61 / 241
第61話 死ぬ子先生④
しおりを挟む
「で、私は一体、これから何をやらされるのでしょう?」
監視官見習いといっても具体的に何をどう監視するのか素人の私にはまったくわからない。
「とりあえずは私の仕事を手伝ってくれればいいわ」
「先生の仕事?」
「ええ、私、監視官だから」
あっけらかんと答える死ぬ子先生。
「は? 教官じゃないの? てか看護師もやってたよね??」
「全部私の仕事よ。まぁ本職は別にあるけどね」
おい、一体いくつの顔をもっているんだこの先生は!???
「ちなみに片桐も監視官。菜々はその補佐。百恵は機動部隊の部隊長をしているわ」
後から聞いた話だと、機動部隊とはJPAS隊員で構成される対異端者、対ベヒモスに訓練された戦闘部隊らしい。攻撃に特化した百恵ちゃんの能力にふさわしい役職だが、彼女みたいな幼い少女に隊長職とは……あいかわらずこの組織の常識はわからない。
「じ、じゃあその手伝いとは何を?」
問う私に、先生はニヤリと笑って鞄からコンパクトを取り出す。
それを開いて私に手渡すと、
「そのまま、鏡で後ろの席を見てご覧なさい」
言われた通りやってみると、三組のカップルが鏡の中に映る。
「この中に一人、ファントムを滲ませてる男がいるでしょう」
「ファントム??」
よく目を凝らして見てみる。
すると二つ奥に座る高校生らしきカップルの男の方からぼんやりと青白い光がうねって見えた。
「あ、見えた……え? あの人って能力者なんですか?」
「いえ、一般人よ。一応ね」
「じゃあどうして……?」
「ベヒモス化してるのよ」
「はぁ!??」
私は思わず大きな声を出して立ち上がってしまう。
――――ゴスッ!!!!
「おっほうっ!???」
机の下から弁慶の泣き所へトゥーキックを決められ即座に着席する。
「静かにしなさい、人に聞かれるでしょ?」
いや、うるさくさせてるのはアンタだってっ!!
「で、でも……ベヒモスって、それヤバいんじゃ……?」
身を乗り出してヒソヒソと尋ねる。
「いえ、彼の場合はかなり弱いベヒモスだからね、この間の奴らみたいに暴れたりはしないでしょう。ベヒモスの強さや狂い具合は元の能力の強さに比例するって誰かから教わってない?」
「……えっと、うん……聞いた気がする」
たしか料理長から、もともと能力の低い者がベヒモス化しても、ただの狂った人間と区別が付けにくいだったっけか? なんかそんな話をしていた。
「あいつがその、ほぼ無能力者がベヒモス化した微妙な化け物よ」
「そ……そうなの!?? うぅ、見た目はほとんどわからん。……でも言われてみるとなんとなく狂気を感じる目をしているような気がする」
こうして鏡越しに覗いてみると、一見すれば彼女の前で楽しげに談笑する、いけ好かないイケメンだが……しかし、確かにファントムが滲み出ているし、肌に刺さるようなピリピリした嫌な感覚は伝わってくる。
「あなたの課題は、私と一緒にアイツのベヒモス化を解除することよ」
「はぁ!??」
ゴスッ!!!!
「おっほうっ!???」
「まずは、この前のベヒモス戦での戦闘データーから、あなたの能力の分析を更に試みたんだけれど……」
――――こ、このババアっ!!
