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第79話 百恵の過去①
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「超能力者同士の私闘は原則禁止ですっ!!」
ブクブクを泡を吐く百恵ちゃんを床に落とし、その前で仁王立ちになって瀬戸さんが警告してくる。
「し……私闘ではない……こ、これは訓練だ……っ!!」
「ガチンコバトルとはっきりと聞こえましたが?」
「ぬぬぬ……そ、それは言葉のアヤじゃっ!!」
「どちらが格上か見せつけてやろうぞとも聞こえましたが?」
「うぬぬぬぬぬぬぬ……」
まだ何か言い訳をしそうな百恵ちゃんに瀬戸さんは、彼女がもっとも嫌がる一言を浴びせる。
「大西所長に言いつけますよっ!!」
「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!! それは、それだけは止めてくれぇぇぇぇえぇっ!!!! わかった、ヒロインには攻撃しない!! だからオジサマにだけは告げ口しないでくれぇぇぇぇぇ!!!!」
その一言を聞くやいなや、前転しそうな勢いで土下座をかます百恵ちゃん。
そんなにオジサ……所長に知らされるのが嫌なのだろうか。
彼女は随分とあの所長のことを尊敬しているようだが、私にはただの変態オヤジにしか見えない。
……いや、怖い一面も確かにあるし、やり手な雰囲気もあるのだが、どうしても普段のあのオチャラケた言動のほうが先に立ってしまうのだ。
「では、いいですか? くれぐれも組織のルールに則った行動をしてくださいね。
次は卍固めじゃなく、タイガー・スープレックスを披露しますからね」
そう念を押すと瀬戸さんはスサスサとどこかへ去っていく。
残された百恵ちゃんはワナワナと肩を震わせて何かを堪えているようだ。
「……え、と……百恵ちゃん」
「う……うるさ~~~~いっ!! うるさいうるさいっ!! どいつもこいつもヒロインを庇いおってっ!! わかった、だったら素手で勝負じゃっ!! 能力さえ使わなかったらただの喧嘩じゃっ!! だったら問題ないじゃろうっ!!!!」
叫ぶ百恵ちゃんに、道場の入り口からニュッと手だけ出してグーサインを作る瀬戸さん。
「うおぉぉぉぉぉぉっ!!!! お許しが出たぞっ!!!!
勝負じゃ~~~~ヒロインーーーーーっ!!!!!!」
悔し涙を滲ませつつ、絶叫して飛び掛かってくる百恵ちゃん。
勝負は一瞬にしてついた。
はたき込みからの押しつぶしで宝塚関の勝利である。だれが宝塚関やねんっ!!
「……ぐおおぉぉぉぉぉっ!!!! お、降りろ……降りろヒロイン~~。で……出る……色んなものが……体中の穴から押し出てしまうぅぅぅぅぅ……」
三倍はあるだろう体重で押しつぶされた百恵ちゃんは、私の下でヒキガエルのような声でうめき、手足をバタつかせていた。
そんな彼女から半分だけ体を浮かし尋ねてみる。
「あのさ……百恵ちゃんが私を嫌うのって、所長が私を気に入っているからよね。
でもそれは私のせいじゃないし、謝るのも変だから謝らないけど……私は百恵ちゃんとは喧嘩したくないのよ? だからなんとか仲良くしてくれないかなぁ……?」
と、ちょっぴりお姉さん風を吹かせて丸め込んでみようと試みる。
「……う、うううううう…………」
と、予想外にも百恵ちゃんは目に涙を浮かべて泣き出してしまう。
「え、あ……あれ!? ど、どうしたの??」
「ううう……吾輩は……吾輩はぁ…………一番でなければダメなんじゃぁ……」
そうして彼女は涙を拭いながら昔を話し始めた。
五年ほど前のある日、当時六歳だった百恵ちゃんは通っていた幼稚園でとある事故を起こした。
ニュースで『保育士と園児三人を巻き込む大爆発。はたして事故か事か!?』と題されて世間を賑わせたそれは、彼女の能力の暴走によるものだったらしい。
教室の防犯カメラには彼女が叫んで能力を発動させる様子と、空気爆弾によって吹き飛ばされる被害者たちの姿がはっきりと映っていた。
もちろんその事は隠蔽され世間には事故ということで処理されたが、事故が起きた瞬間その場にいた園児たちの記憶までは消すことが出来なかった。
爆発に巻き込まれた保育士と園児たちは即死で、建物も半壊。
百恵ちゃんはその日から姉である死ぬ子先生の監視のもとJPASの保育施設に移されることとなった。
事故を起こしてしまったショックで百恵ちゃんはふさぎ込み、小学校に上がる頃になっても自室に引きこもって出てこなかった。
家の近所では事件の真相を知っている同級生たちが真実をオモチャにし、遊びはじめ、いつしか百恵ちゃんは近所から魔女呼ばわりされてしまうことになり、家の壁や表札に悪戯されることも毎日のようにあったという。
特に被害者家族からの攻撃はひどく、真相を明らかにして彼女に責任と賠償を背負わせるべく、その行動は徐々に見境が無くなっていった。
当時の事故現場の写真や目撃者の証言を集め、専門家や三流ゴシップ誌などとも連携し彼女の異常な能力を世間に知らしめ、ついにはネットに名前や顔写真まで晒されていった。
それでも悪いことをしたのは自分だからと、彼女は一切文句を言わなかった。
そうして彼女の親しい友人たちも皆離れていき、家はボロボロに落書きされ、傷つけられ、それでも近隣の住人はそれを咎めるどころか、むしろ面白がり、中には街の評価と治安の維持のため、七瀬一家に正式な立ち退きを要求する者達まで出てきた。
彼女の両親は娘の能力の事を知っていた。もちろん姉の事もJPAの事も全て知っていた。だから組織に保護を求めることも容易に出来たのだが、しかし彼女の事を思えば、せめて義務教育の間だけは普通の暮らしをさせてあげたいという親心があったのだろう、ギリギリまでそんな世間の仕打ちに耐えていた。
しかし公的に悪とされた一家への、世間の面白半分によるイジメはついに一線を超えてきた。
ブクブクを泡を吐く百恵ちゃんを床に落とし、その前で仁王立ちになって瀬戸さんが警告してくる。
「し……私闘ではない……こ、これは訓練だ……っ!!」
「ガチンコバトルとはっきりと聞こえましたが?」
「ぬぬぬ……そ、それは言葉のアヤじゃっ!!」
「どちらが格上か見せつけてやろうぞとも聞こえましたが?」
「うぬぬぬぬぬぬぬ……」
まだ何か言い訳をしそうな百恵ちゃんに瀬戸さんは、彼女がもっとも嫌がる一言を浴びせる。
「大西所長に言いつけますよっ!!」
「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!! それは、それだけは止めてくれぇぇぇぇえぇっ!!!! わかった、ヒロインには攻撃しない!! だからオジサマにだけは告げ口しないでくれぇぇぇぇぇ!!!!」
その一言を聞くやいなや、前転しそうな勢いで土下座をかます百恵ちゃん。
そんなにオジサ……所長に知らされるのが嫌なのだろうか。
彼女は随分とあの所長のことを尊敬しているようだが、私にはただの変態オヤジにしか見えない。
……いや、怖い一面も確かにあるし、やり手な雰囲気もあるのだが、どうしても普段のあのオチャラケた言動のほうが先に立ってしまうのだ。
「では、いいですか? くれぐれも組織のルールに則った行動をしてくださいね。
次は卍固めじゃなく、タイガー・スープレックスを披露しますからね」
そう念を押すと瀬戸さんはスサスサとどこかへ去っていく。
残された百恵ちゃんはワナワナと肩を震わせて何かを堪えているようだ。
「……え、と……百恵ちゃん」
「う……うるさ~~~~いっ!! うるさいうるさいっ!! どいつもこいつもヒロインを庇いおってっ!! わかった、だったら素手で勝負じゃっ!! 能力さえ使わなかったらただの喧嘩じゃっ!! だったら問題ないじゃろうっ!!!!」
叫ぶ百恵ちゃんに、道場の入り口からニュッと手だけ出してグーサインを作る瀬戸さん。
「うおぉぉぉぉぉぉっ!!!! お許しが出たぞっ!!!!
