49 / 72
三章
21
しおりを挟む「先輩そっちうまいですか?」
「安定のいちご味だな」
「一口一口!」
「しょうがねえなあ」
「!!!」
中庭にある花壇に並んで座り、食後のデザートであるかき氷を食べている最中。
一口とねだり、そのまま自分のスプーンで食べさせてくれる萩野に悶える一樹。
普段警戒心強いし今日だって割と警戒していたはずなのに、こうしてたまに油断して一樹のツボにハマる行動をするのが萩野という男なのだ。
(間接キス、間接キスいただきました……!!!)
うっひょー!とガッツポーズをして萩野との間接キスを噛み締める一樹。
そこへ。
「一樹」
「わ!?」
ひょい、と背後の窓から声をかけられ、飛び上がらんばかりに驚いた。
「あ、相澤!?」
「はいはい愛しの相澤さんですよ」
声をかけたのは相澤だった。
一樹と萩野の一部始終を見ていたのだろう、笑顔ではあるが目が笑っていに。
「愛しくねえし!」
「てかまだこんなとこにいたの?五分前集合って言ったでしょー?」
「え?あ、やべっ、もう時間!?」
そう指摘され、差し出された時計を見て時間に驚く。
もう既に休憩時間終了間際だった。
ちなみに相澤のいる教室が役員や実行委員の休憩室である。
「うわー、先輩すいません!オレ行かないと!」
「ああ、気にすんな」
萩野に向き直る一樹。
申し訳なさそうに眉が垂れ下がっているのが妙に可愛く、笑みを誘う。
無意識にふわりとした笑みを浮かべる萩野に……
カシャッ
「……ん?」
「はあはあはあ念願のふんわりスマイルゲットオオオオ!!!やべっ、かんわいい!」
いつの間に取り出したのか、携帯電話でその瞬間を撃写。
鼻息荒く撮った写真を保存し待ち受けに設定、更に保護する一樹。
「ちょっ、馬鹿消せ!」
「やだやだせっかく撮れたのに!」
携帯を奪おうとする萩野。
ふんわりだかなんだか知らないが、自分の写真、しかも笑顔のだなんて恥ずかしくて仕方がない。
おまけに待ち受けだなんて冗談じゃない。
ぎゃあぎゃあと騒いでいるのがいちゃついているようにしか見えない相澤は、当然面白くない。
しかも休憩時間前にわざわざ釘を刺したというのに、それを気にした様子がないのが更に腹が立つ。
「ぎゃっ!?」
「!」
携帯を奪われまいと抵抗していた一樹が、徐に萩野に抱き付いた。
全く色気のない声をあげた萩野だが、どこか照れているようで。
(……やっぱりムカつくな)
笑顔を貼り付けたまま青筋を浮かび上がらせる相澤。
見る人が見れば恐ろしいその笑みだが肝心の二人は気付いちゃいない。
「一樹、早くおいで」
「あ、ごめん」
早く離れろという思いを込めて呼ぶ。
一樹は一瞬謝ったが、すぐさま萩野に向き直り。
「先輩、それじゃオレ行くんで」
「ん?ああ」
「えへへ頭撫でて下さい頭!」
「ええ?」
甘えながらそう請う。
断られると思っていたのだが、萩野は仕方ないなあといった様子で手を伸ばした。
が。
「かーずき!」
「「!」」
焦れた相澤がまたも横やり。
今更ながら見られていたと気付いた萩野が、伸ばしていた手を下げてたことに一樹が盛大な舌打ち。
「わかってる!すぐ行くから!」
なんだよこれから夜まで会えないんだから別れくらい惜しませろよ。
てかもう少しで頭撫でてくれるとこだったのに、とありありと表情に浮かべながら答える。
「じゃあ先輩、すいません、頭撫でるのは夜で!」
と、あっさり巻き付けていた腕を離して駆け出そうとしたのだが。
「……」
「……え?」
くん、と。
袖を引かれる感覚に、出しかけた一歩が戻された。
*
※萩野視点
「すぐ行くから!」
そう言いながらあっさりと離れた腕。
つい今の今まで自分に引っ付いていたのに。
まだ頭も撫でていないし、行って来いとも言っていないのに。
なのに一樹は離れて行ってしまう。
相澤に呼ばれたからすぐに行ってしまうのだろうか。
それがどうしようもなくもやもやして。
「……」
つい、一樹の袖を掴んでこの場に引き留めてしまった。
「……え?」
引かれたその手にぴたりと止まり、ぽかんとした表情で振り向き見上げてくる一樹。
「え?あの、先輩?」
「え?」
「あの、袖……」
ぽつりと一樹に指摘され、初めて自分がしている事を自覚する萩野。
「え?あっ、わ、悪い!」
目元を僅かに朱に染め、ぱっと手を離す様が一樹にとって生唾物だということには気付いていない。
ただ、これから仕事に行くというのに無意識に引き留めてしまった自分の馬鹿さ加減に落ち込み。
「せんぱ……」
「あ、じゃ、じゃあな!仕事頑張ってこいよ!」
「え!?ちょっ」
誤魔化すように早口で捲し立て、一樹の肩を反転させ背中を押し、背後から呼び掛ける声を聞きながら自身は足早にその場を立ち去る。
どくんどくんと大きくなる鼓動。
『オレが一樹のこともらうからね』
「……っ」
言われた時は訳がわからなかったがどこか引っ掛かっていたセリフ。
それが頭の奥で反芻されていた。
0
お気に入りに追加
99
あなたにおすすめの小説
少年ペット契約
眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。
↑上記作品を知らなくても読めます。
小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。
趣味は布団でゴロゴロする事。
ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。
文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。
文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。
文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。
三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。
文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。
※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。
※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。
転生したら乙女ゲームの攻略対象者!?攻略されるのが嫌なので女装をしたら、ヒロインそっちのけで口説かれてるんですけど…
リンゴリラ
BL
病弱だった男子高校生。
乙女ゲームあと一歩でクリアというところで寿命が尽きた。
(あぁ、死ぬんだ、自分。……せめて…ハッピーエンドを迎えたかった…)
次に目を開けたとき、そこにあるのは自分のではない体があり…
前世やっていた乙女ゲームの攻略対象者、『ジュン・テイジャー』に転生していた…
そうして…攻略対象者=女の子口説く側という、前世入院ばかりしていた自分があの甘い言葉を吐けるわけもなく。
それならば、ただのモブになるために!!この顔面を隠すために女装をしちゃいましょう。
じゃあ、ヒロインは王子や暗殺者やらまぁ他の攻略対象者にお任せしちゃいましょう。
ん…?いや待って!!ヒロインは自分じゃないからね!?
※ただいま修正につき、全てを非公開にしてから1話ずつ投稿をしております
俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
真冬の痛悔
白鳩 唯斗
BL
闇を抱えた王道学園の生徒会長、東雲真冬は、完璧王子と呼ばれ、真面目に日々を送っていた。
ある日、王道転校生が訪れ、真冬の生活は狂っていく。
主人公嫌われでも無ければ、生徒会に裏切られる様な話でもありません。
むしろその逆と言いますか·····逆王道?的な感じです。
聖域で狩られた教師 和彦の場合
零
BL
純朴な新任体育教師、和彦。
鍛えられた逞しく美しい肉体。
狩人はその身体を獲物に定める。
若く凛々しい教師の精神、肉体を襲う受難の数々。
精神的に、肉体的に、追い詰められていく体育教師。
まずは精神を、そして、筋肉に覆われた身体を、、、
若く爽やかな新米体育教師、杉山和彦が生徒に狩の獲物とされ、堕ちていくまで。
以前書いた作品のリライトになります。
男性向けに設定しましたが、個人的には、性別関係なしに読んでいただける方に読んでいただきたいです。
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる