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第4話 豚肉祭り
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「よしっ! 復活、元通り!!」
次の日、すっかり元通りになった豊満なヴァ~ディを確認し、私は鏡の前で大きく頷いた。
やれやれ何とか一晩で回復してくれたか、と安堵のため息を漏らす。
なにせこちとら貧乏フリーター生活。
そうでなくても普段からよく食べる私のエンゲル係数は絶望的に高い。
不死身の体を維持するために仕方がない大食いとはいえ、生活は苦しい。
たった一日でもバイトを休めば、とたんに家賃に回す分が無くなるのだ。
新しいジャージに着替え、朝食をいただく。
今日の朝ごはんは目玉焼きに納豆、インスタント味噌汁といった、ごく普通の和食である。普通じゃないのは丼ぶりにいっぱいの山盛りごはんくらいだが、なに、男だったらこれくらい朝でもペロリといける人間はごまんといる。
わたしゃ女だが。
ちなみに目玉焼きは両面焼き派である。
料理の見た目を重視する日本人は片面焼きが圧倒的に多いらしいが、味で言えば両面焼きに軍配が上がると私は思っている。
両面を焼くと全体がカリカリになり、油っ気も増してコクが出るからだ。
見た目より味を重視したいおデブちゃんには断然、両面焼きをお勧めする。
そんな朝食を軍人並みの早さで平らげた私は、弁当の砲丸おにぎりをリュックに詰め早々とアパートを出る。
駅まで歩きながら昨日のことを考える。
「……昨日のあのニュース、何だったんだろう?」
あれは間違いなく昨日の事件の報道だった。
場所も合ってたし、被害者の顔も記憶と合っている。
動画では小さくていまいちハッキリしなかった包丁男の顔も、後に犯人として写真が紹介されたそれは、私の知る犯人ではなく全くの別人だった。
それだけじゃない。
私の存在が完全に削除されていたのだ。
映像にも、被害者のリストにも私の名前は入ってなかった。
私と、本当の犯人だけがその場に居なかったことにされていたのだ。
そして昨日の出来事は、すっかりただの通り魔事件として朝のニュースであらためて報道されていた。
不可解なことはまだある。
私を路地裏に引きずっていった二人の存在だ。
私を見て「気になる存在」とか「同胞」とか、何やら怪しげなセリフをバンバン言っていた。
もしかしてこの不可思議な改変報道となにか関係があるのだろうか?
――――ある。と考えるべきだろうな。
「……もしかして私の正体を知って付け狙う秘密結社のエージェントとか!?」
私の妄想暴走がまた始まる。
「――――妖怪や異形の者が集うその秘密結社はその勢力を拡大するため世界中から同胞を集めていて、その一人に私が選ばれたのだけれど同時に通り魔事件に巻き込まれその正体が映像に撮られてしまった。まだその存在を世界に知られるわけにはいかない秘密結社はその組織力をもってマスコミに圧力をかけ――――ぐふぅ」
ガードレールの端に股間を強打し、うずくまる私。
朝の清々しい空気の中、通勤ラッシュの皆様が一瞬だけ同情の視線を向けてくるが、それだけで、みな歩みを止めることなく去っていく。
誰も介抱してくれないのね、と寂しくなったが、しかしこの場合はあえてそのほうが有り難いかもしれない。
午前中の仕事が終わり昼休み。
私は砲丸おにぎりに顔面を支配されながら昼食を取っていた。
ちなみに今日のバイトは木工所のお手伝い。
組み立て式の机や戸棚を製造する町工場で働いている。
飲食店のバイトもしているが、正直、神経を使う客商売よりこういう仕事の方が私に合っていると思う。体力は使うが気は楽だからだ。
社員のおっちゃんたちも気さくで、それなりに楽しく働いている。
搬入口に適当に陣取って、外を眺めながら食べるのがここ最近の私のスタイルだ。
今日もそのスタイルで呑気におにぎりと格闘している。
こうやって、何でもない下町の風景を眺めながら、平和に昼ごはんを食べていると昨日の事件や不可思議な報道のことなど、どうでもよくなってくる。
「ま、よくはわからないけど、丸く治まったってことでいいかぁ」
難しいことを考えるのが苦手な私は、とにもかくにも自分の生活が脅かされなければ何でもいいやと、この一連の出来事をもう考えないことにする。
ふと、通行人の女の子と目が合った。
私と同い年くらいの女の子だ。
セーラー服に黒髪、三編み、丸メガネ。
地味すぎて逆に派手に見えるその子は私の視線に気がつくと、ツ……目をそらして歩き去って行った。
気のせいだろうか?
立ち止まってこちらを見ていた気がするんだけど……?
まぁ気のせいだろうと私は深く考えないでいた。
それから一週間ほどが過ぎた。
私は相変わらず、バイト・飯・寝る、の3パターンで生活していた。
花も恥じらう十六歳。
命短し恋せよ乙女と言いますが、いやいや、クソくらえですよ?
人間、働いて食ってぐっすり寝る。
これだけで十分幸せを感じられるものです。
恋とか、イケメン男子とか……あ~~やだやだめんどいめんどい。
ふう、さっきから目の汗が止まらないや……。
ともかく私は幸せに充実した日々を送っていた。
その日も私はいつもの幸せを成就するべく、仕事帰りに大量の豚バラ肉を買って上機嫌に帰ってきた。
「今日は豚バラ特売日~~♪ 豚丼・豚汁・生姜焼き~~♪」
扉を閉めるとカサリと音がなる。
見れば郵便受けに大きな封筒が入っていた。
私は鼻歌交じりにその封筒を拾い上げると、無造作にそこらにポイする。
今はこの大量に買い込んだ豚バラ肉のことで頭が一杯なのだ。
なにせ1キロ850円という安さだったのだ。
これ幸いと3キロ買ってきてしまった。
今日はこれから豚肉料理を作りまくるのだ。
そして袋に小分けして冷凍保存しまくるのだ。
さすれば、しばらく料理いらずの豚肉三昧生活が送れる。
そんな幸せがあっていいのだろうか?
いいのですよ。
肉屋の袋がそう語りかけてくれる。
「ぷしゅ~~~~~~~~っ!!」
私は全身から覇気を噴出させ台所に仁王立ちした。
無造作に放り投げた封筒。
その中身が今後の私の人生を大きく変えるものだとも知らずに。
次の日、すっかり元通りになった豊満なヴァ~ディを確認し、私は鏡の前で大きく頷いた。
やれやれ何とか一晩で回復してくれたか、と安堵のため息を漏らす。
なにせこちとら貧乏フリーター生活。
そうでなくても普段からよく食べる私のエンゲル係数は絶望的に高い。
不死身の体を維持するために仕方がない大食いとはいえ、生活は苦しい。
たった一日でもバイトを休めば、とたんに家賃に回す分が無くなるのだ。
新しいジャージに着替え、朝食をいただく。
今日の朝ごはんは目玉焼きに納豆、インスタント味噌汁といった、ごく普通の和食である。普通じゃないのは丼ぶりにいっぱいの山盛りごはんくらいだが、なに、男だったらこれくらい朝でもペロリといける人間はごまんといる。
わたしゃ女だが。
ちなみに目玉焼きは両面焼き派である。
料理の見た目を重視する日本人は片面焼きが圧倒的に多いらしいが、味で言えば両面焼きに軍配が上がると私は思っている。
両面を焼くと全体がカリカリになり、油っ気も増してコクが出るからだ。
見た目より味を重視したいおデブちゃんには断然、両面焼きをお勧めする。
そんな朝食を軍人並みの早さで平らげた私は、弁当の砲丸おにぎりをリュックに詰め早々とアパートを出る。
駅まで歩きながら昨日のことを考える。
「……昨日のあのニュース、何だったんだろう?」
あれは間違いなく昨日の事件の報道だった。
場所も合ってたし、被害者の顔も記憶と合っている。
動画では小さくていまいちハッキリしなかった包丁男の顔も、後に犯人として写真が紹介されたそれは、私の知る犯人ではなく全くの別人だった。
それだけじゃない。
私の存在が完全に削除されていたのだ。
映像にも、被害者のリストにも私の名前は入ってなかった。
私と、本当の犯人だけがその場に居なかったことにされていたのだ。
そして昨日の出来事は、すっかりただの通り魔事件として朝のニュースであらためて報道されていた。
不可解なことはまだある。
私を路地裏に引きずっていった二人の存在だ。
私を見て「気になる存在」とか「同胞」とか、何やら怪しげなセリフをバンバン言っていた。
もしかしてこの不可思議な改変報道となにか関係があるのだろうか?
――――ある。と考えるべきだろうな。
「……もしかして私の正体を知って付け狙う秘密結社のエージェントとか!?」
私の妄想暴走がまた始まる。
「――――妖怪や異形の者が集うその秘密結社はその勢力を拡大するため世界中から同胞を集めていて、その一人に私が選ばれたのだけれど同時に通り魔事件に巻き込まれその正体が映像に撮られてしまった。まだその存在を世界に知られるわけにはいかない秘密結社はその組織力をもってマスコミに圧力をかけ――――ぐふぅ」
ガードレールの端に股間を強打し、うずくまる私。
朝の清々しい空気の中、通勤ラッシュの皆様が一瞬だけ同情の視線を向けてくるが、それだけで、みな歩みを止めることなく去っていく。
誰も介抱してくれないのね、と寂しくなったが、しかしこの場合はあえてそのほうが有り難いかもしれない。
午前中の仕事が終わり昼休み。
私は砲丸おにぎりに顔面を支配されながら昼食を取っていた。
ちなみに今日のバイトは木工所のお手伝い。
組み立て式の机や戸棚を製造する町工場で働いている。
飲食店のバイトもしているが、正直、神経を使う客商売よりこういう仕事の方が私に合っていると思う。体力は使うが気は楽だからだ。
社員のおっちゃんたちも気さくで、それなりに楽しく働いている。
搬入口に適当に陣取って、外を眺めながら食べるのがここ最近の私のスタイルだ。
今日もそのスタイルで呑気におにぎりと格闘している。
こうやって、何でもない下町の風景を眺めながら、平和に昼ごはんを食べていると昨日の事件や不可思議な報道のことなど、どうでもよくなってくる。
「ま、よくはわからないけど、丸く治まったってことでいいかぁ」
難しいことを考えるのが苦手な私は、とにもかくにも自分の生活が脅かされなければ何でもいいやと、この一連の出来事をもう考えないことにする。
ふと、通行人の女の子と目が合った。
私と同い年くらいの女の子だ。
セーラー服に黒髪、三編み、丸メガネ。
地味すぎて逆に派手に見えるその子は私の視線に気がつくと、ツ……目をそらして歩き去って行った。
気のせいだろうか?
立ち止まってこちらを見ていた気がするんだけど……?
まぁ気のせいだろうと私は深く考えないでいた。
それから一週間ほどが過ぎた。
私は相変わらず、バイト・飯・寝る、の3パターンで生活していた。
花も恥じらう十六歳。
命短し恋せよ乙女と言いますが、いやいや、クソくらえですよ?
人間、働いて食ってぐっすり寝る。
これだけで十分幸せを感じられるものです。
恋とか、イケメン男子とか……あ~~やだやだめんどいめんどい。
ふう、さっきから目の汗が止まらないや……。
ともかく私は幸せに充実した日々を送っていた。
その日も私はいつもの幸せを成就するべく、仕事帰りに大量の豚バラ肉を買って上機嫌に帰ってきた。
「今日は豚バラ特売日~~♪ 豚丼・豚汁・生姜焼き~~♪」
扉を閉めるとカサリと音がなる。
見れば郵便受けに大きな封筒が入っていた。
私は鼻歌交じりにその封筒を拾い上げると、無造作にそこらにポイする。
今はこの大量に買い込んだ豚バラ肉のことで頭が一杯なのだ。
なにせ1キロ850円という安さだったのだ。
これ幸いと3キロ買ってきてしまった。
今日はこれから豚肉料理を作りまくるのだ。
そして袋に小分けして冷凍保存しまくるのだ。
さすれば、しばらく料理いらずの豚肉三昧生活が送れる。
そんな幸せがあっていいのだろうか?
いいのですよ。
肉屋の袋がそう語りかけてくれる。
「ぷしゅ~~~~~~~~っ!!」
私は全身から覇気を噴出させ台所に仁王立ちした。
無造作に放り投げた封筒。
その中身が今後の私の人生を大きく変えるものだとも知らずに。
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