スネをすりすり耐え忍ぶ。
「あなたの回復能力には肉体だけじゃなく精神にまでその作用が及んでいることが推測されたわ。これは実際にあなたに回復された菜々と、特にマンション事件の際に救出した金田亜希の回復状況によって判断されたことよ」
「亜希さんは元気なんですか?」
「驚くほどにね。普通、あれだけの虐待を受けたら人は多少なりとも精神に異常をきたすものなの、しかし回復した彼女は肉体だけじゃなく精神まで健康体で、どんな検査をしても異常は出なかったらしいわ。
一応、私が撮った彼女の過去の記憶写真を医師にみせたけど、これほどの事をされて狂わない人間は存在しないそうなの」
ど……どんな記憶が映っていたのか気になるが、それよりも怖さのほうが先に立つ。
私は生唾を飲み込んで沈黙を保った。
「にも関わらず金田亜希の精神は健康体……。もちろん記憶は残っているから苦しみはゼロじゃないわ。トラウマもあるでしょう。でもその程度で収まっているのは奇跡なのよ? これはもうあなたの能力が作用したと考えるのが妥当だわ」
う~~んまぁ、そう言われれば……私も親を亡くしたり、イジメられたり……これまで結構な苦難があった。でもそのわりに、自分で言うのはなんだが、あまりやさぐれず明るくやってこれた気がする……。
死ぬ子先生の言うことが本当ならば、私は無意識に心の怪我も能力で治していたということだろうか?
「心当たりがあるようね」
推察の裏付けを得たとばかりに目を細める死ぬ子先生。
「その事から、さらに推察……というかもう想像なんだけどもね?
楠彩花は、なにもあそこまで傷めずとも良かったんじゃないかと思って」
「……う」
その先の言葉は私も理解出来た。
「もし、あなたの能力が精神の回復にまで作用するなら、きっとそれでベヒモス化も解除出来るはず。 わざわざ戦わなくてもあなたが彼女に触れて能力を行使すれさえすればそれで終わりだったんじゃないかしら?」
「う……でも、だってそれは」
言い訳いようとする私を手で制する死ぬ子先生。
「わかってるわ。あの時点でそんなこと誰も想像すらしなかったものね。それを知らずに立ち向かって行ったあなたの勇気は称賛ものだし、作戦も悪くはなかったわ。
でもこの先、おそらく同じような事件がいくつもあなたの身に降り掛かってくるでしょう。その度にあんな自己犠牲的なやりかたで解決に挑んでいては、いくらあなただって身が持たないでしょう?」
うん。まぁ、それはそうだ。てか、もう二度とあんな肉を裂かれる痛みとか体験したくない。
「だから、もっと簡単で効率的なやり方を検証するのよ。アイツで」
そう言って死ぬ子先生は、あのイケメン男子を隠れて指差した。
「第して『簡単にベヒモス解除出来るかな? ドキドキ大作戦♡』!!」
ダメだ。やっぱこの人フザケてる(怒)
監視官見習いといっても具体的に何をどう監視するのか素人の私にはまったくわからない。
「とりあえずは私の仕事を手伝ってくれればいいわ」
「先生の仕事?」
「ええ、私、監視官だから」
あっけらかんと答える死ぬ子先生。
「は? 教官じゃないの? てか看護師もやってたよね??」
「全部私の仕事よ。まぁ本職は別にあるけどね」
おい、一体いくつの顔をもっているんだこの先生は!???
「ちなみに片桐も監視官。菜々はその補佐。百恵は機動部隊の部隊長をしているわ」
後から聞いた話だと、機動部隊とはJPAS隊員で構成される対異端者、対ベヒモスに訓練された戦闘部隊らしい。攻撃に特化した百恵ちゃんの能力にふさわしい役職だが、彼女みたいな幼い少女に隊長職とは……あいかわらずこの組織の常識はわからない。
「じ、じゃあその手伝いとは何を?」
問う私に、先生はニヤリと笑って鞄からコンパクトを取り出す。
それを開いて私に手渡すと、
「そのまま、鏡で後ろの席を見てご覧なさい」
言われた通りやってみると、三組のカップルが鏡の中に映る。
「この中に一人、ファントムを滲ませてる男がいるでしょう」
「ファントム??」
よく目を凝らして見てみる。
すると二つ奥に座る高校生らしきカップルの男の方からぼんやりと青白い光がうねって見えた。
「あ、見えた……え? あの人って能力者なんですか?」
「いえ、一般人よ。一応ね」
「じゃあどうして……?」
「ベヒモス化してるのよ」
「はぁ!??」
私は思わず大きな声を出して立ち上がってしまう。
――――ゴスッ!!!!
