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第一部

第22話

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 翌日、エルーシアは体調不良を言い訳に寝室に閉じこもった。エデルにも同じ言い訳で会わなかった。
 エデルにダメだと言われたのにラルドに身を任せてしまった。エデルとの睦み合いに似た行為にエルーシアは懺悔から目を瞑る。もしエデルに同じ事をされたら悲しくて死んでしまうだろう。そう思えばエデルに会わせる顔がない。会いたいのに会えない。それがとても切ない。エルーシアはラルドの痕が残る体を抱きしめた。

 兄妹なのに、慰めとはいえあのように体を触れ合わせてはいけない。拒絶しても無視され縛られた。なのになぜか体は嫌悪も恐怖も覚えずむしろラルドの手の快感に流された。いくら考えてもそれが訳がわからない。
 
 午後伏せているエルーシアにラルドが見舞いに寄ってくれたが面会を断った。優しい義兄の態なのだろうが、昨日の今日で顔を合わせづらい。
 慰めというがなぜ義兄はあんな事をしたのか。ただの戯れなのかそれとも兄の慈愛か。性的欲求の吐け口‥とはあまり考えたくない。エルーシアには義兄の真意がやはりわからなかった。

 でもこれ以上義兄に体を許すわけにいかない。エデルにも気をつけるように言われている。日中なら侍女がいるから滅多なことをしない。でも夜義兄が部屋に来ては抵抗ができない。力で抑え込まれればきっとまたあの快楽に流される。昨日は手で触れることは阻止したが熱に流され最後は接触を許してしまった。エデルのためになんとしてもこの体を守らなければならない。

 ふぅとエルーシアは息を吐き出した。

 誰がいいだろう。ドロシーでは耐えられないかもしれない。もっと強い意志がある人がいい。多分あの人しかいない。でもこんなことをお願いして受けてくれるかしら?

 散々迷った挙句にエルーシアは声をかけた。

「あの‥お願いがあるの‥」




 深夜、ラルドはエルーシアの部屋のドアを静かに開けた。遠く続き間の扉からランプの灯りが漏れている。義妹はまだ起きていて自分を待っているとわかりラルドの口元が弧を描く。ガウンは纏っていたがその下には何も着ていない。

 昨晩はエルーシアが愛しいあまりに長く秘めた想いが暴走してしまった。昼に顔を見に寄ったがエルーシアを怯えさせてしまったためか会ってもらえなかった。拒絶は悲しい。今日は気をつけなくては。ゆっくり自分の手の中で慣らさなくてはならない。
 無垢だと思っていたエルーシアがあれ程に甘やかに乱れた。自分達が惹かれあっているが故だろう。


 七歳でエルーシアが本邸を出されるまでラルドとエルーシアは常に共にいた。二ヶ月年下の義妹。年齢からすれば二卵性の双子にも思われるが、エルーシアはラルドより体も小さく力も弱かった。両親を失い孤独のエルーシアがラルドに甘える。ラルドに母はいたが親子の情はなかった。愛情に飢えた二人は寄り添って暮らしていた。
 だが二人が七歳になった年に母はエルーシアを別邸に追いやった。夏の暑い日、薄着で二人抱き合って昼寝をしていたのだがそれを見た母が悲鳴をあげたのだ。理由はエルーシアが母親に似てきたから。ただそれだけの理由で愛しい妹を奪われた。
 自分には欠片の愛情もかけなかったくせに自分を支配しようとする。ラルドの心が黒く染まったが母の理不尽な行為に七歳の子供では反抗する術もない。

「シア、必ず迎えに行くから。それまで我慢して」
「おにぃさま‥」

 泣き腫らし別れを悲しむ大好きな妹。ラルドも切なさで胸が痛んだ。追いやられる別邸は森の奥の寂しい場所だ。なぜあそこにエルーシアを追い込むのかラルドは意味がわからなかった。だが数年ののち、ラルドはその幸運にひっそり感謝した。
 深い森の中にある別邸は世間から隔離させた世界。そこは自然の牢獄だ。その中のエルーシアは誰にも染まっていない。別れたあの日の無垢なままに成長するエルーシアを密かに通っていたラルドは眩しげに見つめた。
 エルーシアは少しずつ体が大きくなり胸が膨らむ。眩い笑顔を纏う義妹は蝶が羽化するように美しく成長した。無邪気に自分の腕に飛び込む義妹にラルドは自分の想いが慈愛ではないと悟る。
 口づけてエルーシアの全身を撫でて可愛がる。子供の頃にエルーシアに触れていたのは今思えば恋人への愛撫だった。すでに幼いあの日にラルドは無自覚にエルーシアに恋をして愛していた。

 母親にそっくりだというエルーシア。父はエルーシアの母に自分と同じこの想いを抱いたのだろうか。

 だが母がエルーシアを忌み嫌った。父の側妻だったエルーシアの母を恨むならまだわかる。だがその子のエルーシアに罪はない。何度もエルーシアを本邸に戻そうとしたが母が断固として許さなかった。
 母はひょっとしたら自分のエルーシアへの想いに気がついていたのかもしれない。だからエルーシアを退けた。半分だけ血の繋がった兄妹、そして父を虜にした側妻によく似た娘が己の息子を奪う。それが許せなかったのか。だがその母も病で亡くなった。ラルドを阻むものが、邪魔者がいなくなったのだ。

 これで存分にシアを愛することができる。私だけのシア‥‥もう誰にも渡さない。

 喪が明けるのを待ってエルーシアを攫うように本邸に連れてきた。これで毎日愛しいシアに会える。だが懸念があった。
 牢獄だった別邸から出たエルーシアは人の目に晒される。美しい義妹が誰かに攫われやしないか。そしてその懸念は的中した。幸い大事にはならなかったが、エルーシアが攫われたかもしれないという恐怖にラルドは動いた。

 誰にもシアが触れられないように。攫われないように。この屋敷から、部屋から出してはダメだ。

 窓という窓に鉄格子、異性の排除、エルーシアの外出禁止。警備も倍に増やしたがその警備もエルーシアから遠く離す。男の家人は身元のしっかりしたものだけにした。そうして愛しい義妹を己が手の中に閉じ込めた。
 今までの空虚な時間を埋めるように毎日エルーシアに会う。そして特に最近美しくなった義妹にラルドの理性が緩み出した。おやすみのキスという言い訳の元で夜に抱き寄せて初めて唇に口づけた。子供の頃散々キスをして愛撫したためかラルドのそれを素直に受け入れるエルーシアに更に仄昏い想いが募った。
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