勇者の料理番

うりぼう

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番外編・とある団員の呟き

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とある団員の呟き①


ある日魔獣が大量発生した。
我ら騎士団は魔獣を討伐すべく深い森の中へと進み、この世の物とも思えぬおぞましい姿をした魔獣を前に倒れようとしていた。
そんな時、目の前に現れた一人の少年。
日の光を背に降り立った彼は、騎士団の精鋭達が手こずっていた魔獣をいとも容易くいなしていく。

「彼は……」
「あれが、噂の勇者か」
「凄いな」

魔法の力もあるのだろうが、素手で魔獣に殴りかかるその戦いぶりに俺達は目を瞠る。
どう見てもまだ年端もゆかぬ少年だ。
団員の中には彼と同年代の子供がいる奴もいる。
異世界から来たからだろうか、我が国の平均よりも更に幼く見える容貌に驚きが隠せない。

「こうしてはいられない!動ける奴は援護に回れ!!」
「「「「おう!!!」」」」

思わず健闘ぶりに見惚れてしまいそうになったがすぐに気を取り直して勇者の援護に回る。
先程まで士気の下がっていた面々も持ち直し、全員で一斉にやるべき事に取り掛かった。
そして……

「終わったー!」
「「「「「……っ」」」」」

その場にいた魔獣を殴り飛ばし山に積み上げ、地面に降り立ちちょっとした運動の後のようにぷらぷらと手を振りながら近付いてくる勇者の少年。
にこやかなその姿は今まで血を浴びながら拳を奮っていたとは思えない、まるで神の御使のような美しさをしていた。
その姿に団員の何人かが見惚れて惚けてごくりと喉を鳴らしている。
そうでなくとも勇者の強さに圧倒されている者が多数だ。

直後に大歓声があがり、勇者、太陽の初討伐は大成功に終わった。

「というわけで、勇者として召喚された太陽だ。皆、これからは太陽のサポートをよろしく頼む」
「か、可愛い……!」
「細い……!本当にさっき拳を奮ってたのと同一人物なのか!?」
「天使だ、神の御使に違いない」

討伐隊の回復を終え落ち着いた所で、飛び散った魔獣の血を清めた太陽が紹介されると口々にその容姿を褒め称える声が聞こえた。
そして最初こそ太陽の美しさに心を躍らせたり、こんなに可愛らしい少年に魔獣の討伐をさせるなんて!!!と、太陽の戦いぶりを見ていたにも関わらず庇うようなことをする団員もいたのだが。

「うおりゃああああ!っしゃ命中!後は頼んだ!」
「よしきた!」
「あとは任せて次よろしく!」
「任せとけってー!」

幾日も共に過ごす内にすっかりと太陽の強さに慣れ、憧れ、今ではそんな馬鹿な事を言う奴は一人としていなくなった。
むしろ太陽の強さはとてつもなく、戦う様は楽しそうで、その姿を見るのが楽しみだという団員ばかりだ。
太陽が魔獣を倒し、団員がサポートしつつ倒した魔獣を回収していく。

「今日も太陽は楽しそうだなあ」
「ですねー、すっごい良い笑顔ですもんね」

最初の頃はあんなに怖かった魔獣の討伐も太陽が来てから随分と余裕が出来、こうしてのんびり話をする暇すらある。

「魔獣が食べられるとわかってからは更に楽しさが加速したようだな」
「うまいっすもんねえ、魔獣の肉」
「朝日くんの料理がまた最高だからな」
「わかるー!この前の唐揚げめちゃくちゃ、美味しかった!」
「俺はあのうなぎ?が良かったなあ」
「俺はやっぱりカレーっすね!」
「あー!それも捨て難い!」

なんて、太陽の話からいつの間にか朝日のご飯の話題に変わりつつ、今日も今日とて全力で魔獣退治に勤しむ団員達なのであった。



 











とある団員の呟き②


勇者と共にこの世界へとやってきた朝日という少年。
煌びやかで華やかな見目の勇者、太陽とは違い、漆黒の髪に濃茶の瞳という集団に埋没しそうな容姿をしている少年。

最初は何故こんな少年が共に向かうのだと訝しんでいたが、すぐに勇者の食事の為だと説明され、再び何じゃそりゃとなったのは言うまでもない。
いくら勇者でも専属の料理人だなんて。
それもプロではなく勇者と同じ年の少年。
戦闘の経験があるわけでもないその少年を連れて危険な討伐へ向かうなんて、わざわざ邪魔な荷物を持っていくようなものである。
本当に大丈夫だろうか。
精霊様が近くにいるとはいえ不安が拭えない。

だがしかしその考えはすぐに覆された。

「!!!!なんだ、これは!?」
「うまっ、うまーーー!!!!」
「少し辛いが、それがまた良い!」

初めて食べた朝日くんのご飯はカレー。
刺激的な辛さに食欲をそそる匂いが最高だった。
美味しいと口々に言いながら空っぽの皿を満足そうに見つめる朝日くんは凡庸さなど気にならないくらいに可愛かった。
それからも朝日くんはトンテキや唐揚げ、蒲焼きにおでんなどなど色々な料理を作ってふるまってくれて、今ではすっかりこの討伐隊にはなくてはならない存在になっている。

「おはようございます、グレイさん。見張りお疲れ様です」
「!お、おはよう朝日くん!」

朝日くんは毎朝食事の準備をする為に早く起きて、その度見張りの人間に声をかけ飲み物を持ってきてくれる。
淹れたてのお茶やコーヒーが徹夜で疲れた身体に染み渡り、その笑顔と共に癒され度ナンバーワンだ。
こうして名前を覚えて呼んでくれるのも俺にとっては嬉しい。
こんな子が毎日家で待っていてくれて食事を作ってくれて、毎朝今日のように微笑みかけてくれたらどんなに疲れていてもどんなに嫌な任務でも頑張れるかもしれない。

「グレイさんこの前も見張りしたばっかりじゃないですか?大丈夫なんですか?」
「大丈夫大丈夫!これも仕事だからね」

心配そうに眉を下げる朝日くんに明るく答える。
というよりも実はこうして朝一番に朝日くんに会いたくて見張りに立候補していると言っても過言ではない。
正直疲れは少し残っているがそんなもの朝日くんの顔を見たら一瞬で吹き飛ぶ。

「あんまり無理しないで下さいね」
「ありかとう、気を付けるよ」

ああ、今日も朝日くんには癒されるなあ。
これといって特徴のない顔立ちなのに何故こんなにもほんわかと癒されるのか不思議だ。
朝日くんの持つ魔力のせいだろうか。
そういえば精霊様も勇者である太陽くんよりも朝日くんの方を気に入ってるようだった。

……ん?そういえば精霊様は一体どこに?

と考えた所でぞくりと背筋が冷たくなった。

(あ、やばい怖いなんか、何かとてつもない圧力がかかってる感じがする)

それは俺の気のせいなどではなく、実際に少し離れた所から俺に向かって放たれている、精霊様の眼力だ。
いやもうこれは明らかに殺気に近い。
朝日くんと話しているといつもそうだ。
他のみんなはそんな事ないと言うが何故俺だけ……なんて考えなくても答えは明白だ。
精霊様が特に朝日くんを気に入ってるからに決まっている。
そして精霊様は、きっと俺が朝日くんに邪な想いを抱いている事に気付いている。
だからこそのあの視線なのだろう。

「あ、あああの、朝日くん、精霊様が起きたみたいなんだけど」
「え?ああ、本当だ」
「急いで行かなくて良いの?」
「どうせ向こうから来るから大丈夫ですよ」

俺が大丈夫じゃない。
俺が大丈夫じゃないんだよ朝日くん。
大事な事だから二回言ったよ。
なんなら三回でも四回でも言うよ。

「いやでもほら朝ご飯の準備とかあるでしょ!?」
「……それもそうですね」

うんうん、精霊様の傍に行った方が良いよ。
このままだと精霊様の視線に射殺される。

それにしても精霊様相手にそんな風に適当にあしらうなんて、朝日くんくらいしか出来ないよ。
あ、いや太陽くんもしてるか。
あっちは適当にというよりも朝日くんを守る為に火花ばちばちな感じだけど。

それはそうと、朝日くんが俺の事を単なる騎士団の一員としか思っていないのはわかりすぎるくらいわかっている。
俺だって身の程知らずに精霊様のお気に入りに手を出そうなんて大それた事を出来るはずがない。
恋敵にすらなれない雑魚だとちゃんと自覚しているのだからそんなに心配する必要はないと思うのだが……

(理屈じゃないんだろうなあ)

まさかあの精霊様が一人の人間に対してこんなにも嫉妬心を露わにするとは。
珍しい事もあるもんだとしみじみしつつ、朝食の準備をする為に向こうへと行ってしまう朝日くんの背中を少し寂しい気持ちで見送った。






終わり
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