「おっほうっ!???」
机の下から弁慶の泣き所へトゥーキックを決められ即座に着席する。
「静かにしなさい、人に聞かれるでしょ?」
いや、うるさくさせてるのはアンタだってっ!!
「で、でも……ベヒモスって、それヤバいんじゃ……?」
身を乗り出してヒソヒソと尋ねる。
「いえ、彼の場合はかなり弱いベヒモスだからね、この間の奴らみたいに暴れたりはしないでしょう。ベヒモスの強さや狂い具合は元の能力の強さに比例するって誰かから教わってない?」
「……えっと、うん……聞いた気がする」
たしか料理長から、もともと能力の低い者がベヒモス化しても、ただの狂った人間と区別が付けにくいだったっけか? なんかそんな話をしていた。
「あいつがその、ほぼ無能力者がベヒモス化した微妙な化け物よ」
「そ……そうなの!?? うぅ、見た目はほとんどわからん。……でも言われてみるとなんとなく狂気を感じる目をしているような気がする」
こうして鏡越しに覗いてみると、一見すれば彼女の前で楽しげに談笑する、いけ好かないイケメンだが……しかし、確かにファントムが滲み出ているし、肌に刺さるようなピリピリした嫌な感覚は伝わってくる。
「あなたの課題は、私と一緒にアイツのベヒモス化を解除することよ」
「はぁ!??」
ゴスッ!!!!
「おっほうっ!???」
「まずは、この前のベヒモス戦での戦闘データーから、あなたの能力の分析を更に試みたんだけれど……」
――――こ、このババアっ!!
スネをすりすり耐え忍ぶ。
「あなたの回復能力には肉体だけじゃなく精神にまでその作用が及んでいることが推測されたわ。これは実際にあなたに回復された菜々と、特にマンション事件の際に救出した金田亜希の回復状況によって判断されたことよ」
「亜希さんは元気なんですか?」
「驚くほどにね。普通、あれだけの虐待を受けたら人は多少なりとも精神に異常をきたすものなの、しかし回復した彼女は肉体だけじゃなく精神まで健康体で、どんな検査をしても異常は出なかったらしいわ。
一応、私が撮った彼女の過去の記憶写真を医師にみせたけど、これほどの事をされて狂わない人間は存在しないそうなの」
ど……どんな記憶が映っていたのか気になるが、それよりも怖さのほうが先に立つ。
私は生唾を飲み込んで沈黙を保った。
「にも関わらず金田亜希の精神は健康体……。もちろん記憶は残っているから苦しみはゼロじゃないわ。トラウマもあるでしょう。でもその程度で収まっているのは奇跡なのよ? これはもうあなたの能力が作用したと考えるのが妥当だわ」
う~~んまぁ、そう言われれば……私も親を亡くしたり、イジメられたり……これまで結構な苦難があった。でもそのわりに、自分で言うのはなんだが、あまりやさぐれず明るくやってこれた気がする……。
死ぬ子先生の言うことが本当ならば、私は無意識に心の怪我も能力で治していたということだろうか?
「心当たりがあるようね」
推察の裏付けを得たとばかりに目を細める死ぬ子先生。
「その事から、さらに推察……というかもう想像なんだけどもね?
