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一章

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「…………は?」

長すぎる式が終わり教室へと戻り。
佐倉、柿崎、吉野らと連れ立って学校の食堂で本日の定食カツ丼を頬張っているところで佐倉から言われたセリフに目を見開き間抜けな声を上げる。

「え、何?何つった今?」
「だから、午後から実力テストあるんだって」
「のおおおおお!!!」

問い返してみてまた同じ答えが返ってきた事に頭を抱え絶叫。

「つーか、じゃなきゃ食堂も開いてないっつーの」
「みんなさっさと帰るしな」

それはごもっともだが聞いていない。
全くもって聞いていない。
そんなの頭の片隅にすらなかった。
式が終わった後にもかかわらず生徒が残っているのはてっきりレクリエーションでもあるのかと思っていたのになんたることだ。

「入学式にテストって何ソレ鬼!?誰だそんなん考えたすっとこどっこいは!」
「始業式な」
「どうだっていいよそんな訂正!え、つかヤバイんですけど!?」
「大丈夫だって、中三までのおさらいみたいなもんだから」
「ばっか、おま、オレがここ受かったのはある意味奇跡に近いんだぞ!?」

意外と頭の出来良かったのではなかったのだろうか。
とはいえ確かに一樹の中学の時の成績を見ると、この学校に受かったのが奇跡だというのは頷けるのだが残念ながら資料は手元にない。
萩野に対しては、元々出来が良かっただのセーフだのほざいていたが、調子に乗って大ボラふいてしまったのだろう。

「みんな知ってんの?」
「毎年の事だからな。ちなみに長期の休み明けにもあるぜ」
「し、しねばいいのに……!」
「つかプリント貰ったろ?それに書いてあっただろうが」

持ち上がり組は通知票と一緒に、外部生には合格通知その他の書類と共に送られてきているはずのプリント。
そこには今日からの行事などが書かれていたはず。

「……」
「……見てねえんだな」

溜め息混じりに確信を込めて言う。
沈黙は最大の肯定である。
視線まで泳がせているのだから間違いない。

「でもある程度は出来んだろ?受験の時やったのとか」
「無理。入試終わった瞬間全部どっかに置いてきた」

自信満々にきっぱりと言い切るセリフではない。

入試が終わったその日から遊びまくったしわ寄せがまさかこんな所でやってくるとは。

こんな事なら暫く会えないであろう友人達とのバカ騒ぎはともかく、下半身の赴くまま腰振ってないで多少なりとも頭に残しておくんだった。
入寮して周りの環境にうはうはしている場合では全くなかった。

なんて後悔しても始まらない。

「ふははははっ、山下一樹の根性を見せてやろうじゃないか!」
「「「……」」」

使っていた箸を握り締め据わった目で不敵に笑む一樹に、たかだか実力テストでそこまでマジにならなくても、と苦笑いを浮かべるしかない三人がいた。










教室に戻ると、出席番号順の座席表が黒板に貼り付けてあった。
佐倉と柿崎はドアから二番目の列。
吉野は窓際の後ろから二番目。
そして一樹はその前である。

テスト開始まであと五分、という時。
一人の男が教室へと入ってきた。
相澤が玄関先で見た例の彼、橋本望である。
小柄で、色素の薄い茶色の髪に白い肌。
赤い唇。
美少女のような容貌にクラス中がざわめき、注目する。

「かっわいー」
「え、男?だよな?」
「制服間違ってんじゃね?」

朝と同じようなからかいまじりの声に不機嫌そうに眉を寄せて、座席を確認して座る。
そこは一樹の隣。

吉野が持ってきていた参考書を片手に脳味噌フル稼働させている一樹は望の存在に全く気付いていない。
根性を見せるために頑張るのは良いのだが、果たしてきちんと頭の中に入っているのかいないのか。
時折邪念を払うように頭を振っているところを見ると後者であろう。
無駄な足掻きである。

「なあなあ山下」
「あー?もう少し貸せよ」
「ちげーよ、アレ」

参考書を返せと言われたのだと思い肩に置かれた手を払いのける一樹の首根っこを掴み引き、耳元に口を寄せ小声で隣を指す。

「わ、ちょっ、感じるからやめて」
「アホか。良いから見てみろよ」
「あー?」

何だよノリ悪いな、と訝しげにそちらを見る。

「……」
「ちょーかわいくね?つっても男だけど」
「……」
「ってオイ山下ー!」

ちら、と見て即座に興味なしとばかりに視線を戻す。
舌打ちしそうに思い切り嫌そうに顔を歪めたのは気のせいではないだろう。

この橋本望という少年とこの後ひょんな事で関わるのだが、そんな事とは知らない一樹は最後の悪足掻きに戻った。

「なんだよ興味ねえの?」
「美少女系よりガチムチ系」
「は?」
「ってあ――ッ!今やったとこ忘れた!」
「え?え?今なんか言わなかった?」

ぼそりと呟いた言葉を問い返し、さらりと流されたところで先生がテスト用紙片手にドアを開けた。
まあ聞かない方が良いだろうこの場合。

先生の姿に今度こそ舌打ちをして、参考書を吉野に返す。

「大丈夫そう?」
「無理。職員室爆破されねえかな」
「物騒なコト言うなよ」
「あ゛――~ァァァ…ッ」

机に額を預けガタガタと足を上下させる。
どれだけ嫌なんだ。
確かに今そんな事が起きればテストは中止となるだろうが、そろそろ諦めて覚悟を決めてくれ山下一樹。

「ぐああああ」
「うるさいぞー」
「あだっ」

配られたテスト用紙の問題の羅列に唸る一樹に先生から拳骨付きの注意が飛び、教室に小さな笑いの波が立った。 



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