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カレーパン
しおりを挟む討伐二日目。
先に来ていた討伐部隊は今日城へと戻るらしい。
これからはウェイン王子率いる騎士団の精鋭達と太陽がメインで討伐を行う。
魔獣は森のあちこちにいるため、長い旅になるだろうと言われた。
転移魔法を使えば魔獣のところまであっという間なのだが、大人数の転移魔法はかなりの魔力を消費するらしい。
そりゃそうだ、人一人飛ぶだけでも凄いんだから。
なので、地道に歩いたり馬車で移動したりの討伐となる。
ちなみに太陽は、それなら自分一人飛ばしてくれればぶっ飛ばしてくるけど、と血迷った発言をしていたがすぐにウェイン王子と俺に却下された。
当たり前だ、危険な所に一人で行かせられるはずがない。
何を考えているんだ全く。
万が一何かあったらどうするんだ。
それはさておき、今日の朝ご飯の準備だ。
昨日のうちに大量に作っておいたカレーを更に仕込んでおいた。
鍋を横にしても落ちないくらいに固まっている。
これこれ、このくらい固まってないとダメなんだよ。
「朝日、朝ご飯何?」
「カレーパンだよ」
「え、カレーパンって作れんの!?」
「初挑戦だけどね。前に本で見て作ってみたくてさー。うまくいくかなー」
思わず鼻歌を口ずさんでしまう。
新しいメニューに挑戦する時はいつも楽しくてうきうきが止まらない。
カレーの他にも辛くない普通の餡も用意してある。
春巻きと肉まんの中間みたいな具材をカレーと同じく固めておいた。
パン生地も今朝早起きして作ってある。
他の事では早起き出来ないけど、料理の事でなら早起き出来るんだから現金なものだ。
(色々手順たくさんあったけど、魔法使えば発酵する時間も寝かせる時間も自由自在なんだからほんと便利だよなあ)
特に生地は上手くいくかどうか心配だったけど大丈夫だった。
それにしても朝からカレーパンは油がきついんじゃないかとお思いのそこのあなた。
魔法の力で解決するんですよこれがまた。
油は使うんだけど、魔法の力でほんの少しの油でもさっくり揚がるから全然油っぽくならない。
もうひとつの餡とカレーと、どちらも揚げたのと蒸したのと二種類用意するつもりだから、そこはお好みで食べてもらおう。
俺はもちろん全種類食べるけど。
多分太陽も全種類食べると思う。
というよりもひとつずつじゃ足りないから他にも色々と野菜を用意しておかなければ。
「隣国のパンみたいね」
「パンですから」
ゴンチャロフさんが生地をふにふにと指先で突いている。
「これとカレーをどうするの?挟むのかしら?」
「いえいえ、これはこうするんです」
「あらー」
頬に手を当て驚きの声を上げるゴンチャロフさん。
もちろん手伝ってもらうので手順を見せる。
手順といってもくるむだけなんだけど。
大量のカレーパンと肉まんが出来る。
それを半分は蒸し器、もう半分を大鍋に次々と投入していった。
「うーん、良い匂い!」
パンが揚がる良い匂いがする。
外で揚げ物するって変な感じだけど楽しい。
何より台所の汚れを気にしなくても良いっていうのが最高。
大変なんだよな、揚げ物やった後のガス台とかその周りとかの油汚れ掃除するの。
最近は100均で手軽に拭き掃除出来るシートが売ってるから良いけど、それでも面倒だもんな。
やらなきゃいけないからやってるけど、何もしなくて良いのなら出来る事ならやりたくない。
その点、この世界は油跳ね防止の魔法がかかってるから洗剤も何もいらず、ただ水拭きするだけで簡単キレイぴっかぴかに磨いたようになるのだ。
羨ましいったらない。
揚げたカレーパンと揚げ肉まんを次々と配り、蒸しあがった肉まんカレーマンも同じように配られていく。
かなり大量にあったパン達だが、みんなやはりかなり食べる。
パンの他に用意していた野菜スティックもあっという間になくなってしまった。
バーニャカウダ風のソースが美味しいと評判で良かった。
後はゴンチャロフさん特製オムレツがあって、ふわふわとろとろでかなり美味しそう。
「朝日、熱いんだが」
「熱々なのが良いんじゃん。もしかして猫舌なの?」
揚げたてのカレーパンを手に固まるたま。
辛うじて一口食べてはいるが、パンの部分ちょびっとだけで中の具まで全く辿り着いていない。
猫の姿でいすぎて猫舌が移ったのか?
「半分に割ってふーふーしながら食べなよ」
「む……そうか」
素直に半分に割ってふーふーするたま。
食べ物ふーふーしてても美形は美形だな。
全く顔が崩れないのが凄い。
俺がふーふーしたらひょっとこになるというのに。
「美味しい?」
「ああ、良い味だ。昨日食べたのとは随分印象が違うな」
「ご飯に合わせてもパンに合わせても美味しい所が最高だよね、カレー」
「朝日、もっとちょうだい」
「太陽、これ何個目?」
「五個目」
「野菜食べてる?」
「……」
視線を思い切り逸らされた。
食べてないな、これは。
「はい、おかわりの前にこれ」
「うげ、こんなに!?」
小さめのボウルいっぱいの野菜を差し出すとグッと眉が寄る。
「こんなの少ない方だよ。すぐ食べれるでしょ」
「食えるけど……」
「野菜食べない人にはおかわりありませーん」
「えええ!?冗談だろ!?」
「本気」
「朝日ー!」
「健康な身体は健康な食事から!」
「……わかったよ」
ぶちぶち言いながらもぽりぽりと野菜を食べ始める太陽。
食べられない訳じゃないんだからそんなに嫌がらなくても良いのに。
というよりも俺がいなければそれなりにちゃんと食べるのだから、俺がいる前でも普通に食べて欲しい。
何だか小言を言われるのを待っているような所があるので困ったものだ。
わかっていて小言を言ってしまう俺も俺だけど。
さて、みんなに行き渡ったところで俺も食べよ。
太陽のおかわり分を揚げながら自分でもパンを頬張る。
一口噛むと衣がサクッとしていて、中の熱々のカレーがとろっと出てきて美味しい。
カレーの辛さもとろとろ具合もパンの柔らかさも揚げ加減も絶妙。
全部が丁度良い。
初めてにしては上出来だ。
「熱々、うまー!」
「俺がおかわり我慢してるのにー!」
「太陽の分は今揚げてるんだから我慢」
「朝日、我も新しいのが欲しい。今度はカレーではない方が良い」
「揚げる?蒸す?」
「蒸した方が良い」
「はいよー」
食べながら揚げて、蒸して、また食べて。
忙しく動きながらももぐもぐと口を動かし続けた。
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