15 / 72
一章
15
しおりを挟む「…………あ」
「お」
翌日、朝っぱらから教室のドアの前で望と鉢合わせた。
朝っぱらも何も同じクラスなのだから会うに決まっている。
下駄箱のところで会った柿崎や吉野とともにぎゃいぎゃい騒ぎながら登校してきた一樹に気付くと、なんともいえない微妙な表情。
お礼を言った方が良いのはわかっているのだが、昨日の態度を考えると素直に言うのは癪。
どうしようかと悩んでいると。
「あーら望ちゃんじゃないのぉ」
「……は?」
にやーと意地の悪ーいいやらしい笑みを浮かべ、カマ言葉で声をかける一樹に望はぽかんと口を開く。
てっきり無視されるか又はそっけなくされると思っていたのでその驚きもある。
というよりも何故カマ言葉だ気持ち悪い。
「昨日あの後襲われなかったー?」
「……おかげさまで」
一樹の脅しらしきものが効いたのか、あの後は当然何もなく、今朝方たまたま奴らを見掛けた時も顔を真っ青にして向こうから逃げられた。
「なあんだ、つまんねえのー」
「……」
少しでも心配してくれたのかと思った自分がバカだった。
望は口元を引きつらせる。
一方一緒にいた佐倉は昨日まで何の接点もなかった望に、日頃から筋肉最高と豪語する一樹から話しかけた事に驚いていた。
それはきっと近くにいた柿崎も吉野も同じ。
「何々、なんかあったん?」
「もしかして橋本襲われた?」
「はー、マジでいるんだな山下みたいな奴」
何かあったのだろうかと興味津々な面々に望に対する遠慮や配慮などは欠片もない。
「あれか、呼び出されたんだろ」
「確かに橋本ならいけるかもって思うよなあ、男にしちゃ可愛いし」
ずばずばと聞いてくるがそれがまた核心をついている。
しかも返事をしていないのに完全肯定。
その通りなんだけど、確かにその通りなんだけど腑に落ちない。
不名誉極まりない事実にむすっと唇を尖らせる望。
何故大して話した事のない奴らにこんな事言われなければならないのか。
「で、山下に助けられたのか。良かったなあ」
「……」
果たしてアレが良かったと言えるのかは甚だ謎である。
むしろ暴言しか吐かれていないような気がするのでプラマイゼロではないだろうか。
「いやあ、でも望ちゃんったら『余計なコトすんな!』とか言っちゃうんだぜ?かわいくねーのー」
「なっ」
一樹のセリフにムカッとくる。
「なー望ちゃん」
「つか、そりゃお前がアイツらに続きどうぞ、とか言いやがるからだろうが!」
わーそんな事言ったのか、と三人は苦笑い。
「そりゃ確かにお礼言いにくいわなあ」
「つーか、多分好みのタイプなら参戦してたんじゃね?」
「いや、山下のコトだから助けた後に一人でおいしくいただくだろ」
「それか襲ってた奴ら逆に襲ったりしてな」
ぶはははは、と爆笑する三人。
的を射すぎている。
付き合いはまだ短いのに一樹の性質を良く理解している。
それはさておき、望だってちゃんと普通に助けてくれたのであれば素直に礼も言えた。
あんなセリフが出てしまったのは望の素直でない性格もあるのだろうが、原因は間違いなく一樹の言動にある。
自覚はないだろうが。
「なによ助けたのにー」
「助ける気なかったっつっただろうが!」
「結果助かったじゃん」
「だとしてもお前自分からキスしてこようとしたくせに気持ち悪がりやがって!気持ち悪いのはこっちだボケ!」
「だって気持ち悪かったんだもん」
「もん、とか言ってんじゃねえよキモイ」
「望ちゃんったらヒドイッあたし貞操守ったのにっ」
「だからそのカマ言葉はさっきっからなんなんだあああ!!!」
最終的にしなまで作って泣き真似をする一樹に望はキレる。
入学してから今まで誰かと話す時は煩わしいからという理由で最小限の言葉で済ませていた望の怒鳴り声にクラス中が驚きを隠せない。
「橋本ってあんな感じだったのか……!?」
「オレ達の美少女が……」
「男子校唯一のオアシスが……」
口々に涙を流さんばかりに嘆いている。
中にはバカらしいことこのうえないが、可愛らしい顔立ちなのだから性格も大人しくて真面目だと仄かな希望を抱いていた輩もいたらしい。
そんなバカな、である。
「あーあー可哀想に、何人か打ちひしがれてんぞ」
オレの理想の望ちゃんがぁぁぁ、とワケのわからない事を叫ぶ声に佐倉が面白そうに言う。
女の理想を勝手に人に押し付けるのが腹立たしい。
男にそんなもの求めないで彼女でも作れと言いたいが、彼女持ちがそんな理想を抱くはずがなかった。
望はそれらを冷めた目で見て鼻で笑う。
「外面しか見てねえバカだろ」
「言うねえ、望ちゃん」
いつの間にか佐倉にまで望ちゃんと呼ばれていた事に眉を寄せる。
一樹のは明らかに揶揄を含んでの言い方だが、佐倉は単に彼に倣っただけだろう。
正直、ちゃん付けで呼ばれるのは好きではない。
「つーか、ちゃん付けんな」
「あれ、嫌?」
「当たり前だろ。何でそんなかんわいらしい呼ばれ方されなきゃなんないんだよ」
「顔可愛いから」
あきらかな不満をその顔に滲ませる望に、はっきりすっぱりと佐倉の一言が突き刺さる。
「オレ、可愛いって言われんの一番嫌い」
「だって可愛いし」
「うん、可愛い」
「だから嫌いだって!」
「あーあ、オレも望ちゃんくらい可愛かったら色んなのが油断して寄ってくんだろうなあ」
「「「「……」」」」
そしたら喰い放題なのに、と。
可愛い可愛いと連呼する佐倉や周りに望が噛み付こうとした時にぽつりと呟く一樹に一同脱力。
望も毒気が抜かれてしまい、呆れたように溜め息を吐いた。
「大丈夫だ山下、お前は色んな意味でおもしれえから」
「人は寄ってくるよな。油断してるかは別として」
「可愛い可愛い。性格がだけど」
フォローしているのかいないのか。
周りの言葉にそれぞれを見て一言。
「じゃあヤらせて」
「「「「それは無理」」」」
一人は満面の笑みで。
一人は嫌そうに。
一人はいつも通りに。
それぞれ表情は違えど声を揃えて即座に拒否され、唇を尖らせる一樹がいた。
そして望が一樹の性癖をちゃんと理解するのに大して時間はかからず。
意外にも性格男前な望を気に入ったのか、なんだかんだと望との付き合いが増える事となった。
0
お気に入りに追加
99
あなたにおすすめの小説
少年ペット契約
眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。
↑上記作品を知らなくても読めます。
小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。
趣味は布団でゴロゴロする事。
ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。
文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。
文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。
文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。
三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。
文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。
※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。
※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。
転生したら乙女ゲームの攻略対象者!?攻略されるのが嫌なので女装をしたら、ヒロインそっちのけで口説かれてるんですけど…
リンゴリラ
BL
病弱だった男子高校生。
乙女ゲームあと一歩でクリアというところで寿命が尽きた。
(あぁ、死ぬんだ、自分。……せめて…ハッピーエンドを迎えたかった…)
次に目を開けたとき、そこにあるのは自分のではない体があり…
前世やっていた乙女ゲームの攻略対象者、『ジュン・テイジャー』に転生していた…
そうして…攻略対象者=女の子口説く側という、前世入院ばかりしていた自分があの甘い言葉を吐けるわけもなく。
それならば、ただのモブになるために!!この顔面を隠すために女装をしちゃいましょう。
じゃあ、ヒロインは王子や暗殺者やらまぁ他の攻略対象者にお任せしちゃいましょう。
ん…?いや待って!!ヒロインは自分じゃないからね!?
※ただいま修正につき、全てを非公開にしてから1話ずつ投稿をしております
俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
真冬の痛悔
白鳩 唯斗
BL
闇を抱えた王道学園の生徒会長、東雲真冬は、完璧王子と呼ばれ、真面目に日々を送っていた。
ある日、王道転校生が訪れ、真冬の生活は狂っていく。
主人公嫌われでも無ければ、生徒会に裏切られる様な話でもありません。
むしろその逆と言いますか·····逆王道?的な感じです。
聖域で狩られた教師 和彦の場合
零
BL
純朴な新任体育教師、和彦。
鍛えられた逞しく美しい肉体。
狩人はその身体を獲物に定める。
若く凛々しい教師の精神、肉体を襲う受難の数々。
精神的に、肉体的に、追い詰められていく体育教師。
まずは精神を、そして、筋肉に覆われた身体を、、、
若く爽やかな新米体育教師、杉山和彦が生徒に狩の獲物とされ、堕ちていくまで。
以前書いた作品のリライトになります。
男性向けに設定しましたが、個人的には、性別関係なしに読んでいただける方に読んでいただきたいです。
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる