【完結】ヒロイン、俺。

ユリーカ

文字の大きさ
上 下
23 / 114
Ⅱ メガミ、俺。

021: オーバーロード

しおりを挟む



 その後、動けるようになった俺を魔導士のお姉さんが街に転送してくれた。盗賊のお姉さんには抱きつかれてわんわん泣かれてしまった。お姉さん、無事でよかった。怪我をした自分を庇ったせいと思ったのだろうが、これは俺が勝手にやったことだ。

 街に転送された俺は小型犬に戻ったポメを抱いて温泉に直行。血まみれなのを薬草のせいと言い訳して風呂を貸切りサッパリした。新しいワンピースに着替えて冒険者ギルド経由で宿屋に戻って。そして三日間存分に食って寝て読んで寝た。だって俺、疲れたんだもん。

 とってきた薬草は戻った日にギルドに渡してきた。大量の薬草を前に受付のお姉さんに相当驚かれた。だろうね。報酬換算にはしばらくかかるというので俺は宿屋で待機状態だ。どうせぐーたら寝てたし。

 人面根は依頼になかったがギルドで買い取れるか聞いてみた。袋に入った現物を見せようとしたら受付のお姉さんから悲鳴が上がった。どうやら相当ヤバいヤツらしい。
 魔導士の立ち合いの元、結界を張り全員耳栓装備で袋の中の人面根と対面。ムンクの叫びは披露されたが皆無事だった。その後ムンクはギルド裏の薬草畑に突っ込まれた。しばらく様子を見ていたがムンクが歩き出す様子もない。畑が気に入ったのか葉ツヤもいい。ご満悦のようにも見える。言うことを聞かなかったら一発殴るところだったが。

 薬草ムンクの名はマンドラゴラ。貴重な薬草かつ特に活きがいいとのことで高価買取である。
 気になって翌日ギルドを覗いたらムンクの株は2つになっていた。その翌日には4つ、そして今朝は8つ。どうやら畑の土とふんだんの肥料、温泉地熱がムンクに合ったらしい。ギルドの薬草担当はホクホク顔だが、増え方がねずみ算のようでゾッとしたのは俺だけだろうか。いつかこの街はムンク一族に支配されるんじゃないか?

 後にこの街はマンドラゴラの一大生産地となったのだが、それはもう少し先の話だ。


 Sランクお姉さんたちはまだ街に戻ってきていない。ゴブリン討伐と思いきや実はドラゴンが裏で糸を引いていた。と、そっちの方が大騒ぎだったらしい。
 つまりギルドの業務斡旋ミスということらしいが?いやいや、これ無理くね?まあ冒険者側にとってもギルド提供の情報を信じるしかなく、結果今回のようなことも起こりうるっちゃ起こりえるんだが。幸いにも今回命を落とした冒険者はいなかったらしいが、冒険者のための労災保険の実況見分と警備隊の現場検証でお姉さんたちはまだ戻れていないそうだ。

 魔王が竜を倒した云々は証拠不十分なのもあり一蹴されたが、噂が風のように伝わり魔王が現れた最寄の街ということで観光客が押し寄せている。これもどうよ?

 魔王が開けたとされる穴は"マオウトンネル"と名付けられ急ピッチで道路開発が行われる計画だ。ここ二、三日で電光石火で決定したと宿屋でもその話題でもちきりだ。新ルートはトンネルがキモで王都までの輸送日程が半減するほどの相当な物流革命らしい。これはこの街が王都の食物庫になれるということを意味する。こっちは商人の期待が大きそうだ。仕事を求めて人も集まって来るだろう。

 魔王の経済効果怖ぇ。そしてみんな暇人だな。

 そんな騒ぎを他所に当事者の俺は大人しくしているだけだ。


 そして今。

 俺は自室の鏡の前で愛しの嫁とティータイムだ。

 デレデレする俺にツンデレ女神様はむぅとしつつも付き合ってくれている。テーブルにはカップが左右二つ、俺が右を飲んで女神様が鏡に映った左を飲むという心遣いだ!俺すごい!

「女神様と念願のお茶‥‥夢みたいですぅ!」
『これ、楽しい?』
「楽しいですぅ!嬉しいですぅ!頑張った甲斐がありましたぁ!」

 そう!今回俺頑張った!レベルはなんと!一日で45まで一気に上がった。祝!脱初心者ノービス!たった一日で爆上げである。下っ端騎士くらいには強くなった計算になるそうだ。まぁドラゴン倒したし?

 大怪我して死にそうなほど痛い思いをした割にそれほど上がってなくね?と思ったのは内緒だ。まあ痛かったのは原因別だし。レベリングイマイチな要因は俺(魔王)一人でドラゴンを狩ったわけじゃないからと、これは推測だが魔王自体のレベルが上がりにくいのかもしれない。強力キャラは育成が遅いのはお約束だ。俺、耐性だけでもチートクラスだし。あとはあのドラゴン自体がああ見えて雑魚だったから。見掛け倒しの雑魚とはいえ人族には十分脅威であったが。

 俺が魔王のレベルに戻れるのはいつのことやら。

『まあ?ちょっとは強くなったかしら?』

 ‥‥俺の嫁、鬼嫁。スパルタばっかじゃなくてちょっとは俺のこと褒めてくれてよくね?よく頑張ったねダーリン!からのご褒美なでなでとかラブラブチュッチュとか?鏡越しでもできるし?俺は褒められて育つんだよー?

 そんな思いでおねだり電波を送るも俺の妻は華麗に無視。ツンと塩対応だ。しょっぱいな!

 でもまあ?女神様のそんなところもいい!

「でも少し俺との時間が伸びたんですよね?」
『そうね、でもまだまだだわ。過負荷も酷かったでしょ?』


 過負荷オーバーロード———

 俺の器が弱すぎる、女神様がそう言っていた意味がこれだ。

 俺の体に封印された魔王が現れた。レベル4852の魔王がレベル1の肉体に降臨したわけで。短時間だったが強すぎる力に俺の肉体が耐えられるはずもない。よって魔王消失直後に過負荷の反動が来た。

 四肢が少しずつ粉々のバラバラにじょりじょり大根おろしで削られるような全身苦痛、何の拷問?筆舌に尽くしがたい?涙無しには語れない?トラウマ級ガクブル恐怖体験だ。あれはマジでキツかった。もう勘弁である。俺が神の器で死なないというあたりがさらにタチが悪い。まさに生地獄。失神できてよかったよ、グッジョブ俺!

 兵士は拷問対策で意識が飛びやすいように気絶訓練しているらしいが、俺もそれやろうかな?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

【R18 】必ずイカせる! 異世界性活

飼猫タマ
ファンタジー
ネットサーフィン中に新しいオンラインゲームを見つけた俺ゴトウ・サイトが、ゲーム設定の途中寝落すると、目が覚めたら廃墟の中の魔方陣の中心に寝ていた。 偶然、奴隷商人が襲われている所に居合わせ、助けた奴隷の元漆黒の森の姫であるダークエルフの幼女ガブリエルと、その近衛騎士だった猫耳族のブリトニーを、助ける代わりに俺の性奴隷なる契約をする。 ダークエルフの美幼女と、エロい猫耳少女とSEXしたり、魔王を倒したり、ダンジョンを攻略したりするエロエロファンタジー。

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...