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しおりを挟む※一也視点
昨日は驚いた。
まさかあのタイミングで自分の名前が出るとは。
(でも、名前呼んでもらえた)
同じクラスだという以外に接点がないから、なんなら名前すら覚えられていないかと思っていた。
「一也」
「!よっちゃん」
幼馴染の安積芳明(あずみよしあき)が後ろから追いかけてきた。
家が隣同士で、親同士も仲が良い。
矢野とは違いスポーツマンタイプの爽やかなイメージで、よく後輩の女子達にキャーキャー言われているのを聞く。
「あれ?今日朝練は?」
「休み」
スポーツマンな見た目を裏切らず、よっちゃんはテニス部に所属している。
大会が終わったばかりで朝練はお休みらしい。
「ほら、弁当預かってきた。玄関に置きっ放しだったんだって」
「え、ありがと」
靴を履いた時にそのまま忘れてきてしまったらしい。
昨日からずっと矢野の事で頭がいっぱいだったからそのせいだろう。
「忘れもんなんて珍しいな」
「ちょっとぼけっとしてただけ。ていうか、なんか久しぶり」
「だな。俺が部活始めてから別々だったもんなあ」
「この前の大会はどうだった?」
「準決勝敗退」
「おお、頑張ったね」
「まあな、でもまだまだ」
「目指すは優勝?」
「当然」
ニヤリと笑う表情はどう見ても男前だ。
でも矢野に感じるどきどきはない。
やっぱりよっちゃんは幼馴染だからどきどきしないのかな。
「そういえばよっちゃん達のクラスは何やんの?」
「学園祭か?確かメイド喫茶って言ってたな」
「まさかよっちゃんが女装……!」
「んなワケねえだろ」
「だよねー」
一瞬よっちゃんがメイド服を着ている所を想像してしまった。
「一也のとこは?」
「あー、うーん、何か、おしゃれチャレンジ?みたいな?」
「何だそれ」
「当日やるのは教室でのヘアメイクとかマニキュアとか言ってた。美容院とネイルサロン?みたいな?でも前夜祭で誰かを変身させてステージに上がらせるとか言ってて……」
「選ばれたのか?」
「断ったけどね」
「断ったのか?」
「断るでしょ」
「一也、目立つの苦手だもんな」
「うん、苦手」
ずっと地味に生きてきたから大勢の前に出るのが苦手で仕方がない。
仕方がない、のに……
*
「真壁、お願い!」
「えっ、と……」
登校して早々矢野に呼び出され、ガバッと頭を下げられ戸惑ってしまう。
「昨日の話なんだけど、真壁にお願いしたいんだ」
「昨日のって、学園祭の?」
「うん」
「俺、断ったよな?」
「そうだけど、真壁しかいないんだ」
「……っ」
自分の望んでいる意味は全く含まれていないのにどきりと胸が高鳴る。
「でも、俺は……」
目立ちたくない。
誰かの着せ替え人形になるのも好きじゃない。
大好きな矢野の頼みごとだから頷きたい。
役に立ちたいとも思う。
だが、おしゃれしてステージに立つだけの事をどうしても躊躇ってしまう。
「俺には無理だよ」
「そんな事ない!真壁なら絶対いけるって!」
「……何でそんなに俺にさせたいんだよ?」
「っ、それは……」
視線をさ迷わせ口籠る矢野。
俺が断れなさそうと思ったから?
矢野が頼めば断れる人なんていやしない。
地味で、暗くて、目立たない俺をただからかいたいだけ?
矢野はそんな奴じゃないと思うが、そんな風にそっぽ向かれると何かを隠していると捉えられてもしょうがない、と本人に伝えられないまま思う。
「どうしてもダメ?絶対嫌な思いはさせないし、絶対かわ、いや、カッコよくするから!」
「……」
元々が元だからカッコ良くなる訳はないと思っている。
やったところで残念な結果になるのは火を見るよりも明らかだ。
「学園祭までの間、俺が全部フォローするし!俺で良ければ何でもわがまま言っていいし!何でも言う事聞くし!だからお願い!」
必死に頼み込んでくる矢野。
断った方が良い。
絶対に断った方が良い。
そう思うのに、矢野のセリフにずるい自分が顔を覗かせる。
(何でも言う事聞く、なんて)
あまり軽々しくそんなこと言うもんじゃない。
俺みたいな不純な動機を持った人間には特に。
「やっぱり、ダメ、かな?」
おずおずと上目にこちらを窺う矢野。
ずるい。
カッコいいのに可愛いなんて。
好きな人に望まれて、そんな風に頼まれ、断る為の言い訳なんて一瞬でどこかへと消えてしまった。
*
「何だ、結局受けたのか」
「断りきれなかった……なんてバカなんだ俺は……」
「どんまい」
昼休み、よっちゃんを呼び出し一緒にお弁当を食べながら朝の出来事を伝える。
「まあそんな予感はしてた」
「え?何で?」
「だって一也、矢野の事好きだろ」
「……はい」
よっちゃんには俺の気持ちがバレている。
言ってないのにいつの間にか知っていてかなり驚いたが、幼馴染故の俺の態度を見て気付いたのだそう。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃない、もう止めたい。今からでも取り消したい。みんなの前でステージに上がるなんて……!」
「いや、そうじゃなくて」
「?」
「その企画とやらの為に学園祭までずっと一緒に過ごすんだろ?」
「……うん」
ずっと一緒というと語弊があるが、確かにこれまで以上に矢野と関わる事は増えるだろう。
「心配してくれんの?」
「悪いか?」
「ははっ、悪くない。ありがと」
よっちゃんは俺が矢野といて想いを更に募らせないか。
それによって結果的に傷付く事になるのではないかと心配しているのだ。
「でも大丈夫」
どうせ最初から諦めてるんだ。
矢野が俺を好きになるはずなんてない。
ただ、矢野と少しでも長く過ごせて話せるチャンスを逃したくなかっただけ。
学園祭が終わってまた元通りになっても良い。
今、この瞬間だけの付き合いで良いのだ。
「大丈夫だよ」
自分に言い聞かせるように呟く俺に、よっちゃんは未だ心配そうな視線を寄越していた。
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