7 / 13
7、舞踏会とドレス
しおりを挟む「シンデレラの魔女の役は私がやりたかったのだけれど」
部屋中にどっさり届けられた衣類や宝石類の入った箱を眺めながら、氷の魔女は小首を傾げた。
「……急だったもので、仕立ては間に合いませんが……いえ、お望みであれば、舞踏会の日程をずらして、三日で仕上げさせます」
「舞踏会は今日だろう。何を言ってるんだい、君は」
「すいません、聖騎士さん。こういうお願いが出来るのって、聖騎士さんしかいなくて……」
連れて来られたメイドたちに着せ替え人形よろしく、正装をあれこれ着替えさせられながら、アキラ君はすまなそうに頭を下げた。
舞踏会に参加したいと言ったアキラ君。かといって、どういう身分で城に上がらせるか。魔女のエスコートとしては聊か心もとない。世に飽いた氷の魔女の付添人、に、貧相な子どもはどうしたって注目を浴びる。それはアキラ君も望まないだろうと、仕方がないのでヘクセは聖騎士に「パーティーの招待状が欲しいのだけれど」と魔法の伝言を送った。
直ぐに用意します、という返事が来たのは送ってすぐ。そして豪華な馬車を三台引き連れて、煌びやかな礼装を纏った聖騎士殿が魔女の家にやってきた。
「……君はいつも、こんなにキラキラした礼装を着ているのかい」
王族しか身に付けることの許されない白と金糸をたっぷり使った礼服は、聖騎士の顔をいつも以上に良く見せた。目がちかちかすると、瞬きを繰り返して、魔女は眉間に皺を寄せる。
「いえ、今夜は魔女殿のエスコート役ですので……張り切りました」
こほん、と咳払い一つ。
胡散臭い男もこうして照れたように言うのは中々「本気」っぽい。こうやって御令嬢を落とすのだろうな、と、ヘクセは感心した。
「さて、弟君の支度はメイドたちに任せれば問題ないでしょう。魔女殿もそろそろお支度をされてはいかがですか。こんなこともあろうかと、私の礼服と揃いのドレスがありますので」
なにがこんなこともあろうかと、なのか。
「私は魔女の正装があるのでそちらでいいんだよ」
氷の魔女。絶対零度の永久氷壁。真珠と鉛。理解の女。第十三階級の序列は三位。魔女として漆黒の正装があるので、それを着て大きなツバつき帽をかぶって参加すれば問題ない。
そもそも、王位継承権を持つ聖騎士と魔女がおそろいの煌びやかな服を着て王族主催の舞踏会に参加するなど、前代未聞。勇者殿のお披露目パーティーで騒ぎを起こす気か。
「私たちが目立てば、勇者殿の弟君が一緒に来た印象が薄れますので、是非」
「仕方ないねぇ」
なるほどそう言う作戦か。
さすがは手段を選ばない男である。アキラ君を無事にパーティーに潜入させてくれる約束を守るためなら、醜聞だって受け入れるということか。ヘクセは納得して頷き、メイドたちにされるがままドレスを身に付けることを受け入れた。
0
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説
【R18】溺愛される公爵令嬢は鈍すぎて王子の腹黒に気づかない
かぐや
恋愛
公爵令嬢シャルロットは、まだデビューしていないにも関わらず社交界で噂になる程美しいと評判の娘であった。それは子供の頃からで、本人にはその自覚は全く無いうえ、純真過ぎて幾度も簡単に拐われかけていた。幼少期からの婚約者である幼なじみのマリウス王子を始め、周りの者が
シャルロットを護る為いろいろと奮闘する。そんなお話になる予定です。溺愛系えろラブコメです。
女性が少なく子を増やす為、性に寛容で一妻多夫など婚姻の形は多様。女性大事の世界で、体も中身もかなり早熟の為13歳でも16.7歳くらいの感じで、主人公以外の女子がイケイケです。全くもってえっちでけしからん世界です。
設定ゆるいです。
出来るだけ深く考えず気軽〜に読んで頂けたら助かります。コメディなんです。
ちょいR18には※を付けます。
本番R18には☆つけます。
※直接的な表現や、ちょこっとお下品な時もあります。あとガッツリ近親相姦や、複数プレイがあります。この世界では家族でも親以外は結婚も何でもありなのです。ツッコミ禁止でお願いします。
苦手な方はお戻りください。
基本、溺愛えろコメディなので主人公が辛い事はしません。
婚約破棄された悪役令嬢は、階段から突き落とされ記憶を失う。気がつけば召使いに〜。
鼻血の親分
恋愛
前世の想いを募らせながらも親の決めた第1王子との婚約パーティーに望んだララコスティは、悪役令嬢と罵られ婚約破棄されてしまう。その挙句に階段から突き落とされ記憶を失ってしまった。気がつけば召使いと言う奴隷階級に落ちぶれ、虐げられる日々を過ごすこととなる。しかし憧れの騎士や聖女に励まされながら奇跡的に記憶が蘇ってきた。
さて、このままでは済まさないわっ!!
──と復讐に燃える。
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
竜王の「運命の花嫁」に選ばれましたが、殺されたくないので必死に隠そうと思います! 〜平凡な私に待っていたのは、可愛い竜の子と甘い溺愛でした〜
四葉美名
恋愛
「危険です! 突然現れたそんな女など処刑して下さい!」
ある日突然、そんな怒号が飛び交う異世界に迷い込んでしまった橘莉子(たちばなりこ)。
竜王が統べるその世界では「迷い人」という、国に恩恵を与える異世界人がいたというが、莉子には全くそんな能力はなく平凡そのもの。
そのうえ莉子が現れたのは、竜王が初めて開いた「婚約者候補」を集めた夜会。しかも口に怪我をした治療として竜王にキスをされてしまい、一気に莉子は竜人女性の目の敵にされてしまう。
それでもひっそりと真面目に生きていこうと気を取り直すが、今度は竜王の子供を産む「運命の花嫁」に選ばれていた。
その「運命の花嫁」とはお腹に「竜王の子供の魂が宿る」というもので、なんと朝起きたらお腹から勝手に子供が話しかけてきた!
『ママ! 早く僕を産んでよ!』
「私に竜王様のお妃様は無理だよ!」
お腹に入ってしまった子供の魂は私をせっつくけど、「運命の花嫁」だとバレないように必死に隠さなきゃ命がない!
それでも少しずつ「お腹にいる未来の息子」にほだされ、竜王とも心を通わせていくのだが、次々と嫌がらせや命の危険が襲ってきて――!
これはちょっと不遇な育ちの平凡ヒロインが、知らなかった能力を開花させ竜王様に溺愛されるお話。
設定はゆるゆるです。他サイトでも重複投稿しています。
前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています
矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜
――『偽聖女を処刑しろっ!』
民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。
何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。
人々の歓声に包まれながら私は処刑された。
そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。
――持たなければ、失うこともない。
だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。
『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』
基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。
※この作品の設定は架空のものです。
※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。
※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)
よくある婚約破棄なので
おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。
その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。
言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。
「よくある婚約破棄なので」
・すれ違う二人をめぐる短い話
・前編は各自の証言になります
・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド
・全25話完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる