23 / 61
✠ 本編 ✠
020 クリフォード⑦
しおりを挟む昨年から続いた労使交渉がやっとまとまり疲れ果て温室に向かった。
一年と言われたところを七ヶ月で終わらせた。相当無理した自覚はあった。だがこれでトリシャに経営を引き継げる。それは恩師の遺言だったが自分だけが与えられるトリシャへの贈り物でもあった。
力尽きて長椅子に身を投げ出して眠っていた。ひどい頭痛から逃れたくて強い酒を飲んだ。
自室ではなく温室に来たのは癒やしを欲したから。ここならあの残り香がある。だからか眠りながらも無意識にあの香りを纏う体に手を伸ばしてしまったのだろう。
それはひどい夢だった。
トリシャの体を強引に開いて蹂躙する。
欲しいのに手に入らない、ならば夢の中でくらいトリシャを好きにしたい。抑圧された反動で夢の中で淫欲が暴走する。
逃げようと抗う体を力で押さえつけ服をむしりトリシャを貪り犯す淫夢。義父だと心を許した男に無理矢理貫かれ姦され突き上げられ、それでもなお拒むトリシャの涙に鋭い痛みを感じると同時にゾクゾクと底昏い愉悦が走る。この涙は自分が流させている。それさえ快楽になりさらに催淫される。
男として愛されていない。でもこれほどに焦がれる。
ならば何もかもめちゃくちゃに壊してしまおう。
そうすれば自分のものに出来る。
もう誰にも渡さない。
こんなこと、正気じゃない。相手は守ると決めたあのトリシャだ。夢であろうと許されない。
なのにトリシャの優しい声が聞こえる。ひどいことをされているのに相手を気遣ってくる。大丈夫だと、そばにいると。優しく口づけられ、その声に縋りつけばひどい焦燥が嘘のように立ち消えた。夢と現実が混濁する。
ひどいことをしたいんじゃない。
ずっとそばにいてほしい。それだけでいい。
癒やしの香りに包まれて満たされている。気がつけば温室の長ソファでトリシャを抱きしめて眠っていた。慌ててトリシャを解放し謝罪すれば許してもらえたが、寝ぼけていたとはいえとんでもないことをしてしまったと血の気が引いていた。
抱きしめる以外何もしていないと知りホッと安堵した。無自覚なら何かもっと酷いことをしていてもおかしくない。あんな淫らな夢を見て、あの柔らかい体を抱きしめて何もしなかった。自分は思いの他忍耐強かったようだ。額のぬるい汗を拭った。
忘れるな。自分は義理の父という立場なのに。
後見人の自分が手を出していいはずもないだろう?
煩わしいとしばらく女を遠ざけていたせいで弊害が出てしまったか。きっと体が女に飢えているんだ。今からでも誰か———
だが今更他に意識が向くわけがない。
欲しいと手が伸びるのは目の前で愛らしく微笑む十二歳も年下の大事なトリシャだ。
相手が人妻だろうが伯爵夫人であろうが未亡人であろうが欲しいと思えば手を出してきた。そこに躊躇いはない。だが相手は恩師と共に守ってきた姫。戯れに手を出していいわけもない。
このままではいけないとトリシャと距離をとろうとするも生活の全てがトリシャを中心に回っていた。トリシャのためにという言い訳で自分のためにせっせと日常を作り変えた。今更変えられるはずもない。変えればこの楽園が崩壊する。
そして今、トリシャとの楽園の甘露が猛毒のようにクリフォードの心を蝕み苦しめていた。
手放すこともできず手にも入らない。
永遠に苛まれ続ける。
クリフォードは自分が深い沼に嵌ったと自覚した。
自分が望んで仕立てた状況。生前のダグラスにトリシャに愛を乞えと、遺言でまで結婚せよと言われたのに無視し後見人になった。男を怖がるトリシャの警戒心を解くために無害な義父になった。愛を乞える立場だったのに自らそのチャンスを手放した。最悪の選択。
そしてクリフォードは恩師の残した言葉の真の意味をやっと理解した。
トリシャは至宝。
夫になったものだけがその価値を知る。
トリシャに愛されれば大切に長く慈しまれる。あの服や小物のように。トリシャが自分に向けるものは父への慈愛、それはダグラスにも向けられたのだろう。ダグラスはトリシャに愛されて幸せだったと言っていた。
夫への愛ではないがそれに似た片鱗に触れてしまった。抱きしめた時の柔らかさがまだ手に残っている。夫となってあの体に愛されていればどれほど幸せだったろうか。
自分の手からすり抜けてしまったものの大きさにクリフォードは愕然とする。同時に酷い落胆がのしかかった。
いや、何を血迷っている?十二も年上の、こんな仕事人間の自分がトリシャに愛されると思ったか?じいさんの遺言を読んだあの時だってトリシャは震えて嫌がっていた。
自分は愛されていない。今は父だから慕われているだけだ。
自分は愛を乞える立場にはないだろう?