勝負じゃ~~~~ヒロインーーーーーっ!!!!!!」
悔し涙を滲ませつつ、絶叫して飛び掛かってくる百恵ちゃん。
勝負は一瞬にしてついた。
はたき込みからの押しつぶしで宝塚関の勝利である。だれが宝塚関やねんっ!!
「……ぐおおぉぉぉぉぉっ!!!! お、降りろ……降りろヒロイン~~。で……出る……色んなものが……体中の穴から押し出てしまうぅぅぅぅぅ……」
三倍はあるだろう体重で押しつぶされた百恵ちゃんは、私の下でヒキガエルのような声でうめき、手足をバタつかせていた。
そんな彼女から半分だけ体を浮かし尋ねてみる。
「あのさ……百恵ちゃんが私を嫌うのって、所長が私を気に入っているからよね。
でもそれは私のせいじゃないし、謝るのも変だから謝らないけど……私は百恵ちゃんとは喧嘩したくないのよ? だからなんとか仲良くしてくれないかなぁ……?」
と、ちょっぴりお姉さん風を吹かせて丸め込んでみようと試みる。
「……う、うううううう…………」
と、予想外にも百恵ちゃんは目に涙を浮かべて泣き出してしまう。
「え、あ……あれ!? ど、どうしたの??」
「ううう……吾輩は……吾輩はぁ…………一番でなければダメなんじゃぁ……」
そうして彼女は涙を拭いながら昔を話し始めた。
五年ほど前のある日、当時六歳だった百恵ちゃんは通っていた幼稚園でとある事故を起こした。
ニュースで『保育士と園児三人を巻き込む大爆発。はたして事故か事か!?』と題されて世間を賑わせたそれは、彼女の能力の暴走によるものだったらしい。
教室の防犯カメラには彼女が叫んで能力を発動させる様子と、空気爆弾によって吹き飛ばされる被害者たちの姿がはっきりと映っていた。
もちろんその事は隠蔽され世間には事故ということで処理されたが、事故が起きた瞬間その場にいた園児たちの記憶までは消すことが出来なかった。
爆発に巻き込まれた保育士と園児たちは即死で、建物も半壊。
百恵ちゃんはその日から姉である死ぬ子先生の監視のもとJPASの保育施設に移されることとなった。
事故を起こしてしまったショックで百恵ちゃんはふさぎ込み、小学校に上がる頃になっても自室に引きこもって出てこなかった。
家の近所では事件の真相を知っている同級生たちが真実をオモチャにし、遊びはじめ、いつしか百恵ちゃんは近所から魔女呼ばわりされてしまうことになり、家の壁や表札に悪戯されることも毎日のようにあったという。
特に被害者家族からの攻撃はひどく、真相を明らかにして彼女に責任と賠償を背負わせるべく、その行動は徐々に見境が無くなっていった。
当時の事故現場の写真や目撃者の証言を集め、専門家や三流ゴシップ誌などとも連携し彼女の異常な能力を世間に知らしめ、ついにはネットに名前や顔写真まで晒されていった。
それでも悪いことをしたのは自分だからと、彼女は一切文句を言わなかった。
そうして彼女の親しい友人たちも皆離れていき、家はボロボロに落書きされ、傷つけられ、それでも近隣の住人はそれを咎めるどころか、むしろ面白がり、中には街の評価と治安の維持のため、七瀬一家に正式な立ち退きを要求する者達まで出てきた。
彼女の両親は娘の能力の事を知っていた。もちろん姉の事もJPAの事も全て知っていた。だから組織に保護を求めることも容易に出来たのだが、しかし彼女の事を思えば、せめて義務教育の間だけは普通の暮らしをさせてあげたいという親心があったのだろう、ギリギリまでそんな世間の仕打ちに耐えていた。
しかし公的に悪とされた一家への、世間の面白半分によるイジメはついに一線を超えてきた。
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