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第四章: 菜瑞那
第二十八話: ハカリゴト①
しおりを挟む「こちらは何も企んでいない。もういいだろ。さっさと出ていけ。」
拓人は立ち上がり菜瑞那を睨みつけた。
その様子を見ていた菜瑞那がふと目を細めにんまりと笑う。
「なんでそんなに煙たがるん?このあと誰かと会うのかな?」
「それはない。」
「環と最近会ってるんだって?ペットなしで?聞いたよー?」
ニヤニヤと菜瑞那が見上げれば拓人は言葉を詰まらせる。
「相談を‥‥話を聞いてるだけだ。」
「メールも?電話は?あんたがお茶入れてあげてんだって?」
「来客対応の範疇だ。」
「へーほー、ならお茶私にも出してよ?私も飲んだことないもんなぁ。」
拓人は菜瑞那を凍てつく視線で見下ろす。塩対応だ。
「お前は客じゃない。茶なら好きに飲め。奥にティーパックくらいあるだろう。」
「ひどっ ティーパックって私はセルフなんだ?この待遇の差はなんなのさー!」
「うるさい。お前にはティーパックさえ惜しい。湯だけでいい。」
話の方向性がわからない。尋ねるように菜瑞那を見れば満面のしたり顏だ。こいつ、悪党だな。
菜瑞那が顔を寄せてボソボソ話してくる。
「いやね、この男とは付き合い長いんだけど、こいつのこの反応は珍しいのさ。」
『珍しい?』
「これはひょっとするとかもよ?」
「そこ!妙な話するなよ。さっさと帰れって!」
この男のイラついた様子は初めて見た。あれ程の術者がこれ程に取り乱す。人間とは不思議なものだ。
菜瑞那はその剣幕を完全無視する。
「環の気をあいつに逸らせればいいことあるかもよ?」
『言いたいことがわからない。』
「だからぁ、あんた達の魔力は環の可愛がりなのさ。私も食らってるからよくわかるよ?」
なに?こいつもあれを食らってる?主従契約もなしに?
「まあ?私は契約うんぬんないからやりようあるんだけど実は結構食らってる。あれは凄いよね。霊力枯渇でもあのバケツで超回復さ。グロいけど。魔力満々の環の吐け口が必要だよね?」
『つまり?』
「あいつと環が出来上がれば環の可愛がり‥相当の魔力はあいつが引き受けるというわけ。」
その手があったか!!腹黒い仔犬に衝撃が走る。
一人と一匹は底光りする目でゆらりと正面の男を見やる。何か感じてか拓人が一歩退いた。
『ほう?それは尽力せねばならんな。』
「あれれ?君のご主人だけど相手はこの男でいいのかな?」
『タマキがあの男を気に入っているのは知っている。主人の幸せのためだ。当たり前だろう?このリヴァイアサンの名にかけて主人のために全力を出させてもらおう。』
仔犬が歯を剥いて笑う。笑い方が腹黒すぎだ。拓人がさらに後ずさる。
「おお!たんのもしー!使役獣の鏡だね!」
『当然だ。しかしナズナよ、お前も悪よのぅ』
「やだ!褒めてるつもり?リヴァイほどじゃないからね!」
ククク、ウフフと笑いあう。見るからに悪党顔だ。
タマキの魔力はとんでもない。受けは今はペット枠三つだが枠は多い方がいい。特にこの男はクダキツネと違い許容量が多そうだ。手持ちのあやかしも多い。消費も早いだろう。
この男が相手だとベヒーモスがゴネそうだがそこはやりようがある。とにかく今は少しでも供給量を減らすのが急務だ。
「何を企んでるかは知らんが何もするなよ。」
「ナニモスルナヨ、だってさー。これは頑張んないと!腕が鳴るぞー♪」
『私も最善を尽くそう。』
「だから何もするな!常識ないお前らが関わるとロクなことにならないんだよ!」
「心外だぁ!こんなに応援してるのに。」
だがこの男の言い分もわかる気がする。このナズナという娘、かなり大雑把だ。そしてとんでもないことをしそうな予感はある。いわゆる厄介者。
私なら関わらないだろうが味方なら十分頼もしい。
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