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巻き込まれた一般人
しおりを挟むここはシーラという海と森に囲まれた広大な土地を誇る国。
今俺達がいるのは城のある街からほんの少し北側に位置する森の中。
当然日本とは……というか地球とは全く違う世界らしい。
まあ、うん、そうじゃないかと思ってた。
野良猫の精霊はこの国を守る為に生まれ、今までずっと国が平和であるようにと守ってきていたそうだ。
変化のない平和な毎日。
時折退屈だと感じながらものんびりと過ごしていたある日、とある異変に気が付いた。
「異変?」
「森の東の端に魔獣が現れたのだ」
「魔獣……」
そう言われてもピンとこない。
「魔獣というのは獣だ。読んで字の如くだが、恐らくお主達が見てきた地球の動物とは訳が違う」
世界でも何年かに一度のペースで魔獣の大量発生が起こるらしい。
その度に討伐して事なきを得ているのだが、今回ばかりは規模が桁外れだったそうだ。
その魔獣は恐ろしく、巨大で獰猛、残虐。
群れを作り餌を求めどんどんと街の方まで侵攻してきているという。
魔法の力を持ってしてもどんなに猛者を連れていっても敵わない。
騎士団を派遣し討伐に向かったのだが倒せたのはせいぜい10頭にも満たない。
隣国に助けを求め、竜の力を借りたがそれでも倒しきれなかった。
ていうか魔法とか竜とかいるんだ。
ちょっと気になる。
「我は早々にこの世界から離れ、あらゆる場所を探して回った。この世界を救える、魔獣を倒せる者を」
「国の危機に精霊さんがいなくなって大丈夫だったのかよ」
「神の加護により時空を超えられる。問題ない」
神様まで出てきちゃったよ。
どうなってるんだ。
いやでも待て。
この話の流れからすると……
「もしかして、太陽がその魔獣を倒せる者……って事?」
「え」
「その通りだ」
「えええ!?」
俺の言葉に精霊がこくりと頷く。
「何で俺!?ただの高校生だぞ!?」
「お主はただの高校生ではない。勇者だ」
再度きっぱりと言われ太陽は更に戸惑いを浮かべる。
「いきなり勇者って言われても困るんだけど」
「だから今説明しているだろう?」
「こっちに連れてくる前に説明するべきだろ!」
「……ふむ、そうか。それは失礼した」
「……調子狂うなあ」
これまたあっさりと謝られてしまい、頭をがしがしと乱暴に掻き乱している。
「太陽がここに連れてこられた理由はわかった」
その魔獣を退治し、国に平和をもたらすためだ。
わかりやすい。
だがしかし。
「俺はどうして……?」
勇者が太陽であるならば、俺は全く関係ないはずだ。
疑問を抱かない方がおかしい。
自分で自分を指差しつつ精霊に問うと。
「お主はうっかり連れてきてしまった。すぐ隣にいたからな」
「………………はい?」
「うっかりってお前……」
うっかり?
うっかりで連れて来られたと?
それってつまり巻き込まれただけ?
は?
じゃあ俺はどうすればいいんだ?
「ちなみに元の世界に戻るっていうのは……」
「出来ん」
「……ですよねー」
だと思ってました。
だってこういう系の漫画って大体戻って来ないもん。
「いや、ですよねーじゃねえだろ!勝手に連れてきたんだから責任持って帰らせろよ!」
「だからそれは出来ないのだ」
「時空超えられんだろ!?だったら……!」
「時空は超えられるし、向こうからこちらへと落とすのは簡単だが戻すのは難しいのだ。それにこちらに来た時点で既に向こうでのお主達の居
場所はなくなっている」
「それってつまり、記憶の操作とかそういうやつつ?」
「そのようなものだ。最初からないものとなっているだろうな」
「そんな……」
「冗談だろ?そんなお前らにとってだけ都合のいい話があるかよ!」
「都合が良かろうが何だろうがこの国を救うためならば仕方がない」
「はあ!?」
「太陽、待って」
「何で止めるんだよ!?」
今にも精霊に殴りかかりそうな太陽を止める。
俺の為に怒ってくれているのがわかり嬉しいが、多分精霊は殴れない。
「とりあえず弁当食べよう」
「……は!?」
突然の俺の提案に太陽ばかりか精霊までも驚いていた。
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