勇者の料理番

うりぼう

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もぐらとお弁当

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朝を済ませ、森の中を移動していく。
今日のお昼はのり弁だとうきうきしていると……

ドーン!!!

少し離れた場所から大きな爆発音が聞こえた。

「!?な、何事!?」
「魔獣だな」
「ええ!?」

葉が舞い上がり鳥達が一斉に羽ばたいていく。
鳥、まだそこにいたのか。
鳥以外にも他の野生動物達はたまに見かけていた。
魔獣が来た所で逃げ場がなく、森の中で静かに身を潜めていたのだろう。

魔獣の出現に、三人の騎士さんを残し他の騎士さん達が駆けていく。
残りの三人はたまの護衛だ。

「行ってくる」
「気を付けてね」

騎士さん達に混ざり太陽とウェイン王子も馬車を飛び出し、一目散に音のした方へと駆けていった。
こうして突然近くに魔獣が現れるのは初めてかもしれない。
今までは先遣隊からの報告が先にあってから向かってたからな。

「俺達も近くまで急ぎます」

手短にそう告げ、先程とは違う速度で走り出す馬車。
ガタガタと揺れが増し上下左右に揺さぶられ舌を噛みそうになるのを堪えた。



魔獣は地中に潜っていたようで、地面に穴があき、その分の土がこんもりと盛り上がっていた。

「もぐらみたい」

毛羽だったもぐらだ。
目の上辺りに角のようなものが生えている。
尻尾も長く、鞭のようにしなり木々を破壊している。
大きさは魔獣というだけあってとてつもなく大きい。
魔獣がこれ以上移動しないように騎士さん達が魔獣を囲うように結界を張っている。

そしてその中央では、太陽が魔獣に乗ろうとジャンプをしたところだった。
例によって魔法を使っているので足を踏み込む度に高度が上がっていく。
そんなに高く飛ばなくても良いんじゃ……と思う程高く、魔獣の二倍程も飛び、そのまま勢い良く下へ。
魔獣の脳天に拳を叩き込むような体勢だったが、魔獣はそれを避ける。

「ちっ……!」

地面に転がる太陽。
それを見た魔獣が、獲物を見つけたとばかりに目を輝かせ太陽目掛けて転がった。

「太陽!」
「大丈夫だ」
「……っ」

思わず名を呼び駆けだしそうな俺を止めるたま。
俺が無計画に飛び出して行っても邪魔にしかならないとわかっているので止めてくれて良かった。
太陽を見るとちゃんと二重三重に結界が張られていた。
あれをしたのは多分ウェイン王子。

「良かった」

怪我がない様子にホッとする。
魔獣はころころころころと右へ左へ転がっている。
転がる度に木が薙ぎ倒され木っ端微塵に破壊されていくのだから、ころころという表現は少しばかり可愛らしすぎたかもしれない。

「ったく、図体でっかいのがころころと……!」

なんて、太陽が俺と同じような事を呟いていたらしいが、少し離れた所にいる俺の耳には届いていなかった。









程なくして魔獣を倒した太陽達がこちらに近付いてきた。

「朝日、残念なお知らせがあるんだけど」
「何?」

地面に転がり土埃や泥にまみれた太陽がしょんぼりと眉を下げている。
太陽がこんなにしょんぼりするなんて珍しいけど、何を言いたいのかの検討は付いている。

「あのさ」
「うん」
「……あの魔獣、食べれなそう」
「うん、だろうね、わかってる」

案の定だった。
うん、そうだろうね、さすがにもぐらはね……食べれないよね。
今までの魔獣はどことなく食料として出回っていたのと似た姿形だったから食べてみただけ。
さすがの俺ももぐらは食べれそうにない。
どこかの国では食べる文化があるのかもしれないけど。

「……食べれないのか」
「残念だな」
「他の魔獣が美味かったからこいつも、と思ったけど……」
「……はあ」

他の騎士さん達も何だかしょんぼりしている。
これ完全に魔獣肉に心奪われてますね。
中毒とかになってないと良いけど。
なんてったって魔獣は定期的に現れはするものの、日常で手に入れるのは困難な食材なのだから。

「みんなご苦労様。そろそろお昼にしよう」

魔獣をいつものように収納袋に入れ、身を清めたウェイン王子がみんなにそう告げる。
お昼という単語にみんなの目が輝く。
現金だなあ。
まあ腹が減っては戦は出来ぬって言うしね。

「朝日、今日って弁当だったよな!?」
「そうだよ」

目をきらきらさせながら太陽が手元を覗き込んでくる。
中身はまだ内緒だったからそれが楽しみなのだろう。
遠足前の子供のような顔だ。
わかる、お弁当の中身って楽しみだよね。
俺も知らなかったら同じような顔になってたと思う。

「ベントウ?」
「何だそれ?」
「料理の名前か?」

初めて聞くらしい単語にきょとんとするみんな。

「ふっふっふ、これがお弁当です!」

それにニヤリと笑い、収納袋から人数分の弁当を取り出した。
みんなが身を清めている間に作った豚汁もセットです。
我ながら最高のお弁当セット!

「これが、ベントウ?」
「木の箱にしか見えないが……」
「それは弁当箱です。ご飯を持ち運び出来るようになってるんですよ」
「おお、本当だ!中身はちゃんとご飯だ!」
「美味そうだなあ!」
「労働の後のほかほかご飯、最高……!」

一度は冷ましたお弁当だったが、みんなに渡す時に再度温め直している。
冷たくても美味しいけど、温かい方がもっと美味しいもんね。

「のり弁じゃん!作ったの!?やべー!すげー!」
「食べたくなっちゃったんだよねえ」
「再現度完璧!てかむしろ超えてる!」
「でしょでしょ、ちょっと豪華なのり弁にしてみたんだよ」

太陽の頭の中には某お弁当屋さんののり弁が浮かんでいるはずだ。
それがわかるのが太陽だけなのが少し悲しいが気付いてくれて嬉しい。

「さあ皆さん召し上がれ!」
『いただきまーす!』

俺と太陽が毎回言っているからだろうか、なんだかんだと浸透していった『いただきます』の挨拶。
全員声を揃えて言う姿が、大の大人の集団なのに妙に可愛い。

「豚汁はおかわりありますからねー」

お弁当はかなり大盛りで作ってあり、太陽とたまの分は超特盛にしてあるので足りないという事はないだろう。
もし足りなかったらその分は豚汁で満たしてもらうしかない。

「どう?どう?」
「めちゃくちゃ美味い!朝も食ったけどこのおかか最高!」
「良かった!」
「それにこのゆず大根!ついに漬物に手出したんだな」
「今きゅうりの浅漬けと福神漬け研究してるとこ」
「カレーの日が楽しみなやつじゃん」
「乞うご期待」
「してるしてる」

話していながらも太陽の食べるスピードは衰えない。
ガンガンお弁当の中身が減っていく。

「たま、豚汁おかわりする?」
「貰おう」
「朝日、俺も!」
「相変わらず食べるの早いよね二人とも」

かなりのスピードで食べているのに食べ方がキレイなのが凄い。
それに米粒ひとつ残さないのは作った側としても嬉しい。

「そうだ、たま」
「何だ?」
「さっき止めてくれてありがとね」

太陽に駆け寄ろうとしてしまった時のお礼を今更ながら言う。

「気にする必要はない」
「あのまま突っ込んでたらみんなに迷惑かけるところだったよ」
「迷惑かどうかは知らぬが……今後も我の傍を離れぬ事だな」
「……っ、う、うん、わかった」

さらりと梳かれる髪。
ついでとばかりに頬を撫でられ磯部揚げが一瞬喉に詰まりそうになってしまった。
そういうことするのずるいなあ。
たまが意識しているのか無意識なのかはわからないけれど、さすがの俺でもどきっとしてしまう。
まあ男同士で意識する方がおかしいのかもしれないけど。

「だからいちゃつくなっつーのに」
「太陽、馬に蹴られちゃうよ?」
「朝日を守るためなら馬だろうが何だろうが蹴られてやる」
「……太陽の『朝日好き』にも困ったものだね」

傍らで太陽とウェイン王子がそんな会話をしているのには気付かず。

「朝日くん!おかわりくれー!」
「俺も!」
「俺も肉たっぷり大盛りで!」
「はーい」

次々とやってくる騎士さん達に、豚汁のおかわりを提供し続けた。
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