超能力者の私生活

盛り塩

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第60話 死ぬ子先生③

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「ベヒモス……」

 また出たな、その名前。
 どうも最近そのベヒモスに関わることが多い。

「ベヒモスに関する基本的な事は最初に説明したし、菜々あたりから詳しくも聞いていると思うけど、私たち超能力者にとってベヒモス化っていうのは、いつ発症するかわからない爆弾みたいなものなのよ。そしてその破壊力は元の能力が強ければ強いほど威力を増すわ。それはもう体験したでしょ?」

 それは料理長からも聞いていた。
 もし、百恵ちゃんや片桐さんがベヒモス化していたら今回など比ではないほどの被害が出ていたと言うことも。

「監視官が本当に警戒しているのは、その強力なベヒモスの出現なのよ。そしてベヒモスは異端者の中から出やすいの。まぁ、調子に乗って心のタガを外し、ファントムを制御しきれなくなって暴走するってパターンね。ともかく、それさえなければ組織的には特に問題としない。だから行動に理由があるのは理性を保っている事として、その内容まではどうでもいいのよ、よほどバカみたいに大事件じゃなければね」

 その……よほどバカみたいな大事件(大虐殺)を東京で見せられたばかりだが……それも私を救出するというちゃんとした理由があったから問題とされていないと言うことか?

「つまり理性を保ってファントムを制御し、ベヒモス化の危険性がなければ、だいたい何をやってもオッケーだと……?」
「そうよ。殺人だろうが強盗だろうが。もちろん警察との喧嘩も。……ただし、変に正義漢ぶった同業者に付け狙われるのも全部自己責任だけれどもね」
「そんな同業者もいるんですね」
「ねぇ。変わり者はどこの世界でもいるものよ」

 いや、変わり者という意味で言ったんじゃないんだが……。

「とにかくそういうわけで、あなたは今日からそのベヒモスの卵となりうる異端者の監視についてもらうから。一応、訓練生としての見習いだけれど一人前の監視官になったつもりでしっかりやってもらうわよ」
「だから、それがなんで私なんですか!?」
「……あなた自分のやらかしたこと覚えてるでしょ? ベヒモス化の解除なんて、そんな奇跡の能力、組織が野放しにしておくはずないわ」
「うむぅ~~~~~~ぅ……!!」

 それは周りから散々言われた。
 料理長にも期待していると言われたが、でも私としてはもう二度とあんな痛い思いはしたくない。
 不死身と言っても苦痛は人並みなのだ。

「まぁ、危険を避けたいあなたの気持ちも分かるわ。でも、狂って死んでいく危険性を常に背負っている私たち能力者にとっては、あなたの能力はとても魅力的なの。
 ……ただこれは、あなたにとって危険な能力《ちから》でもあるのよ?」
「……危険??」

 私の能力が、私にとって危険とはどういうことだろう??
 疑問な目を向ける私に、先生はひとつ紅茶をふくんでから説明してくれた。

「……今、組織内だけでも年間十数件のベヒモス化事件が起きているのよ。それを全て処理する事は今のあなたにはとても無理。でもそれは当然、だってまだまだ自分の意志で能力をコントロールする事さえままならない初心者なんだから。
 それでも、そんなあなたの事情なんて関係なしに、いざベヒモス化事件が起きてしまったら能力者たちはみなこぞってあなたの能力をあてにするでしょうね。しかも日本だけじゃない、世界中に超能力者はいるしベヒモス化事件も起こっている。……その人達にあなたの存在が知られてしまったらどうなると思う?」

「え……と、モテモテ?」
 頬をポリポリと一応、答えてみる。
 そんな私のとぼけた返事に、先生はそれを否定せず微笑んだ。

「そうね、モテモテね。世界中からあなたの能力を狙って、組織、個人、問わず襲われることになるわ。場合によってはオークションにかけられることもあるのよ」
「オークション??」
「希少価値の高い能力は、その力自体に値段が付くのよ。
 たとえば強力な予知能力とかは、一回何百万ドルとかの値段はざらに付くわね」
「マジか!???」

 私の目がドルマークに変わる。
 なるほど、だったら私の能力なんてまさに売りたい放題じゃないか!?
『超能力病院』とか言って看板立てたらお客なんて引っ切り無しに来るだろうし。

 そんな私の考えを見透かして、深くため息をつく先生。

「それ全部あなたが処理しきれればね? 出来る? 世界中の患者さんよ?」
「……う……それは、ちょっと大変そうだな……」
「ちょっとどころじゃないでしょ。もしそんな看板なんて立ててアピールなんかしたら、ベヒモス化だけじゃなく一般人の難病患者までどっと押し寄せるわよ?そして処理しきれなくなったあなたはそれでも強制的に働かされるの。……死ぬまでね?」
「え……まさかそんな」
「十分ありえるわよ。みんな自分の命の為だったら他人の事なんてお構いなし、あなたの悲鳴も涙も誰も聞きはしないわ。いずれあなたより強い存在が、あなたを押さえつけて、その能力が乾ききるまで絞り出そうとするでしょうね」

 首に鎖を付けられて無理やり働かされている自分が脳裏に浮かぶ。

「い、いやいやいやいや、そんなん嫌っ!! 絶対嫌っ!!!!」

 青ざめて絶叫する私。
 そんな私の手をそっと握り、死ぬ子先生は優しく微笑んだ。

「大丈夫よ。そうならないために私たちJPAがあるのだから。あなたの身の安全と暮らしは組織が保証するわ。ただ、監視官として働いてもらいながらの方がフリーでいるよりも安全性はより増すわ。だからこれはあなたの為でもあるのよ?」

「お……お、お……お願いしますぅぅ……」

 そんな死ぬ子先生の言葉と笑顔に騙されて、コロッと落ちてしまう私。
 自分で言うのもなんだが、この時の私はあまりにもチョロすぎた。
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