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Ⅴ メシア、俺。
052: 王立図書館
しおりを挟む納品が終わり錬金術士ギルドから輸送ギャラを受け取った。本来ミッション完了後に冒険者ギルドに戻ってからギャラを受け取るところだが、あの街に帰らない俺らのためにこっちで受け取れるよう便宜を図ってもらえた。冒険者ギルドのおねえさんには感謝感謝だ。
まずは宿だ。いつもの通り高級宿屋のスイートを押さえた。スイートに用意された個室は四つ、さすが王都、べらぼうに高い。だがきな臭いという噂で観光客が減ったため宿はガラガラだった。
「女神様ー、お疲れ様でした!ってあれ?」
俺がきゅるんと鏡を覗き込めば、いつもいる女神様が見えない。少し掠れたような声だけがした。
『お‥‥王都に‥‥ついた‥の?』
「ついたよ。あれ?見えてない?」
『なんとなく‥貴方の視界越しでわかる‥だけど、はっきり見えな‥わ。途中か‥ノイズが酷いのよ。どこ‥で強い魔力が流れているの‥しら』
「ノイズってひょっとして‥王都に入ってから?」
『なん‥も言えないわ』
「女神様は無事なんだよね?気分悪いとかない?」
『それは‥大丈夫‥ぉ』
「そう、それなら良かった」
ノイズ?電波障害?あの魔力の渦のせいか?
女神様は無事ということで胸を撫で下ろした。
「じゃあ俺たち、図書館行ってくるね」
『気を‥けてね』
女神様との通話がプツンと途切れた。こういったケースは初めてですごく嫌な感じがした。おそらくはあの謎の魔力のせいだ。こうなればさっさと調べ物して本を鬼買いしまくってここを出よう。
そこでポメラニアンがポンッと美少年の姿になった。
「どうした?」
「出来ましたら我は別行動を願えないでしょうか?」
「別行動?単独行動ということか?」
俺を守るポメが単独行動を願い出るのは二度目。前回は俺の魔導教室の時だ。それ以外は俺が特に望まない限り俺のそばにいた。王都に来るのは渋ってたくせに、どういうことだ?
「古い知り合いから先程連絡がありまして少し会って参ります。会うだけですのでそれほど時間はかからないかと。陛下のおそばには我の代わりにるぅが控えます」
「古い友人?ひとりで大丈夫か?」
「はい、心配ご無用です。後ほどご報告いたします」
「危ないことじゃないんだな?」
「我は大丈夫です。もし陛下の御身に何かございましたらすぐにお呼びください。時空を抜けておそばに馳せ参じましょう」
心配する俺にポメが苦笑している。ポメ少年にはどうも俺の過保護が発動するようだ。
ポメなら時空をすり抜けられる。問題ないはずなのに何やら不安がある。女神様とも通信障害だったからだろうか。
「ルキのそばにはわらわが一緒におる。安心ください兄者」
「そうだな、陛下を必ずお守りするのだぞ」
たぶんこの魔女っ子が俺の護衛ってところが不安なんだろう。
王都の図書館は王都の中央の、役所やら研究所やらが並ぶ一角にあった。「ルキアス」の記憶にも残っている。国民の識字率は低いものの、王都に住む上流市民は良い教育を受けているのだろう。無人だろうと思っていた俺の予想よりはるかに多くの人が図書館にいた。王立と謳うだけあって建物がデカい。そして金もかけている。ゴテゴテした入口を抜けるとそこは広いホールだった。
エントランスホールの床には海に囲まれたゴンドアナと呼ばれる大陸が描かれていた。俺の足が止まった。
「ゴンドアナ‥か。これは偶然か?」
俺の記憶が正しければ、ゴンドアナは前世の世界で古代に存在したとされる超巨大大陸の名前だったと思う。確か南がゴンドアナ、北は‥なんて名前だったか。まさか今がその頃ということはないよな?
そのゴンドアナ大陸の中央に翼を広げる天使を模した王家の紋章、このラトスリア王国がある場所だ。
ラトスリアは大陸の中央にある。周りにも大小の国がひしめいているが間違いなく人族最大の領土を有していた。神聖国家を名乗るほどに唯一神を信仰している国だ。だがその周りを取り囲むように魔族が住む太古の森が存在している。この森は太古より人族不可侵と神に定められたとされるエリアだ。つまりラトスリア及び人族の国は臨海していない。
俺の前世の世界でも地球が丸いとわかる前の世界地図は大陸のみだった。海の果ては絶壁の滝、そこに近づけば地獄に落ちるという。足元の絵はその頃の世界図に近い。天動説が信じられているから世界地図はこうなるだろう。
異世界でもこの星は丸いのだろうか。
それは大航海時代がこないと判明しないだろう。まあここが地球のような星と呼べる場所かもわからないが。地図に海は描かれているが、人族の国は海に面していない。故に人族は船を持っていないのだろう。
蒸気機関車はあった。蒸気船だって技術的には作れるはずだ。人族が大航海時代に達していないのは神に人族不可侵とされた森を侵せない、その信仰心が故か。地の果ての地獄を恐れているのだろうか。それとも?
改めてゴンドアナと書かれた文字を読む。全く同じというわけではないが、英語とロシア語が混じったような独特な文字。俺にとっては馴染みがある文字なんだが、なんでこの文字がこの異世界に?そこでふと思う。
あれ?俺前世で英語話せたっけ?なんで英語とロシア語に馴染みがあるんだっけ?
「ルキ?どうしたのじゃ?」
「今行く」
るぅの声で俺は我に返った。目的を忘れるところだった。受付を済ませ書庫の奥へ入った。
地理や歴史関連はもう読んだ。狙うジャンルは神学だ。ポピュラーなジャンルでもなく、書庫の奥を進む。途中ある書庫で魔女っ子が足を止めた。
「す‥‥すごいのじゃ。こんなにたくさん」
「ん?錬金術?」
奥の梯子を持ってきてやればるぅは飛び乗って上段の本を引っ張り出している。
「魔女に錬金術?」
「アーティファクトは金属を扱うでな。最近勉強し始めたのじゃ。人族の蔵書は素晴らしいのじゃ」
「まあ、ここ以上はないだろうな」
魔女っ子は動く様子がない。恐ろしく集中している。ページをめくる手も早い。ものすごい知識欲だ。だが俺はここに用はない。ここは書庫の奥、他に人もいないし別行動でも大丈夫だろう。
「じゃあ俺は奥にいるから」
「わらわもすぐ行くのじゃ」
目をキラキラさせて本を物色している。俺の方さえ見ていない。この様子だとすぐには来ないんじゃないか?
るぅと俺はこういうところは似ている。おそらく夢中で本を探す俺もこんなふうなんだろう。
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