超能力者の私生活

盛り塩

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第37話 害虫駆除⑤

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 ダメだそれはさせない!!

 菜々ちんを庇おうと私は動こうとする、しかし耳の器官も損傷してしまったのか平衡感覚がムチャクチャで、起き上がることが出来ない。
 クラブを振り下ろす矢島。
 その姿がスローモーションになって私の眼に映る。

 ――――菜々ちんが殺されてしまう!!

 くそう、早く、早く回復しろ私っ!!!!
 そう思ったとき、

 バリィィィィィィッ!!

 体に電流が走った。そう感じた。
 同時に一瞬だけ大きな白い影が見えたかと思うと、それはスッと私の中に収まる。

「はっ!??」

 気付けば平衡感覚もよみがえり、体も軽くなっていた。

 ――――回復した!??
 考えるよりも先に無我夢中で矢島の足に飛びかかった。

「ぐぅっ!?? なんだこいつ、しつけぇなっ!!」

 菜々ちんへのトドメをすんでの所で邪魔された矢島は標的を私に変えてきた。
 足に組み付いた私をクラブの柄で殴りつけてくる。
 なんだかまた一段と体が軽くなったようで、どんなに体重をかけても相手はよろめきもしない。

「ぐっ!!」

 また額から血が吹き出すが、私は矢島を放さなかった。

「くそうっ!! この女っ!!!!」

 ドカ、バキ、グシャッ!!!!

 続けて殴り続けてくる。
 鎖骨が砕ける音がして、腕に力が入らなくなった。

「――――ふんっ!!」

 矢島は力任せに足を振り上げ引き剥がすと、床に転がった私に向かってクラブを振り上げる。

「死ねっ!! 死ね、このクソ女っ!! ぶち殺してやるっ!!」

 撃たれたショックの防衛本能からか、それとも慣れてしまっているのか、この男も人を殺すのに躊躇いは無いようだ。

 バキッ、グシャッ、ボキッ!!!!

 容赦なく振り下ろされるゴルフクラブに、私の体はどんどん砕かれていく。
 初めは痛みもあったが、頭を砕かれてからそれも途切れた。

 ――――あれ? これ、もしかして……私死ぬのかな??

 かつてここまで痛めつけられた経験は無い。
 最初の銃撃で私の身体はすでに縮小化しており、回復に必要な代償が自分の血肉だとするならば、もうそれはあまり残っていない。
 ダメージを与えられる度に、体が回復しようとしているのがわかる。
 その代償に私の体力はどんどん削られて、体もどんどん軽くなっていく。

「……うぁ」

 朦朧としてきた意識で自分の腕を見ると、枯れ木のようにやせ細り、同時に回復も止まってきていた。

「――――くたばれやっ!!!!」

 トドメとばかりに、クラブが頭に振り下ろされた。

 グシャァッ!!!!

 頭蓋骨が砕ける音と、体液の飛び散る感覚がして、意識に雲がかかった。
 私の体はもうピクリとも動かない。
 ただ最後のあがきとばかりに矢島の足首を掴んでいるだけ。

「……へっ! はぁはぁ……、くたばりやがったか、クソがっ!!」

 ツバを吐きかけてくる。

「ふひゃひゃ、ふひゃひゃひゃひゃ。いいぞでかした。やったなぁ!!」

 望月がやって来て私を踏んづける。

「……殺しちまったけど、大丈夫か?」
「問題ねぇよ。立派な正当防衛だろぁ!! 
 銃持って押しかけてきたのはこいつらなんだからなっ!!
 こっちは二人もやられてんだぞっ!!」
「で、でもよ……事件になったら、俺達の悪事もばれるんじゃ……?」

「バカか、俺の親父は県警のエリートだ、んなもん何とでもなる。お前んとこの親父だって権力者だろうが?」
「ああ、まあな……」
「くっそ、部屋がムチャクチャだっ!! 気に入ってたギターも折れてんじゃねーかよ、くそっ!!」

 あらためて部屋を見回し、愚痴を垂れる望月。
 私を含め、三人の血と体液で部屋は地獄絵図と化していた。

「どうする? 一応、救急車呼ぶか?」

 矢島が訊ねる。

「ああ、親父ももうすぐ到着するが、一応呼んどけ」

 望月は菜々ちんを見下ろすと矢島からゴルフクラブを奪い取る。

「なんだよ、そいつも殺んのか?」
「たりめぇだろ。こいつに二人やらてたんだ、落とし前はつけるぞ」

 望月はクラブを振り上げると、菜々ちんの足めがけて思いっきり振り下ろした。

 ――――バキィッ!!

「ああぁぁぁぁぁぁっ!!!!??」

 腕の骨が砕ける音と悲鳴が同時に上がった。

「八代とマサトの落とし前だ、とことんいたぶってやるからなぁっ!!」

 痛みで目を覚ました菜々ちんは望月を睨む。
 その目に怯えの色は無かった。
 それが癇に障ったか望月はより一層、怒りを濃くしてクラブを振り下ろす。

「んだてめぇ、その目はぁ!!」

 バキッ!!

 肋骨が折られる。

 ――――やめろ……。

「くそメス野郎が、生意気に俺らに反抗してんじゃねぇっ!!」

 グシャァッ!!

 肩の骨が砕ける。

 ――――やめろっ!!

「てめぇら底辺奴隷は、俺ら頂点様の〇〇でも✕✕してりゃいいだよゴミがっ!!」

 そしてとうとう頭めがけてクラブが振り下ろされる。

「やめろおぉぉぉぉぉぉおぉっ!!!!」

 私の怒りは頂点に達し、同時に再び私の中から白い影が出現した。
 こんどははっきりと見えた。
 それは例えるなら、白い大きな雪だるま。
 それが私の体内から大きく抜け出して怒り狂っている。
 すると体にエネルギーが流れ込んで来るのを感じた。
 同時に体の修復も再開される。

「ガ……ガ、ガガァァァァ……」
 矢島の苦しげなうめき声が聞こえた。

「――――な、なんだ……こりゃぁ?」
 望月は菜々ちんに振り下ろしかけたクラブをそのままに、苦しみもがく矢島を唖然として見ていた。

 私に掴まれた足首から急速に、矢島の体はミイラ化していたからだ。

「ガ、ああ……あ……」

 やがて全身の水気が無くなり、朽木のようにグシャリと倒れる矢島。
 その息は完全に止まっていた。
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