上 下
46 / 72

029:精霊界最強決定コンペ開催!③

しおりを挟む



 そして三日後。


「今日は素晴らしく冒険日和の日だな!いい天気だ!」
「はぁ、左様でございますね」

 イキイキと声を張る朔弥にファウナが気の抜けた返事をしている。その一方で本日のコンペ参加予定の大精霊二人は火炎を吐いていた。

「うっしゃ!今日は斬って斬って斬りまくるぞ!」
「斬るなんて野蛮ですのよ。超高圧水でぺちゃんこですわ」
「おいそこ!何やら物騒なこと言ってるが勝手に始めるなよ!ほら集まれ!整列!ルール説明するぞ!」

 だらだらと整列した不良生徒二人を前に校長先生よろしく朔弥が声を張った。

「これより第一回精霊界最強決定コンペを執り行う!」
「なにかしら、この底はかとないダサ加減は」
「第二回があんのかよ?」
「そこ!私語は慎め!勝者には特賞で俺特製こぼれイクラ丼を進呈する!えー、ルールはただ一つ!無用な殺生はするな!以上!」
「むようなせっしょう?」
「なんですのそれ?」

 いぶかしむ二人に朔弥が内心嘆息した。やはりここから説明しなくてはならないのか。

「情けをかけろということだ。襲いかかってくる敵だけを相手しろ。仕方なく命を奪う場合も惨い仕打ちにするな。逃げる奴は放っておけ。戦ってた相手が怯んで逃げても深追いするな。年寄り、弱ってるやつ、妊婦、子連れ、子供には手を出すな。自分の身が危い時以外は必ず守れ」
「えー?んなのわかんねぇよ」
「無理ですわ」

 弱肉強食の世界。自然の掟。精霊界ではきっと力ある勝者が正義で理なのだとわかる。だがそれでは朔弥の倫理に沿わない。
 無茶ぶりは承知だ。圧倒的な力差がなければ無理だろう。だが中高仏教系の全寮制に通って無用の殺生の罪深さは骨の髄まで叩き込まれている。本来の目的はあくまで周辺の散策だ。一方的な殺戮で無駄に悪しきカルマを背負う必要もない。

「つべこべ言わず守れ。いいか、このコンペでは俺が掟だ。後ろで見てるからな。非道が見られた場合はその場で失格。二人失格の場合は勝者なしで二人とも白飯だ」
「げッ 白飯ヤダ!」
「つまりやる気のモンスターだけ選んで相手をすれば良いのですね」
「なんかちょっとニュアンス違うがまあそうだ」
「それじゃ誰が強いかわかんねぇじゃねえの?」

 ニクスは不満気味だ。この大精霊は問答無用で血の雨を降らせるタイプではあるが。こちらはそれを望んでいるわけじゃない。

「戦いが全てじゃない。倒した数だけじゃ評価しないからな。如何に威圧して相手を退けたか、如何に手際よく倒したか、素晴らしい技を繰り出せたか。つまりは俺が強いと感じた方の勝ちだ」
「芸術点もつけていただける感じですわね」
「まぁ印象だからそう言うことになるのか」
「ふぅん、サクヤが強いと思った方が勝ち。派手に行けばいいってことだな」
「そういうことでしたら負けませんわよ」

 大精霊二人のスイッチが入ったようだ。
 これで不必要な殺戮は避けられるだろう。

「よっし!ルール説明も終わったし。じゃあ出かけるか!弁当持った!水筒おやつもある!敷物も入れた!トレッキングシューズよし!マップ作成用の画板も持った!さあ歩くぞ!」

 今日のこの散策は全員参加となった。朔弥的にはルキナ、ヒカル、ミズキを置いていきたかったがファウナがそこは譲らなかった。大精霊は一人でも多い方がいいという。

「あの二人が攻守担当ですが陛下の近辺警護は私とルキナがにないます。ヒカルとミズキも助けとなりましょう」

 ヒカルとミズキは戦闘要員ではないのだが。一番弱い自分が口出しできるはずもない。

 大人数での移動。今日のために小精霊を総出で借り出して弁当を大量に仕込んだ。全てヒカルの作った時空にしまってある。とりあえず食い物があればなんとかなるものだ。小精霊のお手伝いし隊も同行だ。