彼女は庇護すべき義理の娘。だからそのように接しよう。これ以上近寄らず深入りせず、だができうる限りの愛を与えよう。そして当初の予定通り彼女を幸せにする愛情深い男に添わせる。それがまだ十七歳で未来のある、愛されるべき彼女にふさわしい。
ビジネスのためだと思った。彼女のためと言い訳し利益のために保身のためにトリシャを自分の支配下に入れようとした。
こんな酷い仕打ちをした自分。これがそんな自分がトリシャにできるせめてもの償いだろう。
3
お気に入りに追加
409
あなたにおすすめの小説
未亡人メイド、ショタ公爵令息の筆下ろしに選ばれる。ただの性処理係かと思ったら、彼から結婚しようと告白されました。【完結】
高橋冬夏
恋愛
騎士だった夫を魔物討伐の傷が元で失ったエレン。そんな悲しみの中にある彼女に夫との思い出の詰まった家を火事で無くすという更なる悲劇が襲う。
全てを失ったエレンは娼婦になる覚悟で娼館を訪れようとしたときに夫の雇い主と出会い、だたのメイドとしてではなく、幼い子息の筆下ろしを頼まれてしまう。
断ることも出来たが覚悟を決め、子息の性処理を兼ねたメイドとして働き始めるのだった。
亡くなった夫の不義の子だと言われた子どもを引き取ったら亡くなった婚約者の子どもでした~この子は私が育てます。私は貴方を愛してるわ~
しましまにゃんこ
恋愛
ある日アルカナ公爵家に薄汚い身なりをした一人の娘が連れてこられた。娘の名前はライザ。夫であり、亡きアルカナ公爵の隠し子だと言う。娘の体には明らかに虐待された跡があった。けばけばしく着飾った男爵夫妻は、公爵家の血筋である証拠として、家宝のサファイヤの首飾りを差し出す。ライザはそのサファイヤを受け取ると、公爵令嬢を虐待した罪と、家宝のサファイヤを奪った罪で夫婦を屋敷から追い出すのだった。
ローズはライザに提案する。「私の娘にならない?」若く美しい未亡人のローズと、虐待されて育った娘ライザ。それから二人の奇妙な同居生活が始まる。しかし、ライザの出生にはある大きな秘密が隠されていて。闇属性と光属性を持つライザの本当の両親とは?ローズがライザを引き取って育てる真意とは?
虐げられて育った娘が本当の家族の愛を知り、幸せになるハッピーエンドストーリーです。
小説家になろう、他サイトでも掲載しています。
素敵な表紙イラストは、みこと。様から頂きました。(「悪役令嬢ですが、幸せになってみせますわ!10」「とばり姫は夜に微笑む」コミカライズ大好評発売中!)
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
【R18】殿下!そこは舐めてイイところじゃありません! 〜悪役令嬢に転生したけど元潔癖症の王子に溺愛されてます〜
茅野ガク
恋愛
予想外に起きたイベントでなんとか王太子を救おうとしたら、彼に執着されることになった悪役令嬢の話。
☆他サイトにも投稿しています
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
18禁の乙女ゲームの悪役令嬢~恋愛フラグより抱かれるフラグが上ってどう言うことなの?
KUMA
恋愛
※最初王子とのHAPPY ENDの予定でしたが義兄弟達との快楽ENDに変更しました。※
ある日前世の記憶があるローズマリアはここが異世界ではない姉の中毒症とも言える2次元乙女ゲームの世界だと気付く。
しかも18禁のかなり高い確率で、エッチなフラグがたつと姉から嫌って程聞かされていた。
でもローズマリアは安心していた、攻略キャラクターは皆ヒロインのマリアンヌと肉体関係になると。
ローズマリアは婚約解消しようと…だが前世のローズマリアは天然タラシ(本人知らない)
攻略キャラは婚約者の王子
宰相の息子(執事に変装)
義兄(再婚)二人の騎士
実の弟(新ルートキャラ)
姉は乙女ゲーム(18禁)そしてローズマリアはBL(18禁)が好き過ぎる腐女子の処女男の子と恋愛よりBLのエッチを見るのが好きだから。
正直あんまり覚えていない、ローズマリアは婚約者意外の攻略キャラは知らずそこまで警戒しずに接した所新ルートを発掘!(婚約の顔はかろうじて)
悪役令嬢淫乱ルートになるとは知らない…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる