上 下
66 / 72
最終章

16

しおりを挟む





一樹が『好き』というのを我慢して、萩野が気持ちに蓋をしてから早数週間。
一樹は相変わらず萩野に可愛いカッコイイ素敵堪らんなど、愛ではないがあからさまな言葉を浴びせているというのに萩野は全く応じようとしない。
そればかりか、むしろそれを諫めたり流すようになっていた。

「先輩!今日の試合も超超超素敵でした!他校の選手よりもやっぱり先輩が一番カッコイイですね!」
「はは、そういうのもう良いから。でもありがとな」
「!」

他校との練習試合を終えた萩野に真っ先に駆け寄る一樹。
いつものように抱き着いてくる一樹の頭をぽんぽんと撫でる萩野。
傍から見ればいちゃついているようにしか見えない。

これはとうとう萩野が一樹に落とされたのか!?
いやそれにしては萩野の様子がおかしい。
好いた腫れたの甘い雰囲気が萩野からは見当たらない。

条攴生であれば言うまでもなく気付くだろうこの二人の微妙な関係。
それに他校生が気付くはずもなく。

「山下くん、ちょっと良い?」
「え?」

なんと、対戦校の応援についてきていた女の子が一樹にそう声を掛けてきた。
ざわりと一瞬で騒めく条攴バスケットボール部の面々及び応援団。

「な……!?や、やま、やまやま山下が女子から呼び出しだと……!?」
「嘘だろ、何で山下が!?」
「あんな変態より俺の方が絶対良いのに!!」
「ああ、しかも結構可愛い……!」
「山下あの野郎!あんちくしょう!!」
「待て、山下はアレだぞ?女子に興味あるのか?」
「いやあ、どうだろう、でもあんだけ可愛けりゃ山下もぐらっと来るんじゃね?」
「生粋の男好きが女の子にぐらっとするかよ!」
「……」

ちょっと行ってきますね、と軽く手を振りその女の子についていく一樹。
萩野はそんな一樹を呆然と見送ってしまった。

「萩野、ハニーの浮気を放っておいて良いのか!?」
「は?」
「そうだぞ!何話してるのか突き止めてこい!」
「え!?」
「あわよくば他校女子との合コンセッティングよろしく!」
「ちょ、待っ……!」
「行け!ほら!」
「えええ!?」

そのまま静観出来るはずもなく。
萩野は部員達に背を押され、一樹と女の子の会話を盗み聞きしなければならないハメになった。

(……何でオレが……)

萩野ががっくりと肩を落とすのも仕方がない。
自覚して間もないが、萩野は一樹が好きなのである。
もしかしたら一樹が告白されるかもしれないその場面を盗み見るなど嫌に決まっている。
とはいえ気になるのも確か。
萩野の性格上、後からさりげなく一樹に問い詰めるというのも至難の業。

(……少しなら)

ほんの少しだけなら様子を窺うくらい良いだろう。
そう思い、一樹と女の子に近付いていった。 

二人はコートの外、ちょうど建物の角になる場所にいた。
一樹よりもほんの少し小さな女の子。
長く艶やかな髪の毛に制服の袖から伸びる腕もスカートから覗く足も華奢で萩野とは真逆。

(お似合いだな)

向かい合う二人にそんな事を思う。
ああしていると、普段セクハラ三昧な一樹も普通の高校生なのだなと改めて実感する。
一樹の隣にはああいう可愛らしい女の子が似合う。
そんな事を考えてしまう萩野。
一樹がこれを知ったら発狂するに違いない。

近くまで来たが、二人の会話は聞こえない。
これ以上近付くと気付かれてしまう。

女の子が何かを取り出し一樹に押し付ける。
拒否するような仕草が見えるが、結局は押し付けられてしまっているようだ。
女の子はそのまま笑顔で去っていく。
一樹は困ったように頭を掻き、小さく溜め息を吐いたように見えた。
その『何か』は多分手紙だ。
封筒に小さなハートマークがあるのを見てしまった。
こんな時ばかりは自分の視力の良さが恨めしい。

(ラブレター、だよな)

あんな雰囲気で渡されるものと言えばそれしかない。

ずきりと胸に痛みが走る。
一樹はあの手紙を読むだろうか。
読んだら返事をするだろうか。
付き合って下さいと書いてあったら受け入れてしまうだろうか。
そうなると自分にはもう近付かないだろう。
いや、近付きはするが今までとは関係が変わってしまうのは確実だ。

そんな事をぐるぐると考えてしまう萩野は、一樹がこちらに近付いてきている事に気付いていなかった。

「……先輩?」
「!!!」

真正面から顔を覗き込まれびくりと全身が跳ねる。

「や、山下……!」
「どうしたんですかこんな所で?」
「あ、いや、その……!」

まさか盗み見していたなんて言えない。
しかしこんな場所にこっそりといるのだから察しの良い一樹はそれにさらりと気付いてしまった。

「今の見てたんですか?」
「……悪い」
「え?え?オレの事が気になって?は!もしかして俺が告白されるか心配で……!?」
「いや、えっと、その……」

返事の端切れが悪い。

「え、マジで!?マジで俺が心配で来てくれたんですか!?」
「うお!?」

途端に輝く一樹の瞳。
がばりと抱き着かれさっきよりも大きく身体が跳ねた。
試合が終わった直後に抱き着かれた時も実はどぎまぎしていたが、今回はその比じゃない。
一樹が胸に顔を埋めていて良かったと、顔を真っ赤に染めた萩野はひっそりとそう思っていた。

