【完結】ヒロイン、俺。

ユリーカ

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Ⅵ ✕✕ンシャ、俺。

075: 神の器

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 俺が掛かった難病、発症から一年で死に至る病。

 それは半世紀前から人類に現れだした。医学的に説明できない理由で発症し死んでいく。原因は不明。細菌やウィルス、細胞異常でもない。だがソフィア・グリフィス医学博士は患者のDNAに共通点が見られると気がついた。そして難病の死因を『魔力過剰による肉体の壊死』との仮説を唱えた。

 世界中に存在するエネルギー体、魔素マナを体内に多く取り込める力を持つ『能力者』、能力が開花すれば人類が持ち得なかった力を行使できたがその能力が病となって能力者を死に至らしめた。取り込んだ強い魔力に肉体が耐えられないためだ。

 ごくごく僅かな能力者誕生に法則性はまったくない。遺伝でも感染でもない、能力者同士から生まれた子供も非能力者、人工授精でもクローンでも作り出せない、意図的に作り出せない。ランダムの遺伝子異常、突然変異だ。
 だが貴重な能力者も病が発症してしまえば必ず死ぬ。DNAから能力者を特定できたことから、人類は世界中でドナー制度を導入し希少な能力者を絶滅危惧種のように保護した。

 病発症は避けられない。どうすれば死ぬことはないか。
 ソフィアはさらに仮説を立てた。

 魔力過剰によって壊れる肉体、魔力吸収は止められない。ならば壊れても再生出来る肉体を作ればいいのではないか。

 その仮説を元に『神の器プロジェクト』が始まった。

 ソフィア・グリフィス博士は何故この説にたどり着けたか、それは自身にもその因子があったから。だが発症には至っていない。

 この因子を持つものには共通点があった。知識欲が強い。発症すればその能力も加速する。未発症でもソフィアがここまで高い能力を習得できた所以だ。やがて彼女は能力の高さから魔女と呼ばれるようなった。魔女に選ばれた子は死に至る、一方でそう陰で囁かれた。

 ソフィアは研究のためにドナー制度で集まった中から有能な子供達を選び出し養子とし研究チームを作った。自らが構築した医療用AIを使い無限の組み合わせからある細胞を作り出した。
 肉体を強化するための、魔力による細胞破壊スピードを上回る再生能力のある人工細胞、そこにさらに癌の遺伝子配列ゲノムを取り込むことで免疫システムを回避し生来の細胞を破壊、体内で爆発的に増殖し肉体を作り変える。まさに神の細胞だ。

 だが肉体を作り変える激変には犠牲を伴った。肉体を強化する過程で細胞を移植された患者に激しい苦痛が襲う。これは過負荷オーバーロードと呼ばれた。これに耐えらず多くの能力者が命を失う中、一人の少女が生き残った。

 名をサクラス。生き残った彼女はこの研究の第一人者となった。能力者特有の青い瞳を有しても死ぬことはなかった。
 彼女はさらに薬事療法を提唱、反動による緩和ケアにも努めた。

 データベースでのサクラスの最後の記録は俺の入院から二十一年前。

 サクラス・グリフィス 死亡
 享年三十七歳

 俺と出会った頃、実年齢は五十を超えていたが彼女は見た目は十代のままだ。『大いなる魔女』と呼ばれた所以、それはある新興宗教の信仰の対象にまでなった。

 サクラスは限られた能力者の中からさらに細胞の適合者を選び治療する。だがそれはソフィアのためでもあった。
 長年発症することがなかったがソフィアもついに発症した。多くの養子が懸命に研究したのは自身と母ソフィアの延命のため。それを食い止めるための研究。志半ばで多くの子供達が病を発症し死に至ったがサクラスとAIがそれを引き継いだ。

 ソフィアを生かすため、サクラスは薬を開発し患者の治験を試みたが、能力が低いと細胞移植に成功しても薬の副反応に耐えられない。

 治験のためにソフィア以上に強い能力者が必要だった。
 そして俺が選ばれた。ソフィアと俺の遺伝子配列が似ていたことも選ばれた理由だった。

 発症すると能力者は情緒不安定になる。社会の中で攻撃的になり感情の揺れがさらに能力の暴走につながり死期が早まる。発症者が人から隔離される所以だった。なるべく患者の母国で治療にあたったのは患者が生まれ育った環境を変えるべきでないとするサクラスの判断だった。
 だが一部でこの研究に反対する組織があったため、治験施設は『大いなる魔女』により極秘とされていた。

 適性があると選ばれた患者は能力の強い順に番号を振られた。俺のナンバリングは『第二の器セカンド』、俺はすでに発症していて能力が強いが故に早急な治療が必要だった。

 骨髄移植の手術と俺は説明を受けていたが実際は強化された人工細胞の移植だ。術後の経過は良好、移植後の拒絶反応もなし。投薬が行われあらゆるデータが取られた。俺に激痛を伴う副反応が出たが効果があった薬がソフィアに投薬された。

 人工細胞にも薬にも適合はあった、だがソフィアの『神の器』は完成しなかった。発症から半年、彼女の寿命が病より先に尽きた。ソフィアは最後の治療を拒絶、命が尽きるその日までAI完成に手を動かしていたという。

 そしてあの日、死の淵を彷徨う俺にサクラスは、AI『ソフィア』が作り出した最後の薬を俺に投与した。それはソフィアが拒絶したものだった。


 俺はただひたすらに眠る。

 投薬のタイミングは決まっていた。久遠の時の中で時間がくれば凍えるような寒さの中で俺の意識は覚醒するようになった。

 俺は眠っていて目は開かない。だが人の気配がする。俺のカプセルの側に誰かいる。そいつが俺を見下ろしていた。カプセル越しに俺に手を伸ばした。極寒なはずなのに暖かい手に額を撫でられたようだ。それがとても心地いい。薬が投入されまた俺は眠りに落ちた。


 冷蔵冬眠コールドスリープ、長い長い夢の中で俺は理解した。


 俺はサクラスの、ソフィアのための薬の実験材料モルモット


 俺は彼女の被験者だった。

 
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