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三章
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しおりを挟む「と、いうわけでやりたい事がある人は手あげて。いつまで経っても意見出なかったら端から順番に山下にセクハラさせるからそのつもりで」
教壇の前に立ち、望がそう言った途端に全員が挙手。
みんながみんな意見を持っている訳ではないことは明白である。
きっと手をあげるのは半数にも満たないだろうと思っていた一樹は盛大に舌打ちをした。
「なんだよみんな張り切りすぎだよ!そんなにオレに触られたくないわけ!?」
当たり前だ。
クラス全員の心の声が、傍らで聞いていた担任の耳にしっかりと届いていた。
「まあいいや!んじゃ端から順番にやりたい事言ってってー、考えなしで上げた奴には厚い包容しちゃる!さあどうぞ!」
ふはははは、と高笑いをしながら廊下側の一番前の生徒を指す一樹。
いつもテンションは高めだが、今日はいつにも増して高い。
うざいくらいに高い。
昨日くじを引いた段階ではあんなに嫌がっていたのに、と疑問に思い、佐倉へと問う。
「なあなあ佐倉さん、あいつなんであんなテンション高いの?」
「しかもやる気みなぎってるし。正直きもい」
「あー……あれはだな」
確かにきもいと思いつつ、昨日の夜を思い出し、佐倉は口を開いた。
*
昨晩。
会議を終え、食事を済ませた一樹はどんよりとした影を背負ったまま、部活上がりが早く先に食事を済ませ部屋にいた萩野へと突進。
ごふっ、と食べたものが全て出てしまいそうなくらい、明らかにボディブローのように腹に腕を絡み付かせ。
「や、山下、頼む、食後すぐにそれは……っ、うっ」
「うわやべ!すいませんごめんなさいあまりに理不尽な事が多すぎて……!」
萩野の訴えにすぐさま腕の力を緩める一樹。
だが抱き付いている体勢はそのままで、端から見ていて萩野がそわそわしているのが丸わかりで、少し楽しかったというのは佐倉の談。
「で?理不尽なことって?」
「実行委員っすよおおおお!!!もう、くじ引きとかマジ滅べばいいっすオレの青春の邪魔しやがってええええ!!」
「ああ、学校祭か」
合点がいったように頷く萩野。
長くこの学校にいる分、その大変さはわかっている。
当日は楽しく見て回るどころではない。
「はは、そりゃ大変だなあ」
「大変どころじゃないっすよおおお!!!」
「まあやりがいは絶対あるし、お前なら出来るだろ。頑張れ」
「!」
嘆く一樹の頭をぐしゃりと撫で、目尻を下げる萩野。
一瞬にして色々なやる気がマックスになったのは言うまでもない。
*
「……と、まあこんな事があったわけよ」
やれやれといった様子で回想を終了する佐倉。
聞いていた周りは、なるほどと揃って納得した。
たった一言であんなに嫌がっていた一樹のやる気を奮い立たせるとは流石である。
しかもセクハラをされてもなおそんなに優しい言葉と対応をしてくれるなんて、と、クラスの萩野に対する評価が一気に上がったとか上がらなかったとか。
「よーし、大体出たかなあ?」
「だな。出すぎたような気もするけど」
気が付けば黒板にずらっと並ぶ候補の数々。
喫茶店、おばけ屋敷、焼きそばにかき氷、フランクフルトなど、飲食店が多少多い気がしなくもない。
多数決を取り、結果無難な喫茶店に決まりはしたものの。
「えー?ただの喫茶店?つまんねー」
一樹がそんな地味な出し物で満足するはずもなく。
そして年に一度、しかも男子校ということもあり皆なんだかんだとノリの良い面々も物足りなさを感じていたらしく。
「!閃いたー!ここはコスパブ喫茶ってどう?みんなで際どいコスプレしてさ!」
一樹が良いこと思い付いたとばかりに言う。
コスプレはまあ良い。
しかし。
「際どいってどんくらい?しかもコスパブって?」
望がぽそりと皆が気になるところを聞くと。
「ぴたぴたの競泳パンツとかふんどしとかハッピとか!そんでお客さんにべたべた絡みながら運ぶの!膝に座るまではオッケーってことで」
「却下」
「なんでえええ!?」
さも当たり前のように露出をさせようとする一樹に、望が冷たく言い放った。
一樹の得にしかならない案は当然ながら却下。
そもそも男に膝に乗られて嬉しい奴がいるのか。
いや、おば様達には喜ばれそうだが、おば様達では自分達が嫌だ。
そんな訳で、結局クラスでの出し物は、普通のコスプレ喫茶に決まり。
「膝抱っこ……堂々とセクハラ出来るチャンスなのに」
ぶつぶつと呟きながらむくれる一樹。
むくれているのは良いのだが。
「てかお前実行委員なんだからクラスの出し物にあんま参加出来なくね?」
「……あ」
自分の役割をすっかり忘れていた一樹。
それならまあいいか、と。
あっさり諦める一樹がいた。
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