超能力者の私生活

盛り塩

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第22話 訓練学校①

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 炊きたてご飯にお味噌汁。焼海苔、納豆、温泉卵。
 小鉢に小鍋、信州サーモン。
 今日、私は死ぬんだろうか?
 そんな不安を抱かせるような豪華な朝食が所狭しと並んだ。

「では、ごゆっくり」

 瀬戸さんとはまた別の仲居さんが準備を終えて退室していく。
 ありがたいことに、おかわり用のオヒツも置いてくれていた。
 なんとなく聞きそびれたが、あの人も何かの超能力者なのだろうか?
 気にはなったがそれよりも今は朝食である。
 体はすっかり回復し体型も元に戻ったが、お腹はまだまだ養分を欲していた。

 がつがつがつがつっ!!

 私は飢えた子猫のように朝食にかぶりついた。

 ああうまい。

 旅館の朝ごはんって何でこんなに美味しいのだろう?
 世界の七不思議に加えてもいいんじゃないかとか思いながら食べ進めていると、不意に部屋のふすまが開いた。

「おはようございま~~す」

 菜々ちんだった。

「今日はいよいよ初日の講習が始まるよ。準備出来てます?」
「………………」

 いいえ、まだですけど?

 と、何杯目かのおかわりをよそいながら目で訴えた。

「あ~~……じゃあ、ちょっと待ってますね」

 静かにふすまは閉められた。
 眼力の勝利である。




「よし。準備万端ですぞ?」

 食事を終え、歯を磨き、着替えをすませた私は菜々ちんにグーサインを出す。
 服は昨日ビリ破れになってしまったのでパジャマ代わりのスウェットである。

「えっと……服はそれでいいのかしら?」
 さすがに見てられなかったのか菜々ちんが確認してくる。

「まぁ、これしかないし、一応新品だし、べつにいいっしょ?
 それとも正装じゃなきゃだめだった?? 
 服装については特に指示されてなかったから適当なものしか無いんだけど……」
「い、いえ……宝塚さんがそれでいいならべつに……」
「うむ、大丈夫。裸以外は無傷と思っておる」

 一筋の汗を流しつつ、では、と一つ咳払いをする菜々ちん。

「それでは、いよいよ訓練学校の方へ向かいますけど、ルートはどうします?」
「ルート?」

 また妙なことを聞いてくる。

「ええ、ジャーナリストや警察官、襲撃者への対策として避難口と兼用で通学ルートがいくつかに分けて隠されているんですけど……。大まかに、遠いルートと普通のルートと近いルートの三つありますね。どれにします?」

 よくわからないが遠いのはやだよ、普通がいい。でも近いのがあるならそれに越したことはない。

「毎日のことだしね。近いやつでお願いします」
「では」
 と、菜々ちんはテーブルの裏に手を回す。カチッという音がして、

 ガコンッ!!

 と、畳が折りたたみそこに穴が空いた。
 いらっしゃいませ、とばかりにその穴に落ちていく私。

「ぎ、ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 中は傾斜のきついトンネルになっていて、つるつる滑る加工がしてあり、まるで水のないウオータースライダー。
 悲鳴を上げながら上を見上げれば、落ち着いた様子の菜々ちんが私を追うように滑り下りてくる。
 めくれたセーラー服のスカートから赤リボンの白パンツが丸出しだが、興奮している暇など今の私にはない!!

「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~あれっ!?」

 しばらく落ちていくと先に明かりが見えた。
 そう思った瞬間。

 ――――すぽんっ!

 とコルクが抜ける音を発して私は外に放り出される。
 そしてキューブ状のスポンジが山盛りに入った水槽にダイブした。

「ぶはぁっ!! あぶあぶっ!!」
 スポンジに溺れかかる私。まるで体を張る若手芸人のごとく。

「はい、お疲れさまでした。学校に着きましたよ」
 いつの間にか、平気な顔をした菜々ちんが手を差し伸べている。

「どうでしたか? なかなかおもしろい仕掛けだったでしょ?」
「昭和の秘密基地のアレかいっ!???」

 動画で観た古い戦隊モノのアニメを彷彿とさせるカラクリに、私のツッコミが火を吹く。確かに近い。近いが、ただただバカバカしい!! 

 こんなものただの悪ふざけじゃろがいっ!!

 部屋を見渡すと、私が出てきた穴以外にもいくつも穴が空いており、どうやらいろんな場所からこの部屋へ落ちてこれるようである。

「まあ、考案したのが所長ですから。なんでも男の浪漫らしいですよ?」
 コロコロと笑う菜々ちん。

 いや、完全に面白がってやったなこの小娘。
 いいだろう嫌いではないぞ、そういうノリ。次は私がその余裕の笑みを恐怖に変えてくれようぞ。

「ではこちらへ」

 ドッキリ部屋(そう名付けた)のドアに近づくと、シュインと金属の扉が斜めに引っ込み、口を開ける。
 これも古いSF映画のようだ。

「所長の趣味です」
「ですよね~~」

 外に出ると六角形に形作られた金属製の通路に出る。その壁には意味があるのか無数の配管が張り巡らされていて、なんとなく宇宙戦艦の中のようだ。

「所長の趣味です」
「ですよね~~」

 一番手前の壁には下駄箱らしき棚があり、菜々ちんはそこから自分の靴を取り出している。私は持ってないので来客用と書かれたスリッパを拝借する。
 ペタペタと廊下を歩いていくが、人らしき気配がない。

「あの……ここ、妙に静かなんだけども……」
「ええ、朝も早いですし。生徒さんもまだあまり登校してませんから。
 もともと数もいませんしね、いつもこんなものですよ?」
「そういえば生徒って何人くらいいるの?」

 そういえばそれを聞いていなかった。
 自分の仲間になる人間がどのくらいの数なのかは重要な問題である。

「在校生は宝塚さんを含めて五人ですね」
「少なっ!!」

 思わず素直な感想を叫んでしまう。
 学校とかいうから何となく一クラス30人程度でそれがなんクラスか、とか想像してたのだが……それじゃまるで田舎の分校ではないか。

「JPA訓練生って結構ハードル高いんですよ、だから全国からかき集めても10人を超えた年は無いようですよ」

 そういえば昨夜、中居の瀬戸さんもそんなことを言っていた。JPAに入れるのは全超能力者のほんの1%だと。
 どうやらその話は本当のようである。

 やがて『学長室』と書かれた扉にたどり着いた。

「最恩です。宝塚さんをお連れしました」
 扉横に備え付けられたモニターに話しかけると、

「うむ。通りなさい」
 と、所長の声がした。

『網膜識別確認、オープンします』との古臭い音声合成ちゃばんとともに扉が開いた。

「……待っていたよ宝塚くん。
 私が当施設の責任者、大西 健吾だ」

 そう言って私を招き入れる所長の姿は、知っているだらしない格好では無く、雰囲気もどこか殺気めいた迫力を帯びていた。
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