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第一部

第18話 ※

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「たくさんイって気持ちよさそうですね。僕も気持ちよくしてもらえますか?」

 エデルに手を取られ布ごしの何か硬いものに後ろ手に触れる。それが興奮したエデル自身と悟り目を瞠った。
 エデルに初めてねだられた。あれだけ結ばれたいと思っていたのにいざとなると怖い。指を一本入れられただけなのにあの異物感。こんな大きいのは絶対入らない。壊れてしまう。怖気づいて震えるエルーシアにエデルはああ、と笑顔になる。

「大丈夫です、挿れません。挿れなくても気持ちよくなれるんですよ、男もね」
「‥‥え?」
「本当は気が狂いそうな程にエルシャ様とシたいです。でもシませんよ」

 囁く声が蕩けそうに甘く優しい。エデルの手がエルーシアの髪をかき上げ耳にかけた。

「貴方は僕のためにその純潔を守り抜くんです。無垢なここを誰にも奪われてはいけません。ここが誰かを受け入れればすぐにわかります。初めては僕のために取っておいてください。いいですね?」

 スルリと滑り込んだ中指に膣壁を探られなぞられる。

 誰とも交わってはいけない。そのためにエデルは自分を抱かなかったのだと理解する。もし誰かと交わればエデルはすぐにわかる。中の指の動きでそういうことなのだとわかった。

「エデル‥」
「でもエルシャ様が可愛すぎて僕も限界です」

 指を抜きごそごそと服を脱ぐ気配。そしてエルーシアの腰が持ち上げられ太もものつけ根に硬いものが背後から差しこまれた。触れ合う太ももでエデルも服を脱いだとわかる。そしてエデルの熱い息が剥き出しの耳にかかった。

「よかった、たくさん濡れてます。痛かったら言ってください」

 そう言ってエデルの滾りがエルーシアの秘所を擦り始めた。最初はゆっくりと、それが硬く太くなればエルーシアの愛蜜を潤滑油に動きは速くなる。獣の交尾のような行為にエルーシアは羞恥で体をこわばらせ脚を閉じる。いや、この行為は交尾だ。挿入されていないだけ。

「‥もっと脚を‥」

 いつもと違うエデルの熱のこもった声に勇気づけられおずおずと太ももにさらに力を入れる。恥ずかしくて脚を閉じてしまったがそれがよかったようだ。エデルからくぐもった声が聞こえる。

「気持ち‥いい?」
「いいです‥すごくいい」

 硬いものがエルーシアの濡れそぼった秘裂と肉芽を掠め、エルーシアは口を塞いで必死に声を堪えた。腰だけ突き出したエルーシアの背後から抱きしめ両手で胸を揉みしだかれる。髪をかき分け晒されたうなじから耳裏まで舐め上げられエルーシアの背が弓なりに反った。ギシギシと鳴るベッド、腰を打ちつける乾いた音、二人のくぐもった熱い声が本当の交わりを連想させた。エデルの荒い息にエデルの限界が近いとわかる。

「エデル‥ハァ‥エデ‥」
「すごく‥エルシャさ‥‥エルシャ‥」

 初めて名を呼び捨てにされた。求められてる。そうとわかるその甘露な囁きにエルーシアは胸が熱くなり目を閉じた。
 エデルがエルーシアを抱き寄せ動きを止める。そして手に持っていた黒いシャツを充てがう。うめき声と共にびくびくと震えるエデルから白濁が溢れ出したがそれをシャツで受け止めた。腰を振りながら全部出しきったエデルがエルーシアを解放した。

「エルシャ様‥」

 脱力しベッドに伏せるエルーシアを横向かせ舌を絡ませる。その濃厚なキスにエルーシアは陶然とエデルを見上げた。

「ああ、ダメだ、全然足りない‥」
「エデル‥」
「もっと、もっと欲しい‥」

 仰向けにされのしかかられ熱にうなされたように口づけてくるエデルをエルーシアが抱きしめる。堰をきったようなエデルの愛撫にエデルはずっと堪えていたんだと悟る。だがエルーシアの思考はすぐにその愛撫に翻弄され流された。

「エデル‥愛してるわ‥」

 その囁きは深いキスの中に消えた。





 エデルにその後さんざん貪られ解放されたのは明け方近くだった。物音に意識が戻る。気を失っていたか眠っていたのだろうか。窓から外を見ればうっすらと空が白んでいた。

「エデル‥?」
「すみません、起こしてしまいましたか」

 暗い部屋の中で動く人の気配。エデルとわかっているから怖くない。体がものすごくだるい。重い腕を持ち上げ自分の体に触れれば夜着を着せられているとわかる。汗だくだった体は何かで拭かれたのかひんやりしていた。エデルは下は履いていたが上は何も着ていない。あの逞しい体に抱きしめられた。シャツは何度も使ったから着られないだろう。
 そこでエデルとの生々しい睦み合いを思い起こしエルーシアの顔が真っ赤に茹だった。

「随分無理をさせてしまいました。遠乗りの言い訳もあります。一日休んでください。多分‥今日は動けないと思います」
「もういくの?」
「そろそろ仕事が始まります」
「こんな朝早くに?」
「それが仕事です。馬は早起きなんで」
「でも寝ていないでしょ?」

 ずっとエルーシアと一緒にいた。それで働いて大丈夫なのだろうか。エルーシアの囁きにエデルが微笑んだ。

「一晩くらい大丈夫です。これでも体は丈夫ですし今日はむしろ調子はいいです。厳しければ休みます。よい職場で助かりました」

 ふと自分との境遇の違いに胸を突かれる。エデルは働かないと生きていけない。自分はそうじゃない。あの溝が目の前に現れた。

「私も働いて‥」
「エルシャ様は侯爵令嬢という仕事があります。なかなかに大変でしょう」

 ちっとも大変じゃない。何もしていないから。
 以前義兄を気遣って手伝いを申し出たがそれも断られている。きっとエデルに比べれば赤子のように何もできないだろう。
 エデルと離れたくない。ここから出たい。働くという行為をしたことはないが、頑張ればどうにかなるだろうか?檻から出て働いてエデルと共に外で暮らしたい。でもそれは侯爵令嬢に生まれついた自分が言うのはわがままだろう。領民を守る一族の義務を放棄した考えだ。口を開きかけたエルーシアは言葉なく口を閉じる。

「ではエルシャ様、また明日午後の休憩で参ります」
「ええ‥無理しないでね」
「はい、エルシャ様もゆっくり休んでください」

 そっと口づけられ微笑んだエデルが立ち上がった。そして隠し扉に姿を消した。耳をすませば遠くで扉が軋む音と、足速に駆ける音がする。

 離れたくない。一緒にいたい。
 でもどうすればいいの?

「エデル‥行かないで‥」

 枕に顔を埋めエルーシアはそっと囁いた。
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