【完結】ヒロイン、俺。

ユリーカ

文字の大きさ
上 下
14 / 114
Ⅱ メガミ、俺。

012: 俺のパワースポット

しおりを挟む



 朝食を終え遠征に出かけるお姉さん方に手を振って俺はポメと共に店が並ぶ中心街へと向かう。街は何度も見て回っているから特に目新しさはない。今回はある店が目的だ。

『陛下、よろしかったのですか?』
『なにがだ?』 

 ぽてぽてと俺にリーダーウォークでついてくるポメの念話に俺も念話で返す。普段ポメとは肉声で会話するが外でそれをやっては俺が一人妄言症の怪しいやつになってしまう。よって俺も念話での会話だ。

『あのパーティに参加されたかったのでは?』
『そりゃ行ければよかったが、まー、無理だろ』

 実は俺、強い魔力を買われパーティに入らないかとお姉さん方に誘われたのだが断った。美女だらけのパーティ参加、普通に考えれば大変魅力的なお誘いだったが、ああいう実力のあるパーティは英雄との接触もありえる。魔族に拐われたはずの俺が依頼で変態二人と鉢合わせとか流石に危険すぎる。そもそも冒険者パーティなんて危険処理班、戦闘は避けたいが本音だ。それに———

『俺を誘ってくれたのは女と思ったからだし。男とバレれば即終了だって。流石に行動を一緒にすれば女じゃないって気がつくだろ?』

 付かず離れず、オトモダチなら男とまずはバレないだろう。

『人族の戦闘を観察するならあの手の輩に同行するのが手っ取り早いです』

 真面目なポメは偵察で人族の街に潜入していると思っている。最もな意見だ。直接ダメとは言わずそこはやんわりといなす。

『言いたいことはわかる。俺も興味はあるがまだ早い。それはおいおいな。おっと、ついたぞ。ここかな?ん?んんんん?』

 宿の女将に地図で教えてもらった店を見つけた。どうせ小さい店だろうと特に期待していなかった。だが見上げた店は実際なかなかに大きな店だ。店頭にはうず高くアレの入った棚が並んでいる。その風景と独特の香りに俺の心拍と血圧が一気に限界MAXまでぎゅーんと上がった。見えるものが潤んで見えてきた。

 え?マジ?マジか?!ホントにあった!! 
 嬉しくて目から涙まで出てきたぞ!!

 人目も気に出ず腹の底から歓喜の雄叫びが出た。俺の魂の声だ。

「おおぉぉぉッ!本!すッげぇ!こんなにたくさん!キッターッ!これはもう買うしかないだろ!じゃんじゃん買うぞ!」
 
 元々俺は生前読書オタク、活字中毒だった。本を恋しく思うもめぐる街にことごとく本屋がなくてガッカリしていたのだ。ここ二週間ですっかり活字禁断症状だ。この街にもないだろうと諦めていたところでやっと本屋というパワースポット(俺限定)が見つかったんだ!テンション上がるだろ!!

「ルキアス」の知識があるから俺の識字については全く問題はない。この世界のアルファベットは英語とロシアに似てちょっと非なるものだ。ルーンも入ってる。文法はほぼ英語、馴染みやすい。問題は面白そうな本があるかどうか。ついでにこの世界の人族の文化も学んでしまおう。

 金は唸るほどあるが、実はそれほど使っていない。治安のいい宿にいい食事、観光に買い食いに金は使った。だが買い物は興味がない。俺に似合う可愛い服を大量に買い込んだくらいだろう。よってずっと唸っていた金は迷わずここにオールインする。

「これと‥これ。これも面白そうだな。あーすみませーん、何か袋か箱ありませんかー?」

 文化、芸術、政治、歴史、地理、経済。ちょっとした小説もあった。驚く店主が出してきた袋に俺はじゃんじゃん本を入れていく。

 そこでふとある本棚で手が止まった。
 ずっしりと並んだ教本だ。

「ん?魔導書?」

 え?魔導って本で勉強できんの?いわゆる実用書か?「ルキアス」の記憶では魔導は学園でしか習得できないと教師が言っていたような?なんだ、独学できんじゃん。

 超初級と書かれた薄青い本をパラパラめくる。どうやら最初の魔力放出方法が書かれているらしい。応用編や極編まで出ているから売れてるシリーズなのかもしれない。
 学園なんて通えるやつは金持ちのひと握り。冒険者を志し魔導を学びたいと思う者もいるはずだ。これはそんな苦学生向きなのだろう。それでも他の本よりは相当に高い。魔導士は貴重な職種かもしれない。

「魔導か‥‥」

 お姉さん方に魔導を鍛えれば強くなれると言われたわけで。そう言われれば興味津々だ。魔導は頭脳系で物理攻撃のような汗水たらす練習や筋トレもいらない。何より飛び道具だ。遠隔から攻撃できれば怪我のリスクゼロだし?
 以前は魔導イラネ!と思ったが今なら持ってて損ないな。買い占め上等!ザラザラーっと本棚から全巻出した。本屋なんて次はもうないかもしれないし?手加減なしだ!

 その後あれこれと手に取り、結局サンタが担ぐような大袋3つお買上げになってしまった。

 いやこれでいい!我が生涯に一片の悔い無し!

「すみませーん、これくださーい♪」
「え?!これ全部買うの?!お金あるの?!」
「ハイッあります!全部くださいな♪」
「君一人?持って帰れないでしょ?!」
「ダイジョブでーす♪こう見えて力持ちでーす♪」

 ニコニコ現金払いで全巻一括購入、ビバ・ザ・大人買いだ。本屋の本棚の半分近くをお買い上げ、店ごと全部買っても良かったが今日はこのくらいにしといてやろう!
 ものすごい量だが全てポメの時空収納に突っ込んだ。ファンタジーお約束のスキルなんだが、コレ便利ダナー   

 本は全て凸版印刷で刷られていた。しかも4色カラー、少し滲みがあるが十分だろう。紙漉きも製本も丁寧、装丁もデザイン性がある。本を大事にしている。てっきり巻物スクロールに手書きの写本かと思っていた。紙と本に関する技術が高い。文字があり紙がある、更に印刷から製本までできれば技術を後世に伝えられる。つまり製本技術はその文明レベルの高さを表している。
 識字率が高ければ国民のレベルも上がるだろうに。街に庶民向けの学校や図書館はあるのか。いや、本屋が激レアなあたりで推し量るべきだろうな。

 他にも宿の食器などは全て陶器だったり水洗トイレがあったりと驚かされることも多い。科学文明が全くない中世のような生活なのにところどころの技術が高かったりする。そのチグハグがとても気になるところだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...