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第二章 : 恋に落ちたソロモン
第011話
しおりを挟むクラウスと別れアイザックは研究室に向かうもあちこちで色々と足留めにあう。むさいアイザックが劇的に変身したことで行く先々で大騒ぎだ。
人だかりになりその度に大精霊に呼ばれたクラウスに嘆息と共に引っ張り出され、結局クラウスが先導し研究室前まで辿り着いた。
誰もおいそれと【賢者イスタール】に触れられないが、それでも見た目正反対の美形二人は相当に視線を集めた。
「まったく。この私が錬金術部門まで‥‥。もうこういうのゴメンだからな」
「もうねぇよ。お前のせいで随分時間を食った」
「そう願う、もう笑い死にたくないしな」
うんざりするアイザックにクラウスは口元を手で覆いヒクヒクと笑いを噛み殺す。
門に迎えに来たクラウスは最初こそ憮然と堪えたが、二人きりになって堪らず爆笑し膝から崩れ落ちた。クラウスは見た目硬いのだが昔から笑い上戸で笑いだすと止まらない。過去アイザックが変身するたびに死ぬほど笑い倒していた。その笑いが収まるまでアイザックは随分と足止めを食らっていた。
憮然とするアイザックにクラウスは目を細め、研究室のドアをノックする。中からシャルロッテの返事が聞こえてきた。
アイザックが愕然とした。まだ心の準備が!!
「おい何を勝手に?!」
「ノックしてやったんだよ。さっさと入れ」
立ち去るクラウスと入れ替わりに扉が開き中からシャルロッテが飛び出してきた。その姿を見たアイザックは衝撃で慄いた。
今日のロッテがとんでもなく可愛く見える?なぜ?!僕の好きなワンピースを着てるせいか?ただのリボンでさえ可愛く見える!二ヶ月ぶりのせい?ヤバい!破壊力が!!
鼻を抑えたい衝動を必死に押さえ固まっていればシャルロッテは小首を傾げた。
「ああ、ありがとうございます、どちらに到着されましたか?」
「‥‥‥え?何を言ってるんだ?ロッテ?」
「はい?」
ロッテ!君もか!!
その後も会話が噛み合わない。ようやくアイザックと気がつき、驚愕でシャルロッテの顔が引き攣っている。顔が青ざめ完全に引いていると言ってもいいくらいだ。
あれ?思っていたのと反応が‥‥?
近視矯正の治療やトレーニングの話をしたがシャルロッテの表情は硬いまま。ケーキを褒めても反応が薄い。頭を撫でればいつもは微笑みを返してくれてたのに今日は無表情だ。
シャルロッテの頭から躊躇いがちに手を引きつつ、シャルロッテの態度にアイザックは混乱していた。そしてある可能性に青ざめ狼狽する。
まさか?まさかまさか?!
動揺のあまりシャルロッテの纏う炎の小精霊を引き剥がしてしまったことにアイザックは気が付かなかった。
『えー?ウケなかった?っかしーな』
「話が違う!!」
アイザックは帰宅早々にヴァルキリーを睨みつけた。吉報を待っていた大精霊が唸る。
『あれれぇ?ロッテちん、デブ専か?まさかのブサメン好き?』
「やっぱりそうなのか?!」
『いやいやいや?まっさかー!冗談だって。そんなわけないでしょ?アハハ』
あっけらかんと笑う大精霊をアイザックは腹立たしげに見上げる。
こいつ、毎度毎度僕の神経を逆撫でするな。もう名人芸だ。
『しょーがないなぁ。ちょーっとロッテちん見てみよっか?この貸しは高くつくぞ!』
目を瞑りシャルロッテの気配を探っていた大精霊だったが、口元に手を当てて胸焼けした様にげっそりため息を吐く。
『うぐ!ナンジャコリャ?!エグ甘くてモタれそう』
「は?」
『ゲフンゲフン!なんでもない!まあ?今日は動揺してただけみたいだよ?絶対キュンキュンしてるから!明日からガンガンアタックしてこー!』
何やら誤魔化された。こいつ調子が良すぎるんだよな。やはり信用してはいかん奴だったな。僕も学習しない奴だ。
アイザックは嘆息し猜疑の目を大精霊に向ける。
「もういい。お前の言うことは当てにならない」
『えー?じゃあ手伝ってあげるからさ♪頑張っていこーよ!このヴァルキリー様に任せなさーい!』
「じゃあってなんだよ?!いや!お前は絶対手を出すなよ!いいな!」
大精霊が手伝う。悪い予感しかしない。
アイザックは露骨に嫌な顔をした。
そしてその予感は正に悪い方で的中した。
「お前らいい加減にしろよ!!!」
シャルロッテに聞かれない様に研究室から遠い人気のない廊下までやってきてアイザックは声を荒げる。そこにはヴァルキリーと小精霊たち。
『え?いいでしょ?名付けて“ラッキースケベ大作戦”!突発事故で自然にイチャコラしちゃうザックたんのためのラッキー企画でーす!』
ラッキースケベ?ザックたん?!
こいつら本当に頭おかしい。
アイザックが青筋を立てて顔を歪める。
「あれのどこがラッキー企画だ?!」
『え?めっちゃ喜んでたくせに。嬉しくなかったんかい?』
「よっ よよ喜んではいない!」
ヴァルキリーと小精霊たちがちょっとした事故を誘発する。二人の手がドアノブに同時に行く様誘導する。突風でシャルロッテのスカートを巻き上げる。実験で噴き出した火にアイザックが火傷をしてシャルロッテに手当てされる。
魔導の発動がない。錬金術では無理だ。見るものがみれば召喚魔法とわかる。アイザックが自作自演していると思われてもおかしくない。それでは召喚士とバレてしまう。
「まさかこの前のロッテの体調不良も仕込みか?!」
『あぁあれ?教えるフリして机ドンしてお姫様抱っこしてあげたやつ?あれはホントのラッキースケベ。初めて横抱っこできて良かったね~♪』
「よか‥ッ ‥‥ホントの体調不良ならよくないが‥」
『でもさでもさ!昨日のは大成功だったでしょ!気持ちよく前ハグ出来てよかったじゃん!』
凍った床に滑ったシャルロッテをアイザックがとっさに受け止めた。初めての甘い前ハグに確かにアイザックも感極まったのだが。
「一歩間違えばロッテが怪我するだろ?!もう仕事の邪魔すんな!」
『えー?怪我しない様にしてるって。会心の出来だったのにねぇ。嫁ちゃんと職場でイチャコラできていいじゃん?嫁入り前に愛人確定か?!秘書と密室で職場情事?!キャーッエロいぞ!鼻血噴きそうだ!!』
悪びれなく黄色い声を上げる大精霊にアイザックは唖然とした。
お前は一体何を言ってるんだ?!
「勝手な妄想するな!そんなんじゃない!まだこっちは何もしてないのに‥‥もう絶対!金輪際あんなことするんじゃない!」
「え?いいじゃん!ラッキースケベサイコー!情事サイコー!可愛いロッテちんが美人秘書で愛人!尊い!!』
こいつら何考えてるんだ?!手伝うと言いながらめちゃくちゃ楽しんでるし?なぜ僕を放っておいてくれない?特にこの大精霊の悪ノリ妄想がひど過ぎる。
愛人?秘書と職場情事?大精霊のくせになんて妄想してんだ?どこでそんな知識仕入れてんだよ?俗世に塗れすぎだろ?!
前屈みでアイザックをニヤニヤ覗き込むヴァルキリーに憮然と吐き捨てた。
「ロッテとはそんなんじゃないと何度も言ってるだろ!‥‥お前らも調子乗んなよ!色々仕込みすぎだ。危なっかしいんだよ!」
『そんな邪険にしなくてもいいのに。いいじゃん可愛いしお似合いだしね。この私を差し置いて妬けるわぁ』
「もうお前らいい加減帰れ!」
からかう様にシナをつくり、たちに悪い笑みの大精霊にアイザックが本気でキレた。
ぎゃあぎゃあお祭り騒ぎの精霊たちを大笑いする大精霊ごと結界外に追い出してアイザックはふぅと息を吐く。
異常に疲れた。これが手伝う?冗談じゃない。
ソロモンを封じてこれ。封印解いていたらこいつらもっととんでもなかったのか。封じてよかった。
そこで初めて、アイザックは廊下に茫然と立つシャルロッテに気がつき、ざぁと血の気が引いた。
「‥‥ロッテ‥なんでここに?」
いつから見られてた?見られないようにわざわざ研究室から出たのに。
精霊が見えないシャルロッテはアイザックが一人怒鳴り散らす奇行を見たことになる。アイザックの背に滝のように冷や汗が流れ落ちた。
「ロッテ、どうしたんだい?」
シャルロッテに何度か声をかけてやっとアイザックを見たが青ざめていた。絶対頭おかしい奴だと思われた!内心激しく動揺するも笑顔を作り誤魔化そうと昼食に連れ出したが、シャルロッテはアイザックの顔を見ようとしない。
「なんでこうなるんだよ‥」
アイザックは苛立って頭を抱える。
イメチェンしたのに狙いのシャルロッテが靡かない。むしろ距離を置かれている様子だ。最近は目も合わせてくれない。あの奇行のせいで変人扱いの上、完全に嫌われたようだ。
そしてどうでもいい女どもが群がってくる。今までであれば二度と近寄れない程に手荒く突き放すがシャルロッテに悪評を聞かれたくない。結果、どうしても突き放しが甘くなる。煩わしいことこの上なかった。
『あー、その件なんだけどさ、ひょっとしてロッテちん私のことが見えてないかな?』
「そんなわけないだろ?見えてたら真っ先に僕に言うはずだ」
『えーと、何つーか、もう少し繊細な事情じゃないかと‥』
「あ?なんだそれ?」
『誤解してなきゃいいけどねぇ』
大精霊がふぅとため息をついた。
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