85 / 114
Ⅵ ✕✕ンシャ、俺。
075: 神の器
しおりを挟む俺が掛かった難病、発症から一年で死に至る病。
それは半世紀前から人類に現れだした。医学的に説明できない理由で発症し死んでいく。原因は不明。細菌やウィルス、細胞異常でもない。だがソフィア・グリフィス医学博士は患者のDNAに共通点が見られると気がついた。そして難病の死因を『魔力過剰による肉体の壊死』との仮説を唱えた。
世界中に存在するエネルギー体、魔素を体内に多く取り込める力を持つ『能力者』、能力が開花すれば人類が持ち得なかった力を行使できたがその能力が病となって能力者を死に至らしめた。取り込んだ強い魔力に肉体が耐えられないためだ。
ごくごく僅かな能力者誕生に法則性はまったくない。遺伝でも感染でもない、能力者同士から生まれた子供も非能力者、人工授精でもクローンでも作り出せない、意図的に作り出せない。ランダムの遺伝子異常、突然変異だ。
だが貴重な能力者も病が発症してしまえば必ず死ぬ。DNAから能力者を特定できたことから、人類は世界中でドナー制度を導入し希少な能力者を絶滅危惧種のように保護した。
病発症は避けられない。どうすれば死ぬことはないか。
ソフィアはさらに仮説を立てた。
魔力過剰によって壊れる肉体、魔力吸収は止められない。ならば壊れても再生出来る肉体を作ればいいのではないか。
その仮説を元に『神の器プロジェクト』が始まった。
ソフィア・グリフィス博士は何故この説にたどり着けたか、それは自身にもその因子があったから。だが発症には至っていない。
この因子を持つものには共通点があった。知識欲が強い。発症すればその能力も加速する。未発症でもソフィアがここまで高い能力を習得できた所以だ。やがて彼女は能力の高さから魔女と呼ばれるようなった。魔女に選ばれた子は死に至る、一方でそう陰で囁かれた。
ソフィアは研究のためにドナー制度で集まった中から有能な子供達を選び出し養子とし研究チームを作った。自らが構築した医療用AIを使い無限の組み合わせからある細胞を作り出した。
肉体を強化するための、魔力による細胞破壊スピードを上回る再生能力のある人工細胞、そこにさらに癌の遺伝子配列を取り込むことで免疫システムを回避し生来の細胞を破壊、体内で爆発的に増殖し肉体を作り変える。まさに神の細胞だ。
だが肉体を作り変える激変には犠牲を伴った。肉体を強化する過程で細胞を移植された患者に激しい苦痛が襲う。これは過負荷と呼ばれた。これに耐えらず多くの能力者が命を失う中、一人の少女が生き残った。
名をサクラス。生き残った彼女はこの研究の第一人者となった。能力者特有の青い瞳を有しても死ぬことはなかった。
彼女はさらに薬事療法を提唱、反動による緩和ケアにも努めた。
データベースでのサクラスの最後の記録は俺の入院から二十一年前。
サクラス・グリフィス 死亡
享年三十七歳
俺と出会った頃、実年齢は五十を超えていたが彼女は見た目は十代のままだ。『大いなる魔女』と呼ばれた所以、それはある新興宗教の信仰の対象にまでなった。
サクラスは限られた能力者の中からさらに細胞の適合者を選び治療する。だがそれはソフィアのためでもあった。
長年発症することがなかったがソフィアもついに発症した。多くの養子が懸命に研究したのは自身と母ソフィアの延命のため。それを食い止めるための研究。志半ばで多くの子供達が病を発症し死に至ったがサクラスとAIがそれを引き継いだ。
ソフィアを生かすため、サクラスは薬を開発し患者の治験を試みたが、能力が低いと細胞移植に成功しても薬の副反応に耐えられない。
治験のためにソフィア以上に強い能力者が必要だった。
そして俺が選ばれた。ソフィアと俺の遺伝子配列が似ていたことも選ばれた理由だった。
発症すると能力者は情緒不安定になる。社会の中で攻撃的になり感情の揺れがさらに能力の暴走につながり死期が早まる。発症者が人から隔離される所以だった。なるべく患者の母国で治療にあたったのは患者が生まれ育った環境を変えるべきでないとするサクラスの判断だった。
だが一部でこの研究に反対する組織があったため、治験施設は『大いなる魔女』により極秘とされていた。
適性があると選ばれた患者は能力の強い順に番号を振られた。俺のナンバリングは『第二の器』、俺はすでに発症していて能力が強いが故に早急な治療が必要だった。
骨髄移植の手術と俺は説明を受けていたが実際は強化された人工細胞の移植だ。術後の経過は良好、移植後の拒絶反応もなし。投薬が行われあらゆるデータが取られた。俺に激痛を伴う副反応が出たが効果があった薬がソフィアに投薬された。
人工細胞にも薬にも適合はあった、だがソフィアの『神の器』は完成しなかった。発症から半年、彼女の寿命が病より先に尽きた。ソフィアは最後の治療を拒絶、命が尽きるその日までAI完成に手を動かしていたという。
そしてあの日、死の淵を彷徨う俺にサクラスは、AI『ソフィア』が作り出した最後の薬を俺に投与した。それはソフィアが拒絶したものだった。
俺はただひたすらに眠る。
投薬のタイミングは決まっていた。久遠の時の中で時間がくれば凍えるような寒さの中で俺の意識は覚醒するようになった。
俺は眠っていて目は開かない。だが人の気配がする。俺のカプセルの側に誰かいる。そいつが俺を見下ろしていた。カプセル越しに俺に手を伸ばした。極寒なはずなのに暖かい手に額を撫でられたようだ。それがとても心地いい。薬が投入されまた俺は眠りに落ちた。
冷蔵冬眠、長い長い夢の中で俺は理解した。
俺はサクラスの、ソフィアのための薬の実験材料。
俺は彼女の被験者だった。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる