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一章

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「で、なんであんな素敵なお兄さん達に絡まれてたのかなボクは?」

無理矢理に助け出したその後、これまた無理矢理に寮まで連れ帰ろうと強制連行。
バス停までの道すがら、一樹が明らかな野次馬根性丸出しでおまけに小馬鹿にしたような調子でにっこにっこと問うと、少年は中学生とは思えない程大人びた態度でもって冷ややかに答えた。

「はあ?関係ねえじゃん。余計な事すんなよ」
「……」

このセリフに一樹カッチーン。
一瞬その顔ににっこりとした笑みが張り付き、直後鬼の形相に変わり少年の胸倉を掴み詰め寄る。

「オイコルァ」
「っ!?」
「や、山下!?」

ゴインッと実に小気味良い音を立てて少年の頭頂部に拳骨が振り下ろされた。

「い……!?」
「生意気言ってんじゃねえぞクソガキが!先輩が助けようとしなかったら今頃フルボッコだぞわかってんのか!?」
「助けてくれなんて頼んでねえし!」
「ぐああっまたそのセリフ!助けられてきちんとお礼も言えねえのか近頃のガキンチョは!」

自分も近頃のガキンチョだという事を忘れないでいただきたい。

「それともナニか、調子こきたいお年頃なんですかねえボクちゃんは!?粋がったところでガキはガキだけどな!」
「はああああ!?」

ガキにガキなんて言われたくない、と目が語る。

「つーかテメェが問題起こしてもし警察沙汰なんかになって学校名あげられて運動部の試合が中止になったらどうしてくれんだ!今まで頑張ってきた先輩達の努力無駄にする気か!?」
「山下……!」

この表向き先輩思いな後輩の意見に、萩野はじーんと胸を暖めたのだが、甘い。

「そしたら余所の可愛いお兄ちゃんの素敵な生足も汗だくになって頑張る色っぽい姿も全部見れなくなっちゃうだろうが!」
「………は?」
「オレの楽しみ取るつもりなら容赦しねえぞ!」
「は?え?」

言っている事がおかしい。

反発していた少年はそれを目で萩野に訴えるが、彼はやはりそっちが本音かと呆れたように額に手を当て溜め息を吐くばかり。
そもそも一樹にまともな意見を期待する方が間違っていたと、遅ればせながら萩野は学習した。

少年は、普通の人とは一つも二つもネジの緩い、とうよりもむしろ外れているのではないかという一樹に戦意を殺がれ、直後萩野に優しく声を掛けられ、この人はまともそうで良かったとひっそり胸を撫で下ろした。

三人が連れ立って寮へと帰ったのは、九時を大きく回った時間だった。
ちなみに一樹が奴らを撃退した方法は、中学生の頃にクラスメイトの女子から借りた漫画に載っていた方法らしい。
萩野と少年がどんな漫画だと疑問を抱いたのは言うまでもない。















「一樹、おかえりー」
「……げ」

結局バスの中でもだんまりを決め込まれ、無事だったからもう良いだろうという萩野に首を横に振り。
意地でも聞き出してやると、食堂へ少年を連れて入った途端に掛けられた声にあからさまに顔をしかめる一樹。
ハートを飛び散らせながら両手を広げ一目散に寄ってくる相澤に、すぐさま萩野の後ろに隠れ逃げた。

「あれ、なんで隠れんのかなあ?久々の再会でしょ、ほら抱っこしたげるから」
「いらねえよ寄るんじゃねえ!」

一足先に帰ってきた一樹と違い、相澤は今日の午後に帰ってきたばかり。
休みの間に彼女くらい作ってこいよそしてもう構ってくれるな、とは一樹の心の声。
思わず乱暴な口調になってしまったのは許して欲しい。

にこにこと一樹に迫る相澤に、少年が目を瞬かせる。
相澤も、二人の影に隠れ一樹にしっかりと捕まえられている少年に、遅ればせながら気付いた。

「あれ、ナオ?何してんのお前」
「相澤さんこそ」
「ん?」
「何、相澤さんコイツ知ってんの?」

一樹の疑問に相澤はさらりと答える。

「つーか、同じ部屋」
「マジで!?」
「マジマジ。何、こいつなんかしたの?一樹と手繋いでるのとか超羨ましいんですけど」
「繋いでんじゃなくて掴まれてんです」

本気で羨ましそうな顔をする相澤に呆れたように溜め息を吐く少年こと直己(ナオミ)。
どうでも良いから早く逃れたいと思っている間に萩野が事情を説明した途端に、相澤は吹き出し大笑い。

「あっはっは!また絡まれたん?バッカだなあ、いちいちケンカ買いすぎなんだよお前は!」
「買ってませんよ!」
「え、なにそんなに絡まれてんの?」

また、というセリフに問うと、そっぽ向く直己に構わず相澤は笑みを崩さず実に楽しげに話した。

というのも直己の絡まれる回数が半端ではないのだ。

普通に道を歩いているだけなのに正面から来た相手にぶつかられ治療費だなんだと請求されたり、ほんの一瞬目が合っただけで胸倉を掴まれたりなど、理不尽なものが多いのだが、また本人もずばずばはっきりと物を言う性格のためバカ正直に真っ向から反論するものだから、相手の怒りを更に増長させたりしてしまっている。

「で?今日は何で絡まれたん?」
「……」
「おいー、言わねえとちゅーすっぞナオミちゃん」
「!!!わわわわかりました!言います!言いますから!!」

がっしりと両頬を押さえつけられてのセリフに本気で嫌がりながり拒否。
即座に原因を話した。

「……普通に歩ってたら目合って、したら睨んでるとか言われて、違えよっつったらイキナリ生意気だって殴られたんスよ」
「……それはまた」
「なんつーか」
「理不尽だろ?」

気の毒そうな一樹と萩野に対してやはり相澤は楽しそう。

「つーか、もう良いっすか?部屋戻りたいんすけど」

いい加減痺れを切らした直巳が、未だ掴まれたままだった腕を上げて離せと訴え、そういえば掴んだままだったかと今更ながらに気付いた一樹。
掴んだ腕はそのままに、じっと直巳の顔を見る。

「……」
「……」
「…………なんだよ」

あからさまに遠慮することなく見つめる一樹に、直巳が居心地悪そうにもぞもぞと動く。
僅かに眉を寄せ問うと、

「いやあ、あと二年くらいかなあ、と」
「……は?」

何が二年なのだろうか。
疑問に思ったのは直巳ただ一人のみ。

「さっきはクソ生意気ですんげえムカついたけど、うん、悔しそうな顔がなかなかどうして好みだなあ。二年もしたらオレ好みのナイスバディになってくれそうだし、顔もなかなか男前だし。よし、じゃあ今の内に手付けとくか」
「え?は?」

ぼそぼそと一人で言ってうんうんと一人で納得。
直巳が疑問符を浮かべている間にぐいっと腕を引っ張り自分の方に無理矢理に近付けた。

そして一樹のドアップが目の前に現れ……

「え?」
「あ!」
「危ない!」

上から直巳、相澤、萩野の順にほぼ同時に声をあげ。

「ちょっ、なんで止めんだよ離せ!」
「ばっか!ちゅーしたいならナオじゃなくてオレとしろよ!」
「大丈夫か?直巳くん」
「な、なんとか……」

相澤が一樹を後ろから羽交い締めにし、萩野が直巳の首根っこを掴み後ろへと引き寄せた事により、一樹が直巳の唇を奪うことは叶わなかった。
その代わりに相澤に物凄く攻められている。

「ほら、べろちゅーでもなんでもしたげるよ?」
「いいいらねえっ寄るなッ離れろ変態ッ!」
「一樹も変態じゃん。似た者同士、仲良くやろうよ」
「嫌だよろしくヤるなら先輩とが良い!」
「オレを巻き込むな勘弁してくれ」
「……」

高等部の先輩三人のこんなやりとりに、直巳は高等部に上がる前に寮を出ようかと本気で考えた。

余談だが、一樹は無事相澤の魔の手から逃れたらしい。
直後に今度は一樹の魔の手が萩野へと向かった。
ストッパー佐倉が帰ってくるまでの数時間、萩野がどのようにして回避したのかはわからない。
が、翌日、一樹の頭に増えたたんこぶを見る限り、決して穏やかな話し合いが行われたのではないというのだけが明らかだった。


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