。
「だからねぇ~~キミは何にも悪くない。オ・ジ・サ・マは全部わかっているから。
少し他と違うと言うだけでキミを除け者にするような世間になんてもう関わる必要はないよ。キミに危害を加えるような者達はさっきみたいにオジサマが全部やっつけてあげるから」
「オ……ジサ……マ?」
「オジサマだけじゃないよ、キミにはまだ沢山の仲間がいる。皆、キミと同じく少し変わった能力を持つ仲間さ。
だからもう怖くないよ。みんなキミを同じ人間として見てくれるからね」
「みんな……私と同じ……??」
「そう、同じだよ。みんなキミと同じ超能力者なんだ。
だからキミのことを嫌ったり気味悪がったりなんて誰もしないし、キミが今日みたいに攻撃されることがあったら全員でキミを守るよ。
僕たちはみんなそうして助け合って生きているんだ。
だからどうだろう、キミも僕たちの仲間になってくれないかな?」
「うぐ……うぐ……う、うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!!」
返事の代わりに百恵ちゃんは思いっきり泣いたという。
「それから吾輩は……オジサマの元で保護され、心を癒やし、いつしか能力も使いこなせるようになって今は普通の学校にも通うことが出来ている。それも全てオジサマがあの時、迎えに来てくれたおかげじゃと思っておる。
だから吾輩は、誰よりも優秀で強い能力者になって、いつしかオジサマに恩を返したいのじゃ。あのとき吾輩を受け入れて良かったと誇りに思ってもらいたいのじゃ」
そうか……それで同じく所長にスカウトされた私をこんなにライバル視するのか。
「だからっ!! だからヒロインっ!! お前にだけは吾輩は負けるわけにはいかないんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
ジタバタと私のお尻の下でもがく百恵ちゃん。
私はそんな彼女をいじらしく思い、ギュッと抱きしめる。
「なっ!?? 何をするっ!! 離せっ!! 離さんかっ!???」
「……私もね、小学校の頃イジメられたの。原因は能力じゃ無かったけど……でも辛さはわかるよ。両親が亡くなって……親戚をたらい回しにされて、疎まれて……学校じゃ親無しってからかわれて……ずっと居場所がなかったんだ……。
居場所が無いって辛いよね。ほんとに辛い、
だから独り立ちして、やっと職場っていう居場所を見つけてからも気味悪がられないように必死に能力を隠して生きてきたんだ……。
だから、わかるよ百恵ちゃんの気持ち。
取ったりなんかしないよ……百恵ちゃんの居場所は絶対に取らないから。
二人で頑張ろ? 二人で所長の自慢になって行こうよ」
「お前……吾輩を嫌っていないのか……?」
「嫌わないよ~~、同じ超能力者じゃないの。私も菜々ちんも所長も……みんな同じ仲間だよぉ……ライバルとかじゃなくて、助け合う仲間だよぉ……」
「う……うううぅぅぅぅぅぅぅ……」
その言葉を聞くと百恵ちゃんは泣き出してしまった。
きっと安心したのだろう。
彼女にとって私は自分の居場所を横取りしにきた敵にしか見えていなかったのだろう。どんなにしっかりしていて強がっていてもやはりまだ十一歳の少女なのだ。
「人殺し、魔女、死んで詫びろ」と片言で叫ぶそいつらは国籍不明の外国人。
おそらく誰かに雇われたアルバイト。
彼らは百恵ちゃんと両親を家の外へ引きずり出し、カメラで動画と写真を撮りまくった。そして家に火を放つと「魔女狩り魔女狩り」と笑い、さらにアップで百恵ちゃんを接写した。
燃える家に、近所の人達がドアや窓から様子を眺めているが、誰一人、七瀬一家を助けようと動くものはいなかった。
両親は百恵ちゃんを庇い抱きしめていたが、そんな両親に暴漢達は下卑た笑いを浮かべながらツバを吐きかける。
父親は激高し「警察を呼ぶ」と叫んだが、男たちは余裕の笑みを浮かべて言った。
「お前達は嫌われ者。嫌われ者は誰も助けない。警察もすぐには来ない。オレたちは地域に雇われている。だからお前たち誰も助けない」と。
そこで再び彼女は――――キレた。
怒りのままに能力を暴発させると暴漢の一人をその場で爆砕させた。
しかしその映像は完璧に録画され、男達は驚愕しながらも大手柄に湧き、その場を走り去ろうとする。
だがそこで――――男達は数発の銃声とともに道路に倒れ込む事になる。
そして代わりに現れたのは――――大西所長であった。
大西は暴漢から奪ったカメラのメモリを破壊すると、百恵ちゃんと両親の元に歩んで行き「僭越かと思いましたが……見ておられなかったもので」と頭を下げ、父親にハンカチを渡す。
「どうでしょう? ……そろそろご決断なされては?」
「致し方ありません……娘を……よろしくお願いします」
大西は百恵ちゃんの頭を撫で「もう怖くないよ、これからはオジサンがキミを守ろう」と優しく笑う。
「……お前は、私が気持ち悪くは無いのか……?」
百恵ちゃんは聞いたが、所長は大袈裟におどけて見せて、
「こぉんなに可愛らしいお嬢ちゃんを嫌うなんて、僕はそんなに見る目のない男じゃあないよ?」
「……魔女でもか?」
「もちろん」
「……人殺しでもか」
「僕も今、殺したところだよ?」
「お前も……私は殺すかもしれんぞ……?」
「キミが? ありえないね。
だってキミは自分を守るためにしか力を使わないだろう?
なら僕にはキミはただの可愛い少女さ。怖くなんかないよ」
そうして所長は百恵ちゃんが引き起こした事件の真相を語った。
それは園児と保育士による百恵ちゃんへのイジメが原因だった。
しばらく前から、無意識に能力で絵本を弾いたりボールを飛ばしたりしてしまっていた彼女は、園児仲間から気味悪がられていくようになり、じきにイジメのターゲットにされていった。
そのイジメグループの内の一人が街の大病院の跡取りで、鼻の利く保育士がその空気を目ざとく察し、坊っちゃんに取り入ろうと一緒になって百恵をからかっていたのだという。
その日は坊っちゃんの要望で、百恵の服を脱がす遊びをしようと保育士が百恵の下着に手をかけたところで爆発が起きた。
「だからねぇ~~キミは何にも悪くない。オ・ジ・サ・マは全部わかっているから。
少し他と違うと言うだけでキミを除け者にするような世間になんてもう関わる必要はないよ。キミに危害を加えるような者達はさっきみたいにオジサマが全部やっつけてあげるから」
「オ……ジサ……マ?」
「オジサマだけじゃないよ、キミにはまだ沢山の仲間がいる。皆、キミと同じく少し変わった能力を持つ仲間さ。
だからもう怖くないよ。みんなキミを同じ人間として見てくれるからね」
「みんな……私と同じ……??」
「そう、同じだよ。みんなキミと同じ超能力者なんだ。
だからキミのことを嫌ったり気味悪がったりなんて誰もしないし、キミが今日みたいに攻撃されることがあったら全員でキミを守るよ。
僕たちはみんなそうして助け合って生きているんだ。
だからどうだろう、キミも僕たちの仲間になってくれないかな?」
「うぐ……うぐ……う、うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!!」
返事の代わりに百恵ちゃんは思いっきり泣いたという。
「それから吾輩は……オジサマの元で保護され、心を癒やし、いつしか能力も使いこなせるようになって今は普通の学校にも通うことが出来ている。それも全てオジサマがあの時、迎えに来てくれたおかげじゃと思っておる。
だから吾輩は、誰よりも優秀で強い能力者になって、いつしかオジサマに恩を返したいのじゃ。あのとき吾輩を受け入れて良かったと誇りに思ってもらいたいのじゃ」
そうか……それで同じく所長にスカウトされた私をこんなにライバル視するのか。
「だからっ!! だからヒロインっ!! お前にだけは吾輩は負けるわけにはいかないんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
ジタバタと私のお尻の下でもがく百恵ちゃん。
私はそんな彼女をいじらしく思い、ギュッと抱きしめる。
「なっ!?? 何をするっ!! 離せっ!! 離さんかっ!???」
「……私もね、小学校の頃イジメられたの。原因は能力じゃ無かったけど……でも辛さはわかるよ。両親が亡くなって……親戚をたらい回しにされて、疎まれて……学校じゃ親無しってからかわれて……ずっと居場所がなかったんだ……。
居場所が無いって辛いよね。ほんとに辛い、
だから独り立ちして、やっと職場っていう居場所を見つけてからも気味悪がられないように必死に能力を隠して生きてきたんだ……。
だから、わかるよ百恵ちゃんの気持ち。
取ったりなんかしないよ……百恵ちゃんの居場所は絶対に取らないから。
二人で頑張ろ? 二人で所長の自慢になって行こうよ」
「お前……吾輩を嫌っていないのか……?」
「嫌わないよ~~、同じ超能力者じゃないの。私も菜々ちんも所長も……みんな同じ仲間だよぉ……ライバルとかじゃなくて、助け合う仲間だよぉ……」
「う……うううぅぅぅぅぅぅぅ……」
その言葉を聞くと百恵ちゃんは泣き出してしまった。
きっと安心したのだろう。
彼女にとって私は自分の居場所を横取りしにきた敵にしか見えていなかったのだろう。どんなにしっかりしていて強がっていてもやはりまだ十一歳の少女なのだ。
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