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第四章: 菜瑞那
第二十五話: 私の名はリヴァイアサン
しおりを挟む私の名はリヴァイアサン。
大昔に作られた世界最強の怪物。ベヒーモスと対でこの世に作られた。
作ったものの意図はわからない。だが死ぬことも老いることもなくずっとそこにある。そのような存在。
来る最後の審判の日に世界を滅ぼす存在、そしてこの血肉が生き残った者たちの糧になる、とある書物で語られているようだが、その通りにするつもりはさらさらない。
なぜ生き残った選ばれしものに我々が食われなければならない?生き残ったものこそ我らの糧になる存在のくせに。
だが今、我らはここに封じられた。あのタクトとかいう術者に。封じる術があるということにも驚いた。あちらの大陸では我々を退けるだけで狩ることなどできなかったのだから。
主のタマキは尋常でない魔力がある。拷問のような魔力投与で糧の心配はないのだが、不思議と見えない束縛がある。タマキの前では変化ができない。力も自由ではない。
だからタマキがいない時に、外の様子を調べたり他のあやかしを退けたりする。
この束縛が謎だ。
主からは何も命じられていない。いないのに、だ。
それがタマキの術者としての力なのか。今はわからないが、とのかく好き勝手にはできない。
今はその時ではないのかもしれない。
仔犬は玄関で前足の上に顔を伏せる。
時は飽きるほどある。焦る必要はない。今は様子を見よう。
玄関の鍵が回る音でリヴァイアサンはぴくりと体を起こした。
今日は環は土曜出社でいない。代わりに環の友人の「ナズナ」という者が私の散歩をするという。
先週家にやってきたが、特段怪しいところや違和感がなかった。いや、何もないのがおかしかった。
人族はあやかしとは違う。その違和感は誰にも必ずあるものだが。それがあの「ナズナ」という者には全くなかったのだ。器こそ人族だがいっそあれは我々に近い。
見た目は完全な人間、それがどうにも気になる。今日その謎が解けると良いのだが。
「こんにちはー、いい子にしてたかな、リヴァイアサン?」
菜瑞那は玄関に座っていた仔犬の頭を撫でた。
これは‥‥。『名』の圧がすごい。やはりこの娘、只者ではなかったか。
「お散歩は君だけにしようかな、君の方が話もわかりそうだし。ベヒーモスに九尾、家にいなさい。」
ぴしゃりと名を呼ばれ歩み寄ろうとしていた仔猫の動きが止まる。これも『名』の圧だ。
仔猫がぐぐぐと抵抗を見せるが仔犬が目でそれを宥める。
『私が対応する。お前は待っていろ、ベヒーモス。』
そして仔犬はリードをつけられて菜瑞那に外に連れ出された。
「ふー、ちょっと時間早かったかな。少し休憩しようか。」
スマホを操作していた菜瑞那は近くの公園に立ち寄る。木陰のベンチを選び腰掛け、ベンチの横をトントンと叩いた。
「いらっしゃい、リヴァイ。話せるんでしょ?隣に来てくれると周りに聞こえないからね。」
名の圧がない。だが仔犬は大人しくベンチに飛び乗り傍の女性を見上げた。
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