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しおりを挟む※一也視点
信じられない。
矢野が俺を好きなんて。
(でも、田辺さんの告白断ったって、俺が、好きだからって)
信じられなかったけれど、じわりじわりとその言葉が浸透していく。
我慢していたのに。
絶対、泣かないって我慢していたのに。
矢野にそんな事を言われたらもう我慢なんて出来ない。
「い、一也!?」
焦ったような矢野の表情。
俺が泣いてしまったからだ。
目から涙がとめどなく溢れてくる。
離れようとする矢野の腕をとっさに掴む。
泣き顔を見られたくなくて下を向き、泣き声をあげないよう唇を噛み締める。
好き、好きだ。
俺も同じように矢野に気持ちを伝えたい。
伝えたいのに言葉の代わりに出てくるのは涙と嗚咽だけ。
違うのに、ちゃんと伝えたいのに。
「俺も、矢野が好き」
やっと絞り出した声は情けない事にかなり震えていた。
でももう良い。
情けなくても何でも良い、矢野がしてくれたように何度も告げる。
矢野にしっかりと届くまで、何度も。
「好きなんだ、俺も、ずっと、矢野の事が好きだった」
最初は憧れからだった。
太陽のように明るくて、男らしくて優しくて、こんな風に色んな人と分け隔てなく仲良くなれて話せるようになりたいと思った。
気が付けばその憧れが段々好きに変わっていて、あの目に見つめられたい、手に触れたい、触れられたいと強く望むようになっていた。
賭けで仲良くしてくれていたと知った時、それでも構わないと思った。
ただのクラスメイトとしてでも接してくれればそれで満足だったはずなのに。
「矢野に、協力するって言われて、俺……っ」
もうただのクラスメイトとしても接するなんて出来ないと思った。
だから離れようとしたのに、それなのにこんな嬉しい誤算はない。
「っ、ごめん、あれは全然、本当はそんなつもり全然なくて」
「嫌だった。俺が好きなのは矢野なのにって思って、矢野が、何を協力してくれるんだって思って」
「そうだよな。俺、一也は安積が好きなのかと思って、ヤケクソになってて」
「よっちゃんは、俺を慰めてくれてただけだよ。俺が、矢野の事好きなのずっと知ってたから」
ほっと息を吐き出す気配がする。
「良かった、一也が好きなのが安積じゃなくて」
「よっちゃんは幼馴染だし、好きだけど、好きとかそんなんじゃない」
「うん、だから良かった」
腕を強く掴んでいた手を離され、もう一度優しく身体に腕が回される。
ふわりと抱き締められ安心感に包まれる。
少しどきどきはするけれど、さっきは驚きすぎて味わえなかったその温もりを堪能する。
そのまま矢野が賭けの事など、順を追って説明してくれた。
「賭けっていうのは、この企画に一也が参加してくれるかどうかっていうだけで、その後出かけるのとかは全く関係ないから。一也が頷いてくれなくても、俺はこの機会に一也と仲良くなるつもりでいたし」
「そうだったの?じゃあ、あの時俺の名前出したのは何で?」
「それは、か、可愛いかなと思って」
「は?」
「だから、一也は元々可愛いけど、変身したらもっと可愛いだろうなって想像してたらついぽろっと名前が出ちゃって」
「かわ、いい?」
こんな地味な男捕まえて何を言っているのだろうか。
可愛さで言ったら圧倒的に田辺さんやいつも一緒にいる子達に軍配が上がるはずだ。
「何言ってんの!?一也は可愛いよ!世界一可愛い!」
「っ、いや、や、矢野こそ何言ってんの」
恥ずかしげもなく力説されこちらが恥ずかしくなってしまう。
「ほんっっとに可愛い、可愛すぎる」
「おわっ」
ぎゅぎゅぎゅーっと力が籠められ、矢野の顔が肩口に埋められぐりぐりと押し付けられる。
可愛い。
矢野は俺を可愛いと言うが、こんな行動をされると矢野の方が可愛いと思ってしまう。
「両想いならもっと早く言えば良かった。学祭終わったらなんて悠長な事考えてるからこんな勘違い……」
俺に抱きつきながらぶつぶつと呟く矢野。
矢野も今日が終わったら告白してくれるつもりだったんだ。
確かに、もっと早く告白しあっていれば変な勘違いも擦れ違いもおきなかったに違いない。
……まあ、どっちにしろ田辺さんに告白されている所を見たら動揺しただろうけど。
「……で、その、田辺さんの事だけど」
「……それは、良いよ」
「え?」
「だって、断ったんだろ?だったらそれ以上の説明はいらない」
田辺さんは俺が告白を聞いていたというのを知らない。
告白をした事も、その返事も、当事者以外が知る必要のない事だ。
こっそり聞いたうえに更にその経緯まで事細かに聞いてしまうのは何だか田辺さんに失礼な気がしてしまう。
「だから、良い」
「……そっか」
「うん」
「他に聞きたい事はない?何でも聞いて?一也にはもう何も隠し事したくないんだ」
「うーん、今の所は、何もないかな」
「お願いは?して欲しい事は?」
「して欲しい事は……」
たくさんありすぎて決められない。
まだ抱き締めていて欲しいし、手も繋ぎたい、もっと話もしていたいし、これからもっともっとしたい事がたくさんある。
「決められない?」
「……うん」
「じゃあ、俺が先にお願いしても良い?」
「!もちろん!」
俺でも何か出来る事があるのなら何でも叶えたい。
矢野もこんな気持ちなのだろうか。
同じ気持ちを抱えているのだとしたら嬉しい。
「矢野のお願いって?」
「それ」
「え?」
どれだ?
「矢野っていうの、やめて欲しい」
「!」
今朝からずっと続いていた矢野という呼び方。
これを真っ先に止めて欲しいとお願いされてしまった。
そんなのお願いされるまでもない。
「……啓介」
ああ、やっぱり。
矢野と呼ぶよりも啓介と呼ぶ方がしっくりくる。
今日一日、矢野と呼ぶ度に違和感しかなかった。
現金だな、こんなにあっさり心のもやが晴れるなんて。
「啓介」
「何、一也」
こちらを見つめる啓介の瞳が甘いのは気のせいではないはず。
色んな人に向けられていた啓介の視線だがこんなに甘いのは見た事がない。
俺にだけ向けられるこの視線に胸がうずく。
「……好き」
「っ、俺も!俺も好き!」
思わず漏れた一言を啓介からも返され、頬が緩み切ってしまった。
*
この後。
ただでさえ目立つ啓介が俺を攫った事にかなりの反響があったらしく、俺達の出し物は投票で一位を獲得したらしい。
教室にも大勢が殺到し、売り上げもかなりのものだったようだ。
そして教室に戻った俺達はかなりの質問責めに合うハメになるのだが。
「一也」
「何、啓介」
「いーちや!」
「何ってば」
「呼んだだけー」
「……啓介」
「何?」
「……呼んだだけ」
「もーう!可愛いんだからー!!!」
「わっ」
今はただ、啓介に抱き締められながらバカップルのようなやりとりを楽しみ続けた。
終わり
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