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かつらの裏側
しおりを挟む※恵の幼馴染視点
彼がこの学園に現れて早二週間。
光の速さで学園の人気者を虜にしたかつらの男。
生徒会やその他美形連中がこぞって彼の気を引こうとあれやこれや手をこまねいている。
彼は一体何者なのか。
名前はめぐむといい、どうやら一年生らしい。
情報はただそれだけ。
どこぞの国の要人か、組の一人息子かはたまた夜の街で名を馳せたやんちゃ坊主か、それとも絶世の美男子でそれを隠しているのか。
色々な憶測が校内を飛び交う中。
「恵」
「!」
人気のないトイレの中。
例のかつらの男に、俺は声を掛けた。
何故『めぐむ』ではなく『恵』と声をかけれたのか。
それは…….
「おー誰かと思ったらまことじゃん」
俺が恵の幼馴染だからだ。
マンションの隣の部屋で、生まれた時からずっと一緒。
小さい頃から整った顔をごくごく普通の髪型で隠していたが、高校に入りそれに気付く人物が増えてきたらしい。
だが新しくつるみだしたクラスの連中が良い奴らばかりなのだろう。
それをネタにからかわれる事はあっても、それによって実害を被っている事はないようだ。
「どうした?何かあったか?」
「何かあったのはそっちだろ。今日は上履きやられたの?」
履いている来客用のスリッパを指して訊ねる。
「そうなんだよ、びっちゃびちゃにされててさあ。困るよなあ」
「大して困ってるようには見えねえけど」
「これでも傷付いてんだぜ?」
「はっ、良く言うよ」
こいつがこんな事で傷付くはずがない。
ムカつき腹を立て呆れこそすれ、傷付くなどありえない。
「今度は生徒会長落としたんだって?」
「落としたんじゃねえよ、あっちが勝手に勘違いして勝手に盛り上がってるだけ」
「副会長も会計も書記も落としたって聞いたけど?」
「だから落としてねえって」
「モテモテだねえ、めぐむちゃん」
「お前がそっちで呼ぶなよ、鳥肌立つ」
「そりゃ失礼」
「あー、でもサッカー部エースと一匹狼は最近離れてきたな。あいつらは良い子だ」
「良い子って」
こいつから離れたサッカー部エースと一匹狼といえば俺と同じクラスの二人だ。
「そういやそいつらは最近よく一緒にいるとこ見かけるなあ」
「同じクラスだっけ?」
「おまけに俺の前の席」
「わお、近いじゃん。フラグ立った?」
「俺じゃなくて、あの二人にな」
「?どういう意味?」
「あの二人がお互い意識しまくってんの」
「うはっ、マジか」
「俺の目の前でほもりやがって、滅しろ」
「まあまあ、温かい目で見守ってやろうぜ。自分に被害ないなら良いじゃん」
「それがあるんだよ!」
授業中も休み時間も昼休みの間も。
お互いが気になっているのは丸わかりなのに距離をはかりあぐねているというか、付き合いたてのカップルのように微妙な距離を保っているというか。
ほんの少しでも目が合い触れ合おうものならすぐさま頬を染め目を逸らしている。
あんなドピンクな雰囲気を醸し出しているというのに、何故かその照れ隠しの矛先が俺に向けられているのである。
「どういう事?」
「だから、目逸らすだろ?いたたまれないだろ?そしたら後ろにいる俺に声掛けてくんだよ」
「……うわー」
「サッカー部……田代っつーんだけど、田代はさりげなくないさりげなさで俺に話しかけるし、一匹狼の羽賀はどうにかしろって目でこっち見るし」
おかげでクラスの中では謎の転校生めぐむからオレにターゲットを変えたのだと噂が立っている。
「何それ、親衛隊連中は大丈夫なの?」
「あいつらの親衛隊はちゃんとあいつらの事わかってるからな。むしろ二人のもだもだに巻きこんですいませんって謝られた」
「すっげえ良い子達だな」
「うん」
「それに比べて会長達の親衛隊は……」
「地味に嫌がらせ続いてるみたいだな」
「そうなんだよ、まあどれもこれも可愛いもんなんだけどな。続くとほんとうんざりしてくる」
「ああ、そうだ」
ここで俺がわざわざ人気のないトイレで恵を呼び止めた理由を思い出した。
「はい、これ」
「……は?何これ?」
「かつらだよかつら」
「かつらって……これしたらツルッパゲじゃねえか」
「だってそろそろ直接呼出し来そうじゃん?」
「それとこれと何の関係があるんだよ」
「だーかーら、そのかつらの下にこれ被ってたら親衛隊の連中もかなり驚くんじゃね?さすがにツルッパゲが隠れてるとは思わねえだろうし!」
にしし、と笑いながらかつらを恵の手に握らせる。
「なるほど!それ良いかもしれないな!さっすがまこと!」
「だろー?うまく行ったら報告しろよな!」
「おう!ていうか今日の夜お邪魔するから」
「ん?おばさん達いないの?」
「二人でデートだってよ。晩飯食いに行く」
「あーだからか、うちの母さん今朝から張り切って仕込みしてたから」
「てことは角煮かな?やった!おばさんの角煮好きなんだよなあ」
「ははっ、それ言ってやれよ。めちゃくちゃ喜ぶから」
「知ってる」
うちの母さんの様子を思い出して二人でくすくすと笑う。
「んじゃそろそろ授業だから行くな」
「おう!俺もこれ仕込んだら行く!」
「また後でな」
ひらひらと手を振る俺に恵もひらひらと手を振り返す。
教室へと戻ると、田代と羽賀が相変わらずもだもだと微妙な距離を取っていて。
「まこと、遅かったな」
「どこ行ってたんだよお前」
「……はあ」
あからさまにお互いを意識しながら声を掛けられ。
「何、まことがいなくて寂しかったの?」
「お前こそ、ずっとそわそわしてたじゃねえか」
俺がいなくてそわそわしてたのは二人きりで他にフォローする相手がいなかったからだろう。
田代の『寂しかったの?』のセリフにも『俺が一緒にいたのに』という思いが見え隠れしていて本当に……
(あーうっとおしい、さっさと告ればいいのに)
俺は大きな大きな溜め息を吐きながら自分の席にどっかりと座り。
あれやこれやと俺に声をかけお互いの本心を探ろうとする二人に心の中で悪態を吐いた。
その後、無事にヅラオンヅラ作戦が成功したと聞き、思いの他生徒会の親衛隊長達も可愛かったという話で盛り上がった。
「んんー!やっぱりおばさんの角煮めっちゃうまい!」
「やだー本当?んもう恵ちゃんったら良い子!うちの子は何も言ってくれないのにー!」
「言わなくたってわかるだろ。ご飯おかわりするの何杯目だと思ってんの?」
「それでも言って欲しいの!」
「……おいしいよ」
「やだどうしましょう恵ちゃん、うちの子が可愛いわ……!」
「おばさん、それ親ばかだよ」
「あはは!そうねー、親ばかねー!」
明るい声を響かせる母親に、俺達の箸は止まる事なく動き続けた。
終わり
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