 そう思っていたのだが。

「歩くってまさかサクヤ、てくてく歩いて行くんですの?」
「え?それ以外何がある?」
「この辺りは森が深く歩くには不向きでございます。時空からお出かけになる方がよろしいかと」
「え?ええ?時空からじゃ周りの様子がわからないじゃないか。それじゃ意味がない」

 どこでもいけちゃうドアのようにいきなり目的地についても面白くない。適当に散策し地図を作るのが楽しいのだ。唖然とする朔弥に時空移動で行くつもりだったファウナも困惑顔だ。

「じゃあ空から行きゃいいんじゃねぇの?」
「空から?どうやって?」

 大精霊がふわりと浮き上がった。さらにヴァルナはどこからか呼び寄せた大きな白鳥の背に腰掛けている。小精霊が飛んでいる様子は散々見ていたのだが大精霊が浮いている姿を朔弥は初めて見た。

「あ!お前ら飛べるのか?!汚いぞ!」
「まぁまぁ、サクヤは飛べませんの?それはいけませんわね」
「歩けない。飛べない。詰んでんじゃん?うわぁだっさッサクヤ終了~」
「まだ終わってない!ヴァルナみたいな鳥はいないのか?乗せてくれる親切なヤツは?」
「アレ鳥じゃねぇし。小精霊を大量に呼べば乗れるんじゃねぇの?御輿みこしに乗ってさ」

 小精霊の大群。あれだけ数がいれば確かにいけそうだが‥
 御輿を担いだイナゴの大群に乗る精霊王。それはちょっと‥
 
「‥‥いや、それは勘弁。見た目がよろしくない」
「でしたら召喚したらよろしいのではないでしょうか?」
「え?しょうかん?」

 ファウナの提案に朔弥は目を瞠る。予想外の展開だ。

「陛下の召喚獣でございます。ヴァルナのあの鳥もヴァルナの召喚獣でございます」
「え?あの白鳥が?」
「ただの白鳥じゃありませんわ。歴とした私の召喚獣ですのよ」

 ヴァルナがつんと反応する。ただの鳥扱いされて心外そうだ。乗る鳥を召喚する。いきなりの高ハードルに朔弥はドン引きだ。

「いやいや?魔法も使えないのにいきなり召喚?無理だって?」
「あら?でもサクヤは小精霊は呼べてますわ。何が来るかわかりませんが、来たら儲け物ですわ」
「相手が応じればなんとかなる。こんなところでコンペ中止とか言うなよ?」

 大精霊二人に詰め寄るられ、無茶振りにさらに仰反る。そこへルキナが駆け寄って朔弥の手を握った。

「サクヤ、できる」

 朔弥は目を閉じて嘆息した。
 ここまで言われてはやらないわけにはいかない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】可愛い女の子に初ナンパしたつもりが知り合い♂だった……

えんとっぷ
BL
大学進学し、先輩に唆されナンパをしようと空きの時間に繁華街に赴いた。 どこか守ってあげたくなるような、おどおどした感じが可愛いパーカー姿の女の子を見つけ、 「君かわいいね、道に迷ってるの? 教えてあげようか?」 と声をかけてみた。 女の子が上目遣いで俺を見上げる。 「……光貴。お前、ナンパしてんの……?」 可愛いと思った女の子は、小学生から大学生までずっっと同じ学校の、知り合いの男だった。 いや、女装すごすぎるだろ…… あれから、俺は妙に意識してしまってしんどい。 お気に入り登録されていてびっくりしました。不慣れなもので、いろいろとミスがあるかと思います。 もしお気づきになられた点がございましたら、何かしらの方法でご連絡ください。

さよなら、英雄になった旦那様~ただ祈るだけの役立たずの妻のはずでしたが…~

遠雷
恋愛
「フローラ、すまない……。エミリーは戦地でずっと俺を支えてくれたんだ。俺はそんな彼女を愛してしまった......」 戦地から戻り、聖騎士として英雄になった夫エリオットから、帰還早々に妻であるフローラに突き付けられた離縁状。エリオットの傍らには、可憐な容姿の女性が立っている。 周囲の者達も一様に、エリオットと共に数多の死地を抜け聖女と呼ばれるようになった女性エミリーを称え、安全な王都に暮らし日々祈るばかりだったフローラを庇う者はごく僅かだった。 「……わかりました、旦那様」 反論も無く粛々と離縁を受け入れ、フローラは王都から姿を消した。 その日を境に、エリオットの周囲では異変が起こり始める。

【完】大きな俺は小さな彼に今宵もアブノーマルに抱かれる

唯月漣
BL
「は? なんで俺、縛られてんの!?」  ゲイである事をカミングアウトの末、ようやく両想いになったと思っていた幼馴染みユウキの、突然の結婚の知らせ。  翔李は深く傷付き、深夜の繁華街でやけ酒の挙げ句、道路端で酔い潰れてしまう。  目が覚めると、翔李は何者かに見知らぬ家のバスルームで拘束されていた。翔李に向かってにっこり微笑むその小柄な彼……由岐は、天使のような可愛い外見をしていた。 「僕とセフレになってくれませんか。じゃないと僕、今すぐ翔李さんを犯してしまいそうです」    初めての恋人兼親友だった男から受けた裏切りと悲しみ。それを誤魔化すため由岐に会ううち、やがて翔李は由岐とのアブノーマルプレイの深みにハマっていく。 「お尻だけじゃないですよ。僕は可愛い翔李さんの、穴という穴全てを犯したい」    ただのセフレであるはずの由岐に予想外に大切にされ、いつしか翔李の心と体はとろけていく。  そんなおり、翔李を裏切って女性と結婚したはずの親友ユウキから、会いたいと連絡があって……!? ◇◆◇◆◇◆ ☆可愛い小柄な少年✕がたいは良いけどお人好しな青年。 ※由岐(攻め)視点という表記が無い話は、全て翔李(受け)視点です。 ★*印=エロあり。 石鹸ぬるぬるプレイ、剃毛、おもらし(小)、攻めのフェラ、拘束(手錠、口枷、首輪、目隠し)、異物挿入(食べ物)、玩具(ローター、テンガ、アナルビーズ)、イキ焦らし、ローションガーゼ、尿道攻め(ブジー)、前立腺開発(エネマグラ)、潮吹き、処女、無理矢理、喉奥、乳首責め、陵辱、少々の痛みを伴うプレイ、中出し、中イキ、自慰強制及び視姦、連続イカセ、乳首攻め(乳首イキ、吸引、ローター)他。 ※アブノーマルプレイ中心です。地雷の多い方、しつこいエッチが苦手な方、変わったプレイがお嫌な方はご注意ください。 【本編完結済】今後は時々、番外編を投下します。 ※ムーンライトノベルズにも掲載。 表紙イラスト●an様 ロゴデザイン●南田此仁様

嫌われ者の側妃はのんびり暮らしたい

風見ゆうみ
恋愛
「オレのタイプじゃないんだよ。地味過ぎて顔も見たくない。だから、お前は側妃だ」 顔だけは良い皇帝陛下は、自らが正妃にしたいと希望した私を側妃にして別宮に送り、正妃は私の妹にすると言う。 裏表のあるの妹のお世話はもううんざり! 側妃は私以外にもいるし、面倒なことは任せて、私はのんびり自由に暮らすわ! そう思っていたのに、別宮には皇帝陛下の腹違いの弟や、他の側妃とのトラブルはあるし、それだけでなく皇帝陛下は私を妹の毒見役に指定してきて―― それって側妃がやることじゃないでしょう!? ※のんびり暮らしたかった側妃がなんだかんだあって、のんびりできなかったけれど幸せにはなるお話です。

次期公爵閣下は若奥様を猫可愛がりしたい!

橘ハルシ
恋愛
 生まれてからずっと家族から疎まれ苛められ全く世間を知らない元姫に惚れて結婚したハーフェルト次期公爵テオドール。結婚してから全てを勉強中の妻シルフィアは好奇心旺盛で彼の予想の斜め上の行動ばかりする。  それでも何があっても妻が可愛くて可愛くて仕方がない夫は今日も隙を見て妻を愛でまくる。  そんな帝国に留学中で学生の旦那様と愛と自由を得て元気いっぱいの若奥様の日常です。  前作『綿ぼこり姫は次期公爵閣下にすくわれる』を読んでいなくても問題ありません。さらっと見ていただけたら幸いです。  R15は本当に念のため、です。一応、夫婦なので…。

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

もうなんか大変

毛蟹葵葉
エッセイ・ノンフィクション
これしか言えん

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

処理中です...