楠彩花は、なにもあそこまで傷めずとも良かったんじゃないかと思って」
「……う」
その先の言葉は私も理解出来た。
「もし、あなたの能力が精神の回復にまで作用するなら、きっとそれでベヒモス化も解除出来るはず。 わざわざ戦わなくてもあなたが彼女に触れて能力を行使すれさえすればそれで終わりだったんじゃないかしら?」
「う……でも、だってそれは」
言い訳いようとする私を手で制する死ぬ子先生。
「わかってるわ。あの時点でそんなこと誰も想像すらしなかったものね。それを知らずに立ち向かって行ったあなたの勇気は称賛ものだし、作戦も悪くはなかったわ。
でもこの先、おそらく同じような事件がいくつもあなたの身に降り掛かってくるでしょう。その度にあんな自己犠牲的なやりかたで解決に挑んでいては、いくらあなただって身が持たないでしょう?」
うん。まぁ、それはそうだ。てか、もう二度とあんな肉を裂かれる痛みとか体験したくない。
「だから、もっと簡単で効率的なやり方を検証するのよ。アイツで」
そう言って死ぬ子先生は、あのイケメン男子を隠れて指差した。
「第して『簡単にベヒモス解除出来るかな? ドキドキ大作戦♡』!!」
ダメだ。やっぱこの人フザケてる(怒)
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
第二王女は死に戻る
さくたろう
恋愛
死を繰り返す死に戻り王女はループの中で謎を解く!
「ヴィクトリカ、お前とヒースの婚約は解消された。今日の花婿は、このレイブンだ」
王女ヴィクトリカは、結婚式の当日、冷酷な兄からそう告げられる。
元の婚約者は妹と結婚し、同時に国で一番評判の悪い魔法使いレイズナー・レイブンとの結婚を命じらてしまった。だがヴィクトリカに驚きはなかった。なぜなら告げられるのは二回目だったからだ。
初めて告げられた時、逃げ出したヴィクトリカは広場で謎の爆発に巻き込まれ、そのまま死んでしまったのだ。目覚めると、再び結婚を命じられる場面に戻っていた。何度も逃げ、何度も死に、何度も戻る。
死のループに嫌気が差したヴィクトリカだが、一つだけ試していないこと、レイズナーとの結婚をすると死なずに生き残った。
かくして否応なく結婚生活が始まったのだが――。
初めは警戒心を抱くが、ヴィクトリカも彼の不器用な愛を受け入れ始め、共に何度も巻き戻る時の謎を解くことにした。時を繰り返しながら、徐々に真相が明らかになっていく!
突然の結婚を、本物の結婚にする物語。
※約10万字のお話です
※話数はヴィクトリカが時を戻る度にリセットされます。
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
学生のうちは自由恋愛を楽しもうと彼は言った
mios
恋愛
学園を卒業したらすぐに、私は婚約者と結婚することになる。
学生の間にすることはたくさんありますのに、あろうことか、自由恋愛を楽しみたい?
良いですわ。学生のうち、と仰らなくても、今後ずっと自由にして下さって良いのですわよ。
9話で完結
よくある婚約破棄なので
おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。
その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。
言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。
「よくある婚約破棄なので」
・すれ違う二人をめぐる短い話
・前編は各自の証言になります
・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド
・全25話完結
観月異能奇譚
千歳叶
キャラ文芸
「君に頼みたいことがある」
突然記憶を失った「わたし」は救護者の兄妹に協力を要請される。その内容とは――彼らの目となり耳となって様々な情報を得ること。
「協力してくれるなら身の安全を確保しよう。さぁ、君はどうしたい?」
他に拠り所のない「わたし」は「音島律月」として〈九十九月〉に所属することを決意する。
「ようこそ〈九十九月〉へ、音島律月さん。ここはこの国における異能者の最終防衛線だ」
内部政治、異能排斥論、武装組織からの宣戦布告。内外に無数の爆弾を抱えた〈異能者の最終防衛線〉にて、律月は多くの人々と出会い、交流を深めていく。
奇譚の果てに、律月は何を失い何を得るのか。
――――――――
毎週月曜日更新。
※レイティングを設定する(R15相当)ほどではありませんが、人によっては残酷と感じられるシーン・戦闘シーンがあります。ご了承ください。
※カクヨムにも同じ内容を投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる