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三章

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「先輩そっちうまいですか?」
「安定のいちご味だな」
「一口一口!」
「しょうがねえなあ」
「!!!」

中庭にある花壇に並んで座り、食後のデザートであるかき氷を食べている最中。
一口とねだり、そのまま自分のスプーンで食べさせてくれる萩野に悶える一樹。
普段警戒心強いし今日だって割と警戒していたはずなのに、こうしてたまに油断して一樹のツボにハマる行動をするのが萩野という男なのだ。

(間接キス、間接キスいただきました……!!!)

うっひょー!とガッツポーズをして萩野との間接キスを噛み締める一樹。
そこへ。

「一樹」
「わ!?」

ひょい、と背後の窓から声をかけられ、飛び上がらんばかりに驚いた。

「あ、相澤!?」
「はいはい愛しの相澤さんですよ」

声をかけたのは相澤だった。
一樹と萩野の一部始終を見ていたのだろう、笑顔ではあるが目が笑っていに。

「愛しくねえし!」
「てかまだこんなとこにいたの?五分前集合って言ったでしょー?」
「え?あ、やべっ、もう時間!?」

そう指摘され、差し出された時計を見て時間に驚く。
もう既に休憩時間終了間際だった。

ちなみに相澤のいる教室が役員や実行委員の休憩室である。

「うわー、先輩すいません!オレ行かないと!」
「ああ、気にすんな」

萩野に向き直る一樹。
申し訳なさそうに眉が垂れ下がっているのが妙に可愛く、笑みを誘う。
無意識にふわりとした笑みを浮かべる萩野に……

カシャッ

「……ん?」
「はあはあはあ念願のふんわりスマイルゲットオオオオ!!!やべっ、かんわいい!」

いつの間に取り出したのか、携帯電話でその瞬間を撃写。
鼻息荒く撮った写真を保存し待ち受けに設定、更に保護する一樹。

「ちょっ、馬鹿消せ!」
「やだやだせっかく撮れたのに!」

携帯を奪おうとする萩野。
ふんわりだかなんだか知らないが、自分の写真、しかも笑顔のだなんて恥ずかしくて仕方がない。
おまけに待ち受けだなんて冗談じゃない。

ぎゃあぎゃあと騒いでいるのがいちゃついているようにしか見えない相澤は、当然面白くない。
しかも休憩時間前にわざわざ釘を刺したというのに、それを気にした様子がないのが更に腹が立つ。

「ぎゃっ!?」
「!」

携帯を奪われまいと抵抗していた一樹が、徐に萩野に抱き付いた。
全く色気のない声をあげた萩野だが、どこか照れているようで。

(……やっぱりムカつくな)

笑顔を貼り付けたまま青筋を浮かび上がらせる相澤。
見る人が見れば恐ろしいその笑みだが肝心の二人は気付いちゃいない。
 
「一樹、早くおいで」
「あ、ごめん」

早く離れろという思いを込めて呼ぶ。
一樹は一瞬謝ったが、すぐさま萩野に向き直り。

「先輩、それじゃオレ行くんで」
「ん?ああ」
「えへへ頭撫でて下さい頭!」
「ええ?」

甘えながらそう請う。
断られると思っていたのだが、萩野は仕方ないなあといった様子で手を伸ばした。

が。

「かーずき!」
「「!」」

焦れた相澤がまたも横やり。
今更ながら見られていたと気付いた萩野が、伸ばしていた手を下げてたことに一樹が盛大な舌打ち。

「わかってる!すぐ行くから!」

なんだよこれから夜まで会えないんだから別れくらい惜しませろよ。
てかもう少しで頭撫でてくれるとこだったのに、とありありと表情に浮かべながら答える。

「じゃあ先輩、すいません、頭撫でるのは夜で!」

と、あっさり巻き付けていた腕を離して駆け出そうとしたのだが。

「……」
「……え?」

くん、と。
袖を引かれる感覚に、出しかけた一歩が戻された。

















※萩野視点




「すぐ行くから!」

そう言いながらあっさりと離れた腕。

つい今の今まで自分に引っ付いていたのに。
まだ頭も撫でていないし、行って来いとも言っていないのに。
なのに一樹は離れて行ってしまう。
相澤に呼ばれたからすぐに行ってしまうのだろうか。

それがどうしようもなくもやもやして。

「……」

つい、一樹の袖を掴んでこの場に引き留めてしまった。

「……え?」

引かれたその手にぴたりと止まり、ぽかんとした表情で振り向き見上げてくる一樹。

「え?あの、先輩?」
「え?」
「あの、袖……」

ぽつりと一樹に指摘され、初めて自分がしている事を自覚する萩野。

「え?あっ、わ、悪い!」

目元を僅かに朱に染め、ぱっと手を離す様が一樹にとって生唾物だということには気付いていない。
ただ、これから仕事に行くというのに無意識に引き留めてしまった自分の馬鹿さ加減に落ち込み。

「せんぱ……」
「あ、じゃ、じゃあな!仕事頑張ってこいよ!」
「え!?ちょっ」

誤魔化すように早口で捲し立て、一樹の肩を反転させ背中を押し、背後から呼び掛ける声を聞きながら自身は足早にその場を立ち去る。
どくんどくんと大きくなる鼓動。

『オレが一樹のこともらうからね』

「……っ」

言われた時は訳がわからなかったがどこか引っ掛かっていたセリフ。
それが頭の奥で反芻されていた。



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