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009: だいせいれいがあらわれた!(たたかう/▶︎えづけ/にげる)③

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 え?このお菓子が実は甘くないとか?

 マカロンを手にとって齧ってみたが甘いだけで味がない。ある意味砂糖を舐めているようだ。ひどい代物に朔弥は齧ったかけらを無理やり飲み込んだ。ルキナがマカロンに手を伸ばしていたのを朔弥が制止する。

 こんなもの、ルキナに食わせられない!味覚崩壊だ!流石にこれは看過できないぞ?

 朔弥がだんッとテーブルを叩いた。

「これは邪道だ!俺も酒の道はまだまだだが晩酌するならいい酒と美味いつまみ!これは絶対だろ!甘いだけはダメだ!甘いものは甘くて旨いのが正義だろ!」
「お!いいねぇ王サマの意見に一票!酒のアテは塩っぱくてナンボだ!」
「あら!甘くてもお酒に合うものはたくさんありましてよ?」
「塩だ!塩だろ?!そんでもって乾き物だ!」
「チョコレートにアイスは外せませんわ!」
「あー、どっちも一理あるな」

 なんだなんだ?こいつら何気に食の造詣も深そう?

 ファウナが目元を覆いますます項垂れている。こういう展開は期待していなかったようだ。

「お前ら腹減ってないか?俺のキッチンで飲み直すぞ。こんなキツい酒じゃぶっ倒れる。酒はキツければいいってもんじゃない」
「え?王サマも酒イケるんだ?行く行く!揚げ物あるか?」
「美味しいものをいただけるんですの?甘いものはありまして?」

 目を爛々と輝かせた二人に詰め寄られる。この目は高校時代にたくさん見ている。飢えた後輩たちと同じだ。席を立ってふと二人の名前も聞いていなかったと気がついた。流石にこれは失礼だ。

「あ、俺の名は朔弥。よろしくな。王君とか陛下とかいらんから。あと側女もいらない」
「話早いな。あたしはニクス、こっちはヴァルナ。よろしくなサクヤ」
「側女いらないとかぶっちゃけるなんて珍しい王様ですわね」
「今は色々と忙しいからな。で?精神の大精霊はどっちだ?」

 そこで大精霊の二人がきょとんとする。そして二人同時に指差した。

「「アレ」」

 二人の指の先、花園に置かれた四阿ガゼボの中で女性が一人横たわっていた。

「は?!アレ?!」
「サクヤがくる直前に潰れちまった。惜しかったな」
「あら、ヴァルキリーに御用でしたの?」
「何潰してんだよ?!」
「酒飲んで寝落ちはいつもだし?ちなみに属性はあたしが闇でヴァルナは水な」
「全ッ然属性違うし!ファウナさんも!知ってたなら早く教えてよ!!」
「はぁ‥左様でございますね」

 口出しを禁じられたファウナが言えるわけもない。

 ファウナさんが何か言いたげだったのはこのこと?!
 席が一つ空いていたのはこのせいか?!

 慌てて四阿あずまやに駆け寄り横になる女性を覗き込んだ。青みがかったストレート銀髪の女性で歳若く見える。ギリシャ神話に出てくるズルズルの服を着ていた。ぱっと見の印象はスーパーモデルのクールビューティ。二人同様こちらも大変美しいのだが涎を垂らして大の字で爆睡しているのが残念である。

「あんなスイーツ程度じゃ悪酔いするだろ?空腹で酒なんか飲むんじゃない!死ぬぞ!」
「陛下、ご安心ください。大精霊は死にません」

 真面目なファウナが慌てる朔弥を宥める。この異常展開の中で一人だけ真っ当な学級委員長のようだ。

「うわっ冷静にツっこまれた!確かにそうかもだけどさ!」
「こいつはすぐ寝てすぐ起きるから大丈夫だ」
「そういう問題か?!あんな強い酒飲ませて!酒も過ぎれば毒になんだよ!とりあえず俺んとこに連れてくか。急性アルコール中毒とかないよな?失礼しますよ‥って」

 せっかく面白そうな大精霊に会えたのにアル中死亡とか残念すぎるだろ!

 酔い潰れた大精霊を横抱きに抱き上げ時空魔法で部屋に戻ってきた。とりあえず精神をソファに置く。ファウナが精神に水を飲ませている間に朔弥はキッチンに入った。

 まずは酒だ。つまみは?確か冷凍庫に‥
 他に何があったか?鮭トバは出したくないな。

 朔弥はハタチになったばかり。酒は詳しくない。家に残されていた酒類しか知識はなかった。とりあえずと冷蔵庫を開ける。そこにあったものをキッチンのテーブルに並べた。

「なんだこれ?酒?」
「適当に飲んでてくれ。ビール、ワイン、日本酒。混ぜて飲むなよ?あとカシスがあるな。これは烏龍茶割りが美味い。後はチーズと干物齧っとけ」
「プハーッってこれすげぇうめぇ!ビール?これもっとあるか?」
「私はこの葡萄酒がいいですわ。このチーズと食べるんですの?」
「それチータラな。おいおいピッチあげんなよ。メシも食えって。はいお待ち」

 レンジでチンした冷凍唐揚げ、晩酌用に作り置いた分だ。茶色い塊を胡散臭げにつまみ上げた黒銀の大精霊が齧った直後に目を見開いて絶叫した。

「うめぇ!なんだこれ?!めちゃくちゃうめぇぞ!!」
「だろう?とり唐は鉄板だ。流石揚げ物好きだな」

 とうもろこしの皮を剥きながら朔弥がニカっと笑った。旨いものを旨いと素直に言う奴はいい奴だ。
 とうもろこしを濡らして塩を振りラップに巻いてレンジに放り込んだ。
 冷蔵庫から鮭の切り身を出してグリルに一切れ入れ強火で炙る。塩を振って置いておいたものだ。今朝炊いて木のひつに移したご飯はちょうどよく冷えている。それを水ですすいで出汁と共に火にかけた。キッチンに柔らかい出汁の香りが立ち上りはじめた。

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