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しおりを挟む某ファーストフード店。
奥にある四人掛けの席の壁際にオレ、正面にド派手な三木。
そして隣には何故か強面の春日。
なんで隣に座るんだよなんで隣なんだよ怖いよ出れないじゃん三木の隣に座れよ。
端から見たらカツアゲされてるみたいだよコレ絶対カツアゲだと思われてる。
それかイジメだ。
無理矢理奢らされてるみたい、てか財布?オレこいつらの財布と思われてんじゃね?
逃げたくても椅子が壁にぴったり付いてるタイプのソファなうえ春日が退路を断っているために出来ない。
周りの客やら店員やらの凄く気の毒なものを見る目がオレの想像を現実だと物語っている。
しかし今のこの状況はカツアゲでもなし、ましてや財布でもなし。
「食え」
「……」
ずい、と差し出されるトレー。
もちろん自分で注文をしていないしお金も払っていないのに、その上にはオレの好きなハンバーガーに好きなジュース。
一体どこで調べたのだろうか。
気持ち悪い。
「春日の奢りだから気にしないで食いなよー」
「お前のは払わねえぞ。金出せ」
「けちー、秋吉クンに奢るんならオレにも奢ってよ」
「なんでお前に」
「オレが秋吉クン見つけなかったら今日はこうして一緒にいらんなかったかもしれないじゃん。お礼だと思ってありがたく奢れ」
「ありがたくの意味わかんねえし」
そう言いながらも、へらりと笑いながら自分のポテトを頬張る三木にこれ以上の要求はしない。
というか奢りというのが非常に怖いのはオレだけだろうか。
そこまで親しいわけではないから、なんだか素直に受け取ってしまってはいけないような。
何か見返り求められたらどうしよう、とか。
いや別に求められた所でこの料金叩き付ければ良いだけの話なんだけど、何にせよ今すぐ逃げたい。
走って逃げたい。
そのためにはテーブルを跨ぐかテーブルの下を潜るかしなければならないけど。
春日をソファに沈めればいけるかな、なんて出来るはずがないのにそんな事を悶々と考えてしまう。
「……別に何もいらねえから」
「え」
大きな溜息を吐いて春日が呟く。
顔を上げると、むっとした表情の春日と笑う三木の姿。
「秋吉クンわっかりやすいなあ」
「何が」
「奢るからなんかしろ、とか言われると思った?」
げ、何でわかったんだ。
そう思っていると、顔に書いてあると言われた。
「ははっ、秋吉クンかあわいいー」
「……」
そんな事言われても嬉しくない。
全然嬉しくない。
「睨むなよー、全然怖くないし」
「ちょっ」
睨んだらがしがしと髪を乱すように撫でられた。
セットしているわけではないけど止めて欲しい。
眼鏡が飛ぶ。
というかオレの隣の怖い気配に気付かないんだろうか。
顔と同様視線だけで人が殺せそうですが。
「春日が怖いからこの辺にしとこうかな」
気付いていたらしい。
最後にぽん、と軽く撫でてから離れた。
「……」
さて、それはそうと春日の怒りが解けないのは何でだ。
最近はこいつに対して余り恐怖を覚える事はなかったのに、そんなに見られたらオレの蚤の心臓が潰れてしまう。
気を紛らわせるために目の前に差し出されたハンバーガーにかぶりつく。
「……で」
「?」
じっと見られているのと雰囲気の怖さに味なんかわからないまま一口目を飲み込むと同時にかかる声。
「さっきのは何だ。彼氏か」
「っ、ごほ……っ!!!」
突拍子もない話にパンが喉に詰まった。
「っ、な、何っ」
「あーあー、大丈夫?はいジュース」
「んっ」
手渡されたジュースを慌てて流し込む。
しぬかと思った。
「動揺するって事は図星か」
眼光がより鋭くなる。
「中々頷かねえと思ったらそういう事かよ。隠れやがったのも邪魔されたくなかったからか」
「ちょっ、待っ、何言ってんの!?」
「あ?そうだろうが、そうじゃなきゃなんでいつまで経っても頷かねんだよ」
何言い出すんだこいつは!!!
「あほかああああ!頷くはずないじゃんオレ男に興味ないって言ってんじゃん!隠れたのはアンタが怖いからだっつーの何恐ろしい誤解してんだよ!?」
冗談じゃない。
なんでオレが友達と付き合わなければならないんだ。
頭沸いてんのか、そうかそうに違いない。
立ち上がらんばかりの勢いでまくし立てるオレに春日の怒りのオーラが和らいだような気がする。
「……じゃあアイツは?」
「ただの友達!変な勘ぐりすんなよ、向こうにも失礼だろ!」
「……そうか」
「そうだよ!」
あーやだやだこいつの考える事って本当にわけがわからない。
僅かに乗り出していた身をソファに沈め、ふんっと息を吐き出し、再びもぐもぐとハンバーガーにかぶりつくと、右手をがしりと拘束された。
「……いっ、たいな馬鹿力!」
「うるせえ」
「なっ!?」
言い返そうとしたのだが、妙に間近に迫っていた春日に気付き光の速さでソファから壁に背を預けた。
「……何避けてんだよ」
「いやいや避けるだろ!つか何する気だよ!?」
「決まってんだろ」
「いや決まってないから!なんだか知らないけど決まってないから!ちょっ、離……っ」
拘束された手を目一杯伸ばしこれ以上接近しないようにしたのだが、自由だった手まで掴まれ状況は悪化。
ぐいぐいと迫る春日に力でなんて当然適うはずがない。
この雰囲気には非常に不本意ながら覚えがある。
これはアレか、このままいくとアレか、ちゅーとかちゅーとかちゅーとかしちゃうつもりなのか。
勘弁してくれ何が悲しくて公衆の面前でちゅーなんてされなくてはならないのか、というか。
(ちゅー自体がありえねえっつーの!)
しかしどうしよう、避けようにもソファと壁に阻まれこれ以上後ろには下がれないし、きっと下を向いても横を向いても上手いこと追ってくるだろう。
殴って止められるものなら殴りたいが拘束されているから無理。
腹でも蹴飛ばしてやろうかと足を上げたらテーブルに膝を強打してしまったので、仕方なしに春日の足をがんがん踏んづけるが、意に介した様子はない。
ちょっとは怯めよ本当にむかつく奴だ。
「離せよ!つか離れろ!」
「嫌だね」
鼻で笑われた。
突っ張っていたはずの腕はいつの間にか曲げられ、両手は春日に握りこまれていた。
「ちょっ、嫌だって!」
「聞こえねえ」
「な……っ」
あと数センチで触れる、というところで堪えきれずに顔を俯け目をぎゅっと瞑る。
「……っ」
まだか。
いつ来るんだ。
いや来なくても良いんだけど。
「……」
「……」
「…………?」
来ない。
(……あれ?)
いつまで経っても襲ってこない感触にそろりと目を開ける。
真っ先に見えたのは春日のドアップ。
ではなく。
「……ん?」
クリーム色の、四角いトレー。
上手い具合にオレと春日の間に滑り込んでいる。
自然にそんな事になるはずはなく、更に春日相手にこんな事出来る奴はこの場には一人しかいない。
「……テメェ、三木」
やはり彼だったようだ。
止めてくれたのはありがたいが、なんて命知らずな。
「睨むなよ。大体ここどこだと思ってんの?」
「は?関係ねえだろ」
「ねえわけねえだろ色ボケ野郎が。つか目の前でいちゃつくな目障り」
「そんなん知るか。見たくなきゃ目瞑ってろ。すぐ済む」
「ふざけんな。周り見て物言えどんだけ注目集めてると思ってんだよ」
三木の言葉に、未だ翳されていたトレーの横から周りを恐る恐る見渡すと、確かにこっちを見ている人が多かった。
目が合いさっと逸らす人もいればひそひそと眉をしかめている人もいる。
(さ、最悪だ……!)
恥ずかしくて顔に血液が集中する。
もう嫌だ消えてなくなりたい今すぐこの場から立ち去りたい。
「つーかオレまで同類と思われたらどうすんだ巻き込むんじゃねえよ。やんなら二人っきりのところでやれ」
っておーい!
助けてくれたと思ったのに全然違う。
見たくなかっただけかよ同類と思われたくなかっただけかよ。
確かに男同士のラブシーンなんて目に優しくないししかも片割れがオレじゃあ気持ち悪いだろうから仕方がない。
でもオレだって同類じゃないのに一緒にしてほしくない。
それに二人きりなんて冗談じゃない、それこそ何されるかわかったもんじゃないじゃないか。
「……わかった」
「……え?」
三木の言葉に頷く春日。
何がわかったんだ。
出来れば自分に都合の良い理解だと嬉しいのだが、
「二人なら文句ねえんだな」
「うわ!?」
間にあったトレーを乱暴にどかし、オレの腕を掴み直して席を立つ春日。
「ちょっ、どこ連れてくつもり」
「うるせえ黙って付いてこい」
「やだよ離せよオレ帰る!」
「……」
「シカトかよ!?離せっつーの!」
「……」
「わ!?」
ずるずると引きずられるようにして連れられ中に放り込まれバタンと閉じられたのは、広い洗面台と奥に個室が一つある、そうトイレ。
誰も入っていなかったのは幸い、いや幸いじゃない。
しかも鍵かけやがった。
大ピンチだ。
ひょいと持ち上げられ、洗面台の横に座らされた。
足の間に春日が体を入れ両手を下に縫い付けられる。
「何する気だよ!?離せ!」
「うるせえな、ちょっと黙ってろよマジで」
「わっ、ちょっ!?」
「……」
「!!!」
ちゅっ、と一瞬。
唇に柔らかいものが触れた。
またやられてしまった。
最悪だ。
「ふっ、ほんと怖くねえな、お前が睨んでも」
「ううううるさいよ!つか、何すんだよ!」
「っと、暴れんな」
「アンタが離れてくれたら暴れねえよ!」
「それは出来ねえ相談だな」
「相談してないくせに!」
「だって、言ったよな?」
「はあ!?」
「……逃がさねえって」
「……っ」
至近距離で、まっすぐに、射るようにこちらを見据える春日。
視線が逸らせない。
段々と、自分の目に力がなくなっていくのがわかる。
逃がさない、だなんて。
「そんなの」
そんな事言われても困る。
「オレは、逃げたい」
「逃がさねえ」
「嫌だ」
「……じゃあ」
すいと体を寄せられ、更に密着する。
「逃げてみろよ」
「――‥っ」
逃げられるはずはない。
仮に逃げたとしても必ず捕まえてやると言わんばかり。
(冗談じゃない!)
そう思うのに、低く囁かれた声に、一瞬逃げる気力を奪われてしまいそうになった。
end.
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