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029:精霊界最強決定コンペ開催!③
しおりを挟むそして三日後。
「今日は素晴らしく冒険日和の日だな!いい天気だ!」
「はぁ、左様でございますね」
イキイキと声を張る朔弥にファウナが気の抜けた返事をしている。その一方で本日のコンペ参加予定の大精霊二人は火炎を吐いていた。
「うっしゃ!今日は斬って斬って斬りまくるぞ!」
「斬るなんて野蛮ですのよ。超高圧水でぺちゃんこですわ」
「おいそこ!何やら物騒なこと言ってるが勝手に始めるなよ!ほら集まれ!整列!ルール説明するぞ!」
だらだらと整列した不良生徒二人を前に校長先生よろしく朔弥が声を張った。
「これより第一回精霊界最強決定コンペを執り行う!」
「なにかしら、この底はかとないダサ加減は」
「第二回があんのかよ?」
「そこ!私語は慎め!勝者には特賞で俺特製こぼれイクラ丼を進呈する!えー、ルールはただ一つ!無用な殺生はするな!以上!」
「むようなせっしょう?」
「なんですのそれ?」
訝しむ二人に朔弥が内心嘆息した。やはりここから説明しなくてはならないのか。
「情けをかけろということだ。襲いかかってくる敵だけを相手しろ。仕方なく命を奪う場合も惨い仕打ちにするな。逃げる奴は放っておけ。戦ってた相手が怯んで逃げても深追いするな。年寄り、弱ってるやつ、妊婦、子連れ、子供には手を出すな。自分の身が危い時以外は必ず守れ」
「えー?んなのわかんねぇよ」
「無理ですわ」
弱肉強食の世界。自然の掟。精霊界ではきっと力ある勝者が正義で理なのだとわかる。だがそれでは朔弥の倫理に沿わない。
無茶ぶりは承知だ。圧倒的な力差がなければ無理だろう。だが中高仏教系の全寮制に通って無用の殺生の罪深さは骨の髄まで叩き込まれている。本来の目的はあくまで周辺の散策だ。一方的な殺戮で無駄に悪しき業を背負う必要もない。
「つべこべ言わず守れ。いいか、このコンペでは俺が掟だ。後ろで見てるからな。非道が見られた場合はその場で失格。二人失格の場合は勝者なしで二人とも白飯だ」
「げッ 白飯ヤダ!」
「つまりやる気のモンスターだけ選んで相手をすれば良いのですね」
「なんかちょっとニュアンス違うがまあそうだ」
「それじゃ誰が強いかわかんねぇじゃねえの?」
ニクスは不満気味だ。この大精霊は問答無用で血の雨を降らせるタイプではあるが。こちらはそれを望んでいるわけじゃない。
「戦いが全てじゃない。倒した数だけじゃ評価しないからな。如何に威圧して相手を退けたか、如何に手際よく倒したか、素晴らしい技を繰り出せたか。つまりは俺が強いと感じた方の勝ちだ」
「芸術点もつけていただける感じですわね」
「まぁ印象だからそう言うことになるのか」
「ふぅん、サクヤが強いと思った方が勝ち。派手に行けばいいってことだな」
「そういうことでしたら負けませんわよ」
大精霊二人のスイッチが入ったようだ。
これで不必要な殺戮は避けられるだろう。
「よっし!ルール説明も終わったし。じゃあ出かけるか!弁当持った!水筒おやつもある!敷物も入れた!トレッキングシューズよし!マップ作成用の画板も持った!さあ歩くぞ!」
今日のこの散策は全員参加となった。朔弥的にはルキナ、ヒカル、ミズキを置いていきたかったがファウナがそこは譲らなかった。大精霊は一人でも多い方がいいという。
「あの二人が攻守担当ですが陛下の近辺警護は私とルキナが担います。ヒカルとミズキも助けとなりましょう」
ヒカルとミズキは戦闘要員ではないのだが。一番弱い自分が口出しできるはずもない。
大人数での移動。今日のために小精霊を総出で借り出して弁当を大量に仕込んだ。全てヒカルの作った時空にしまってある。とりあえず食い物があればなんとかなるものだ。小精霊のお手伝いし隊も同行だ。
そう思っていたのだが。
「歩くってまさかサクヤ、てくてく歩いて行くんですの?」
「え?それ以外何がある?」
「この辺りは森が深く歩くには不向きでございます。時空からお出かけになる方がよろしいかと」
「え?ええ?時空からじゃ周りの様子がわからないじゃないか。それじゃ意味がない」
どこでもいけちゃうドアのようにいきなり目的地についても面白くない。適当に散策し地図を作るのが楽しいのだ。唖然とする朔弥に時空移動で行くつもりだったファウナも困惑顔だ。
「じゃあ空から行きゃいいんじゃねぇの?」
「空から?どうやって?」
大精霊がふわりと浮き上がった。さらにヴァルナはどこからか呼び寄せた大きな白鳥の背に腰掛けている。小精霊が飛んでいる様子は散々見ていたのだが大精霊が浮いている姿を朔弥は初めて見た。
「あ!お前ら飛べるのか?!汚いぞ!」
「まぁまぁ、サクヤは飛べませんの?それはいけませんわね」
「歩けない。飛べない。詰んでんじゃん?うわぁだっさッサクヤ終了~」
「まだ終わってない!ヴァルナみたいな鳥はいないのか?乗せてくれる親切なヤツは?」
「アレ鳥じゃねぇし。小精霊を大量に呼べば乗れるんじゃねぇの?御輿に乗ってさ」
小精霊の大群。あれだけ数がいれば確かにいけそうだが‥
御輿を担いだイナゴの大群に乗る精霊王。それはちょっと‥
「‥‥いや、それは勘弁。見た目がよろしくない」
「でしたら召喚したらよろしいのではないでしょうか?」
「え?しょうかん?」
ファウナの提案に朔弥は目を瞠る。予想外の展開だ。
「陛下の召喚獣でございます。ヴァルナのあの鳥もヴァルナの召喚獣でございます」
「え?あの白鳥が?」
「ただの白鳥じゃありませんわ。歴とした私の召喚獣ですのよ」
ヴァルナがつんと反応する。ただの鳥扱いされて心外そうだ。乗る鳥を召喚する。いきなりの高ハードルに朔弥はドン引きだ。
「いやいや?魔法も使えないのにいきなり召喚?無理だって?」
「あら?でもサクヤは小精霊は呼べてますわ。何が来るかわかりませんが、来たら儲け物ですわ」
「相手が応じればなんとかなる。こんなところでコンペ中止とか言うなよ?」
大精霊二人に詰め寄るられ、無茶振りにさらに仰反る。そこへルキナが駆け寄って朔弥の手を握った。
「サクヤ、できる」
朔弥は目を閉じて嘆息した。
ここまで言われてはやらないわけにはいかない。
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