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第二章: リヴァイアサン
第十七話: 君の名はリヴァイアサン
しおりを挟む環は仔猫の側に寄り仔犬の顔をそっと近づけた。
環にとって犬は猫の天敵。仔猫が嫌がらないか心配していた。近づけられた仔犬は神妙な顔だ。
『この間はすまなかったな、ベヒーモスよ。』
『いいってことよ、兄弟。オレとお前の仲だろう?また楽しくやろうぜ。』
『だが私もお前の主の元にくだるとお前の食いぶちが減ってしまう。』
リヴァイアサンはしゅんと頭を下げる。
『へっ 何言ってんだ。お前のためだ。そんな小せぇことオレが気にするかよ。それよりお前は腹いっぱいメシを食え。オレに構わずな。それがオレの幸せだ。』
リヴァイアサンは涙目でベヒーモスを見た。感涙だ。
『ベヒーモス!お前、いいやつだな!』
『なんでぇ、今頃気が付いたのか?』
どうぞどうぞ!とメシを勧めるベヒーモスの異常さにリヴァイアサンは気が付かない。
仔猫はぺろりと仔犬の鼻を舐めた。やった!と環が狂喜の声をあげる。
「大丈夫そうですね。」
拓人も安堵の息をついた。この仔犬も仔猫同様、大食いであった。できれば引き取ってもらいたい、それが正直なところだった。
仔犬を抱いている環の手を取り仔犬の名を告げた。
「こいつの名はリヴァイアサン。水属性ですが陸での生活も問題ありません。あなたには絶対服従です。ルールさえ守ってもらえればあなたの助けとなるでしょう。」
何やらイケメンに手を握られ、厳かにそう言われて環はぽーっとなっている。しかし脳内のモンスターデータベースにその名がヒットしたあたりで目を瞠った。
「リヴァイアサン‥‥?リヴァイアサン?!あのリヴァイアサンですか?めっちゃくちゃ強いじゃないですか!またまたかっこいい名前ですね!!」
今回も名前だと自己解決する。あやかしであるという認識はあるが、もうそのものだと思うこともない。
「リヴァイアサン、かっこいい名前だね。今日からよろしくね。」
そう言って環は仔犬をぎゅーっと抱きしめた。その途端、バケツいっぱいの魔力がドバーッと仔犬の頭からぶっかけられた。リヴァイアサンが目を瞠る。そしてゲフッとゲップをした。それを見た仔猫が仰天する。
『おい、何これしきで腹いっぱいになってんだ?!腹減ってたんだろ?!大食いのリヴァイアサンが何やってんだよ?!』
『誰が大食いだと言った?!私は小食だ!いつも腹を減らしてたからといって大食いと決めつけるな!!』
『図体比で計算があわねぇだろ!!』
『私は燃費が良いのが自慢だ!!』
当社比で小食というが、はたから見ればリヴァイアサンも立派に大食いだ。つまりバケツがおかしいということになる。
二匹の念話は環の耳には届いていない。環は抱き上げた仔犬を見つめてうーんと思案する。
「リヴァイアサン、長い名前だね。短くしようか。リヴァイア‥‥リヴァ‥イ‥‥キャーッやだやだ!兵長?!兵長なの?!お掃除頑張らなくっちゃ!!」
環の歓喜にざぶんざぶんとバケツ二杯分の魔力が仔犬に注がれた。この時点で仔犬は吐き気を催している。仔猫はすでに引いていた。
「ありがとうございます!この子の幸せのために心臓を捧げます!」
環は右手の握り拳を左胸に押し当てて拓人に礼を言った。さすがの拓人も笑顔で引いている。
タマキよ、お前は何にかぶれているんだ?
環は笑顔で仔犬と仔猫を腕に抱き上げた。
「すっごくうれしい!今日からよろしくね!」
抱き上げられた仔猫と仔犬は、タライ大になみなみと貯められた、頭上の魔力の塊を見あげてゾッとした。
供給される魔力は対象が二体になれば二倍になる。環は枯渇知らず。これはベヒーモスの誤算だっただろう。
滝の修行のように魔力がぶっかけられる中、ベヒーモスとリヴァイアサンは胸焼けにがくりとした。
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