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第二部

第25話 ※

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 廊下の暗がりをエデルはエルーシアの手を引いて歩いていた。夜会のホールから出てきたばかりだ。音楽が流れ人々の喧騒が遠く聞こえてくる。
 イブニングスーツ姿のエデルの早足にエルーシアが小走りになっていた。普段と違いイブニングドレスを纏っているためエルーシアはスカートを持ち上げている。

「エデル!待って!あの態度は良くないんじゃないかしら?」
「大丈夫です、きちんとホストへご挨拶したでしょう?」
「えっと‥そちらではなくて‥」

 言い淀むエルーシアにエデルは足を止めてにこやかに振り返る。

「ああ、いいんですよ。だってあの男はエルシャに触れようとしたじゃないですか。僕なりに丁寧にお断りしましたよ?」
「でもダンスを申し込まれただけよ?」
「ダンスはダメだと言ったでしょう?僕以外の男の手がエルシャの背に回るなんて許せません。ましてやあんなに腰をぴったりつけて‥」
「でもそういうものだから‥」

 再びエデルに手を引かれ二人は扉が少し開いていた個室に入る。扉が閉まれば落とし錠ががちゃりと落ちる音がした。そして堪え切れないとばかりにエデルがエルーシアを抱きしめる。

「ちょっと目を離しただけで男が寄ってくる。僕の妻なのに節操のない奴らだ。エルシャも気をつけてください」
「で‥でも」
「このドレスも失敗しました。ドロシーたちに勧められましたがこんなになるとは」
「え?に‥似合わない?」
「似合いすぎです!ダメでしょうこんなのは!」

 エデルがエルーシアを抱きしめたまま絶叫した。

 今日のエルーシアのドレスは胸の下で切り替えるハイウエストのドレスだ。胸で切り替えるため胸下から足まで伸びるスカートが緩く広がり妖精のように美しい。流行りの型らしいが体型はわからない分胸は強調される。ドレスを仕立てる際にドロシー始め侍女たちの意見を採用した。ドレスはやはり女性に任せるべきだろう、と。だがそれが失敗した。

 胸で切り替えるドレス故に美しく豊かな胸が強調される。襟ぐりの開いたドレスはエルーシアの美しいデコルテを上品に縁取っていたが、エデルから見れば開きすぎだ。前屈みになったり背の高い男が見下ろせば美味しそうな谷間がばっちりだ。触れれば簡単に手が谷間に入ってしまう。エデルでさえ生唾を飲み込んでしまった。

「夜会で男供の視線を集めていたのに気がついていなかったんですか?さっきの男はダンスじゃなく明らかに胸を見て体に触るのが目的でした」
「え?そんなはず‥」
「もっと男の視線と欲情に警戒して!胸もすごいけど実は腰もきゅっと細くてお尻も丸くて柔らかいとバレたら大変なことになります!しかも中身も見た目もこんなに可愛らしいのに!」
「え?え?」
「僕がそうと知ったら‥もちろん知ってますが!暗がりに掻っ攫って!ドレスを脱がせて押し倒して!散々イかせて夜通し哭かせます!そんなことを他の男がエルシャにしたらと思うと‥」
「え?ええ?!エデル?何を言って?!」

 その妄想が頭を掠め、嫉妬からエデルの手がエルーシアの胸を這い回った。

「やッエデルダメッああんッ」
「こんな男を煽るようなドレスはもうダメです!新しいドレスは詰襟にしましょう」
「ええ?そんなナイトドレスはないわ。このドレスもエデルが買ってくれたばかりで‥」
「そんなもの、いくらでも僕が買います!」

 思った通り開いた襟ぐりから胸の谷間に簡単に手が入った。豊かな胸を鷲掴みにして揉みしだく。扉に押しつけられエルーシアは動けず必死にエデルに懇願した。

「エデル‥あん‥ダメここ‥扉」
「ああ、そうですね、声は控えてください。廊下に誰かいたらエルシャの可愛い声が聞こえてしまう」
「だからやめ‥ひゃん‥」

 広い襟ぐりのドレスをシュミーズごと肩から押し下げ白い胸を目の前に晒す。鎖骨の下に吸い付いて赤い鬱血痕をつけていく。そして舌を這わしながらエデルの頭が胸の谷間に下がっていく。ちくりとあちこちに虫刺されのような痕を残した。

「ダメッそんなところに痕つけたら‥」
「僕の印です。もう胸元を晒すドレスは着なくていいですから」
「やめて!ドレス破けちゃう!せっかく‥エデルが初めて買ってくれたドレスなのに‥」

 そこでエデルははたと気がついた。このドレスを着た時エルーシアはとても喜んでいた。それは新しいドレスだからではなく自分が贈ったものだったから?そう思えば嫉妬で尖った心がきゅんと鳴って和む。ドレスを乱され涙ぐむ愛妻をエデルは抱きしめた。

「すみません、暴走しました。こういうのはもうないと思っていたのですが僕もまだまだですね」
「エデル‥」
「乱暴はいけませんね。ちゃんと、きちんと優しく脱がせて抱きます」
「え?え?いやそうじゃなく‥」

 ドレスを申し訳程度に直しエルーシアを膝の下から掬い上げる。そして窓際のベッドに横抱きで運びそっと座らせた。意図を理解し真っ赤になって暴れるエルーシアを宥めながら背後のリボンを解いてドレスを脱がしていった。シュミーズ姿にされエルーシアは恥じらって身を捩る。ドレスを椅子の背に丁寧にかけてエデルはベッドに戻りエルーシアを抱き寄せた。

 散々体を重ねてもまだこんな初心な恥じらいを見せる。可愛いなぁ

「夜会の‥ここじゃだめ‥せめて帰ってから‥」

 この小悪魔は‥ここまで脱いでそれをいうか?順番が逆だ。それとも僕を煽っているのか?だとしたら成功してるし。だがこの天然なところもまた堪らなくいい。

 他の女性とちょっと違う反応を見せるエルーシアに悶えつつエデルが笑顔で答える。

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