「……で、さっきの女の子の用事は何だったんだ?」
「……ああ」

聞いた瞬間一樹のテンションが一気に下がる。
声までいつもよりも数段低い。

「どうした?」
「いえ、うーん……」

言いにくそうだ。
やはり告白されたのだろうか。
ちらりと萩野を見上げる一樹。
すぐに下を向いてしまったその視線がどこか不安そうに揺れているのに気付き、萩野は首を傾げた。

「本当にどうしたんだ?」

この様子では告白ではなさそうだ。
何か困った事でも相談されたのだろうか。
酷い事を言うような子には見えなかったし、そんな雰囲気でもなかったと思うのだが。

「山下、何かあったんなら聞くぞ?どうしたんだ?」
「……先輩」

再びちらりと見上げる一樹。
今度は明らかな困り眉である。

「彼女、作る気ありますか?」
「は?」

そして告げられたのは予想外の一言だった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

薫る薔薇に盲目の愛を

不来方しい
BL
代々医師の家系で育った宮野蓮は、受験と親からのプレッシャーに耐えられず、ストレスから目の機能が低下し見えなくなってしまう。 目には包帯を巻かれ、外を遮断された世界にいた蓮の前に現れたのは「かずと先生」だった。 爽やかな声と暖かな気持ちで接してくれる彼に惹かれていく。勇気を出して告白した蓮だが、彼と気持ちが通じ合うことはなかった。 彼が残してくれたものを胸に秘め、蓮は大学生になった。偶然にも駅前でかずとらしき声を聞き、蓮は追いかけていく。かずとは蓮の顔を見るや驚き、目が見える人との差を突きつけられた。 うまく話せない蓮は帰り道、かずとへ文化祭の誘いをする。「必ず行くよ」とあの頃と変わらない優しさを向けるかずとに、振られた過去を引きずりながら想いを募らせていく。  色のある世界で紡いでいく、小さな暖かい恋──。

捨てられ令嬢は、騎士団に拾われる

太もやし
恋愛
家族に夜逃げされた令嬢アティは得意なポーションを作ることで、どうにか生きていこうと考えた。しかし、世間知らずの彼女は危険な場所でポーションを売ろうとしてしまう。 悪人に捕まったアティは監禁され、無理矢理働かされていた。そんな状況から彼女を救ったのは、王国の騎士たちだった――。 錬金術士見習いになった令嬢と、イケメンエリート騎士たちの乙女ゲーム風恋愛物語。

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

上司に連れられていったオカマバー。唯一の可愛い子がよりにもよって性欲が強い

papporopueeee
BL
契約社員として働いている川崎 翠(かわさき あきら)。 派遣先の上司からミドリと呼ばれている彼は、ある日オカマバーへと連れていかれる。 そこで出会ったのは可憐な容姿を持つ少年ツキ。 無垢な少女然としたツキに惹かれるミドリであったが、 女性との性経験の無いままにツキに入れ込んでいいものか苦悩する。 一方、ツキは性欲の赴くままにアキラへとアプローチをかけるのだった。

どうぞ二人の愛を貫いてください。悪役令嬢の私は一抜けしますね。

kana
恋愛
私の目の前でブルブルと震えている、愛らく庇護欲をそそる令嬢の名前を呼んだ瞬間、頭の中でパチパチと火花が散ったかと思えば、突然前世の記憶が流れ込んできた。 前世で読んだ小説の登場人物に転生しちゃっていることに気付いたメイジェーン。 やばい!やばい!やばい! 確かに私の婚約者である王太子と親しすぎる男爵令嬢に物申したところで問題にはならないだろう。 だが!小説の中で悪役令嬢である私はここのままで行くと断罪されてしまう。 前世の記憶を思い出したことで冷静になると、私の努力も認めない、見向きもしない、笑顔も見せない、そして不貞を犯す⋯⋯そんな婚約者なら要らないよね! うんうん! 要らない!要らない! さっさと婚約解消して2人を応援するよ! だから私に遠慮なく愛を貫いてくださいね。 ※気を付けているのですが誤字脱字が多いです。長い目で見守ってください。

死んでないのに異世界に転生させられた

三日月コウヤ
ファンタジー
今村大河(いまむらたいが)は中学3年生になった日に神から丁寧な説明とチート能力を貰う…事はなく勝手な神の個人的な事情に巻き込まれて異世界へと行く羽目になった。しかし転生されて早々に死にかけて、与えられたスキルによっても苦労させられるのであった。 なんでも出来るスキル(確定で出来るとは言ってない) *冒険者になるまでと本格的に冒険者活動を始めるまで、メインヒロインの登場などが結構後の方になります。それら含めて全体的にストーリーの進行速度がかなり遅いですがご了承ください。 *カクヨム、アルファポリスでも投降しております

独占欲強い系の同居人

狼蝶
BL
ある美醜逆転の世界。 その世界での底辺男子=リョウは学校の帰り、道に倒れていた美形な男=翔人を家に運び介抱する。 同居生活を始めることになった二人には、お互い恋心を抱きながらも相手を独占したい気持ちがあった。彼らはそんな気持ちに駆られながら、それぞれの生活を送っていく。

総受けなんか、なりたくない!!

はる
BL
ある日、王道学園に入学することになった柳瀬 晴人(主人公)。 イケメン達のホモ活を見守るべく、目立たないように専念するがー…? どきどき!ハラハラ!!王道学園のBLが 今ここに!!

処理中です...