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一章
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しおりを挟むガタガタと騒がしいのは一つの教室だった。
なるべく音を立てないようにゆっくりと扉を開きこっそりと忍び込む。
自分たちの事に気を取られているのか全く気付かれていない。
そこは資料室で、組立式の棚がずらりて並びファイルやダンボール、他巨大な地図や地球儀等が乱雑に置かれていた。
その陰からこれまたこっそり覗き見る一樹。
(何してんのか暴かせてもらうぜ、へへっ)
気分は張り込み中の刑事または探偵。
だが実際は望遠鏡越しに他人の部屋を盗み見る変態にしか見えない。
バカ丸出しである。
中にいたのは三人。
二人はこちらに背を向けていて、うち一人はその影に隠れて顔は見えなかった。
「嫌だっ、つってんだろ!!」
聞こえてくる拒絶の声。
どうやら二対一らしい。
それにしても、どこかで聞いた覚えのある声だ。
誰だかは思い出せないけれど。
それにしても。
お誂え向きに誰もいない誰も寄り付かない放課後の資料室。
嫌がり暴れ悪態を吐く仔羊が一匹。
これはもしや、と思った直後。
「ははっ、望ちゃん涙目かーわいい」
「騒いだってムダムダ。楽しもうぜ?」
男二人のセリフに、あーやっぱりかと冷静に納得。
呼ばれている名にも聞き覚えがありがっくりとうなだれる。
(うーわーマジでか)
望とはもしや、隣の席の美少女系か。
そんな奴のあんなシーンなんて見たところで面白くもなんともない。
ない、のだが。
「フザケんじゃねえよ!やめ、ろッ!」
「いッ!?っのやろ……!」
「触んじゃねえよボケッ!」
「はっ、その強気な態度がいつまでもつかね、でッ!?」
「ちょ、暴れんな!」
シャツの中に手を突っ込まれながらも相手二人を蹴ったり殴ったりしている望。
一瞬助ける必要ねえかななんて思ったけれど、どう見ても非力そうな彼と奴らでは分が悪すぎる。
というかいないんじゃなかったのかホモ。
めちゃくちゃあっさり何度も遭遇してしまっているのだがこれはどういう事だ。
まあこの場合は男が好きというよりも望の可愛さにぐらりときてしまったアホの仕業だとは思うのだが。
やはり萩野の情報はアテにならないな、なんて仮にも気に入っている相手に失礼な事を考え、一樹は大きく溜め息を吐き、のんきな声をあげた。
「お、らっきー生レイプ現場はっけーん」
「「「!!!」」」
一樹の登場にその場にいた三人が驚き、目を見開き固まる。
「なんだお前!?」
即座に一人に凄まれたが、両手を返してへらりと笑う。
それが一樹であると気付いた望はもしやと期待をしたが。
「いやいやお気になさらず続けて続けて。こんなとこで襲われちゃってるかわいこちゃんの顔拝みたかっただけなんで」
「――……っ」
このセリフに信じられないといった表情に変わる。
「はあ?何言ってんのお前?」
「いいよ、構うなって」
どうやら害はないと判断されたらしい。
まあ明らかに無理矢理な場面に遭遇して騒ぐでもなしすぐさま助けるでもなしに、かわいこちゃんの顔見たいだけ、なんて言われては毒気も抜かれてしまう。
アホなふりもたまには役に立つものだ(実際にアホなのだが)
「それにほら、見られてる方が望ちゃんも興奮すんじゃね?」
「誰が……!」
「はいはい、うるさいよ」
怒鳴る口をあっさりと手で覆われる望。
「んーッ!!」
「つか、お前も混ざる?」
おっと、誘われてしまった。
そりゃそうだ、ここで逃がすよりも共犯者にしてしまった方が後からチクられる心配はない。
「どーしよっかなあ」
「混ざんなら来いよ。ただし最後だけどな」
「んんッ!んーッ!」
「……じゃあお言葉に甘えて」
バカだなあこいつら、なんて鼻で笑いそうになるのを堪え。
少し悩むふりをして、必死に首を横に振る望を無視して手招きされるがままに三人に近寄った。
「……おー美少女系」
「……っ」
本当に隣の席の美少女だった。
口を覆われ顔の半分は隠れてしまっているが間違いない。
目が合うと、わかりやすすぎるくらいに青ざめている。
助けてくれると信じて疑わなかった相手に裏切られたとあってはそれも仕方がない。
それと同時に憎しみの籠もった目で睨まれる。
先程も思ったが、見た目に反して随分と勝ち気で威勢が良い。
「こんだけ可愛けりゃいけんだろ?」
全然いけねえよばーか。
心の中で呟き、曖昧に笑む。
そして指示してくる奴に従うと見せ掛けて。
「お前そっち押さえてて」
「りょうかーい……なーんつって、とうッ!」
「ぐあ……!?」
望の口を塞ぎ押さえつけてる奴の腹と、覆い被さってる奴の側頭部を蹴飛ばした。
思い切り勢いをつけたのと、油断しきっていたのが相まって面白いくらいに横に吹っ飛ばされる二人。
「いってえな!!」
「っにすんだよ!?」
「るっせえ!美少女系にゃ興味ねえんだよぶぁぁぁぁぁッか!!」
「「……は?」」
体勢が整わないうちに怒鳴られた言葉に腹から声を出し怒鳴り返す。
一樹のセリフに三人ともぽかん、と口を開ける。
「つーか、ムリヤリは感心しねえなあ、愛のないセックスなんてつまんねえよ?抵抗すんのがもえんのだって愛故だろーが。わかってない!わかってないなーアンタら!」
こめかみに指を当てふるふると首を振る一樹。
次いでビシリと指を伸ばし二人に突きつけ大演説。
「大体な、どうせ襲うんなら自分よりも強そうな奴を組み敷いてアンアン言わせる方がよっぽど楽しいだろーが!本気で抵抗すれば逃げれんのにあえてしない男気!苦痛に歪む顔とか最高よ?マジで!想像するだけでオレ勃つわー」
「……」
「それがなんで美少女系よ。男子校だぜ?男ばっかだぜ?何が悲しくて夢のような環境で美少女犯さなきゃいけねんだよザケんなっつんだ、あーもえねーもえねー全ッ然もえねえ」
はーあ、とバカにしたような溜め息を吐く。
怒りを通り越して呆れたような表情の三人、もとい望を除いた二人ににっこりと笑い一言。
「つーワケで、胸糞悪いんで止めろ」
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