超能力者の私生活

盛り塩

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第11話 入学説明会⑥

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「な、な、な……」
 私は言葉を失い口をパクパクさせる。

 いくらひったくり犯とはいえ、この人は、この人達は人殺しを何とも思っていない様子だったからだ。
 一見、大人しそうに見える菜々ちんも、いたって自然に会話に入っている。
 そんな私の強張った表情に気付いたのか、所長が愛想を振り、話しかけてくる。

「いやぁ、ははは、ごめんね。キミはまだ一般人の常識で生活しているんだよね、じゃあ今の僕達の話って随分とひどい会話に聞こえたかも知れないねぇ~~」

 ひどいなんてもんじゃない。
 完全に犯罪者の会話じゃないか。
 いまだ超能力とかピンと来ていないけど、とりあえずペンを半分消失させた片桐さんの能力はマジものっぽい。
 そしてそれを人殺しに使うことをこの三人は躊躇していない。
 
 私は恐怖を感じ、この場から逃げることを考えた。
 しかし、無意識に扉に向いた私の視線を、あざとく見つけた片桐さんはツカツカと扉の前に移動すると背を預け、薄く私に笑いかける。

 ――――しまった……考えを読まれた。
 ジトッと汗を流し、頬が引きつる。

「おいおい片桐くん、悪い冗談はやめてやってくれたまえよ? 彼女怯えてるじゃないか?」

 所長が困った顔をしてたしなめてくれる。
 彼女は軽く肩をすくめると、扉から離れてくれた。
 いまの一連の行動で私の心臓はバクバクと高鳴った。

「まったく……すまないねぇ。脅かすつもりはないんだよぉ?
 キミが嫌だって言えば僕たちはいつでも解放するし、危害を加えるつもりはない。
 ただ話を聞いて、そしてそれに納得出来れば仲間になって欲しいだけなんだよ」

 所長は努めて優しい笑顔を作って私の警戒心を解こうとする。

「……仲間に」
「そう、仲間に、だ。
 我々JPAの第一理念は『超能力者の安心と安全の保証』だからね」

 そうニッコリと笑って所長は机に置いてある冊子を指差した。

 その内の一つ『超能力者、迫害の歴史』という冊子をめくる。
 そこには中世ヨーロッパの魔女狩りに始まり、世界各国のありとあらゆる差別や虐殺事件のことが載っており、私の気分を重くさせた。

「……これらはねぇ、みな我々と同じ超能力者が受けた迫害の話なのだよ」
「え?」

「人ってさ、差別やイジメが大好きだよねぇ?」
 いきなり妙なことを尋ねてくる所長。
 
「……そうですね。みんな面白がってやってますね」
 経験者の私は迷いなく答える。
 そんな世間に物申すとかそんなつもりはないが、本当にそうなのだから仕方がない。自然にそう答えてしまった。

「それってなぜだと思う?」
 さらに深く質問してくる所長。
 何なのだいったい?

「娯楽ですね、あと自己顕示とかストレスのはけ口とか……」
「そうだね。そしてそのイジメの対象はどうやって選ばれる?」
「その他大勢に混ざりきれない人間から選ばれますね。変に特徴的だとか」

 私は、これまでの経験や見てきたことから素直に答えを並べた。
 それを聞いた所長は満足げに大きくうなずく。

「その通りだね。そしてその『その他大勢』に入れなかった者の約七割が何らかの超能力者だと言われているんだよ」

「はぁ!?」

 私は目を丸くして素っ頓狂な声をあげた。
 だってイジメなんて年間何十万件起きていると思っているのか?
 いや、私もよくは知らんけど無茶苦茶多かったと思う。
 それだけの人数、超能力者がいるということなのか??

「ほとんどの者は自分でそれが超能力だと知覚できないほどの、ごく脆弱な能力者なんだよね。
 しかしそれでも人と違う音や幻覚を見たり、感じたりして、知らないうちに他人と違う感性を持ってしまっているものなんだね。それがジワジワと大衆との大きな差異になって、いつしかイジメの対象に選ばれてしまう。これが大体のパターンだね。
 まったく……同胞としては嘆かわしくも腹立たしい話だね、そう思わないかい?」

 この人の同胞という言葉は、ここ以外でもどこかで聞いた気がする……。

「ほんの微小な、ほとんど一般人と変わらない違いでさえそうなるんだ。
 もっと強い……そう、まさにキミのような強い能力者がその一般人に認知されたらどうなると思う?」

 どうなるもこうなるも、私だってそれがわかっているから隠しているのだ。

「うん。言わずとも、だね。世間はキミをけっして幸せにはしない。
 良くて排除。悪くて研究材料だね。人権なんてあっという間に奪われるね」

 だと思う。子供の私でもそれは分かった。
 だからこそ私も必死で自分の正体をバレないように生きてきたのだ。

「人類の迫害の歴史ってね、つまりは無能な多数による、少数の有能者退治でもあるんだよ……」

 臆病な多くの無能者が、その数の暴力で有能者を潰す。
 そうすることで自分たちの安泰を確保していると言うことだろう。

「結局ね、相容れないものなんだよ。強者と弱者ってね
 だからね超能力者という強者であり、少数派という弱者でもある我々は徒党を組んで相容れない存在から身を守らなきゃいけない。……JPAとはそういう組織なんだよ」

 そして所長はずっ……と笑顔でいた顔を真顔に変えて、

「我々は一般社会とは隔絶した独自のコミュニティとルールで生きている。
 その中において『人間』と超能力者は別の価値であり、超能力者を守る為に『人間』を排除するのは良しとしている。
 それはすべて我々『少数派の弱者』が身を守る為に仕方のない事なんだよ」
「………………」

 私が返答に迷って言葉を詰まらせていると、

「まぁ、要するに超能力者は超能力者同士、助け合って生きていきましょうって組織と思ってくれていいよ」

 ま、まぁそうか、そうだよね。
 私も妖怪……いや、超能力者? なのだから一般人に混ざり生活するのは辛い場面もある。そんなときに同じ能力者達の繋がりがあるというのなら、これほど心強いものはない。

「てなわけで、多少は物騒な事もあるけども、我々がキミの味方だって事は神に誓って宣言するよ? どうだろう、我々の同士になってはくれないだろうか?」

 その言葉にNOと返す理由は見当たらなかった。

 いや、あるよ? あるけども、でも……この人達が私と同じ異質な存在、つまり仲間ということはわかったし、素直に嬉しかった。

 なので私はそんな所長の言葉に無言でうなずいたのだった。
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