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第47話 ベヒモス③
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「はぁ!?」
何事かと声のする方を見ると、路地の向こう側から猛スピードで迫ってくる謎の少女。
「能無しのヒロインよっ!! 吾輩の力に驚き、ひれ伏し、跪くがいいっ!!
はぁーーっはっはっはーーーーーーっ!!!!」
――――ダンッ!!
高笑いを上げながら電動キックボードを操り、私の眼前でジャンプする。
黒髪ツインテールに白マスク、目の下のクマが特徴の彼女は――――、
「百恵さん!?」
菜々ちんが叫ぶ。
そう、なぜか私を敵視して絡んでくる爆発娘、七瀬百恵であった。
クルクルと回転し、私たちを飛び越えた彼女は再びキックボードの上に着地する。
ギャギャッ!! と、タイヤを鳴らして止まり、私を指差して、
「こんな雑魚相手に逃げ回っているとは、宝塚女優おそるるに足らずっ!! 多少の手柄を上げたところでオジサマの信頼と訓練生エースの座は渡しはせぬぞっ!!」
ビシッっと物申してくる。
『うぐるあぁぁぁぁぁっ!!!!』
そうこうしている間でも迫ってくるベヒモスたち。
「百恵さん、後ろ後ろっ!!!!」
私と菜々ちんが同時に叫ぶ。
ベヒモスの手はもう百恵ちゃんの真後ろまで迫っていた。
しかし彼女は慌てること無く振り返り、ベヒモスの腕を掴む。その回転をそのまま軸にして背負い上げ――――、
「――――ふんっ!!」
宙に放り投げた。そして――――、
「散るがいいっ!! 真紅の花びらのようにっ!!!!」
演技掛かったセリフを吐くと、背中越しに指を鳴らした。
――――ドムッ!!!!
一瞬にして全身が膨れ上がり、破裂するベヒモス。
辺りは彼女が唱えたとおり散った花びらのごとく血と肉片が飛び散り、私や菜々ちんにもそれがまんべんなく降り注いだ。
彼女の能力はたしか――――アポート(物体取り寄せ)だったか?
どこからともなく空気を取り寄せ、それを圧縮出現させることで爆発を引き起こす能力だったと思う。
「はぁーーはっはっはーーーーっ!! 見たかヒロインよ、吾輩の実力をっ!!
吾輩にかかればこの程度の雑魚など何体いようが関係ないわっ!!!!」
自信満々、仁王立ちにて私を見下ろす百恵ちゃん。
文字通り、頭から血をかぶって真っ赤になった私はそれをぽかんと見上げ、呟く。
「……いや、だから後ろ」
ガリッ!!
『あっ』
迫って来ていた他の一体が百恵ちゃんの頭にかじりついた。
「あ、ぎゃぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!!!」
ガンガンガンッ!!!!
悲鳴を上げ大騒ぎする百恵ちゃんと、冷静にそのベヒモスの頭を撃ち抜く菜々ちん。
頭を砕かれたベヒモスはその衝撃で百恵ちゃんを離すが、さらにその後ろから三体のベヒモスが迫って来ていた。
「ぐ……、すまん菜々、助かったぞっ!!」
「いいえ、次からはしっかりして下さいね」
ガンガンガンガンガンッ!!
やや呆れながら菜々ちんが後ろの三体を牽制する。
「ふん、言われずとも吾輩はいつもしっかりしているぞっ!!」
何を根拠に!?
頭からダクダク血を垂らした小娘は、一歩後退し、
「むおぉぉぉぉぉぉぉおおおぉっ!!!!」
と、気合を入れる。そして――――、
「唸れガルーダっ!!!!」
叫ぶと彼女の体から一体の霊鳥が雄々しく羽を広げた。
それは彼女のファントムが形作った、能力を象徴する姿。
そしてその翼が一つ羽撃くと、
ドンッ――――――――ドパパパパパパパパッ!!!!
瞬間的に幾つもの圧縮空気の種が出現し、ベヒモスはもちろん、その周辺の空間すべてが爆散した。
飛び散る肉片に舞う血しぶき、アスファルトはめくれ上がり、電柱は折れ、建物の壁はえぐれてガラスは一斉に割れ散った。
ぐしゃあ、ぼたぼたぼたぼた……ガシャドカパリンッ!!!!
一瞬にしてテロ地帯と化した下町商店街。
幸いなのは一般人を巻き込まなかったこと。
ばたん。
静まり返った往来に、のぼり旗の倒れる音が静かに響く。
五体のベヒモスはすべて跡形もなく消えていた。
「――――ふん、呆気ない。所詮、吾輩の敵ではない」
ダクダクと血を吹き出させながら余裕の表情を浮かべ、笑う百恵ちゃん。
「いや、だっだっだ、ダメでしょっ!?? 大怪我してるでしょ!??」
私は慌てて百恵ちゃんの頭を掴んだ。
傷は意外と深く、脳天付近の皮膚が剥がれてしまっている。
「ええい、離せっ!! こんな傷どうということはないわっ!!」
「いや、あるでしょっ!! 噴水みたいに血が出てるしっ!???」
「うるさいっ!! 最強エリートの吾輩ならこの程度の血など――――」
言ってるそばから、
で~~~~ん。
と仰向けに倒れる彼女。
「ああ、そらみろっ!!」
とっさに抱き抱えた私は無意識に本能を呼び覚ました。
――――ぶわっ。
と、なにかが湧き上がる感覚がしたかと思うとヌッと私のファントムが少しだけ顔を出す。
パアァッ――――。
やさしい光が百恵ちゃんを包む。
やがて、
バリバリバリバリバリバリっ!!!!
「はんぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?????」
ファントム結界が反応して、海老反りになる彼女。
「んなんあなんあぁ!??? 何をする貴様ぁっ!!!!」
大粒の涙を流しながら飛び退く百恵ちゃんだか、しかし頭から流れる血は治まっていた。
「ん、あれ!?? ……吾輩、痛くないな」
頭を擦り、彼女はキョトンとなって私を見た。
何事かと声のする方を見ると、路地の向こう側から猛スピードで迫ってくる謎の少女。
「能無しのヒロインよっ!! 吾輩の力に驚き、ひれ伏し、跪くがいいっ!!
はぁーーっはっはっはーーーーーーっ!!!!」
――――ダンッ!!
高笑いを上げながら電動キックボードを操り、私の眼前でジャンプする。
黒髪ツインテールに白マスク、目の下のクマが特徴の彼女は――――、
「百恵さん!?」
菜々ちんが叫ぶ。
そう、なぜか私を敵視して絡んでくる爆発娘、七瀬百恵であった。
クルクルと回転し、私たちを飛び越えた彼女は再びキックボードの上に着地する。
ギャギャッ!! と、タイヤを鳴らして止まり、私を指差して、
「こんな雑魚相手に逃げ回っているとは、宝塚女優おそるるに足らずっ!! 多少の手柄を上げたところでオジサマの信頼と訓練生エースの座は渡しはせぬぞっ!!」
ビシッっと物申してくる。
『うぐるあぁぁぁぁぁっ!!!!』
そうこうしている間でも迫ってくるベヒモスたち。
「百恵さん、後ろ後ろっ!!!!」
私と菜々ちんが同時に叫ぶ。
ベヒモスの手はもう百恵ちゃんの真後ろまで迫っていた。
しかし彼女は慌てること無く振り返り、ベヒモスの腕を掴む。その回転をそのまま軸にして背負い上げ――――、
「――――ふんっ!!」
宙に放り投げた。そして――――、
「散るがいいっ!! 真紅の花びらのようにっ!!!!」
演技掛かったセリフを吐くと、背中越しに指を鳴らした。
――――ドムッ!!!!
一瞬にして全身が膨れ上がり、破裂するベヒモス。
辺りは彼女が唱えたとおり散った花びらのごとく血と肉片が飛び散り、私や菜々ちんにもそれがまんべんなく降り注いだ。
彼女の能力はたしか――――アポート(物体取り寄せ)だったか?
どこからともなく空気を取り寄せ、それを圧縮出現させることで爆発を引き起こす能力だったと思う。
「はぁーーはっはっはーーーーっ!! 見たかヒロインよ、吾輩の実力をっ!!
吾輩にかかればこの程度の雑魚など何体いようが関係ないわっ!!!!」
自信満々、仁王立ちにて私を見下ろす百恵ちゃん。
文字通り、頭から血をかぶって真っ赤になった私はそれをぽかんと見上げ、呟く。
「……いや、だから後ろ」
ガリッ!!
『あっ』
迫って来ていた他の一体が百恵ちゃんの頭にかじりついた。
「あ、ぎゃぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!!!」
ガンガンガンッ!!!!
悲鳴を上げ大騒ぎする百恵ちゃんと、冷静にそのベヒモスの頭を撃ち抜く菜々ちん。
頭を砕かれたベヒモスはその衝撃で百恵ちゃんを離すが、さらにその後ろから三体のベヒモスが迫って来ていた。
「ぐ……、すまん菜々、助かったぞっ!!」
「いいえ、次からはしっかりして下さいね」
ガンガンガンガンガンッ!!
やや呆れながら菜々ちんが後ろの三体を牽制する。
「ふん、言われずとも吾輩はいつもしっかりしているぞっ!!」
何を根拠に!?
頭からダクダク血を垂らした小娘は、一歩後退し、
「むおぉぉぉぉぉぉぉおおおぉっ!!!!」
と、気合を入れる。そして――――、
「唸れガルーダっ!!!!」
叫ぶと彼女の体から一体の霊鳥が雄々しく羽を広げた。
それは彼女のファントムが形作った、能力を象徴する姿。
そしてその翼が一つ羽撃くと、
ドンッ――――――――ドパパパパパパパパッ!!!!
瞬間的に幾つもの圧縮空気の種が出現し、ベヒモスはもちろん、その周辺の空間すべてが爆散した。
飛び散る肉片に舞う血しぶき、アスファルトはめくれ上がり、電柱は折れ、建物の壁はえぐれてガラスは一斉に割れ散った。
ぐしゃあ、ぼたぼたぼたぼた……ガシャドカパリンッ!!!!
一瞬にしてテロ地帯と化した下町商店街。
幸いなのは一般人を巻き込まなかったこと。
ばたん。
静まり返った往来に、のぼり旗の倒れる音が静かに響く。
五体のベヒモスはすべて跡形もなく消えていた。
「――――ふん、呆気ない。所詮、吾輩の敵ではない」
ダクダクと血を吹き出させながら余裕の表情を浮かべ、笑う百恵ちゃん。
「いや、だっだっだ、ダメでしょっ!?? 大怪我してるでしょ!??」
私は慌てて百恵ちゃんの頭を掴んだ。
傷は意外と深く、脳天付近の皮膚が剥がれてしまっている。
「ええい、離せっ!! こんな傷どうということはないわっ!!」
「いや、あるでしょっ!! 噴水みたいに血が出てるしっ!???」
「うるさいっ!! 最強エリートの吾輩ならこの程度の血など――――」
言ってるそばから、
で~~~~ん。
と仰向けに倒れる彼女。
「ああ、そらみろっ!!」
とっさに抱き抱えた私は無意識に本能を呼び覚ました。
――――ぶわっ。
と、なにかが湧き上がる感覚がしたかと思うとヌッと私のファントムが少しだけ顔を出す。
パアァッ――――。
やさしい光が百恵ちゃんを包む。
やがて、
バリバリバリバリバリバリっ!!!!
「はんぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?????」
ファントム結界が反応して、海老反りになる彼女。
「んなんあなんあぁ!??? 何をする貴様ぁっ!!!!」
大粒の涙を流しながら飛び退く百恵ちゃんだか、しかし頭から流れる血は治まっていた。
「ん、あれ!?? ……吾輩、痛くないな」
頭を擦り、彼女はキョトンとなって私を見た。
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