5 / 115
空手指導員の日常
しおりを挟む
人間というのはわりとすぐに環境に順応するもののようで、3か月もたつと私の指導員ぶりもけっこう板についてきました。
空手の稽古というのはおおむねパターン化されていまして、準備運動から基本、移動基本、型、約束組手、自由組手とすすむのが一般的です。
こういった稽古体系には生徒たちもすぐに慣れてしまうので、わりと自動的に稽古が進みます。
なので私のようないい加減な指導員でも、せいぜい号令でもかけて、たまに「姿勢をまっすぐにしろ」とか「腰を落とせ」とか言っておけばなんとかなるものです。
私はもともと初段も取らずに空手をやめたものですから、実力的にはここの生徒たちと大差ありません。
たとえば型などもあまりよく知らないのです。
そこで私は図書館で空手の教則本やビデオを借りてきて、それらを見て覚えてから指導するということをやっていました。
真面目に空手に取り組んでおられる諸氏には怒られそうですが、この泥縄式指導法は後に海外で指導する際にも大いに役に立ったものです。
さて、このころ新しい外国人が入門してきました。
インドの南に浮かぶ島国、スリランカから日本の大学に留学しているデワという男です。
中川先生いわく「デワはスリランカのホテル王の御曹司だぞ。大切に扱え」とのこと。
勘の良い方は・・いや良くなくてもお気づきと思いますが、この男こそが後に私を空手バックパッカーにするきっかけとなった張本人です。
大切に扱えと言われても扱い方がわからないので、私はまあ普通に接していました。
しかしこのデワ君、若いのに体がひどく固くてストレッチで開脚などがほとんどできません。
一度、開脚させて背中を軽く押しただけで「トミーせんぱ~い!痛いです。痛いで~す。あああ」と涙を流して号泣されてしまい、困ったほどです。
それでもデワ君はわりと真面目に道場に通い続けました。
体は固いままで、たいして上達はしませんが日本での良い思い出にはなったかもしれません。
指導員になって一年ほど経過したころには、生徒の数も総勢40名近くになり、それなりに賑やかに楽しく稽古していました。デワ君はじめ外国人道場生たちも日本人道場生たちと仲良く和気藹々とした良い雰囲気です。もともとヌルいノリの道場なので、私もすっかり空手指導員という仕事をエンジョイできるほどになりました。
やがてデワ君は日本での学業を終え、スリランカに帰国することになりました。
「トミーせんぱ~い。いろいろとお世話になりましたあ~」
「いやいやデワ君。あまり教えられなくてすまなかったね。またたまには日本にも遊びにおいで」
「せんぱいこそ~スリランカに~遊びにきてくださ~い」
「うん、そのうち機会があればね」
社交辞令のつもりでした。まさか本当にスリランカなんて未知の国に行くことになるとは!
空手の稽古というのはおおむねパターン化されていまして、準備運動から基本、移動基本、型、約束組手、自由組手とすすむのが一般的です。
こういった稽古体系には生徒たちもすぐに慣れてしまうので、わりと自動的に稽古が進みます。
なので私のようないい加減な指導員でも、せいぜい号令でもかけて、たまに「姿勢をまっすぐにしろ」とか「腰を落とせ」とか言っておけばなんとかなるものです。
私はもともと初段も取らずに空手をやめたものですから、実力的にはここの生徒たちと大差ありません。
たとえば型などもあまりよく知らないのです。
そこで私は図書館で空手の教則本やビデオを借りてきて、それらを見て覚えてから指導するということをやっていました。
真面目に空手に取り組んでおられる諸氏には怒られそうですが、この泥縄式指導法は後に海外で指導する際にも大いに役に立ったものです。
さて、このころ新しい外国人が入門してきました。
インドの南に浮かぶ島国、スリランカから日本の大学に留学しているデワという男です。
中川先生いわく「デワはスリランカのホテル王の御曹司だぞ。大切に扱え」とのこと。
勘の良い方は・・いや良くなくてもお気づきと思いますが、この男こそが後に私を空手バックパッカーにするきっかけとなった張本人です。
大切に扱えと言われても扱い方がわからないので、私はまあ普通に接していました。
しかしこのデワ君、若いのに体がひどく固くてストレッチで開脚などがほとんどできません。
一度、開脚させて背中を軽く押しただけで「トミーせんぱ~い!痛いです。痛いで~す。あああ」と涙を流して号泣されてしまい、困ったほどです。
それでもデワ君はわりと真面目に道場に通い続けました。
体は固いままで、たいして上達はしませんが日本での良い思い出にはなったかもしれません。
指導員になって一年ほど経過したころには、生徒の数も総勢40名近くになり、それなりに賑やかに楽しく稽古していました。デワ君はじめ外国人道場生たちも日本人道場生たちと仲良く和気藹々とした良い雰囲気です。もともとヌルいノリの道場なので、私もすっかり空手指導員という仕事をエンジョイできるほどになりました。
やがてデワ君は日本での学業を終え、スリランカに帰国することになりました。
「トミーせんぱ~い。いろいろとお世話になりましたあ~」
「いやいやデワ君。あまり教えられなくてすまなかったね。またたまには日本にも遊びにおいで」
「せんぱいこそ~スリランカに~遊びにきてくださ~い」
「うん、そのうち機会があればね」
社交辞令のつもりでした。まさか本当にスリランカなんて未知の国に行くことになるとは!
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
お父様の相手をしなさいよ・・・亡き夫の姉の指示を受け入れる私が学ぶしきたりとは・・・
マッキーの世界
大衆娯楽
「あなた、この家にいたいなら、お父様の相手をしてみなさいよ」
義姉にそう言われてしまい、困っている。
「義父と寝るだなんて、そんなことは
旦那様は妻の私より幼馴染の方が大切なようです
雨野六月(まるめろ)
恋愛
「彼女はアンジェラ、私にとっては妹のようなものなんだ。妻となる君もどうか彼女と仲良くしてほしい」
セシリアが嫁いだ先には夫ラルフの「大切な幼馴染」アンジェラが同居していた。アンジェラは義母の友人の娘であり、身寄りがないため幼いころから侯爵邸に同居しているのだという。
ラルフは何かにつけてセシリアよりもアンジェラを優先し、少しでも不満を漏らすと我が儘な女だと責め立てる。
ついに我慢の限界をおぼえたセシリアは、ある行動に出る。
(※4月に投稿した同タイトル作品の長編版になります。序盤の展開は短編版とあまり変わりませんが、途中からの展開が大きく異なります)
結婚前の彼の浮気相手がもう身籠っているってどういうこと?
ヘロディア
恋愛
一歳年上の恋人にプロポーズをされた主人公。
いよいよ結婚できる…と思っていたそのとき、彼女の家にお腹の大きくなった女性が現れた。
そして彼女は、彼との間に子どもができたと話し始めて、恋人と別れるように迫る。
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる