勇者の料理番

うりぼう

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おやつはドーナツ

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討伐に出て一週間と少し。

つい最近、鳥型の魔獣を美味しくいただいたのは記憶に新しい。
あれから新たに倒した鳥形の魔獣はスモークしたり茹でたりして大体を先遣隊の皆さんに渡した。

(美味かったよなあ唐揚げにチキン南蛮)

それとは別に手軽に食べられるナゲットや、身体が温まるスープも大量に作った。
もちろん照り焼きも。
どれもこれも美味しくて魔獣様様です。
しかも材料費がかからないだなんて素晴らしい。
太陽が仕留めて騎士団の皆さんに捌いて貰って自給自足のタダ食料。
本当に最高だ。

さて、それはそうとここに来て甘い物が食べたくなってきた。
元々甘いの好きなんだよね。

生クリームたっぷりのいちごのショートケーキ、チョコレート、フルーツ山盛りのパンケーキ。
バター香るクッキーにマドレーヌ、カスタード入りのシュークリーム、レモンケーキ、そうそうダックワーズも美味いよな。
それとバター入りのどら焼き、おしるこ、豆大福にいちご大福、あんみつも捨てがたい。

(あああ食べたいものがありすぎてどうしよう!)

とはいえ作れるものなんて限られている。
向こうではお菓子は買うものだったし、作ったとしてもパンケーキくらいだ。
パンケーキと同じくらい手軽に作れるものって何かあるだろうか。

そもそもお菓子はきちんと分量量らないと出来ないって聞いた事があるし、手軽に作るのは難しいか。
いや、それこそ魔法の出番じゃないか?
魔法さえあれば分量量るのなんて朝飯前じゃないか。
いやだからそもそも作り方がわからないんだって。

「何難しい顔してんだよ」
「太陽、甘いもん食べたい」
「いきなりだな」
「食べたくない?」
「食いたいけど」
「だから何作ろうかなーと思ったんだけど、そもそもレシピもなしで何が作れるんだろって思って」
「あーお菓子はなあ、難しそうだもんな」
「そうなんだよねー」

大きな溜め息を吐く。
討伐に出る前にレシピ本とか調べてみれば良かったなあ。
こっちの世界にもお菓子はあるんだから何でそこまで頭が回らなかったんだ俺のバカ。

「朝日、お菓子も作れるの?」
「レシピさえあれば多分」

俺達の話を聞いていたウェイン王子が話に参加する。
お、もしや王子もお菓子に興味あるのか。

「実は俺も甘い物好きなんだよね。仕事中なんかは特に食べたくなって」
「わかります」

疲れた時こそ甘い物って言うもんな。

「騎士団の皆さんも甘い物って大丈夫ですか?」
「大丈夫なはずだよ。よく差し入れ持って来てくれる人がいると取り合いになるくらいだから」

騎士団の人達、酒飲みも多かったと思うのだが甘い物好きも多いようだ。
よしよし、それなら真剣に考えてみよう。

ケーキは難しいからアウト。
パンケーキも良いけど食べるのに手間かかるし……

「そうだ!ドーナツ!」

パンケーキといえばホットケーキ、ホットケーキといえばホットケーキミックス、ホットケーキミックスといえばドーナツも作れるじゃないか!
あ、でもミックスがないのか。
小麦粉があるけどベーキングパウダーがない。
けれどこういう時の為のお玉ちゃんじゃないか!
そうと決まれば早速作るぞー!

まずバターを溶かしておいて、小麦粉とベーキングパウダーを合わせてふるう。
卵を溶いて砂糖を混ぜて、牛乳を加えて混ぜて、バターを加えてまた混ぜて。
そこにさっきの小麦粉達を入れてさっくり混ぜる。
出来た生地を伸ばして適当に棒状に切ってそれを丸く繋げる。
型抜きあれば楽なんだけど、まあこれでもドーナツ型になるから問題ない。

形が出来上がった所で揚げる。
ひたすら揚げる。
ここで焦りは禁物。
ちゃんとうっすら色が付くまで待って裏返す。
両方ともこんがり色が付いたら油からあげる。
さてさて今日はここから更に……

「完成じゃねえの?」
「まだまだこれから!」

むふふと笑ってチョコレートを取り出す。

「ま、まさか……!」
「そのまさか!」

出来立てのドーナツの表面に溶かしたチョコレートを付ける。
これでチョコレートが固まればチョコレートドーナツの完成。
あとはグラニュー糖をまぶしたのと、何も味付けしてないのをわけておく。
いくら甘いの好きな人が多くても、苦手な人もいるかもしれないからな。

「うわあ、美味そー!」
「こんなに簡単に作れるんだね」
「朝日くん、それおやつ!?」
「ドーナツ……!しかも出来立て……!」
「王子!た、食べても良いですか!?」
「それは朝日に聞くべきだね」
「朝日くん!!!」
「どうぞ、召し上がれ」

ウェイン王子に促され、みんなが一斉にこちらを向く。
この前の肉の時も思ったけどおじさん達がお肉やお菓子ひとつでこんなに目を輝かせるのがちょっと可愛い。
拒否する理由もないのでもちろん快く促す。
とはいえ太陽とウェイン王子が先に手を付けないと他の団員さん達も食べ辛いだろう。
先に二人が手を伸ばしたのを見て、団員さん達も一斉に手を伸ばし始めた。

「おお……」

山盛りに作っていたはずのドーナツが面白いくらいに消えていく。
売れ行きはどれも同じくらい。
チョコを食べた後でプレーン、プレーンを食べた後でグラニュー糖。
ずっと甘い物ばかりを繰り返し食べている人もいる。
うん、何にせよ好評で良かった。

「甘い物もたまには美味いな」
「ふっ、たま、口の周りに付いてるよ」

もぐもぐと舌鼓を打つたまだったが、その口の周りに白い粉が付いている。
たっぷりまぶしたからなあ、気を付けないとベタベタになってしまう。

「そういうお主にも付いているぞ」
「え、嘘」
「嘘ではない。ほら」
「!」

ぐいっと親指で口元を拭われる。
指先には小さくチョコレートが付いていた。

「ありがと」

拭ってくれた事にお礼を言うが、たまの次の行動に驚いた。

「な、な……!?」
「?どうした?」
「何してんの!?」
「何って、舐めただけだが?」
「いや、うん、そうなんだろうけど!」

俺の口元を拭った指先をたまはそのまま舐めたのだ。
うん、確かに舐めただけだろうよ。
自分の指先舐めるのに何の許可もいらないだろうよ。
いらないだろうけど俺の口元拭ったのをそのまま舐めるの止めてくれないかな!?

特に何かをされた訳ではないけど恥ずかしい。
妙に恥ずかしい。

「顔が赤いぞ?熱でもあるのか?」
「赤くないし」
「いや、赤い」
「赤くないったら!」

自分でも自覚しているがそれを指摘されると更に恥ずかしさが増すので全力で否定する。
否定した所で見たらすぐわかるから意味がないんだけど。

「どう見ても赤いんだが」
「ちょっと黙ってて」
「むぐっ」

見たままを素直にはっきりと言うたまを黙らせるために口にドーナツを詰め込む。
目論み通りにたまは黙ってくれたのだが。

「あの、朝日、ほどほどにね?」
「精霊様相手にあの態度……!」
「さすが勇者様の連れだな……!」

俺の行動にウェイン王子は苦笑いを浮かべ、他の団員さん達には口々にそんな事を囁かれてしまった。
しまった、やりすぎたか。

「朝日、最近たまと仲良すぎ」
「気のせいだと思う」
「本当に?」
「……知らない」
「……へえ?」
「太陽、その目止めて」
「はて、どんな目でしょうねー?」
「……っ」

太陽の視線に耐え切れず、その場の雰囲気をごまかすようにもぐもぐとドーナツを頬張る。
せっかくのドーナツが全然甘く感じなくて、元凶であるたまをじとりと睨みつけた。
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